208 教者と勝者
「あ、そうそう言い忘れてたけど、この勝負に勝ったペアには何か一つ些細な願い事を叶える権利を与えてやるから頑張れよ。」
俺が開始の合図をしてすぐに忘れていたことを今口にした。
すると開始してからは一触触発の空気ではあったもののお互いの出方を伺っていた子供達が動き始める。
「よし!ビビは好きに動いてくれ!!俺も好きに動く!!」
まずはじめに動いたのはレオンだった。
彼は訓練用の木の剣を両手でしっかりと握り、エルザのチームの方へと殴りかかった。
エルザのチームの構成はローグと魔法使い。
その性質上、まともな接近戦はできないと考えたのだろう。
「ふん、一直線に飛び込んでくるなんて、あなたはこの1ヶ月で何を学んだんですの?」
まっすぐ向かってくるレオン。
その進路を塞ぐべくリリカが立ちふさがり、足を止めたレオンにはエルザの魔法が放たれる。
レオンはそれを身をよじって回避する。
その際、流れ弾が俺の方にきたので適当に切り払った。
ここで俺が避けてしまったら非戦闘員に被害が及ぶかもしれないからな。
ともあれ、エルザたちはレオンの動きを止めることに成功した。
たった少しだけの間かもしれないが、レオンの勢いは完全に止まる。
その隙を見計らい、今度はシャオリが仕掛けた。
無防備なレオンの横っ腹、それを狙うように突撃を仕掛ける。
それに対応するべく、ビビが木の短剣を目の前で交差させて身構える。
「ここは通しませんよ!」
レオンが好き勝手暴れる分、ビビは支援に回るつもりなのだ。
このままいけばシャオリはビビの相手をしなければならず、レオンにできた絶好の隙を逃してしまう。
そう思われたが、、
「甘いわよ!!リタ、お願い!!」
「う、うん・・・わかった!」
次の瞬間、シャオリが一気に加速した。
彼女は目の前に立ちふさがるビビの脇を抜けてレオンに打撃を与える。
突然のことに、ビビもレオンも対応が追いつかなかったみたいだ。
・・・あれ?シャオリが今使ったのって?
まあ、とりあえず。
「レオン、アウトだ!!」
攻撃を受けたものは即刻離脱だ。ダメージで測ってもよかったんだけど、それだと万が一がありそうだからな。
「ちっくっしょおおおお!!」
敗北宣言を受けたレオンは非常に悔しそうな声を上げる。
普段はあまりあげない声だ。
何か、叶えて欲しい願いでもあったのだろうか?
ともあれ今は戦闘だ。
レオンが倒された。シャオリはレオンを叩いたその速度のまま一気に逆側まで駆け抜けた。
次に動いたのはリリカだった。
仲間がやられて狼狽しているビビに対して無情な一撃を加える。
「ビビもアウトだ!即刻その場から離れるように!!」
少しだけ意外だが、レオンのチームは真っ先に全滅。対してエルザチームとシャオリチームはまだ残っている。
ビビの敗北もつかの間、彼を仕留めたリリカはそのままリタを抑えに向かう。
今現在の配置はシャオリとリタが分断されるような形になっている。
だからリタを守るものはいない。
だが、それは彼女たちも承知の事実だった。
リタはリリカが近づいてくることを察知するとすぐに用意していた魔法を使用した。
「うわっ!!?ちょっと、目に、、、」
リリカは目を細めた。
リタがやったのは風魔法による砂の巻き上げ。またそれに準じた目くらましだ。
俺が初めて戦った時にやられたやつだな。
リタの目くらましの効果か、リリカの勢いが弱まる。
「背中が空いてるよ。」
そこに突っ込んでいくのはシャオリだった。
シャオリとリタは分断されている・・・・ようにも見えるが見方を変えれば挟み撃ちをしているといっても過言ではない。
こうして隙さえ作って仕舞えば、すぐにもう片方が攻撃を仕掛けることができるのだ。
「あら?無防備な横顔のシャオリ姉様には言われたくないと思いますわ!」
しかしこれはチーム戦だ。
味方の隙は別の見方がカバーする。そうすることで隙をなくすのだ。
エルザの放った炎の槍は、寸分狂いなくシャオリを捉えるだろう。
偏差も完璧だ。
この感じなら恐らくリリカにはギリギリ届かない。
「あら?仕方ないわ。」
俺と同じ判断をしたシャオリは持っていた剣を炎の槍に向かって投げつけた。
空中で剣にぶつかった槍はあたりに熱を放射しながら破裂する。
そう、エルザの魔法は炎の槍だが別に貫通力とかはない。
何か強い衝撃が加えられたら爆発するオーソドックスなタイプの魔法なのだ。
「チッーーー防がれましたわね。なら、次はーーーっ!!?」
悠長に次の魔法を選ぼうとしたエルザ。だが、その行動はすぐそこまで迫っていたシャオリによって止められてしまった。
低い姿勢で体当たりをするかのようなシャオリ、彼女はエルザに組みつくとそのまま足を引っ掛けて軽く地面に叩きつけた。
ふむ、
「エルザ、アウトだな。」
「むうううう、リリカ!!頑張るんですのよ!」
「はい!エルザさん!!」
本当、エルザとリリカは仲がいいな。1人落とされた時点で諦めたレオンたちとは違い、彼女たちはまだ勝利を諦めてはいない。
エルザが接近からの投げを決められているうちに、リリカはリタへと肉薄していた。
木製の短剣がリタを襲う。
だが、リタはそれに対して必死に剣で応戦した。
だが近接職と魔法職が同じ技量であるはずはない。
数度の打ち合いをした後、武器の攻撃を警戒しているリタに対してリリカがその小さな体を存分に使ってタックルを行なった。
「あぅ、、」
リタはそれを受けて軽く飛ばされて尻餅をつく。
「リタもアウトだ。」
これで一対一、ここから先は実力の勝負・・・だが、武器を持っているリリカの方が優勢かな?
「いけーー!!リリカーー!!」
エルザが楽しそうに応援している。
リリカは一瞬だけ自分を応援してくれるエルザに向かって意識を飛ばしてしまった。
戦闘をしている最中、別のことに意識を向けたらろくな事にならない。
たった一瞬だが、意識がそれた時間にシャオリが動いた。
リリカからしたら相手がかくついて見えただろう。
そのくらいシャオリのタイミングは完璧だった。
だが、それだけで勝敗が決するほど熟練者同士の戦いというわけではない。
ここからいくらでもリカバリーができる。
だからこそ、リリカも諦めない。
自分を応援してくれるエルザに答えるように、リリカは自分からも前に出た。
「はあっ!!ふっ、」
リリカはまず、右の短剣を振り抜いた。そしてそれが終わると同時に左の短剣もーーーーだが、シャオリには当たらなかった。
二つの斬撃は虚しく風切り音を響かせるだけの結果に終わる。
一発目は見た感じ、そもそも距離が足りていない様子だった。
何故か?それはリリカが下手なのではない。
単純に焦ってしまったのだ。いきなり動いた相手に焦り、自分からも前に出た。
だからこそ、急に緩急をつけられると対応ができずに攻撃がからぶってしまう。
二発目の攻撃もその場で静止したシャオリに届かない。
だが、進行をやめたことでその距離はまだリリカだけの間合い、、、短剣と素手という微妙な差しかないが、一方的に攻撃ができる間合いではある。
一見そう思われた。
「やあっ!!」
シャオリが可愛らしくも力強い掛け声とともに、前蹴りを放った。
ただ、届くはずもない。
一応リリカは警戒してその蹴りの中踏み込むことはしなかった。
だが、それが仇となった。
「えっ!!?」
シャオリが足を振り抜くと、拳ほどの大きさの石がリリカに飛来した。
先ほどの蹴りの狙いはここにあったのだ。
「きゃっ、、」
リリカは咄嗟に短剣をクロスしてその意思を防ぐ。
その格好は誰がどう見ても隙だらけだった。
シャオリが石に少し遅れてものすごい低姿勢で飛び込むように距離を詰めた。
その少し後、リリカの両腕に衝撃が走った。
遠慮なく飛ばされたそこそこの大きさの石。
それを受け止めたため彼女の武器は少しだけ弾かれて後ろにいく。
そしてそこに追い打ちをかけるようにシャオリが駆け込む。
彼女は地面を蹴りその場で前方ちゅ帰りを見せてくれた。そしてその最中、クロスさせていたリリカの短剣のちょうど真ん中あたりにかかと落としをぶつける。
「わっ!危ない!!」
「まだ終わってないわよ!!」
2度の衝撃を耐えきり、一息つけると安心したリリカの足が宙返り中のシャオリの手によって絡め取られた。
そしてシャオリはそのまま両手を使って片方の足を取る。
2度にわたる衝撃で仰け反っていたリリカはさらなるバランス崩壊に耐えきれない。
結果、そのまま地面に引き倒された。しかしそれだけではなかった。
シャオリは倒れる前、しっかりと両手で足をつかむ事によってそのまま拘束を持続。
また自由になった足を使ってその足をさらに固定した。
完璧な関節技の完成である。
なんだっけこれ?膝十字?
これは、勝負アリだな。
「リリカ、アウトだ!!よって勝者、シャオリ、リタチーム!!おめでとう!!」
「うわあああい、ありがとうございますタクミ先生!!私、タクミ先生のおかげで勝つことができました!」
シャオリが感慨深いといった声を上げる。
俺のおかげ、と言ってもらえると少しだけむずかゆい気持ちがあるな。
だが、今回はそれを謙遜しないでちゃんと褒め言葉として受け取る事にする。
だってシャオリが使ってた加速方法やら、体の動かし方・・・・・・
俺がこっそりリリスの目を盗んで教えたやつだから・・・・
嬉しそうにしているシャオリとリタを見ながら俺は胸を張った。
明日は更新しない・・・・明後日は、、、多分する。