204 癖と信念
「さて、じゃあ当面の戦いにおける問題点を指摘して見たわけだが・・・・正直そこは今は別に気にしなくてもいい。軽く覚えておくぐらいでとどめておいてくれ。」
悠々と悪そうなところを指摘していったが、別に今から教えるのは戦って勝つ方法ではない。
いや、一応戦って勝つ方法も教えようとは思うけど、まずはじめに強敵と出会って逃げ切る方法から教えようと思う。
俺の発言に子供達が若干ジト目でこっちを見てくるが、それは無視だ。
今は気にしなくてもいいが、あとで必要になってくるからな。
「というわけで強敵と出会った時に一番やるべきことは当然だが逃げることだ。ただ、自分より強いっていうことは基本的に自分より相手の方が足が速い。
だから一計を案じないとすぐに追いつかれて背中を叩かれて終わることが多いわけだ。」
「それじゃあ結局逃げても駄目じゃんか。どうすればいいんだよ。」
お、レオンくん。いい質問だよ。
俺は心の中で少しだけ教師を気取りながらその質問に答える。
「それは場合によりけりだな。例えば、安全地帯。わかりやすく言えば街中とか、それの近くで遭遇してしまった場合なんかは、相手の攻撃をわざと受けてそっちの方向に飛ばしてもらって距離を稼ぐというのもある。」
この想定はいつぞやに俺がオークと出会ったときの話だな。
あの時は真正面から力でぶつかり合って街の方に飛ばされた。
そしてその距離を使って逃げようとして、後ろから飛んできた棍棒にやられたんだっけな。
今思い返したらいい思い出だぜ。
「それじゃあ、相手の攻撃をわざと受けるんですの?」
エルザが信じられないといった声を上げる。
それもそうか。
俺の発言だと、わざと攻撃を食らって逃げろっていってるんだもんな。
身を守る、という主題から少しだけ外れているような気がする。
「あのなあ、一撃食らって生き延びるのと、その攻撃をかわして最終的に死ぬのとでは圧倒的に前者がいいんだよ。
逃げ切れる可能性が少しでも大きい方を常に選んでこそ弱者は生き延びられるんだぞ?」
最終的に死んでいなければその後はなんとかなるものだ。
肝心なのはその場で生き延びること。
ならばたとえこういった危険な作戦でも教えた方がいいのだ。
俺がそう得意げになっていると、突然、後頭部に激しい衝撃が走った。
俺はその衝撃に耐えきれずに前のめりに倒される。
「ちょっとタクミ!!何教えてるの!!」
声から判別できた。犯人はリリスみたいだ。
彼女は俺にそう怒鳴りつけると、今度は倒れた俺の顔を両手で挟んで自分の顔の前に持ってきた。
「リリス、いきなり何をするんだよ。」
「あのねタクミ、お母さんいつも思ってたんだけどね、自分の体を餌に使うような戦い方は良くないと思うの。」
彼女は俺をまっすぐと見つめ、真剣な眼差しでそういった。
確かに、俺はよく自分の体を囮として使う。
だがそれは、そうすれば勝利があると見えているからだ。
俺の考えとしては、戦闘を長引かせて危険に長時間寄り添う方がよっぽど危険と思う。
そういう旨の話を俺はリリスにした。
だが、彼女は首を横に振る。
「確かにそうかもしれないけど、子供の体が斬られるのを見るのは私が辛いの。出来れば、やめてもらえないかしら?」
「・・・・それは約束できない。」
いくら言われてもそっちの方が安全だと思ったら俺はそうするだろうしな。
「それでも、そういう危ないことを他の子達に教えるのはやめなさい。みんながみんなあなたみたいな戦い方ができるわけじゃないのよ?」
それは・・・そうだな。
確かにそうだ。俺はスキルの構成上、一撃相手に攻撃を入れることができればオーバーキルもいいところの威力を持つ攻撃をする。
それ故に、俺の攻撃は直撃を一度取れればそれで終了だ。
だが、他の人間は?
もし捨て身で攻撃を当てることができても、満足にダメージを与えられないかもしれない。
怪我した体で自信を持って行動ができいないかもしれない。
そう考えると、あんまり俺の戦い方は教えるべきではないのだろう。
「わかったリリス。出来るだけ安全な方法から教えていくことにするよ。」
考えてみれば相手の攻撃をわざと受けて移動する方法は初心者向けの技ではなかった。
要するに、はじめに教えるべきではなかったのだ。
ちょっと俺は調子に乗っていたみたいだ。
「うん。よろしい!」
リリスは俺の頬を両側から軽く叩いて、それから少し離れた場所に行ってしまった。
その後俺は立ち上がる。
「ププッ、怒られてやんの。」
立ち上がった後すぐに聞こえてきたレオンの笑い声が少しだけ心に響いた。
さて、安全な技か。
正直俺の低レベル攻略用の技の中で安全なものはあまりない。
いや、俺からしたら安全なのだが、見た目危なそうなものがいっぱいだ。
そんな技を伝授しようとしたらリリスにまたなんて言われるか・・・・・
とりあえずまずは確実に安全なものから教えていくしかないな。
「というわけでさっきの話は忘れてくれ。今からは出来るだけクリーンな技術を教えていこうと思う。」
と、その前にちょっとやることが・・・・・
俺はステータスウィンドウを開く。そこには以前見た時よりもいくらか上がったレベルとステータスが表示されていた。
名前 天川 匠
称号 リリン
クラス 魔闘士
レベル 32
HP 4999/4999
MP 465/465
力 401
魔力 317
体力 444
物理防御力 452
魔法防御力 339
敏捷 398
スキルポイント 24
状態 正常
ふむ、相も変わらずひどいステータスだな。この世界のことはよく知らないが、このステータスが二次クラスのレベル32を大きく逸脱していることだけはよくわかっている。
それもこれも全部リリスの血液のおかげ?なのだ。
どうやら彼女の血液にはステータスを上昇させるだけではなくその成長率を上げる効果もあるらしい。
あと、少しだけ経験値にボーナスが付くんだと。
そしてさらに!!俺が獲得した経験値はリリスにも入ります!!
・・・・まあ、俺と一緒に行動している限りリリスは常に俺の倍の経験値を得ていることになるな。
まぁ、それは『リリン』という称号を持っているのが俺だけだったらの話だ。
聞いた話によれば、リリスがいた生命樹のダンジョンの第二階層に生み出されるスライムもこの称号を持っているらしい。
こっちは血液からあげたものではないからステータスはそれほどでもないが、それでも経験値共有は働いているんだとか。
・・・・あいつずるくね?
この話が本当なら、彼女は安全な場所で待機しているだけでダンジョンのスライムたちが勝手に冒険者を倒して経験値を得るんだろ?
まぁ、今はそんなことどうでもいいや。
肝心なのはスキル。
俺が最後に撮ったのは『限界到達』のスキルその使用量3ポイントだ。
いくら俺でもスキルは獲得してしまったら消去できないので、こうしてポイントだけはためているのだが、ここは指導に使うのと兼ねてより取っておこうと思っていたスキルをいくつか習得することにしよう。
俺はステータスウィンドウの次のページ、スキルウィンドウを開いていくつかのスキルを習得した。
今まで俺が進んで取ってきたスキルのほとんどは大量にポイントを食うものが多かった。
例えば『状態異常無効化』(25)ポイントとかな。
だが、そもそもそれは効果が大きいから大量にポイントを持っていかれていただけのこと。
普通のスキルは大体2ー3ポイントで取れるのだ。
「さて、準備ができたから今日は手始めにスキルの話をしようか。」
俺は目当てのスキルを習得した後、再び子供達にの方に向き直った。
「スキルのこと、ですか?」
ビビが畏れ多い感じに尋ねてくるが、別にそんな大層なことを話すわけじゃないからあんまり身構えないでほしいな。
「そうだ。スキルのこと・・・その中でもアクティブスキルと呼ばれるもののことだな。」
スキルにはアクティブスキルとパッシブスキルという大きく分けて二種類のスキルがある。
前者は使用して初めて効果を及ぼすスキル。
後者は習得していれば永続的に効果を発揮し続けるスキルだ。
そして今回はそのアクティブなスキルの方の対処法について話すことにする。
そのことを前置きとして説明したら、
「対処法って、それぞれのスキルによって違うんじゃないんですの?」
エルザの疑問も最もだ。
確かに、膨大な数のスキルの対処方法を一つ一つ解説している暇はないし、意味もない。
だから今回教えるのはそれじゃない。
「今回は同じスキルをなるべく喰らわないようにする意識の話だな。」
これができないとセイ◯トは名乗れないから覚悟しておけよ。
「はぁ、、、」
何を言っているかわからない。子供たちはそんな様子だった。
ここは百聞は一見にしかずということで、パパッと見せてパパッと終わらせたほうがいいだろう。
「じゃあ今から俺が一つのスキルを使うからよく見ておいてくれよ。」
「「「は、はい!!」」」
俺は周りの安全を確認する。
もし攻撃範囲内に子供でもいたら、そして攻撃を当ててしまったら大惨事だからだ。
はぁ、、、攻撃系や移動系のアクティブスキルはこういうところ融通が利きにくいよな。
俺は心の中で悪態をつきながら剣を構え、先ほど習得した新しいスキルを発動させた。
直後、俺の体がぶれて素早く前に移動する。
そしてその勢いのまま剣を大きく横薙ぎに振り払った。
その一連の動作を終えた後、俺は後ろを向いて子供達の方を見る。
「さて、今のは戦士系のクラスが取ることができるスキルで『一閃』というものだが、どうだった?」
『一閃』のスキルは素早く近づいて剣を振るだけのスキルだ。
このスキルの面白いところとしては、任意で剣を振るまで勝手に体が動き続けるところだ。
つまり剣を振らなければ永遠と進み続ける・・・・ことができるわけではなく、スキル使用時もちゃんと疲労感があるから多分どこかで事切れてしまうだろう。
スキル使用時はそのサポートを受けているのか、通常より圧倒的に早い速度で移動するため、普通に走るより早く限界が来るだろう。
「どうって言われても、わからないよ。ただすごかったとしか。」
シャオリが困ったような声を上げる。周りのみんなも首を縦に振ってその意見を肯定した。
まあ俺も実際に見せてすぐに理解してもらえるとは思っていない。
これは例としてあげただけに過ぎないのだ。というか、理解してもらうと俺がいる意味がない。
「今のスキルもそうだけど、近接攻撃系のスキルって結構今みたいに直線の軌道を描くことが多いんだ。あと、攻撃自体が全て同じ軌道で飛んで来ることも十分あり得る。
まあ、何が言いたいかっていうとアクティブスキルを使った攻撃である限り、ある程度の行動制限があるはずだから相手がスキルを使ったってわかったらそれを観察しようなって話だ。」
要するに相手の動き、よく見ろ。
というやつだ。いうは易しだが、意識しているだけでちょっとだけ違う。
正直こんな意識レベルの話ではなく、すぐに使える技を教えたいところなのだが・・・・
俺は遠方に目をやった。
するとこっちに気がついたリリスが笑顔で首を縦に振る。
どうやら今の話は大丈夫なやつみたいだ。
リリスがどのくらいのことを許容してくれるかがわからない。
どれを教えて、どれを教えないべきか真剣に考える必要があるから、いまはこう言った話しかできないのだ。
「えっと、、、言いたいことはわかったかな?」
これで本当にいいのかとも思いつつ、俺は話を締めくくった。
魔物紹介その1『リリンスライム』
生命樹のダンジョン第二階層に出現するスライム。
そのスライムの得た経験値は全て親元まで届けられる。また、リリスに認められると襲ってこなくなる。
決まった形はなく、決まった能力もない。ただ、親であるリリスが持っていないスキルを持って生まれることはない。
ごく稀に、外の世界でも見ることができる。
最近、目撃情報が増えたみたいだ。