203 特徴と悪癖
昼食後、リリスから子供達の指導を頼まれた俺はくだんの庭にて訓練を開始することにした。
一応、言及しておくと男が2人、女4人だ。
案外、女子の方がやる気があってびっくりだ。
参加している子供ははじめに俺に突っかかってきた獣人の少年レオン。
次に少し臆病な男の子のビビ。
孤児院最年長の少女シャオリ。
気の強い女の子のエルザ。
エルザに常にくっついている背の低い女の子リリカ。
そして最後に引っ込み思案だが真っ直ぐなリタ。
この6人だ。
そしてそれぞれのクラスは
レオンが戦士。
ビビがローグ。
シャオリが戦士。
エルザが魔法使い。
リリカはローグ。
リタが魔法使いだ。
見事に2対2対2に別れてくれたな。
あと、参考までに言っておくとこれに参加しない孤児院の子供は基本的にノービスということだった。
もしかしたら、ノービスだから訓練を受けるのを遠慮しているのかもしれない。
ともあれ、俺は今、その子供達と相対していた。
「よし!今から第1回、弱者が死なないための講座を始めるぞ!!」
講座名はなんでもよくてその場のノリで言ったが、我ならがわかりやすくでいいと思う。
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
子供達は素直に返事をしてくる、、、レオンを除いて。
「どうしたレオン?返事は?」
「よ、よろしくお願いします。」
ふむ、どうやら俺の心象はそこまでよくないみたいだ。
あれか?昨日の冗談を間に受けてしまっているとかそんなんかな?それとも、講師がいきなり美女から野郎に変わったからか?
まあいいや。話を聞くんなら態度なんてどうでも。
「さて、まずはじめに・・・・」
「あなたを叩きのめすために殴りかかればいいのね?」
俺が講義を始めようとすると、エルザがやる気満々にそう言った。
午前中はリリスがそれしかやらなかったから、そして俺はそれを見ていなかったからまたそれをやると思っているようだ。
「いや、その前にちょっとだけ意識の確認だな。」
「意識・・・ですか?」
シャオリが首をかしげる。あまりピンときていない様子だ。
「そうだ。そもそもこの訓練はなんのためにやるものだ?えっと、レオンちょっと言ってみろ。」
偉そうな口調で俺は言う。こう言う場合はへこへこした口調でやったらダメだと思ったからだ。
「そりゃあ勿論、強くなるためだ。」
「はい残念。」
「なんだと!!」
おうおう、すんごい突っかかってくるね。今はまだ大丈夫だけど、すぐにでも飛びかかってきそうな様子だ。
「じゃあ次はーーーービビ。これはなんのための訓練だ?」
「は、はい。・・・死なないため、でしょうか?」
「正解だ。」
別に強くなる必要はないのだ。要するに、死なないように立ち回れる。それができればいいのだ。
多少鍛えはする。だが俺はもともと武術を誰かに習ったことはなく、ゲーム内で戦い続けて得た技能なので、人に教えるのは難しい。
だから、単純な技能ではなく、自分の身を守る立ち回りを教えるのだ。
これをちゃんと意識して話を聞くのとそうではないのとでは、習熟度に違いが出る・・・・気がするのでちょっと確認をしてみる。
「じゃあ次、死なないため、自分の身を守るためにはどうすればいいと思う?」
「そんなの簡単だ!!強くなればいいんだろ!!」
今度は俺が指定して投げかける前に、レオンが食い気味にかかってくる。
まあ、その答えは・・・・
「残念ながら間違い、、、とは言えないけど正しくはない。えっと、シャオリ。どうすればいいと思う?」
「えっと、常に危険から遠ざかるように行動する・・・ですかね?」
「うん、まあ及第点といったところだ。」
危険な場所には近づかない。それは身を守るための一番の基本だ。
だが、いくら注意しても冒険者をやっている限り突発的な危険が身を襲うことはよくある。
その時、どうするのかも大切になってくるのだ。
「ということで、俺からは主に自分より格上の敵に対する身の守り方と言うのを教えようと思う。・・・・早速で悪いんだけど、さっきリリスとやってたみたいに俺にかかってきてくれるか?」
結局それかよ、と言ったエルザの表情が痛いが、しかたないだろう?
だって俺は午前中は街を回って土を運んでたんだから。
・・・そういえば、俺以外に農業に関して知識を持っている奴はいるのだろうか?リリスは、、、期待できない。律識もダメだな。シュラウド・・・・も確か知らなかったような気がする。
ギリギリ知っていそうなのはノアとリアーゼか?あ、グレースさんもなんとなく知ってそうだ。
と、ちょっと思考が横道に逸れたな。
子供達がギラギラとした表情でこっちを見ているし、そろそろ始めるとしよう。
「じゃあ、始め!!」
「ふぅ、、とりあえず一度休憩を挟もうか。」
俺は額の汗をぬぐいとりあえずの終了の合図を出した。
子供達は開始の合図とともに俺に向かって飛びかかってきた。その手にはシュラウドから貸してもらった木の剣や木の杖を握っていた。
それをそれぞれが思い思いに振っていたのだが、流石に俺に当たるなんてことはない。
そもそものステータスが違いすぎるのだ。
だから俺はそれを観察しながら戦闘することができた。
言っちゃあ悪いが、子供達は連携と言えるほどのものはしていなかった。
近接攻撃組の4人が俺を囲い、そして安全な場所から魔法使いの2人が俺に向かって魔法を放ってきた。
使ってきたのはエルザが炎、リタが風の魔法だった。
おそらく、当初の目的としては俺がそれを回避して体勢を崩した時に近接攻撃組がボコボコにする魂胆だったのだろう。
だが、俺は自分の剣を使ってエルザとリタの魔法を一刀で切り裂いた。
『魔力切り』を持っている俺は魔法であってもなんら特殊なことはないただの飛び道具でしかないのだ。
と言うかエルザ、街中で炎の魔法はやめような?もし俺が避けて引火でもしたらどうするつもりだ?
ともあれ、俺によって切られた魔法はその形を維持できずに消滅した。俺が魔法を切った時、物によっては威力が半減やら減衰やらにとどまって消えないことがあるんだが、今回はそうはならなかった。
いやあ、魔法を消されてあっけにとられた子供達の表情は面白かったな。
そしてそこから先は秩序なんて一切ない、俺に届きそうな攻撃を使うだけの烏合の衆となった。
そして体力がなくなるまで動き続けたわけだ。
「さて、戦って見てわかったことだが・・・・」
俺はある程度感じたことを指摘する。
まずはレオンだ。
こいつは良くも悪くも猪突猛進型だ。言い換えれば本能で戦う獣タイプといったところか?
真っ直ぐだから誰にでも動きが読まれる。
自分の方が体が強く、相手が向かってくるならば勝てるだろうがそれ以上は見込めないといえた。
次にビビ。
彼は常に一歩引いた位置で戦っていた。
そして俺が他のやつの攻撃に対処して体の側面や背面を見せた時、素早く近づいて攻撃をしてくる感じだった。
筋は悪くなかった。同じ状況下で、俺の場所に自分たちより少し強い程度の相手がいたなら、その攻撃も当たっていただろう。
ただ、臆病ゆえか踏み込みが浅い。たとえ攻撃が当たっても、相手によってはいないものと扱われるかもしれないな。
そしてシャオリ。
彼女もレオン同様にみんなより少し前に出て戦っていた。また、攻撃後もすぐに回避やガードができるように最低限の安全を確保していたようにも見える。
基本的に自分では攻撃せずに、周りのみんなのフォロー役といった印象もあった。
俺からエルザとリタを守るように動き、レオンから視線を外させるように誘ってくる時もあった。
立ち回り自体に大きな問題点はないが、ただ残念なのは彼女自身の防御能力の低さだろうか?
少し重めの攻撃を受けるとそれだけで体勢を崩してしまっていた。
エルザ。
良くも悪くも魔法使いだ。
シャオリの防御の後ろに隠れ、俺に向かって火を放つ。何度も街中で火を使うなと言いたかった。
また、使う魔法も一種類で、炎の槍を飛ばしてくるだけだった。
それが威力が一番高いからそれしか使わないのか、スキルポイント不足でそれしか使えないのか・・・・多分後者だな。
あと、近接に対してめっぽう弱かった。
一度だけシャオリのガードを突破して接近して見たら、見事に何もしなかった。
一応、隙があるぞと言うことを感じさせるために肩を叩いて俺は包囲に戻った。
リリカ。
ビビと違って少しだけ前のめりなローグ。
1つ場所にとどまらず、動き続けて俺を翻弄しようとしていた。が、彼女自身の攻撃性能はあまり高くなく、すんでのところまで迫ってきてても俺なら回避可能だった。
それを看破してから、俺はリリカを無視するように戦った。
すると彼女は真後ろから攻撃してくるようになった。
臨機応変なのはいいことだ。ただ、背中をビビの方向に向けた時、何もしてこなかった。
ビビも攻撃するんだし、どうせなら適当な場所から攻撃に参加しても良かったと思う。
最後にリタ。
風魔法しか使わないのはエルザと同じだった。ただ、こっちは接近に対して最低限の備えをしているらしく、一度近づいて見たら足元の砂を風で大きく巻き上げてきた。
砂が目に入ればその間に距離を取ることもできるし、結構いい攻撃だった。
また彼女は杖とは別に剣を持っていた。
もしかしたら、俺があの砂を目に食らっていたらあの剣で叩かれていたのかもしれない。
ただ、問題があるとするならば前衛を気遣うばかり大胆な動きができないでいた。それはそれで悪くないのだが、ちょっともったいない。
「以上がさっき戦って見た感想だ。今から、これを踏まえて戦い方を教える。座ったままでいいからよく聞いてくれよ。」
ある程度、子供達のデータは取れた。
今からこれを元に子供達を強化していくのだ。
ふふふ・・・・俺が低レベル縛りプレイで培ってきた技術、その身に叩き込んでやろうではないか!!
心の中で俺は少しだけテンションが上がっていた。
キャラの年齢 降順
リリス ???(本人がすでに覚えていない。メタい話、作者も正確な数値は設定していない。)
エレナ ???(そこまでリリスと変わらない年齢。少しだけ下。)
シュラウド ???(多分ここら辺)
エスリシア 151(エルフだからね)
カンヘル 44 (普通のおっさん、髭)
グレース 34(見た目だけなら20代)
匠 21(普通の大学生)
律識 21(匠と同級)
ノア 18 (エルフの血のせいで少し幼く見える)
シャオリ 14(だいたい中学生くらい)
レオン 13(孤児院では上から二番目)
リアーゼ 12(とても12とは思えない)
リタ 12(普通の少女)
エルザ、リリカ11(いつも一緒)
ビビ 10 (訓練組最年少)
だいたい目安はこんな感じですね。
あくまで目安なので、都合が悪くなればこっそり変わってるかもしれませんが・・・・