201 母と夜の会
ついに200を超えましたね。
リリスの提案で俺たちは孤児院に厄介になることになった。
ノアだけでも自宅で過ごすかと聞いたが、彼女も1人だけ別の場所というのは嫌だったみたいで、昼食時の話し合いの後すぐに家に向かって必要なものを取りに行った。
リリスも宿を引き払い、そして荷物を持って戻ってきた。
そして今、子供達も寝静まった頃、俺とリリス、そしてグレースさんが1つの卓を囲んで座っていた。
「はい、それでは第1回、母の会を始めるわよ。」
「よろしくお願いします。」
リリスの宣言に、グレースさんが頭を下げる。
俺はというとなぜ自分がここにいるのか今だにわからない。
子供達が寝静まったので、俺も借りている部屋に戻って眠ろうと思ったらリリスに呼び止められてしまったのだ。
「なあリリス、なんで母の会なのに俺が呼ばれてるんだ?」
「あら?子供視点の意見も欲しいじゃない?・・・まあぶっちゃけ、私じゃあいい案が出せないかもしれないからきてもらったっていうのはあるわ。」
「あら?タクミさんはリリスさんのお子さんなのですか?」
「いや、ちがっ「そうよ!!かっこいいしかわいいでしょ!!?」」
「はい、とってもカッコいいです。」
俺をよそに話は進んでいく。
リリスの子供だという点は否定したかったのだが、例のごとく聞き入れてもらえなかった。
このまま放っておくとまたリリスが暴走してしまいそうだ。
そうなると下手したら子供達が起きてしまう可能性もあるので俺は強引に話題を転換する。
「それでリリス?これは何を話し合う会なんだ?」
「あ、いいことを聞いてくれたわね。ほら、今日私が少しだけ資金援助したから当面の食料は大丈夫だし、子供達のわがままもある程度聞き入れることができるようになったでしょ?」
「はい、そのことに関しては非常に感謝しております。」
「でもね。それじゃあダメなのよ。もちろん、私がお金を稼いで子供達を養うのはいいんだけど、それじゃあいざという時自分たちで何もできないじゃない?だから、今回私があげたお金がなくなる前に根本的解決を測る必要があるの。」
ふむ、それは一理あるな。
リリスなら全く気にしないだろうが、流石に俺たちがずっと金を出し続けるわけにはいかない。
俺たちの資金も無限ではないし、グレースさんも気が気でなくなるだろう。
だからこそ、最低限のラインを自分たちで維持できるようにしなくてはいけない。
その案を俺たちで話し合おうということだな。
「ということなんだけど、タクミ、何かいい案はないかしら?」
ある程度の説明を終えて、リリスが俺に意見を出せと投げかける。
だが、その前にまだ確認することがあるだろう。
「それより先に現状確認だな。えっと、グレースさん、今まではどうやって食料を供給していたのですか?」
「あ、はい。普段は少ない国からの援助金をやりくりしてなんとか食いつないできていました。足りない場合は、、、、ご存知の通り借金をしました。」
あ、一応国からの援助とかは出てるんだ。ということは今の所一切の収入がないということではない。
だが、それは俺たちからの金と同じでいつまでも続くと思わないほうがいいだろう。
それでなくても借金する程度には足りていないのだ。
「国からの援助金は増やしてもらうことができるだろうか?」
それができれば一気に楽になるんだが、、、
「流石に、厳しいかと思われます。一応、以前その申し出をして見たのですが、きっぱりと断られました。」
ふむ、厳しいか。
詳しく聞いた話によると、そこまで少ない額しかもらっていないわけではないが、施設の維持費の兼ね合いで食料に回すお金があまりないのだと。
「っていうことは自分たちで働いて自給自足をしてくしかないよな。」
他からの収入がないとなると自分たちで生み出すしかない。
そして問題はその方法なのだが・・・・
「あ、そういえばこの施設の裏庭には庭があったわよね?それもそこそこ大きめの。」
「あ、はい。普段は子供たちの遊び場として非常に重宝しております。」
リリスたちの言葉の通り、この孤児院の裏手にはかなり大きな庭がある。
広さとしては大体30坪くらいだ。
30坪といえばやろうと思えば一軒家を建てることができる広さになる。
現状、この土地は遊び場としてしか機能していないらしい。
何かを作ろうにも、お金がなかったのだと。
「う〜ん、そこに畑でも作ってみるのはどうかしら?うまくいけば野菜なんかは買わなくても良くなると思うわよ?」
「それは一度考えたのですが、どうやら土壌が良くないみたいで作物が育っても痩せこけているのです。」
リリスの案は俺もいい案だと思ったが、土地があって食料に困った人が栽培に手を出してないなんとことはなかった。
一度やった結果、思ったより成果が得られなくてやめてしまったらしい。
しかし、土か。
「まあ土は肥料とともにどこかから購入すればなんとかなりそうだな。確か一から作るとなると結構手間だったような気がしないでもないけど、ないならないでなんとかなるだろ。」
無いなら無いで別のところから持ってくればいいじゃないの精神だ。
土整えたり結構手間だろうけど、この施設は労働力には困っていないからなんとかなるだろう。
「じゃあ明日は朝一で土を探しに行きましょう。それで、これでどれくらい賄えそうかしらね?」
「それは俺にもわからないな。でも、初めの一年は多分失敗する気がする。安定供給として見られるのは数年ごとかになるかもしれないな。」
まあ、それでもないよりはマシ程度にはなるだろうからやって損はない。
種を買うだけならそこまで値段がかからないし、失敗してもそれほど損害にはならない。
初めは食べられるものができればいいくらいの気持ちで臨んだらいいんじゃないだろうか?
決して、初めからこれだけで全て賄えるようなものを作ろうとはしてはいけない。
あくまで負担軽減の手段なのだ。
「しかし、そうなりますとそれだけでは難しいですよね?何か知恵があれば御教授願いたく思います。」
使っていない土地を使っての農業、ある意味基本的なこと抑えたが、これだけで回せるはずもない。
もし仮にこれが大成功して食料問題の一切が解決したとしても、消耗品などの補充はままならないのだ。
「う〜ん、子供達ができそうな仕事ねえ・・・・タクミ、何かないかしら?」
多分この2人の性格上、仕事をさせるにしても少しでも危険が伴うと却下しそうなんだよな。
でも、ここで暮らす小さな子供達ができる仕事なんて限られてるし・・・・
「・・・冒険者登録して薬草でも拾ってきてもらうとか?」
「でもそれだと万が一魔物に襲われた時、子供達が危険よね?他に何かないの?」
駄目元で言ってみたがやっぱり却下されたな。
薬草採取でも一度達成すれば1000Gほど手に入る。
少しずつでも稼げればなんとかとは思うのだが、やはり危険があるというのは捨て置けないのだろう。
「それ以外だと、、、、、」
ダメだ。とっさには思い浮かばない。探せば仕事くらい見つかるんだろうけど、どれもピンとこなかった。
「冒険者、、、」
そうやって俺が悩んでいる中、グレースさんは先ほどのやりとりが少しだけ気になったみたいだ。
「グレースさん?どうかしたんですか?」
「あの、無理を承知でお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい?とりあえず言ってみてください。」
「えっと、明日朝一で子供達に希望を募りますので、もしその時冒険者になりたいという子供がいたら、その子たちに技術とかを叩き込んで欲しいのですが、、、、ダメですよね?」
グレースさんは俯き気味にそう言った。
えっと?整理すると、彼女は子供の冒険者計画には反対していないみたいだ。
いや、肯定的に捉えているだけで反対意見がないわけではないのだろう。
だから希望を募る。
そこでやりたいという子供がいたら、俺たちに鍛えて欲しいということか成る程。
「リリスはどう思う?」
「私は反対よ。どんな理由があっても、小さい子達を外に出すことは許さないわ。」
「あ、ちなみにグレースさん。1000万あればどのくらいの期間食いつなげそうですか?」
「えっ?は、はい。ざっと計算して少なくとも5、6年は持つかと思います。どんなに短くても3年は持つでしょう。」
「なあリリス。俺はお前の言い分も最もだと思うんだけどさ、やっぱり子供達に自分を守る術を身につけてもらうためにも、冒険者は1つの選択肢だと思うんだよ。しかも今、聞いた話によればどんなに短くても3年は持つらしいじゃないか。3年も経てば最年長の子供は体もしっかりしてくるだろうし、一応考えてもいいんじゃないかな?」
この施設に住んでいる子供達の大半は10歳にも満たないだろうが、それでも少人数だが10歳を超えているだろうと思われる子供もいる。
3年も経てば体もできてきて、丈夫になってくるだろう。
そうなれば薬草を拾いに行くくらいはできるかもしれない。
何せ訓練期間は少なく見積もっても3年あるという話だ。
その間鍛錬してれば自衛くらいはできるようになるさ。
その意味を込めて俺はリリスを諭す。
「う〜ん、、、そうかもしれないけど、、、」
「ほら、リリス。これは希望者がいたときの話だからあまり深く悩む必要はないって。それに、」
「それに?」
「子供達がやりたいって希望するのを、お前は無下にできる性格してないだろ?」
「うっ、、、わかったわ。当面はそれを目標にしましょう。ただ、安定収入を得られるためにはまだ他の手が必要ね。・・・今日は遅いし、それについてはまた後日話し合いましょう。」
昨日感想をもらって知ったんですけど、皆さん初期登場時のノアって気持ち悪い女に見えてるんですか?