199 目論見と遊び
招かれたから特に理由もなく施設の中に入ることになる俺たち。
俺たちを先導する女性が施設の扉を押し開き、先に中に入る。俺たちもそれに続こうと前に向かってるいていたその時、
「あ!!」
ノアが唐突に声をあげた。
「どうしたノア?何かあったのか?」
「いや、シルフちゃんがみんなを見つけたみたい。」
「お?意外に早かったな。どうする?」
「う〜ん、そうだね。どうしよっか?」
「えっと、あの・・・?」
突然会話を始めた俺たちに困惑した女性が戸惑うように声をかけてくる。
あ、そうだ。
「あの、すみません。ちょっと今離れていた仲間たちが見つかったみたいなので、ここを集合場所にしてもいいですか?」
ノアに案内を頼めばみんなの場所にたどり着くことはできるだろうが、変に移動して入れ違いにでもなったらと思うと、どちらかはその場に留まってたほうがいいよな。
よくよく考えたらこちらはシルフが、向こうはリリスがお互いの場所を把握しているからその考えは無駄というほかなかったのだが、その時の俺は気づかなかった。
「ええ、構いませんよ。そのくらい、先ほどのご恩に比べたらなんでもありませんから。」
よかった。ここを使っていいみたいだ。
「ありがとうございます。じゃあノア、入ろうぜ。」
「そうだね!!あ、そういえばここは施設って言ってたけどなんの施設なのかな!!?」
半分まで入りかけていた体を建物内に押し込め、ノアがそう尋ねる。
何言ってるんだよノア、ああ言った借金イベントが発生しやすい施設なんて数えるくらいしかないだろ。
「あ、そうですね。申し遅れました。私、ここの孤児院を経営しています。グレースと申します。先程は助けてくださり、ありがとうございました。」
ああ、やっぱり?
あまりにテンプレをなぞってたからそうなんじゃないかと思ってたよ。
「へえ〜、孤児院・・・ってことはここにはいっぱい子供がいるの?」
「はい。・・・みんな、もう隠れなくていいわよ!!」
グレースさんが建物内に響き渡る大声で号令をかける。
すると、部屋の奥から十数人の少年少女が現れた。
「せんせい、、大丈夫なの?」
「うわ〜ん。怖かったよー。」
「せんせい、いっちゃやだよぉ。」
その子供たちは遠くから細かな足取りで走ってきたと思うと、グレースさんに抱きついた。
そしてその子供たちの口から出てくるのは、「怖かった」というよりかは「大丈夫」というものが多かった。
「成る程、慕われているんですね。」
「ええ、みんなとってもいい子なんですよ?」
当面の危機が去ったのを確認できたのだろう。先ほどまでは少しだけ強張った顔のグレースさんだったが、子供達の姿を見たあたりから表情に余裕が見られる。
「せんせい?その人たちは誰なの?」
「せんせいを攫いにきた悪い人ー?」
そして余裕ができれば完全な部外者の俺たちに視線が行くわけで、子供達は俺たちを見て思い思いのことを口にする。
子供は正直だ。
子供たちが俺たちを見た感じ、怪しい奴にしか写っていないのだろう。
警戒心むき出した。
そんな子供達の頭に、グレースさんは軽く拳を落とした。
「こらっ、貴方達。私たちを救ってくださった恩人になんてことを言いますか!!」
本心から怒ってくれているみたいで、それと同時に本当に感謝されているのだなと思った。
気に入らなかったからなんとなく介入しただけなんだが、印象は悪くないらしい。
「すみません。この子達が・・・あ、お二人ともお昼はまだですか?よろしかったらここで食べていかれてーーーーーあ、すみません。ここにはお二方が満足できるような食事は提供できません。今の話は忘れてください・・・・」
ふと、何かを思いついたように話し始め、そしてふと何かに気づいたように話を切った。
そこそこの額の借金、それを簡単に返した俺たちを見たから、俺たちがこんな場所で満足できないと思ったのだろう。
「そんなことない!!せんせいの作るご飯は美味しいんだもん!!きっとこの人たちも満足してくれる!!」
グレースさんに抱きついたまま、1人の少女が涙を目に浮かべながらそう叫んだ。
口には出さないが、周りの子達も同じ意見みたいで首を縦に振っている。
「そうだよタクミ!!食べる前からまずいと決めつけるのは良くないよ!!ほら、ここはお言葉に甘えてご馳走してもらおうよ!!正直、ボクはそのくらいの対価をもらっても文句は言われないんじゃないかと思うんだ!!」
・・・・何故か、ノアも子供達と一緒になって俺に食ってかかる。
ノアの主張の後、子供達の視線が俺に刺さった。
あれ?なんで俺悪者みたいにされてるの?
まあいいや。昼食を食べていないのは事実なんだし、せっかくだからお呼ばれすることにしよう。
「あの、さっきのお金のお返しということで俺たちにも昼食を食べさせてくれませんか?」
「えっ!!?いや、それはいけません。お昼ご飯を振る舞うのはいいのですが、それを先ほどのご恩と同等として扱うなど、到底不可能です。」
グレースさんはそう言って奥の部屋に行ってしまった。
多分あそこが厨房、もしくは食料庫なんだろう。
「さて、ノア。ご飯が来るまでまだ時間があるだろうし、座って待っていようぜ。」
「うん、そうだね。」
俺たちは適当なイスに腰掛ける。
孤児院、ということもあってか成人している俺にとってその椅子は少し小さく感じる。
逆に子供達には少しばかし大きいみたいだ。
俺たちが席に座り、昼食ができるのを待っていると明らかに俺たちの方をじっと見ている視線があることに気がついた。
「えっと、、、何か用事でも?」
相手が子供だというので、どういった感じに接していいのか加減がわからないな。
俺はさっきから俺の方をじっと見ている男の子に話しかける。
その男の子はイヌ科の耳を頭から生やしており、少しつり上がった鋭い目つきで俺の方を睨むように見ているのだ。
「何が目的だ?」
少年は押し殺すような声でそう言った。
「目的?なんの?」
「とぼけるな!!グレースせんせいに近づいて何をするつもりだ!」
「えっと?特に何も?強いて言うなら、今はご飯を食べたいくらいだけど?」
「嘘だ!!せんせいは助けられたって言ってたけど、俺は騙されないからな!!きっとお前も他の大人達みたいに何か企んでいるんだ!!じゃないと俺たちなんか助ける人はいない!!」
う〜ん、こんな環境にずっと身を置いているからだろうな。人を信じられなくなってしまっている。
まぁ、仕方ないか。
実際に何も目的はないのだが、ここは変に聖人ぶるよりもちょっと怖い大人っぽく振る舞ったほうがいいのかもしれないな。
じゃあえっと、、、
「ふははははははは!!よくぞ見破ったな!!俺はグレースに恩を売ってここで一生働かずに暮らすことが望みだったのさ!!」
とっさにいい目論見っぽいセリフが思い浮かばなかったので、こんな適当なセリフになってしまった。
ヒモ男宣言である。
こんな俺の姿を見たノアは・・・
「そう!!全ては美味しいご飯のためだったんだよ!!」
俺を軽蔑するような目でみる、などではなく普通に乗っかってきた。
そのセリフを言い切った表情はちょっとだけ満足気だ。多分普通にそうしたいと思ったりもしているんだろうな。
「くそっ!このままじゃあグレースせんせいが危ない!!みんな、こいつらを懲らしめるのに手を貸してくれ!!」
そんな俺たちの演技だったが、子供騙し程度にはできていたらしい。
敵意むき出しの少年が俺たちを睨む。
そしてその少年に触発された周りの子供達も同様の視線を向けて来る。
一触触発の空気だ。
まずはじめに動いたのはやはりと言うか、俺たちをにらんでいた少年だった。
子供とは思えない身体能力で飛び上がり、俺に向かって突撃して来る。
俺はと言うとそんなものを食らう意味もないので、その拳を優しく受け止めて地面に下ろしてあげる。
いつもなら投げ飛ばしているところだが、相手は子供だ。グレースさんの手前怪我をさせるわけにもいかない。
「くそっ!みんなも加勢してくれ!!」
「「おおーーー!!」」
少年の言葉に、そこ場にいた子供達が次々と襲いかかって来る。
男の子は全て俺に、女の子は半分くらいはノアに向かっていく。
「なあノア、」
「ん?何かな?」
「なんで俺の方だけこんなに多いの?」
「さあ?まあいつもこんな感じだしいいんじゃないかな?」
そもそも冒険者としてレベルを上げていない人間の攻撃など俺たちの届くはずもない。
俺とノアはその光景をどこか他人事のように眺めながら軽く言葉を交わす。
「でもどうする?ノア、多分グレースさんがくれば止めてくれるだろうけど、さっき調理し始めたばっかりだろうから結構時間がかかるぞ?」
俺がその間避け続けるのは構わないが、ノアはこの状況をどう思っているんだろうか?
「ふふふ、、、タクミ。心配はいらないよ!!とう!!」
ノアは時期を見計らい、大きく宙返りをして見せて子供達から距離をとった。
今は敵同士なのだが、数名から「おお〜」と言う声が聞こえてくる。
「ふはははははは!!よくぞこのボクをここまで追い詰めてくれたなあ!!その礼として、ボクの最強の力を見せてやろう!!」
ノア、悪役のロールプレイにすごいノリノリだな。
そう言う小説を読んで一度やって見たかったのかもしれない。
いまだに一度も攻撃を直撃させられない子供達。そんな子供達はノアの最強の力という言葉に恐れをの退いている。
しかしはて?ノアのスキル、および魔法で何か子供達をあやすのにちょうどいいのがあったかな?
火の玉=危険、シルフ=いいかも? イドル=危険、 ウンディーネ=危険、マジックイーター=危険 ウォーター=危険。 フレイムピラー=危険。
適当に並べて見たが、危険なスキルがいっぱいだ。
こんな場所で使えるのはシルフ召喚くらいだろう。
まあ、それでも子供達の興味を引くくらいはできそうだな。
「ふっふっふ、さあ、刮目するがいい!!来い!!ボクの最強の僕!!」
ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえる。
これからどんな恐ろしいことが起こるのか、そう考えて緊張しているみたいだ。
そしてノアがバッ!!っと手をかざす。
何が飛び出すのか?そう思った時。
バン!!
大きな音を立てて孤児院の玄関口が開かれた。
そしてそこから顔をのぞかせたのはーーーーー
「タクミ!!待たせたわね。あなたの大好きわたし、リリスが来て上げたわよ!!」
なんか知らないがテンションが高いリリス。
そしてその後ろには少し疲れた様子の他のメンバーの姿が見えた。
子供好きのリリス。
そしてここには親のいない子供がいっぱい・・・・次の話を書くのが怖いぜ!
キャラ紹介その2『リリス』
みんな知っての通り子供大好きのリリス。気に入ったものは全部自分の子供。
踊り子というクラスについてはいるが、踊りのスキルは1つを除きとっていない。
この世界が始まった時、この世界を作った人物はリリスは子供達を率いて拳ながら戦うことを想定した。だから味方全体にバフをかけれる踊り子が二次クラスだったのだが、スキルを自分で振り分ける際、彼女は子供達の盾になり、自分で守ることを決心。
結果、ステータス増強にガン振りしたクラス詐欺の出来上がりであった。