197 報告と繋ぎ
本日2話目
激甘回の最終回 (仮)です。
ノアは俺を好きだと言ってくれた。
俺もノアがずっと好きだったことに気がついた。だからそのまま、俺とノアはいい雰囲気になった。
うん、結論から言うとすごく嬉しい。
「えへへ、タクミ・・・えへへ・・・」
今もノアは「あなた誰ですか?」と言われてもおかしくないくらい甘々だ。
さっき俺が衝動的に彼女の唇を奪ってしまってからずっとこんな感じなのだ。
・・・・・まあ、ずっとこのままでもいいんだが、そういうわけにもいかないだろう。
「ノア、そろそろ帰ろうか。」
十分にこの場所は堪能した。見たかったらまたくればいいし、今日は帰ることにしよう。
「うん!!お父さんとお母さんに報告しに帰らないとね!!」
満面の笑みでノアがそう言った。
改めて俺たちがそういう仲になったことを確認させられるとちょっと照れるな。
だが、このまま何もなしというわけにはいかない。もう後には引けなのだ。
「そうだな。じゃあノア、もう歩けるか?無理そうだったらまた俺がおぶってやるよ。」
「え〜っと、、じゃあ、お願いしようかな。」
俺はノアを背負う。
俺の力が強いというのもあるが、それを差し引いてもノアは軽い。
だからこうやって背負っていても全く苦にならない。
背中にノアを乗せると、彼女は落ちないように腕を俺の首に回してくる。
そして体を密着させた。
意識しているのだろうか?密着する彼女の体から、ドクドクと速い鼓動が聞こえてくる。
かくいう俺も同じくらいの速度で心臓が動いているから、そこはおあいこなのだが。
俺はノアを背負って夜の街を歩く。
夜中ということで全くと言っていいほど人に出会わない。
もしかしたら暗い道で追い剥ぎみたいなやつに襲われるかもと心配したが、そんなことはなかった。
俺たちは何のトラブルもなく、ノアの家の前までたどり着く。
「・・・なんか、この扉を開けるのは少しだけ緊張するな。」
「そうだね。お母さんはともかく、お父さんはすごい反対しそうだよ。」
あ〜、確かにカンヘルさんは「お前に娘はやらん」とか言ってたしな。
絶対に何か反対されるだろうな。
・・・・・まあ、立ち尽くしていても仕方はないし、入るとしようかな。
俺はドアを数度ノックした。
「お父さん、お母さん、帰ったよ!!」
そしてノアがそう声をあげた。夜の街に配慮してか、いつもより声量が少ない。
「は〜い、今開けるから少し待ってな。」
中からエスリシアさんの声が聞こえる。すぐに家の扉が開かれ、彼女の目は俺と俺に背負われているノアに向けられた。
「ノ、ノア_!?何があったん!!?」
「ただいまお母さん、あのね。ちょっとお話があるんだけど・・・・」
「とりあえず入り。ちゃんと座ってから話そう。」
彼女は俺たちを家の中に招き入れ、食事を取るときに使用する机に着いた。
俺はそのうちの1つの椅子にノアを座らせて、その隣に自分も座った。
「それで?話って何?」
ノアは今日、エスリシアさんと別れてからノアのとっておきの場所に行くまでのことをかいつまんで話した。
そしてその後に、
「あのねお母さん、ボク、このタクミのことが好きなの。でね、そのことを言ったらね、タクミもボクのこと好きって言ってくれたの!!」
顔を赤くしながら、ノアがそう言った。エスリシアさんはその言葉を真っ直ぐに受け止める。
「えっとタクミくん?今の話は本当?」
「はい。」
確認するような彼女の質問を、俺は一言で返す。
「本当に、うちの娘ーーーノアのことが好きなん?」
「はい、俺はノアのことが好きです。」
再度、同じ質問。それに俺は同じ答えを返す。
「違う」と言うとは思っていないのだろうノアは、笑みを絶やさなかった。
「・・・そうなんやな。任せて、いいんやな?うちの娘を、守ってくれるんやな?」
エスリシアさんは少しだけ、泣きそうな顔を見せてそう聞いてくる。
「当然です。」
俺の答えはこれだけだ。
ノアとの想いを確かめ合った以上、守らないなんて選択肢はない。最初から、全ての質問に対する答えなんてものは決まっていた。
「そうか、ありがとう。それとノア!!」
「な、何かな!!?」
「あんたいい人見つけてくるやないの。うちが疑う発言したその日に、交際の報告しにくるなんて!!よっぽどあんたを思ってなきゃできんことやよ!!」
エスリシアさんは、そう言って感慨深そうにノアに近づいて抱きついた。
「そ、そうだお母さん!!どうしてあのときタクミにあんなこと言ったのさ!!いくらお母さんでもボク、怒っちゃうからね!!」
「悪かったって、うちらみたいなのを全く気にかけん人なんて見たことなかったから、つい・・・」
「だからって、ひどすぎるよ!!ほら、タクミに謝って!!」
「ごめんな〜タクミくん。」
「あ、はい。」
エスリシアさんは軽く頭を下げて謝罪をしてくる。
正直、あの時の話に関しては全く気にしていなかったので、ノアが怒る必要はないんだけどな。
まあ、こう言う謝罪ってやっておかないと遺恨が残りそうなものだし、やらないよりはいいよな。
「そういえばノア、あんたなんでおぶられとったん?」
「それは足をひねっちゃったからだよ。」
「でもあんた、今はもう治っとるやない。結構前から歩けたんちゃう?」
「う、そ、それは・・・」
あ、やっぱりノア、足の痛みは治ってたみたいだな。
足をひねったはひねったが、骨がどうとか重大なことにならずに済んでよかった。
「何?あんたタクミくんに甘えたくて嘘ついてたん?うわ〜、好意で乗せてくれとるのに騙すなんてひどい女やな〜。」
「う、うぅ・・・・」
からかうようなエスリシアさんの口撃に、ノアが押されている。
どうやら理由もなしに背中に乗っていたことに、負い目を感じ始めたみたいだ。
ノアの顔は少しずつ下を向き始める。
・・・仕方ない。
「ノアは悪くないよな?俺が背負いたかったから背負ってただけで、ノアは俺の願いを叶えてくれただけだもんな?」
援護射撃だ。俺に責任が乗っかれば、攻撃はしにくいはず。
「そ、そうだね!ボクはタクミのお願いを聞いてあげただけなんだよ!!」
ノアは藁にもすがる思いで俺の言葉に飛びついた。
「そうやったんやな。ごめんな〜へんな詮索してしもうて。」
エスリシアさんはあっさと引き下がりーーーー
「うおおおおおおお!!イリノアちゃんお帰り!!」
カンヘルさんが乱入した。
「あ、ただいまお父さん!!」
「聞いてよあんた。ノアとタクミくん、付き合うことになったらしいよ。」
はい、爆弾投下ですねわかります。
いつかは通る道とはいえ、ちょっと身構えてしまうな。
「え。。。イリノアちゃんと?この坊主が?」
カンヘルさんは呆然としている。
何を言われたか、わかってはいるが受け入れられない様子だ。
「うん、もううちがさっき確認したけど2人ともラブラブやよ?聞いた話によれば、商業区の『カッフェ』にも行ったらしいで?」
『カッフェ』と言うのは俺とノアが昼食の時に入ったカップル専用の店だ。
聞いた話によれば、男は一度は彼女をあそこに連れて行くことで甲斐性がどうとかこうとか・・・・
流石にノアはそこまでは知らなかったみたいだけどな。
「え、、、、え?」
まだ事実を受け入れられないみたいだ。
でも多分、これは我に帰った時にはすごい爆発を見られるぞ。
・・・楽しみなような。そうなってほしくないような・・・・
「うおおおおおおお!!イリノアちゃんは渡さんぞおおおおお!!」
あ、爆発した。
やっぱりと言うべき、約束された反応だ。
「あんた、バカ言ってないで祝いなよ。友達を作るのすら難しいうちらの子に、恋人ができたんよ。」
「確かに、目でたい・・・・ような気がしなくもない。だが、認めんぞ!!」
「お父さん!!落ち着いてよ!!」
「イリノアちゃんはずっと儂にべったりでな。度々外に出ては泣きそうな顔して帰ってきておった。そんなイリノアちゃんは儂がまもるんじゃあああああ!!小僧!!イリノアちゃんが欲しけりゃ儂を倒してからにしろ!!」
「ちょっとお父さん!!」
「ええやないの。タクミくん、このアホぶっ飛ばしたり。」
「え〜、、、」
正直、いまのノリについていけません。
なんだろうか?これ、カンヘルさんと殴り合いさせられる流れになってないか?
「いいねタクミ!!やっちゃおう!!ボクたちの結束の強さをここで知らしめてあげよう!!」
「うおおおおお!!問答無用!!食らえ、『鍛治師パンチ』!!」
カンヘルさんの容赦ない拳が俺を襲う。
そういえば、カンヘルさんってなんの仕事をしてるんだろうと思ったけど、鍛冶屋だったんだな。
昨日は何もしていなかったし、今日は朝から出かけていたから知らなかったよ。
ともあれ、俺はその拳を掴んで勢いそのまま放り投げた。
カンヘルさんは根っからの生産職なのだろう。
速度も力も俺には到底及ばない。
これならまだ夕方にぶつかった男の方が鋭い拳を持っている。
「がはっ!!な、なんのこれしき・・・・次じゃ次!!」
結構手加減して投げたせいか立ち上がってくるカンヘルさん。
再び『鍛治師パンチ』とか言う技を繰り出してくる。
その一撃は先ほどより鋭い・・・はずもなく、同じように俺を挟んで逆側に投げられるだけだった。
で、また立ち上がってーーーー
「まだじゃあああーー「もうやめとき」」
エスリシアさんに思いっきりぶっ叩かれて気絶した。
そして彼女は俺の方を向いて笑顔で話す。
「改めて、昼間のことも合わせてごめんな。うちら、この子のことが本当に大事でな。ちょっとばかり過保護になっとるみたいや。」
「ええ、わかります。」
俺を危険と見るや即座に別れ得るように進めるエスリシアさん、俺を男と見るやノアに近づけさせないようにするカンヘルさん。
どっちの行動も、ノアを思ってのことだ。
だからこそ、昼間のことも俺は全く気にしていない。
「えへへ〜、今日からはタクミも同じくらいボクを大切にしてくれるんだよね!!?」
「そうだな。鋭意努力していこう。」
「それよりあんたら。疲れたやろ?今日はもう休んだら?うちもそろそろ寝よう思っとったしな。」
「そうですね。お言葉に甘えてそうさせてもらいます。」
俺は昨日借りた部屋に戻ることにした。
ノアも自分の部屋に戻るため、途中でお別れだ。
俺は道具を置き、装備を外してからベッドの上に寝転がった。
するとすぐにドタドタと言う足音と、コンコンという俺の借りている部屋をノックする音が聞こえた。
「あの、ボクだけど、入っていいかな?」
「いいぞ〜。」
「ありがと!」
ノアが部屋の中に入ってくる。彼女の手には枕が抱えられていて、彼女自身は寝巻きになっていた。
「えっと?ノア?」
「えへへ、、今日はボクもここで寝る!!ダメかな?」
「いや、構わないさ。」
今日のノアはえらく積極的だ。互いの気持ちを確認してからと言うもの、とっても幸せそうに俺に寄り添ってくる。
彼女がもう歩けたのに、俺に背負われたのもそうしたかったからなのだろうなと再確認した。
ベッドの真ん中に寝転がっていた俺は、少し詰めてベッドにスペースを作る。
空いたスペースにノアが入る。
「えへへ〜、ありがと。」
枕を配置し、寝転がったノア。そもそもこのベッドは1人用なので、2人寝転がると結構狭くて密着するような形になってしまう。
ノアの肩が触れる。
やっぱり彼女も女性なのだなと思わせる柔らかい感触があった。
・・・ってやばい!!これ、ずっとこの状態が続くと理性が飛んでノアを襲っちゃいそうだ!!
あれ?ノアも俺を好きでいてくれるから、それはいいのか?否!!
付き合いだして初日で、と言うのは絶対にダメ!!最悪ノアに軽蔑されちゃう!!
「ねえタクミ、」
俺の動揺をしってか知らずか、ノアが話しかけてくる。
「な、なんだ?」
「あれ、もう一回してもらっていいかな?」
ノアはそう言って顔を寄せて唇を突き出してきた。
・・・・まあ、求められているし、これくらいならいいよな?
俺は自分のものをノアのものに重ねた。
「えへへ、、、タクミ、」
「何?」
「おやすみ、、、」
「ああ、おやすみノア、また明日。」
口づけを済ませた俺たちは、そのまま抱き合うような形で眠りに落ちた。
次回からは糖度が抑えられて、いつも通りに戻るのかな?