190 脅威と立ち向かうこと
前回書ききれなかった分を書いただけなので、少し短めになっております。
ノアの奥の手、近接最強の魔法というのは俺を召喚することだったみたいだ。
確かに、あの召喚魔法は以前悔しさのあまりしょうひMPを最大まで引き上げた記憶がある。その副作用として詠唱時間は無くなっていた筈だ。
一瞬で俺が壁となる。
そう考えればその評価は間違えていないのかもしれない、、、がなんだか釈然としない。
「というかさ、これ、俺が参加していいやつなのか?」
「何いってるんだよタクミ!!君は今はボクの魔法で呼び出されたんだよ?ならダメな理由はない筈だよ!ね?」
「ああええよ。ノアが連れてきた男がどんなものかは確かめるつもりやったし、その奥の手を使わないノア1人だけやったら正直勝負になってへんやったしな。」
「まぁ、そういうことなら・・・」
俺は渋々ながらも参戦を決意する。こうなってしまっては審判はできないのだが、それはもう別にいいだろう。
勝ち負けは自分たちでわかるはずだ。
腰の剣を引き抜き、いつでも動けるように中断に構えた。
「あ、ノア、一応言っておくけど俺はお前の召喚獣、いわば駒として参戦しているから、お前が戦闘不能になったらその時点で負けだからな。指示は聞いてやるからそのつもりで作戦を立てろよ。」
そして一応、ルールの確認をするように忠告をしておく。
ここははっきりさせておかないといけない。
これが審判の俺に残された最後の仕事だ。
「わかった。じゃあ早速だけど・・・・お母さんを倒しちゃって!!」
うん、俺はノアが何にもわかっていないことがわかった。
お前の一番の強みは手数だろう?そう言いたくなる命令内容だ。
だが、駒として参戦させてもらった手前それを拒否することはできない。
俺はエスリシアさんに向かって攻撃を開始した。
ちなみに、今俺が持っている剣は昨日手に入れたティルフィング・・・・ではなく、黒牙の剣だ。
あらかじめ言っておくが、舐めているわけではない。
黒牙の剣は数値こそ低いもののそれを補ってあまりあるポテンシャルを秘めているのだ。
「では、行きます!!」
俺は真っ直ぐ突き進む。
見ている限りエスリシアさんの戦闘スタイルは二本のダガーで攻撃を捌き、そして生まれた隙をつくという俺たちのパーティで言えばエレナと同じような戦い方だ。
決定的に違うのは炎だったり風だったりのスキルを使って行動を強化しているところだ。
何がいつ飛び出してくるかはわからない。それならば、こっちから打って出て相手を後手に回らせた方が主導権を握りやすい。
それに、俺がここでかち合って入ればノアがあとはなんとかしてくれる。
「えらく真っ直ぐやなぁ、」
エスリシアさんは両手のダガーを使って素早い斬撃を繰り出してきた。
これは俺を仕留めるための攻撃ではない。おそらくだが、牽制。俺の足を一度止めさせるか、淀ませるかが狙い。
そしてそのあと、できた隙を攻撃。もしくはノアの方に向かうかも知れない。
そんなことを考えたが、俺は行動を変える気はない。
俺はそのまま真っ直ぐ突き進み、そして横薙ぎに剣を振るった。
「おっと、、止まらんのかい。」
彼女は軽く後ろに飛びそれを回避する。そして空中で一回転をしてほとんど音を立てずに着地した。
今の一撃では流石に仕留めきれなかったみたいだ。
相手が慎重というか、何かに素早く感づいたように回避されてしまった。
だが、完全に回避しきれず身を守っている風を剥がすことは成功した。
「これがノアが連れてきた男か・・・なあ、聞いてもええ?」
エスリシアさんはダガーの漢字を確かめるかのように俺から少し離れた場所で軽く振った。
ヒュン、ヒュンという軽い音が鳴る。
「ご自由にどうぞ。」
聞きたいこと、それがあったとして何があるのだろうか?
詠唱時間の話とか考えたらこんな無駄話をしたくはないだろうけど、どしても気になっている様子だ。
さて、何が聞きたいのやら・・・・
「あんた、今なんでうちの攻撃を避けんやった?まさか避けきれんやったいうことはないやろ?」
身構えていた割には、きたのはなんでもない質問だった。
どうしてダガーを避けるつもりがなかったのか?そんなこと決まっている。
「それは・・・あそこで避けない方が攻撃が当たる確率が格段に上がり、攻撃が当たればそこで試合終了だったからですかね?」
肉を切らせて骨を断つ。それを体現する行動だったのだが、彼女にはそれが奇異に見えたのだろうか?
俺としては相手の実力が正確に掴めない以上、短期決戦に持ち込んで間違いを起こす。
エスリシアさんはノアと戦っていたのを見てわかる通りかなりの手練れだ。
生半可な行動をしていたらあっさりやられる可能性もある。
だからこそ、あの一撃で決めるつもりだったのだ。
まぁ、すんでのところで逃げられたけど・・・・
「ふーん。怖いなぁ。」
彼女はそれだけ言って攻撃を再開した。
三度風を纏い、今度は向こうから俺に向かって突撃してくる。
俺は迎撃体制を取る。
そして俺たちが再びぶつかる少し前、エスリシアさんは大きく加速した。
突然の大きな速度変化。それに対応するのは容易ではない。
俺はとっさに剣を体の前に持ってくる。
すると腕に二回、衝撃が走った。
1度目は弾かれるような、2度目は切り裂かれるような衝撃だ。
見ると片方のダガーはガードできたみたいだが、もう片方は俺の左腕を切り裂いたみたいだ。
これも深すぎはしないが、浅くはない傷だ。ずっとこのまま動かせるとは思わない方がいいだろう。
「お返しだ!!」
俺はそれだけを確認して接近した相手に向かって剣を振り上げた。
彼女はそれをダガーを交差させて受ける。
咄嗟の力の入っていない攻撃など、受けることは造作もない。
俺の攻撃は簡単に受け止められてしまうはずだった。
だが、実際はそうはならない。
「うわっと!!?思ったより力強いんやな!!?って、まじかこれ・・・」
俺の振り上げを受け止めはしたがあちらも少し弾かれる。
そして俺の攻撃を受けた二本のダガーには少なくないダメージが入っていた。
普通の武器ではこんなことは起こらない。だが、俺の剣は違う。
どんな防御でも関係なく2割まではダメージを直接通す俺の剣は、ああやって武器で受けたらそれに見合ったダメージが確実に入っていくのだ。
その詳細まではバレていないだろうが、何が起こったかは大体は理解できた。そんな顔のエスリシアさんが俺の方を向き直る。
「いやあ、厄介やな。ノアがあんたが前に出てきた時、勝ったみたいな顔してた理由がよくわかったわ。」
当たれば必殺。受けても武器がすぐにダメになる。
それならば掻い潜るしかない。
そう判断したエスリシアさんの行動は早かった。
再び俺に突撃・・・そしてその途中で刃こぼれしたダガーを俺に向かって投擲してきた。
それらは真っ直ぐに俺の体の中心を狙ってくる。
これに対処していると次に来る攻撃に対して後手を取ることになるが、流石に何もせずに受けるというわけにはいかない。
俺はダガーの進路に剣を置き、それを弾く。
すると当然、彼女は目の前まで迫って・・・いなかった。
途中で方向転換し、ガード行動に入った俺の横を一瞬ですり抜けた。
その動きに一切の無駄はなく、何とか手を伸ばそうとしたが空を切るだけだった。
「しまった!!ノア、すまんそっち行ったぞ!!」
「厄介な相手は戦わんやったらええ。後ろに控えとる本丸を叩いたらうちの勝ちなんやからな。」
「ふふ、そう簡単にボクを落とせると思わないでよね!!押し返して、イドルちゃん!!」
ノアも俺が戦っている間、ただ見ていただけではないようだ。
彼女が呼び出せる中でも最強格のイドルを控えさせ、それを防御に回す。
空気の塊がエスリシアさんを襲った。
「土よ、」
しかしまるで足が固定されているかのように動かない。
飛ばされない。
「雷よ、」
それだけではない。彼女はその状態から攻撃に走る。
ダガーを投擲したことでフリーになったその手をノアに向ける。
そして一言何かをつぶやくとその手から雷がほとばしった。
「ちょっ、イドルちゃん。防御、防御して!!」
「精霊使いが荒いなあ・・・ちょっとリリスに似てきてない?」
イドルは渋々ながらも防御に手を回した。
発せられた雷はノアの前でかき消されて霧散した。
「これじゃ通らんか。、、なら奥の手使うしかないやんな?」
それを見たエスリシアさんは楽しそうにして、両手を前に向けた。
その言葉から、何か必殺技的なものを放つのだろう。
だが、遅い。
イドルが時間を稼いでくれたことによって、俺は2人の間に割り込むことに成功した。
別にそんなことをしなくても、後ろから切り捨てればよかったとか、そういう無粋なことを言ってはいけない。
とりあえず、警戒だけはされているみたいだったから少しやりにくかったのだ。
「あら?今更立ちふさがっても遅いんやないの?もうここまできたら止められんよ?」
「そうですか?俺は遅いとは思いません。」
「ならそれは勘違いやな。勝手に出てきて、怪我しても知らんからね。『エレメンタル・フルバースト』!!」
エスリシアさんの両手から、エネルギーの塊のようなものが発射される。
速度はそこまでではないが、かなりの威力があるのは一目瞭然だ。
確かに、これが発射されたら普通の戦士クラスにはどうにもできそうにない。
精々盾になって攻撃の威力を軽減することか?それは焼け石人水だ。
多少威力を減衰させたところで、どうにかるものには見えない。
だが、その威力減衰も多少ではなければいい。
俺は一瞬で腰から剣を引き抜いた。
攻撃力の数値ならトップクラス。圧倒的な攻撃力を誇る剣、ティルフィングだ。
黒牙の剣は地面にさして置いておく。
俺はスキル、『白闘気』、『純闘気』を発動させて迫り来る力の奔流に備えた。
それは2秒も待たずに俺のところに到達する。
俺はそれに向かって、新武器の試し切りと言わんばかりに全力で剣を振った。
そして俺の剣と、彼女の『エレメンタル・フルバースト』が触れる直前、『斬鉄』を発動させてその攻撃力を飛躍的に上昇させた。
ティルフィングの武器攻撃力は76、『純闘気』の補正によってそれが50上昇し現在は126だ。
そしてその上から『斬鉄』が乗り約10倍・
1260というアホみたいな攻撃力だ。
これで切り裂けないものなんてない。
俺の剣は見事に相手の攻撃を真っ二つにしていた。
この勝負に俺は勝ったみたいだ。
・・・・まぁ、1つ誤算があったとするならば。
確かに俺の剣は『エレメンタル・フルバースト』を切り裂いた。そして分裂した部分はすぐに消え去ったのだが・・・・・
まさか真っ二つになったうちの半分が消えずに襲いかかってくるとは思いもしなかったな。
「うぎゃあああああ!!」
俺はみっともない悲鳴をあげながらその攻撃を受け、そして次の瞬間にはその場に倒れ伏していた。