186 飴と鞭
俺がライガと戦い、そして勝利した翌日。
何事もなかったかのように俺たちの馬車は進行し、そしててついに王都に到着することに成功した。
今現在、俺たちの目の前には広大な街が広がっている。
近づけば近づくほどその街は大きさをあらわにし、気づけば街を取り囲む外周しか目に移ることはなくなっていた。
王都は平原のど真ん中に位置し、もし何かが攻めてこようものなら外壁の上から一瞬で感知されてしまうだろう。
何か自然に守られているわけではない、それどころか空けっぴろにされているからこそ、防衛能力が高いのかもしれない。
また、目の前にそびえ立つ高い外周を以ってしても隠し通せない中心の大きな建物。
あれが王様が住まう城なのだとか。
「ここが王都だね!!初めはどこに行くの!!?」
王都に到着し、ノアがテンションマックスだ。
辺りをキョロキョロと見渡し、すぐにでも馬車から降りて走り回りたそうにしている。
「えっと、確か私たちはこのまま王城に招待されるのだったかしら?・・・今更だけど、王城に招待ってどうしてかしらね?」
リリスが言うことも最もだ。
普通こう言うのってすぐにではなく、あらかじめ日時を知らされてそこの時間に足を運ぶものだと思っていたんだけど、どうやら違うみたいだ。
なんというか、警戒心がないのか、それとも俺たちが王城にはいってこれ幸いと暴れるようなことは足ないと信じているのか、はたまた城の内部のガードの強さに自信があるのか。
ともあれ不自然なところがないわけではないが、今更逃げるわけにはいかない。
ここまで来てしまったのだ。
「さあ?それだけ国が魔王討伐に重きを置いているとかじゃないか?」
俺は適当に返事をしておく。
考えてもあまり意味はないし、答えはすぐに教えてもらえそうな気がしたからだ。
心構えをして行くことができないのはあれだが、そこまで悪いことは起こらないだろう。
まぁ、ここにこいと言われた際の嫌な予感はまだ無くなっていないいんだけどな。
俺たちを乗せた馬車は進む。
今現在、俺たちの乗っている馬車は国王の所持品ということでそのまま街中を進むことができている。
街の人も俺たちは知らないが、前の馬車に乗っている勇者達は知っているのだろう。
彼らが乗っていることに気づくと小さい子供から年配の方まで手を振っている。
また、勇者達は律儀にそれに応えていた。
「それにしてもあいつ、すごい人気だな。」
出会った時とか、その他諸々一緒にいる時間はそこまで長くないけど、俺としてはそこまで大それた人間には見えなかった。
どっちかで言えば、親しみやすさが人気の秘密なのだろうか?
「そりゃあそうですよ。勇者ライガとその仲間達って言ったら歴代勇者と違って全員が平民の出なんですから。民の期待を一身に受けるのは当然なんです。それに彼、小さい頃は落ちこぼれだったって聞きますよ?」
そこでリアーゼが注釈をくれた。
勇者の人気の秘密。いや、これは秘密ってほどでもないな。
当然のことだ。
自分たちと変わらない人間が、あそこまで登りつめている。
それは確かに普通の人間の希望になり得る存在なのだろう。
決してその道は易しくはないだろう。だが、手が届かないとは思われない。
リアーゼが彼は落ちこぼれだったと言った。それはおそらく本当なんだろう。
そこからライガは、勇者まで努力で登りつめたのだ。
「なんというか、眩しいな。」
俺は前の馬車で観衆に手を振る勇者から目をそらし、自分たちが乗っている馬車の中に目をやった。
「そうですか?私としてはタクミお兄ちゃんも、いや、タクミお兄ちゃんの方がすごい人と思うよ。」
「ありがとうリアーゼ。気持ちだけでも嬉しいよ。」
俺たちの馬車は進む。
周りを見れば多くの人、人、人。
だが、それだけ人がいても俺たちの馬車の道を塞ぐような人は現れない。
俺たちの馬車はそのまま、王城の前まで進み続けた。
「おかえりなさいませ勇者様。馬車はこちらで回収いたしますね。」
「ありがとう。頼みます。」
王城前、俺たちは馬車から降ろされ、そこにいた執事とメイドにそれらは回収された。
まぁ、このまま城の中まで入るわけにはいかないからそれは当然だ。
俺たちはライガの先導の元、王城の中まで入る。
途中、門番が居たが、勇者は顔パスなんだろう。
すんなりと何も言わずに通してくれた。
鈍重な音を響かせながら王城の扉が開き、そしてその内装を俺たちの前に曝け出す。
「うわぁ、ボクこの中初めて見たよ。中はこんなになってたんだね。」
それに真っ先に反応したのはやはりというべきか、ノアだった。
彼女は視線をいろいろな方向に飛ばし、その光景を焼き付けようと必死になっている。
「あら、綺麗ね。エレナちゃんはどう思う?」
「・・・・キラキラしてる。」
リリス、エレナのセットはそれだけだった。リリスはもしかしたら見慣れているのかもしれない。
エレナはさほど興味がなさげだった。
「うぅ、私みたいな小汚いのがこんな場所にいていいの?私だけでも外で待っていた方が・・・・」
リアーゼのその声は小さめだが、おとがひびくせいかよく聞こえる。
「リアーゼちゃんは小汚くない、いや、むしろそれでもなんの問題もないから自信を持ってくれ!!」
律識のフォローでもなんでもない言葉が飛んで言っている。
必死に抑えているようだが、その性癖、隠しきれてないからな?
「もっと見たいだろうけど、こっちについて来てもらえるかな?」
ライガが手招きをする。
方向は入ってまっすぐだ。
俺は何も言わずについてく。
「おや?タクミくんはこう言った場所に慣れている感じがするね?」
その動きを見てか、ライガが少し意外そうな顔をした。
「そうか?気のせいだろう。」
そうは言ったが、的外れな意見でもない。
事実こう言った場所は慣れている。何せ大体のRPGゲームで一度は王城に行く必要があるのだ。
物によっては結構好き勝手探索しても怒られなかったりするので、物珍しい空回りを見る、ということはあんまりする必要はない。
「そうかな?まぁいいや。行きましょうか。」
一度は止まった足だが、再び動き出した。
そしてそのまま、一枚の大きな扉の前まで連れて来られる。
「すみません。俺です。中に入ってもよろしいでしょうか?」
扉の前でライガが大きめの声を張り上げた。
扉を守る兵士に言ったのではない。明らかにその先にいる誰かに聞こえるように言った声だ。
「おお、ライガか!!良いぞ、遠慮せずに入って来なさい。」
「失礼します。」
ライガがそういうと、扉を守っていた2人の兵士がそれぞれが扉を開く。
そして扉の先には、左右にそれぞれ一列に並んだフルプレートの兵士と、ローブ姿の男女、そして中央には赤いカーペットが敷かれており、そのカーペットの先には特別な椅子が鎮座している。
そしてその上に座る1人の男。
金の王冠を被り、左手には少し長めの杖。
赤を基調として様々な装飾が施されている豪華なマント。
それが一目で王だとわかる姿をした男がそこにはいた。
ここが目的地、ここが王が住まう場所。
そう誰が見てもわかる場所がそこにはあった。また、それに伴った威厳も・・・・・
だが、そんな場所に突然押しかけるように出向いてすぐに招き入れられる。
やはりどこか、警戒が甘いと言わざるを得ない。
勇者というだけですぐに王城に入ることができ、そして彼の声を聞いただけで本人の確認もせずにこの場所への入室許可を手に入れることができる。
良くも悪くも、オープンな場所であった。
俺たちはそのまま部屋の中へ踏み入り、ある程度進んだところで止まりそのまま跪くことになった
「して、勇者よ。それが報告にあった者たちで良いのかな?」
「はっ、彼らこそ、俺が倒せない魔王を倒した者たちです。」
「うむ。よくぞ連れて来てくれた。感謝するぞ。」
「もったいなきお言葉。」
うん、俺たちが所定の場所にスタンバイが完了してから俺たちはそっちのけでしばらくは勇者と王様との問答が続いた。
ざっくりと要約すると社交辞令に始まり、俺たちがなんなのかの確認、そして適当な世間話が入ったりもした。
その間、俺たちはじっと俯いたままだ。
変な動きがあれば取り押さえられるだろうし、動こう等は思わないけどまたされ続けて少し退屈になって来たな。
あれだこれ、やたらと話が長い全校集会と同じ感覚だ。
あの、『その話必要ある?』っていうやつだ。
「さて、そこの者たち・・・えっと確か名前はタクミとノア、リリスにリアーゼと言ったな?」
そしてついに、俺たちの方にも話が飛んで来た。
王は俺たちの名前を答えた。
それに加えて、律識とエレナがなかったことを考えると、先ほど言った通り報告書か何かが先に行っていたと考えるのが妥当だろうな。
「はい。何でございましょうか?」
とりあえず、その呼びかけには俺が代表して答えておく。
敬語とかは深く学んだことはないが、別に間違えて笑われるならそれはそれで良いと思ってやることにしよう。
じゃないと、胃が痛みそうだからな。
「うむ、聞けば此度の戦い。貴殿がかなりの貢献をしてくれたみたいではないか。それをたたえ、栄誉を与えたいと思う。何か、望みのものはあるか?」
ふむ・・・・こういう場合ってどういうものを要求するのが正解なんだったっけ?
まぁいいや。フィーリングで答えることにしよう。
「陛下の御心のままに。」
適当に項垂れてそれらしいことを言っておいた。
変に指定して何かを握られても嫌だし、相手に委ねる形だ。
「ふむ、、我が家臣達と同じような答えであるな。遠慮はせずとも良いのだが、」
この答えは正解だったのか、それとも不正解だったのか。
それはよくわからない。
ただ、心象を大きく損ねるようなことにはなっていないはずだ。
「では、これは報告からで悪いのだがお主らは剣士、召喚士、槍士、サポーターであっておるな?」
あ、使用武器までは判明してるのね。この情報は多分ベイルブレアで集めて来たんだろうな。
リアーゼの情報がそこで止まってしまっている。
「大変失礼ですが、リアーゼは最近弓術士になったので少し適切ではないかもしれません。」
「そうか。ではそのように・・・・お主らへの褒美の件だが、我が宝物庫からそれぞれに見合った装備を贈ろうではないか。」
おお、城に保管されているアイテムともなればそれだけ性能には期待できる。
聞いた話によれば勇者が持っている『聖剣エッケザックス』もその宝物庫から出て来たらしいし、期待していいんだろうな。
「感謝いたします。」
「うむ。では、下がるが良い。」
よし、これで何事もなく退出できるな。王の許しを得た俺はタイミングを計ってその場から離れようと思った。
だが、それに待ったをかけるかのように声がかかる。
「王よ。少しよろしいか?」
「ん?勇者よ。何かあるのか?」
「それなのですが、以前このもの達を探しにルイエの街まで行ったところ、帝国の者から王へと封書を預かりました。」
あー、そんなこともあったな。
そういえばダルクのやつには挨拶も何もせずに出発してしまったけど、よかったのだろうか?
ライガはアイナに預けていた封書を近くにいた兵士に渡した。
その兵士は王のところまでそれを運ぶ。
そして王がそれを受け取り、中身を確認した。
「・・・・・・・」
少しの間沈黙が続く。先ほど退出を命じられたが、どうにも外に出ることができる雰囲気ではない。
「・・・成る程。決まったか。」
そういえばあの手紙、なんかの日時が記載されているとかダルクが言っていた気がする。
あの反応と宛先を見るに、結構大事な内容なんだろうな。
・・・そんなものの運搬を途中で忘れて投げ出すなよダルク・・・・
「勇者達、そしてそちらのパーティの面々に頼みがある。聞いてくれるな?」
「はい!!」
「・・・はい。」
勇者は力強く、俺は少し遠慮しがちに返事をする。
というか、頼みの内容を聞く前に返事をしなきゃいけないって酷い話だとは思わないか?
「いい返事だ。では命ずる。お主達には今から三ヶ月後にある帝国との戦争に参加してもらう!!」
王はその勢いのまま、とんでもないことを口にした。
は?戦争?
「その命、ありがたく頂戴いたします!!」
「そ、その命、ありがたく頂戴いたします。」
勇者につられ、俺も同じように声を上げる。その時、俺の思考は乱れており、周りに流されまくりであった。
くそっ、こんな時昨日発揮した完璧な流れからのぶち壊し能力が発揮されればいいのに。
「ありがとう。では、下がって良いぞ!!」
「はっ!!」
思考がまとまらない中、俺はつられるままに謁見の間を後にした。
国王様の名前は近いうちに公表します。
一応、決まってはいるので安心してください。
スキル紹介その3 『同調圧力』
国王が持つスキルの1つ。
効果は周りの意見や行動に流されやすくすること。
民主主義万歳の能力である。