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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第5章 新たな仲間と小さな正義
185/293

185 実力と虚栄

完璧なタイミングだ。

まさかこの状況で自分の申し出を断られるはずはないだろう。


俺、勇者ライガは目の前の男を見ながらそう確信していた。

模擬戦終わり、周りの人間は全員乗り気、そして他の人も集まってきている。

大半の人間はここで断りきれずに「はい」と言うしかない。


「どうだい?俺の申し出を受けてくれるかい?」

俺はもう一度、ダメ押しと言わんばかりにそう口にした。


タクミは辺りを見渡した。

そこには彼に対する期待の視線。そんな視線を向けられたら男として答えなければいけないだろう。

さあ、はやく「はい」と言うのだ!!


その思いが通じたのか、タクミは少し考えた後潔く答えた。


「遠慮しときます。」


・・・・え?

少しの間、頭の整理のために何もできなかった。

まさか断られるなんて思ってもいなかったからだ。


何せ自分は勇者、少し分不相応なところがあるとは思っているが、それでも王国民からは結構慕われている自信もある。


憧憬の念を抱いている、と言うことを聞かされたのも1度や2度ではない。

この状況で、そんな自分の頼みをむげにされるなんて思ってもいなかったのだ。


「り、理由を聞いても。」


「実はさっきの律識との試合、結構ギリギリだったので、、、それに、自分なんかが勇者様の相手が務まるとも思えませんので。」

お世辞や嘘が混じり合ったセリフだ。

こいつは俺の相手が務まらない、とは絶対に思っていない。


それは態度を見ればすぐにわかる。


それに、さっきの模擬戦は全然本気ではなかった。

確かに多彩な攻撃をさばくのに精一杯なようには見えた。

幾つも危ない部分は散見された。


だがそれは彼自身がお遊び感覚で戦っていたからだとわかっている。

他のものの目は誤魔化せても、俺の目は誤魔化せんぞ!!


俺はなんとしてでも戦わせようと決意する。


「で、でたぁ!!アレは匠の得意技。空気を察しているけど読まない攻撃だぁ!!かつて匠は自分に好意を抱いている女子が告白してきた時、素気無く断りその次の日に自分の意中の相手に告白と言う大胆な好意を見せつけその挙げ句の果てに振られて不幸を量産したと言う後ろ暗い過去を持つ大技だあああ!!」

リツキという男がノリノリで解説を入れている。

聞いた話によると彼はタクミと古い仲らしい。


今言ったのはその長い付き合いの中で起こった出来事の1つなのだろう。



それが事実とするなら悲しいことこの上ないが・・・・


「おい、律識?何勝手に人が思い出したくもないことをばらしてくれてんの?」

あ、殴られた。


「ぷぷ、タクミ!!ボク知ってるよ!!それって因果応報って言うんだよね!!?」

ノアさんがタクミを煽る煽る。

タクミはまたも殴りかかろうとして、止めた。

女性には手を出さないと言う、紳士的な心は持っているみたいだ。


「えっと、どうしてもだめかな?」

とりあえず少し場が収まった気がするので、俺は諦め悪く再度挑戦をした。


「あ、あぁ。できればやりたくない。」

彼は先ほどと比べ大きく消耗していた。断る言葉にも力が全くない。


「あら?やってあげたらいいじゃない。いつもみたいに容赦なく叩きのめしてあげれば?」

リリスさんは俺の味方みたいだ。

いや、むしろこの場において俺の味方でない人の方が少ないのだが。



「・・・戦え。我が兄よ。」

エレナちゃんと言う少女も後押ししてくれる。

あれ?今兄って言われてたか?

確かリアーゼちゃんという獣人の女の子も彼のことを兄と言っていた気がするのだが、彼は一体何の種族なんだろう?


普通に考えるなら獣人と人間のハーフって感じか。

それならば戦いの際は少し気をつけたほうがいいかもしれないな。


言うまでもないことだが、純粋な人間より獣人の方が身体能力が高い。

ハーフなら少し高い程度だが、その差が戦闘においては結構な差になってくる。

その分魔力が低いはずなのだが、彼は戦士なので関係ないだろう。


「ほらタクミ!!ここで勝負を受けてあげないとさっき聞いたことずっといじり続けた挙句の果てにみんなに言いふらすからね!!」

この一言が止めとなった。

タクミは最後には妥協し、俺との模擬戦を受けてくれることになった。


「わかったわかったよ!!」







戦いはすぐに行われる。

コールと審判はさっきと同じ人たちだ。

違うところといえば観客が多いか少ないかだろう。


俺とタクミは少しだけ距離をとった。


その距離は目算大体7メートル程度。

先ほどより近いのはお互い近接戦闘を望んでいるからだ。


俺は剣を正眼に構える。

これはいつも使っている聖剣ではなく、先ほど借り受けた木の剣だ。

安全面を考えるとこっちのほうがいいだろう。


俺は真っ直ぐと相手を見据える。


相手は魔王討伐の最大の功労者。警戒しな訳にはいかない。

そしてその実力を存分に発揮してもらい、これから始まる戦いのためにどのくらい戦えるかは見ておく必要がある。


魔王エイジスの時、一応少しは見せてもらったがあの時は武器が使えない状態。

完全とはいえない。


「先に言っておくけど、やるからには全力で勝ちに行く。律識の時みたいに様子見とか一切なしで行くからな?」

何を当たり前のことを、模擬戦というのは全力でやらなければ意味がないだろう?


「当たり前だよ。俺も全力で勝ちに行くんですから、遠慮はしないでください。」

俺の言葉を聞いて、タクミは剣を高めに構えた。

最初の一撃は威力重視の振り下ろし。そう言っているようだった。


その構えはどこか素人臭さが見え隠れし、それが逆に俺の不安を煽った。


剣を持つ手に力が入る。






「じゃあ準備はいいよね?・・・始めちゃって!!」

ノアさんが開始の宣言をするーーーーと、同時にタクミは俺の目の前に現れていた。

瞬間移動、などではない。

確実に俺の目はその動きを取られることには成功していた。


圧倒的な速度で、一瞬で距離を詰めただけだ。

だが、見えているのと対応できるのはイコールではない。


俺は突然の出来事にあっけにとられた。

だが、自分は仮にも勇者。この王国最強とまで謳われた男だ。


「このくらい、対応できなくてどうする!!」

宣言通りのタクミの振り下ろしに間に合うように、俺は剣を割り込ませた。


とっさの行動だったため、完全ではないがこれで事足りるはずだ。

その確証が俺にはあった。


何せかつて倒した魔王に、彼くらい早い奴がいたからだ。

その魔王はただただ素早かった。だが、それ以外の力は大したことはなく、低い攻撃力のせいでこうしたギリギリの防御でもなんとか身を守ることができた。


ーーーガン!!


激しい衝撃が剣から伝わってくる。

・・・・・激しい衝撃?

気づけば俺の手は痺れていた。そして気づけば俺達のの木の剣は真っ二つに切れていた。

否、俺の剣は確かに切れていたが、タクミの方の剣はどっちかというと力に耐え切れずに折れたという感じだった。



どういうことだ!!?

彼はかつての素早さ自慢の魔王並みに速く、そしてそれ以上に力が強いというのか!!?


その混乱に思考を奪われてしまった俺は、それが大きなミスだったと思い知らされる。

剣が折れたタクミは速攻でその件を放棄して手放していた。


彼には剣に全く執着はないのだろう。

迷いなく捨てた後、拳を握りしめてる。


あ、間に合わない。


「必殺の右ストレートだおらぁ!!」

そう言って彼は俺の手を掴み、投げた。


右ストレートとはなんだったのか?

おそらくブラフの類、俺が攻撃を腕で受け止めようとしたらそのまま掴んで今と同じ結果だったのだろうな。


逆さまになった視点で俺はそう考えた。

そして次の瞬間、俺の負けが審判によって言い渡された。







ふぅ、ちょっと焦ったな。


俺は体に走る痛みを我慢しながら寝転がっているライガを見る。

煽り、捲し立てられて半ば無理やり取り付けられた模擬戦だったが、なんとか勝利することができたみたいだ。


彼との勝負、決着は一瞬だったし勝利は俺が掴んだんだが、圧勝か?と問われると少し違う気がする。



俺がやったことは『白闘気』と『限界到達』を使って近づき、そして剣を振り下ろしただけだ。

ただ、正直これを防がれるなんて思っていなかった。


いや、防がれると考えなかったわけじゃないが、多分、きっとあれで勝負がつくと思っていた。


とっさにライガは剣を掲げて受けた。

そこにくるのがわかっていたのだろう。それを見て俺は『斬鉄』を発動。

その結果重すぎる負荷にお互いの剣が耐え切れずに断裂。


直後剣を捨てて右ストレートを選択、流石にこれは防げんだろうと思い技名まで叫んだところでーーーープラン変更。


『限界到達』+『白闘気』は想像以上に体に負荷がかかる。

このまま殴ってしまってはライガに怪我をさせるのもあるが、反動でこっちの腕がどうにかなる可能性を考え変更したのだ。


投げ技ならその心配はほとんどなかったからな。




で、それをは流石に防げなかったようで勇者は地面に激突。

リリスが判決を言い渡したのだが、あれ以上戦闘が続いていたら億劫だった。


短時間の使用ではあったが、ソコソコのダメージが俺の体に入っていたからだ。

今はリアーゼの鎮痛剤を使っていない。だから前使った時みたいにブチブチという音と不快感があるだけではなく、痛みまで襲ってくるのだ。


できれば長時間の使用は避けるべきだ。


それでなくても長時間使えないのに・・・


ともあれ、そこまで余裕があったわけではなく、今もスポーツドリンクの要領で回復薬を飲んでいる。


「いや、想像はしてたけど、まさかこれほどとはね。」

起き上がったライガが声をかけてくる。

勝負には負けた彼だが、ダメージ自体は俺より少ないらしくすぐに起き上がった。


「そうでもないよ。ギリギリ勝ちはしたけど対策取られたら大概の相手には負けそうだしね。」


「対策したところで勝てるとは思えませんけどね。」

ライガはそう言って満足そうにどこかに行ってしまった。

彼は素の状態で俺があれくらい動けるとでも思っているんだろうか?


それだったらあの感想を抱いてもおかしくはないけど、それは残念ながら間違った考えだ。


俺があの速度で動けるには時間制限がある。

そのため持久戦を持ちかけられたら『限界到達』を開場する必要があるんだが、そうなったら持久戦をする必要がなくなる。


要するに、『白闘気』だけの俺に勝てるなら『限界到達』を使った俺にも勝てるようにできているのだ。


「まぁ、言っても俺に得はないからわざわざ修正するつもりはないけどな。」

それにしてもあいつ、なんであんなに俺と戦いたがっていたんだろうな?

もしやあれが戦闘狂バトルジャンキーとかいうやつだろうか?


俺たちが遊んでいたため少し遅れてしまったが食事の準備を再下賜しながら俺はそんなことを思った。


ざっくりと展開を考えた時には


律識と軽く戦闘→ライガを瞬殺→王都到着みたいな感じだったから1話に収まると思っていたんですが、意外とうまくいかないものですね。


感想、お待ちしております。

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