183 固有スキルとスキル構成
前回に引き続き説明回・・・まぁ、そもそもここまでの内容を前回で終わらせるつもりだったから引き続きも何もないんですけどね。
律識が『精密解析』のスキルを発動させてノアを解析する。
するとしばしの間青色の解析エフェクトのようなものが辺りを漂った後、律識の前に1つのウィンドウが開かれた。
どうやら解析結果が出たみたいだ。
「どう!!?どうだったの!!?」
ノアはそれを見ようと律識の後ろに回ろうとする。
だが、キツキツの馬車の中ではそれもままならない。
「慌てないで、結果は口で言うから・・・」
律識はそんなノアを少し呆れたような目で見てそう告げた。
そして今一度表示されたウィンドウをまじまじと確認している。
ちなみに、俺の位置からそのウィンドウは見えない。
だから結果を知るには発表を待つ必要がある。
「で?どうだった!!?何かボクにすごい力とか備わってなかった!!?」
移動はできないながらも前のめりになりながらノアは目を輝かせる。
その剣幕に押されるように律識はノアの解析結果を発表した。
「えっと、とりあえず大体のステータス部分は自分で見れるって話だから、知りたいのは固有スキルの欄だよね?・・・とりあえずノアちゃんの固有スキルは3つ確認できたよ。」
ほう、ノアのくせに3つも持っているなんて。
あ、でも全部が全部プラスに働くってわけじゃないんだよな。
「それでそれで?どんなスキルなの!!?」
「えっと、まずは1つ目、『活力の泉』って言うスキルだね。効果は文字通り生命力が増えるよ。」
1つ目のスキルは体力増強スキルのような何からしい。
効能としてはさっき言われた通り、体力が増えるのだと。
ただしこの体力増加は数値的なものではなく、あくまで活動的になるとかそんなものだった。
俺が彼女と出会ってからの謎だったノアの行動力はどうやらここから来ていたみたいだ。
測らずしてその謎を解き明かすことに成功したみたいだな。
「ほうほう、それで次は!!?」
「次のスキルはーーーーあれ?さっきと似たようなスキルだね。その名も『溢れ出る活力』効果はすごく健康になって体力が増えるみたいだよ。」
・・・・なんというか、今のを聞いて固有スキルって数があればいいというわけではないということを理解したような気がする。
3つスキルがあってもダブりがあったんじゃあ意味がない。
あ、いや。
効果が重複するならこれはこれでいいのか。
「うー、なんだよそれー。」
「まあまあ、元気なことはいいことだし、あって困るようなものでもないだろ?」
ノアがふてくされそうになっていたので、すかさずフォローを入れる。
リリスの情報によれば固有スキルはみんな基本的に1つしか持っていないらしいから、同じようなものでも2つあるならそれはそれでいいことだろう。
「それもそうだね。じゃあ、最後は?」
気を取り直して最後のスキル、流石にここでも同じものが来る・・・というのはありえなくはないが流石にないだろう。
ノアもそのことに希望を寄せて発表を促す。
「えっと。。。」
律識は解析で出たことを発表しようとしているのだろう。だが、どうしてか歯切れが悪い。
そして俺も察しの悪い人間ではない。
こうも露骨な態度を取られてしまっては、そこに書かれていたのがいい難い、悪いスキルだったのだと予想がついた。
「えっと、なんだよ律識。とりあえず何も考えずにそこに書いてあることを読めばいいだろ?」
だが、それをいうか言わないかと言われれば絶対に言っておいたほうがいい。
なにせ、ノアとはこれからも一緒に行動するのだ。
何か抱えている、それを知っていると知らないとでは明らかに対応が変わって来る。
「そうだよ!!とにかく早くいいなよ!!」
催促はノア本人からも来た。流石にこうあっては言わないわけにはいかない。
律識もまだ少し言いづらそうにしていたが、意を決して発表する。
「えっと、ノアちゃんの最後の固有スキルは『災禍の渦中』。魔物がいっぱい集まって来るそうです・・・・・」
・・・・へぇ〜、、、、、そうなんだ。
俺はちらりと隣に座るノアを見る。
彼女は少しだけ、気まずそうにしていた。
「・・・てへ?」
「やっぱりお前が原因だったんじゃねえかよ!!」
俺がこの世界にきてから、えらく魔物の群れと戦うようになった理由がここにあった。
ある程度予測できていたこととはいえ、データとして見せられるとなぁ・・・ちょっと糾弾しないわけにはいかないよなぁ?
俺はじっとノアの方を見た。
「うわあああああん!!ボクだって悪気があったわけじゃないんだよー!!」
彼女はその目から逃れるように、大きな声で抗議を始めた。
◇
そんなことがあったが実際に俺はノアを責めているわけではない。
いや、むしろ今までのことを感謝するべきだと思う。
ノアと一緒にいれば大量の魔物が集まって来る。
それはこの世界で手っ取り早く強くなりたい俺にとっては願っても無いことだ。
ノアが最初の仲間になってくれたからこそ、俺はたった数日で2次クラスまで上り詰めることができたし、それ以降も淡々とレベルを上げることができたのだろう。
ちなみに、図書館で得た情報によると2次クラスからは本当にレベルがほとんど上がらないらしい。
参考資料として、歴代勇者が大体2次クラスのレベルが40程度で止まってしまっているというものもあった。
勇者といえば最強の称号らしいので、人類はいつの時代もそのくらいしかレベルがあげられないらしい。
そう考えると、弱体は受けながらもまだレベルを49とか持っているリリスはかなりの強者と言えるな。
「というわけで、ノアが魔物を集めているとか言っているけど俺はむしろ感謝しているくらいだから、あんまりみんなも非難しないでやってくれ。」
「わかってるわよ。そもそも、誰も気にしてないと思うしね。」
「そうだね。むしろ俺なんかそれのおかげでこうやってある程度強くなってるんだから、そこについては感謝してるよ。」
「お、お姉ちゃんは何も悪いくないよ?」
「自分は別に、基本的に戦闘には参加いたしませんので。」
「・・・・それの何が問題?」
自分のスキルが明かされて少し悲観的になっていたノア、そんな彼女を励ますべく、様々な声がかけられる。
それを聞いて思ったんだが、本当にみんな気にしていないっぽいな。
本当に、いい仲間を持ったものだ。
「・・・本当だね?今度またいっぱい集まってきてもボクのせいにしない?」
「本当だって、まぁ、ちょっとからかいすぎたのは悪かったよ。」
「む〜、本当に悪かったって思ってる?」
「思ってるさ。よし、今度お詫びに何か買ってやろう。」
「うん!!約束だよ!!」
現金なやつだ。
何か欲しいものがあるなら自分で買えばいいのに、ものでつられやがった。
ノアも様々な依頼の報酬を受け取っているはずなので、お金を持っていないはずはない。
いや、むしろ俺なんかよりは圧倒的に蓄えているだろう。
だが、それでも俺に何か買わせるつもりらしい。
「それで律識、俺の解析の方はどうなった?」
ノアを慰める間、俺は解析をしてもらっていた。
なにぶん、解析には少しだけだが時間がかかる。
時間にしてたった数分だが、それでも開始は早めの方がよかった。
「あ、もう終わってるよ。って言っても匠の方はさっきそっちのリリスさんが言ってたスキルを書き換えるスキルだけだったよ。」
むぅ、俺には隠された力はないということか。
いや、そもそも十分すぎる力を持ったスキルだからこれ以上望んでも仕方ないんだけどさ。
「ちなみに名前は?」
「『神の小指』だね。」
『神の小指』・・・なんというか少し仰々しい名前がついているような気もするが、スキル数値という通常では不可侵の領域に踏み入るのだからそのくらいの名前でもおかしくはないのかな?
とりあえず俺の解析結果はそのくらいだ。
そしてその少し後、律識はついに自分の解析を行った。
そもそもこれは彼のスキル構成を決めるためにとったスキルだ。
そこに俺たちが割り込んだわけで・・・
彼はスキルを発動させてから少しの間待機、そして出現したウィンドウをまじまじと眺める。
「・・・どうだった?」
俺は曲がりなりにもチートじみたスキルを手に入れている。
律識はどうだったのだろうか?
俺は少し気になっていた。
いや、もしかしたら異世界特典的なやつでこいつにもかなりすごいスキルが備わっているかもしれないじゃないか。
律識は俺の質問に、口ではなく行動で答えた。
彼は右手を俺に見えるように突き出してくる。
「うん、大体こんな感じだね。」
次の瞬間、そう言った彼の手の中には何か、鎖のようなものが握られていた。
それは手の中には収まらず、下に垂れ去っており馬車の揺れに合わせて揺れている。
「これが?」
「うん、俺の固有スキルってことになるね。スキル名は単純に『鎖 LV1』レベルついているってことは多分成長型の何かじゃないかと思うよ。」
律識の能力は鎖を出すことができるだけらしい。スキル説明によれば呼び出すことのできる鎖はスキルレベルによって変わるんだとか。
少しパッとしない能力だが、何もない場所からすぐに使えそうなものが出てくるのは評価点じゃないだろうか?
スキルのレベルが1でしかない今ではそれくらいしか言えない。
だが、これまた俺の直感ではあるが、育てれば強い系のスキルと見た。
「じゃあ俺はこれを踏まえてちょっとスキル構成を考えてみるよ。」
律識はそう言ってスキル画面を確認し始めた。
それをみる彼の集中力はすごい。
俺の希望としてはシュラウドを解析してもらいたかった感じはあるが、そこを急いでも仕方がないだろう。
時間はたっぷりあるのだ。焦る必要はない。
俺は話がひと段落ついてやることがなくなり、そこから当分は窓の外を見て過ごすことにした。
景色が移動していくのをゆっくりと見て、たまに対面からくる馬車とすれ違って挨拶をして、、、そんなのどかな時間が続いた。
そして時間が少し経ち、気づけば空が赤くなっていた。
2台の馬車のうち先頭の馬車ーーー勇者パーティが乗っている馬車が止まる。
それにつられて後方の俺たちの馬車も動きを止めた。
どうやら今日はここで野営らしい。
俺は野営の準備を進めるべく、馬車の荷台から野営セットを取り出した。
次回予告
戦闘そこそこ、王都そこそこでお送りする予定です。