181 妥協と認識
嫌な予感がする。というだけで一方的に話を切り捨てるわけにはいかない。
俺は渋々と行った形で詳細情報を聞くことにした。
と言っても、追加情報はない。魔王を倒した俺に王都に来て欲しい。勇者たちが言ったのはこのことだけだった。
「ほら、みんなもこう言ってるし明日くらいにでも王都に出ようよ匠。行きたくない理由とかはないならいいじゃないか。はい、じゃあこれで」
律識はダイヤのKを手札から場へと放り投げた。
それを見た俺とダルクは少し苦い顔をする。さて、どうしようか。
「それもそうなんだけどな・・・・あ、俺はパスで。」
ここは勝負に出るべきではない。そう判断した俺は手札を伏せて次の手番を渡す。
「う〜ん、じゃあ俺もここはパスだな。」
ダルクも一旦は引くみたいだ。
「あ、じゃあボクの番だね!!?ならこれで!!」
ノアはハートの2を場に出した。
「うん。それはパスだ。で?結局匠は王都行きに反対なの?」
律識がパスしたことによって場に出されていたカードは一旦流される。そして今度はノアからスタートだ。
「何でそんなに行きたがらないのか、ボクにはさっぱりだよ。行きたくないわけじゃないなら行けばいいのに。」
彼女はスペードの3を場に出した。
・・・分かっていると思うが、俺たちは今4人で大富豪をしながら会話をしている。
一対一では絶対に律識には勝てないと踏んだダルクから誘われたのだ。
それに俺は乗った。
彼もそうだが、俺も普段からこいつにはカードゲームで負けまくっていた。一度でいいから勝利を収めるために、共同戦線を張ることにしたのだ。
そしてそれに便乗したのがノアということになる。
彼女は俺たちの陰謀とは全く関係なしに、ただ純粋にゲームを楽しんでいるのだ。
まぁ、そういうこともあり俺は主題の方を話半分で答えていた。
「だよねー。匠は何をそんなに警戒しているのか・・・・あ、パス。」
律識はまさかのここでパスを選択。
くそっ、何を考えてやがる。場に出ているのは最弱である3の数字、そして律識の手札の数はあと8枚。
さっきKを惜しみなく投下したところを見ると、それ以上の数は確実に持っているはずだ。
最低でも一枚、普通に考えてあのうちの二枚は強カードと見るべきだろう。
もしかするとジョーカーも入っているかもしれない。
「いや〜、なんだかわからないけどすごい面倒ごとに巻き込まれそうな気がするんだよ。これはただの俺の直感に過ぎないんだけど、な。」
とりあえずは様子見、俺も弱い札は早く使ったほうがいい。5のカードを消化することにした。
残っているカードの中で強いカードKより強いカードは2が3枚、1が2枚残ってたかな?
いや、2を2枚俺が抱え込んでいるから2は後1枚か。
「でも明確な根拠はねえんだよな?危なくなったときのためにすぐに逃げられる準備だけでもして行けばいいんじゃねえの?」
ダルクが出したのは6、順当に数字がでかくなって行く。
「そうだよ匠!!行ってみれば何かが変わるかもしれないし、行くだけ行こうよ!!」
ノアは8を出した。
この大富豪、特殊ルールはほとんど入っていないが、何故か8切りだけは入っている。
まぁ、どこの地方でも8切りは外せないルールなのだ。
「それに、みんな行きたいって言ってるし行かない方がおかしいよ!!」
ノアが出したのは再び3だ。
ふむ、彼女は割と無難なところをついてくる。
普段の考えなしの行動とは違い、割と慎重な動きだ。周りを見てみれば手札が一番少なく、もう既に4枚まで減っていた。
「そうだよ匠、俺もずっとこの街じゃ退屈しちゃうしさ。」
律識は迷いなく2を放り投げた。
ふむ、これで一旦盤面はリセットか。
律識は場のカードを一旦端っこに寄せて手持ちのカードを掴みそして続けるように言った。
「それに、反対しているのは匠だけだから力尽くで連れて行けばいいだろう?そう考えたら、ここは従って自分の足でってほうがいいんじゃないかな?」
律識は4枚のカードを場に出した。
スペードの10、ハートの10、クラブの10、そしてジョーカーだ。
「あ、革命で。」
「あ、うん。」
この言葉を言質として取られ、俺は結局王都に向かうことになった。
また、この勝負には惨敗したことはもはやいうまでもないだろう。
◇
そういうわけで俺たちは王都に向かう。
そして俺たちの出発はまさかのその次の日ということになった。
理由は勇者一行が早いほうがいいとか言い出したからだ。
そういうところが少し怪しさを醸し出したりもするんだが、王都行きは決定しているのでそこは言っても仕方ない。
あと、王都へは勇者が案内してくれるらしい。
それに関しては非常にありがたい。
何せ周辺地理を調べたことがあり大体の場所走っていても、道中にどんな障害があるということとかは知らないからだ。
「改めて、自己紹介をさせてもらうよ。俺はライガ、巷では『勇者』なんて呼ばれているけどそんなに大した人物じゃないから気軽に接してください。」
出発前にお互いに知っておくべきことを確認するべく自己紹介が始まった。
勇者は軽くお辞儀をする。
あとでヴィクレアから聞いた話なのだが、勇者ライガは名誉貴族として認められているが生まれは平民なので腰は低いらしい。
「あと、こっちにいるのは俺の仲間たちです。左から狂戦士のダミアン、精霊魔術師のリオーラ、司祭のアイナです。」
ライガの紹介でそれぞれが頭を下げる。
彼らはパーティを結成した頃からの付き合いらしい。
「ご丁寧にありがとうございます。じゃあこっちも、、、、俺の名前は天川 匠、みんなからは匠と呼ばれているのでどうかそのように。あと、こちらにいるのが・・・」
「ノア、ボクはノアだよ!!召喚士だよ!!」
「私はリリス、みんなのお母さんよ。で、この子はエレナ、私の娘の1人。」
「えっと、私はリアーゼと申します。よろしくお願いします。」
「シュラウドです。武器が壊れたら言ってください。」
相手に倣って俺が軽く紹介しようと思ったのだが、彼女たちは自分で名乗りたいらしかった。
まぁ、第一印象って大切だし自分がどう見られるかを操作するためにも、自己紹介は自分でやったほうがいいのは事実だからいいとしよう。
「うん。みんなよろしくね。」
ライガは優しげな笑みを浮かべる。
そしてそこでヴィクレアの方から声がかかった。
「ところでタクミ殿、その2人は?前会った時にはいなかったのだが、新しい仲間か?」
ヴィクレが指しているのはエレナと律識のことだろう。
ヴィクレアと最後に出会ったのは魔王討伐前、それならば知らなくても無理はない。
あ、こういう質問が来ることは一応予想ができていたので答え方はもう決まっている。
「エレナはさっきリリスが言った通り彼女の娘です。律識は俺の友人ですね。」
律識との関係に関しては隠す必要はない。別世界の人間ということも言わなければバレないだろう。ただ、問題はエレナをどう説明するという話にはなりそうだった。
流石に、魔王ベルフェゴールの忘れ形見・・・とかいうわけにもいかないからな。
でも考えてみれば、リリスが自分の子と言っているし、リリスが死ななきゃ死なないらしいし、彼女の子供と言っても差し支えないんじゃないかと思う。
包み隠さずいうことが問題なのであって、それなら適当な情報を流してもいいだろう。
まぁ、これを聞いたらオリビアあたりがエレナを攻撃しそうだが、残念ながら彼女はここにはいない。
「あ、律識です。匠とは仲良くやらせてもらっています。」
「そうなのか。分かった、紹介ありがとう。」
説明を受けたオリビアは納得してそれ以上は何も言わなかった。
別に彼らが何者なのかなどどうでもいいのだろう。あるいはさっきのは世間話程度のものだったのかもしれない。
今回の王都行きと言い、変に警戒しているのは俺だけなのかもしれないな。
こうして俺たちの自己紹介は終わった。
ちなみにアリオスいう冒険者だが、彼はこの街で少しゆっくりしていくという理由でここでお別れだ。
もともと、そういう条件で案内を頼んだらしい。
「さて、じゃあみんなも準備できたみたいだしそろそろ出発しようか。」
「「「「おおっ!!!」」」」
俺たち一行は王都へ向けて馬車を走らせた。
スキル紹介その1『魔力切り』
魔力という物質に干渉できるようになるパッシブスキル。
戦士階級、またはノービス階級の者が習得可能。
このスキルがあるとアンデッド型の魔物等の魔力で動く魔物に対してダメージボーナスを得ると同時に、魔法に対して攻撃を行うことができるようになる。
が、しかし同レベル帯で比較した場合いくつか手順が必要な魔法の方が威力が高いことが多いので、このスキルを習得しても基本的に魔法を切り裂くことはできない。
つまり魔法を正面切って斬り伏せるにはそれ相応の攻撃力が必要なのである。