178 魔王の集会と世情
全く別視点のお話です。
その部屋を一言で表すならなんだろうか?一目見れば周りには値がつけられないような調度品の数々。それならば豪華と表すべきか?
いや、違う。
この場所で見るべきは決して部屋などという物質ではない。
その部屋にいる人物をより注視するべきだ。
今現在、その部屋には3人の何かがいた。
いずれも人型を取っているが、一人として人間はいなかった。
そして彼らは何かを待つようにそれぞれが椅子に腰掛けてテーブルを囲んでいる。
「待たせてしまってすまないな。」
そこにもう1人、2つある部屋の扉の1つを開いて入ってきた。
筋骨隆々でコートを羽織っている。
また、そのコートの前面は開かれており、そこから覗かせる胸元は一目で人間ではないとわかる獣のものだった。
いや、そもそも胸板を見る必要すらない。
今部屋に入ってきた人物は、頭部も獣のものだからだ。
そいつは獅子の顔をしていた。
「全くだぜ。呼びつけた本人が一番遅いってのはちょっとなしじゃねえの?」
机の上に足を乗せた姿で1人が声をかける。
赤黒の上着を羽織り、薄鼠色のズボン。
特徴的な被り物をしているそいつの体に肉はない。
骨の体だけで動いていた。
「だから悪かったと言っているだろう?それより、早速話を始めたいのだが・・・・」
高圧的な態度に、この館の主人は気にかけた様子はなかった。
それが気に入らなかったのか「チッ、」と舌打ちが聞こえてくる。
だが、それをどうこういっても建設的でないことは理解しているのだろう。
それ以上何かをいう様子はなかった。
「そのことなんだけど、話ってなに?何かつまんないことだったら私、暴れるから。」
この場所にいる者は皆、なぜこの場所に自分たちが集められているかということは知らない。
ただ、自分と同格の者が重要な話があるというので集まっただけだ。
ぶっちゃけいうと、暇だったというのもあっただろうが、だからと言ってくだらない事に割く時間はない。
右腕を中心に黒が広がる女性が苛立ちを隠す様子はない。
彼女はもう既に少しの間待たされて時間を無駄にしたと思っているのだ。
「うむ、早く話を進めるのには大いに賛成だ。という事で早速だが・・・・・ベルフェゴールが死んだ。」
ここに他の3人を収集した理由を、館の主人は軽く告げた。
「・・・・・本当なの?」
「本当だ。正直、少し見くびっていた節は否めないだろうな。」
「おいおいおい、あいつだけいなかったからまさかとか思ったけど、まじかよ。その話、詳しく聞かせてもらえるんだろうな?」
驚いたような口調で骨が聞く。
ここに集められている3人、いや、館の主人を入れて4人、は魔王だ。
それも、一般的に人間達を襲い回っているような小悪党のような奴らとは違い、本当の意味での魔王だ。
それが人間の手で打ち倒された。
そういった内容を聞かされて、他の者達は無視できなくなった。
なにせ人間達では自分を打倒するなど不可能。そう考えてきたからだ。
だが、自分たちの知らない間にそこまで人類が進化していたとあっては無視できない。
「うむ、短刀直入に言おう。やったのはリリスだ。」
館の主人は無駄な問答は好かない。
だからこそ、要点はできるだけはじめに固めて話している。
「リリス・・・・って?誰?言っておきますけど、私、人間の名前とかいちいち覚えてないから」
「いや待て、リリスってまさか『子狂いリリス』か?あの、独身生活が長すぎて能力で生み出したスライムを自分の子供だとか言って溺愛している・・・・」
1人は知らなかったようだが、もう片方は知っていた。
『子狂いリリス』、魔族の中では親バカ妄想者とか言う名前でも有名だったりする。
「そう、そのリリスだ。」
「はあ?またなんであいつが人間側について意気揚々と魔王討伐なんてやってんだよ。おかしいだろうがよ。」
「確かにおかしいが、別に不可解ではない。最近リリーは人間の中に気に入った子供を見つけて一緒に行動しているのだ。」
「それこそなんでだよ。」
「それは我にはわからない。とにかく、リリーが人間と共闘して魔王を倒したと言う事が大切な事だ。」
主題を履き違えてはいけない。
論点がそれてしまわないように獅子面は修正した。
「で?それを聞いて私たちにどうしろと?正直、あの引きこもりの無職野郎が殺されたからってそこまで危機感を抱くほどかね。」
「それなんだが、実は気になる事があるのだ。」
「気になる事?」
「うむ、リリーが捕まえた人間。そいつは我の固有スキルで調べられん。明らかに異質な存在なのだ。」
「はあ?確かお前って世界の情報ならどんなものでも仕入れられなかったか?」
この場にいるものはお互いがお互いに大まかにだがどんな事が得意かを把握している。
もちろん、最重要の秘匿するべき技などは隠しているだろうが、それなりに信頼しあっている彼らはお互いの手の内をあらかた晒しているのだ。
だからこそ、骨の彼は獅子面の固有スキルに引っかからない人物のことを聞いて頭にはてなを浮かべた。
「そのはずなのだが、そいつの記録はある時を境にぷっつりと切れている。今日遅れたのもそいつに関して少し調べていたからなのだ。」
獅子面はそれ以上は何も言わなかった。言わなかったというよりかは、正確な情報を手に入れられていない様子だった。
彼をよく知る他の者達はそのことに少し異常性を覚えた。
「それにしても、ベルフェゴールのやつもそんな奴らにやられちゃうなんて、本当にバカだよねー。」
「いや、仕方なかったんじゃねえか?確か俺の記憶が正しければ『子狂いリリス』はベルフェゴールと相性が悪いはずだ。」
その場にいた者達は魔王ベルフェゴールの能力も、当然知っていた。
彼の戦術はまずはじめに詠唱時間が必要のない召喚で相手を足止め、そしてその間に別の召喚を行うというものが主な流れだった。
それに反してリリスは強い力を思いっきり叩きつけるだけだ。
単純だが、強大な力はそれだけで大きな武器だ。
彼の得意としている『醜悪な騎士召喚』ではそれほど時間稼ぎにはならない。
その上、それを突破されたときの予防策としての魔王の毒は『毒無効化』のスキルを持つ者には通用しない。
攻撃的なリリスに、防御寄りのベルフェゴール。
相性はかなり悪かったのだ。
「でも戦闘になったら即座に帰還魔法とかで逃げれたはずだけど、、、何やってんだか。」
ベルフェゴールという人物をよく知っているだけに、それができるということを忘れていたという可能性も頭に浮かぶのはご愛嬌だ。
「兎に角だ。このままあれを野放しにしておけば何が起こるかわからん。だから何か対策を講じたいと思うのだが?」
「じゃあちょっと待ってくれよ。今からちょっくら情報整理すっからよ。」
魔王達の恐ろしい点。それは個々の能力の高さではない。
もし仮に、ここにいる4人が一斉に自分たちが敵対している種族のいる国に攻め入った場合どうなるか。
確かに彼らは個々の能力は高い。
一般兵士レベルが相手なら数万の軍勢をぶつけられても勝てるくらいには強い。
だが、そんな彼らも無敵だというわけではない。
そのことは重々承知の上だった。
元々、この場所には6人の魔王がいた。
だが今は4人だけだ。
1人は随分前に、そしてもう1人はつい最近、討伐されてしまっているのだ。
その事実を自分の目で見ているからこそ、魔王達は油断しない。
そしてそれぞれがちゃんと繋がっている。
それぞれが対等な王としてーーーーではなく、一緒に戦う仲間として見ているのだ。
このことを人間達が知ったらどう思うだろうか?
自分たちより圧倒的に強い魔族達、それらは全部裏で繋がっている。
一方で自分たちはそれぞれの国を作り上げて権力争いやらなんやらで大忙し。
魔物や魔王の脅威があるから大きな行動はできないが、それでも小競り合いが絶えない日々だ。
「・・・さて、そろそろいいかな?じゃあ、作戦会議を始めるよ。」
今日も彼らは忌憚のない意見をぶつけ合うのであった。
明らかに1人、喋ってないやついるけどミスではないということをあらかじめ言っておこうと思います。