174 界渡りと最強のTCGプレイヤー
世界が再び正しい時を取り戻した。
先ほどまでの静寂はなく、そこにはいつも通りの冒険者ギルドの喧騒があった。
俺はそれが戻ると同時に動き出した。
先ほどの現象を起こした人物がどこにいるのかなんて分かっている。
その正確な位置を探るためだけに俺はあの時間、耳に神経を集中させたのだから。
「みんなはちょっとここで待っていてくれ。ちょっと急用ができた。」
俺はそれだけを言ってギルドの受付、それの一番左端のカウンターまで向かう。
そこには当然受付嬢、そして1人の男が立っていた。
その人物を俺は知っている。
俺は周りのものをゆっくりと確認するように見渡している男に向かって声をかける。
「律識!!お前、律識じゃないか!!?」
俺の言葉を聞いて、男は振り返って俺の方を見た。
そして少し驚いたような顔をしている。
だがすぐに平静を取りなして、
「おお、匠、久しぶり。」
と、笑顔を見せてくれた。
・・・・・・
・・・・
・・
彼の名前は婀神 律識分かっていると思うが俺と同じ日本人、つまりはこの世界にもともといた人間ではない。
俺との関係といえば週に何度か遊ぶくらいには仲がいい。
俺とよく遊ぶ、ということでこいつも一応はゲーマーの一種なのだが、律識の専門は俺とは別の場所にある。
あるジャンルにおいてはこいつは最強なのだが、それ以外は普通のゲーム好き程度だ。
ゲームのうまさで言えば総合的に判断して俺の方が上だという人の方が多いだろう。
だが、俺は律識の方が上だといつも思っている。
「・・・で?なんでお前がこっちにいるの?」
少し考えたが、一番はじめに出てきた質問はこれだった。
彼がここにいるという事は、俺と同じくあのゲームを起動したという事だろうか?
でもだったらなんで?
「なんでって、匠、行方不明となったお前を探した結果がこれに決まってるんだけど?」
「えっと、どういうことだ?ざっくりでいいから説明を頼む。」
俺の頼みを聞いて、彼は一度頭の中で情報を整理し始める。
そして何を話すかを大体決めたのだろう。
大雑把にだがここに至るまでの経緯を説明してくれた。
「お前がいなくなったあと、取り敢えず俺はお前の部屋に行ったんだけどさ、VRマシンと一つのパッケージだけが落ちてたんだよね。
「でさ、俺思ったわけよ。お前って何気に几帳面でこういうのっていちいち片付けてどっかに行くじゃん?
「他のものはいつも通りの部屋だしちょっとおかしいと思ったわけなんだよ。
「だから何かこれに手がかりが・・・と思ってまずはネット検索から始めたんだよ。
「そしたらお前の部屋に落ちてたパッケージ、えっと『Eternal Reality』だっけ?それが都市伝説の一つとしてネット上で発見された。
「内容としては、噛み砕いて言えばそれをプレイした人はみーんな行方不明になるんだと、どこかに連れていかれてるんじゃ?って意見とかあったね。
「それに、不可解なことがあったんだよね。このゲーム、ネットのどこを探してゲームの映像どころか画像の一枚もないんだ。
「それに気づいた時、流石に何かあるって思ったね。
「まぁそれからなんや感や調査して、拉致があかないし自分も踏み込むことにしたってわけ。わかった?」
そこで律識の説明は一旦終わった。
全て遣り切ったようなスッキリした顔をしてやがる。
「えっと、ここにいる経緯はわかったけど、その調子だとさっきこの世界に来たんだよな??」
ならどうしてこの街にいるんだ?
「そうだよー。だからこんな初期装備も初期装備みたいな服を着てるわけだし。」
「ならどうしてこの街にいるんだ?俺がこの世界に降り立った時、全く別の街からスタートしたんだが?」
「さあ?開始地点はこれと同じ建物の中からランダムで選ばれるとか、そんなんじゃない?」
律識はそんなことを聞かれてもわからないし、分かっても意味がないと切って捨てた。
ただ、彼の意見は当たっているような気がした。サンプルが少ない上に新しく始めるとかはできないから、確認作業もできないしな。
それ以上は考えても仕方のないことだろう。
「とりあえずさ、立ち話もなんだし座ろうぜ。あっちの方に仲間が待ってるんだ。」
「それもそうだね。・・・・これからは俺もその輪に入って行動するってことだよな?」
律識はそんなことをおずおずと聞いてくる。こいつは何を言っているのだろうか?
「何言ってんだよ。むしろお前は知り合いのいない世界でそんな端金でどうこうできると思ってんのか?」
どう考えても苦労する未来しか見えない。
そう考えると、俺がこの世界にきてすぐにノアと知り合い行動をともにするようになった事は非常に幸運な事だった。
普段は何をバカなことを、と思うような彼女だが、実際よくよく考えてみると結構助けられている事は多い。
そんなノアも待つギルド内のテーブルに向かって俺は律識を連れて行く。
彼はなんて言って紹介しようかな?・・・ってノア?
何か忘れているような。。
何を忘れていたかは、みんなの待つテーブルに戻ってからすぐに思い出した。
というか、思い出さされた。
「うわあああ!!また負けたー!!」
ノアが自分の近くにあるチップをテーブルの対面、ダルクのいる方向に寄せているのが見える。
テーブルの真ん中では10枚のカードがそれぞれ5枚ずつ広げられている。
「ん?ポーカーか。」
律識はその状態を見てすぐに何をやっていたかを突き止めた。
そうだ。
ノアとダルクは今ポーカーをやっていた。
どうやら俺たちの制止も虚しく賭けは始まってしまっていたらしい。
テーブルを挟むようにして座り、お互いそれぞれチップを持っている。
現在、ノアとダルクのチップはほぼ同等、いや、少しだけダルクの方が多いと言った様子だ。
確かダルクのつけた条件に、ノアのチップ数はダルクの3倍というのがあったため、かなり負け越しているのだろうというのがわかる。
ちなみにディーラーはリリスがやっていた。
渋々と言った様子で広げられたカードを回収している。
「みんなただいま。ちょっと紹介したいやつがいるんだけど・・・・」
「そんなことよりタクミ!!ちょっと助けてよ!!このままじゃあボク大損だよ!!?」
うるさい自業自得だろうが!!と言い返してやりたくはなったが、ここはぐっと我慢だ。
まずは最優先事項、律識の紹介をしておかなければいけない。
こういうのはやると決めた時にちゃんとやっておかないとあとあとタイミングを逃すからな。
「はいはい、それでなんだけどな・・・」
「ん?じゃあ俺と代わる?チップさえ貸してくれれば負け分を取り返すくらいはしてあげてもいいよ?」
ノアの助けを突っぱねて律識の紹介をしようとした時、当の本人がノアの方に手を差し伸べた。
「本当!!?・・・って大丈夫なの?あのおじさん、すっごい強いんだけど?」
「大丈夫だよ。・・・多分だけど。」
どうやら俺はもう既に蚊帳の外らしい。律識の紹介をしようとしたのに、律識がそれに全く興味がない様子だ。
彼の興味はもう既にテーブルの上にあるトランプに夢中みたいだ。
「本当だね!!?じゃあ任せたよ!!あ、それ以上減ったらその分は君が払ってよね!!」
ノアは助けてもらうというのにすごい図々しい条件で頼み込む。
律識はそれを何の問題もなしと見て快諾した。
「了解、・・・あ、でも俺金ほとんど持ってないから万が一負けちゃったら匠に請求してね。」
おい、俺の話をそっちのけにしたくせに責任は俺に押し付けるつもりですかい。
「お?なんだ?選手交代か?いいねえ、どうする?このままポーカーでやるか、それとも別のゲームをするか?」
ダルクも非常に嬉しそうだ。
「じゃあゲームは変えよう。・・・何にする?」
律識は別になんでもいいと言った様子で話を進める。
お前にも得意不得意があるというだろうに、そんなこと御構い無しと言った様子だ。
自分の勝ち負けより、単純にトランプで遊びたいんだろうな。
「それはそっちが決めていいぜ。おじさん、今調子がいいからなんでも行けちゃいそうだしな。」
「そうですか?じゃあ・・・・ここは無難にブラックジャックでもやることにしましょう。匠、ディーラー頼んでもいい?」
律識はここで俺を指名した。
この意図としては、もしダルクがバカ勝ちしても笑って誤魔化せるとでも思っているんだろうな。
プレイヤー対プレイヤーのポーカーと違い、ブラックジャックはプレイヤー対ディーラーだ。
そのため、必ずしも負けるプレイヤーが出るとは限らない。
ディーラーに勝てばたとえ隣のやつと同じ手を持っていたとしても勝利なのだ。
と、するとディーラー・・・この場合俺だが、が大損することだってあり得るわけだ。
そうなった場合、取り繕いにくい他人よりも友人を差し出したほうがいいと考えたのだ。
正直、そんな保険をかけるくらいだったら別のゲームを選択しろよと思った。
まぁでも、今の彼はブラックジャックの気分なのだろう。
知らない世界にきてすぐにダメダメ言われたらかわいそうだし、ここは好きにさせてやるとしよう。
「わかった。ディーラーは俺がやるよ。・・・一応言っておくけど律識、、、」
「分かってるって。なるべく匠に損が無いように勝つようにするからさ、安心して。」
律識はテーブルについた。
座った場所はダルクの隣の椅子だ。
そしてその対面、先ほどまでノアがいた場所に俺は陣取る。
「リリス、それをこっちに。」
「はい。正直、さっきから言われた通りに配ってたんだけど、よくわからなかったから助かったわ。」
ようやく肩の荷が降りた、と言った様子でトランプの束を俺に渡してくるリリス。
彼女はその後勝負の行方を見守るように俺の隣に座った。
「あ、何ゲームくらいやるか予め決めとこうぜ。じゃ無いとどっちかが負けを認めずに永遠に続くってことになりそうだし。」
そうなってくると俺も面倒だしな。
「そうだね。じゃあ、、、、デッキが5回回ったらとりあえず一旦切り上げることにしよう。」
「5週だな。分かった。」
「ねえタクミ、聞きたいことがあるんだけど・・・・」
もう勝負を始める、そう思ってトランプのデッキをシャッフルし始めた時、ノアが俺に声をかけてきた。
何か腑に落ちないと言った様子だ。
「どうしたノア?」
「さっき聞き間違いじゃなかったらあの人、タクミに損はさせないって言ってなかった?まさかと思うけど、ダルクのおじさんだけに損をさせるつもりなの?」
「そりゃあ、言葉の通りならそういうことになるな。」
「そんなことできるの!!?今からやるのってブラックジャックだよね!!?」
ノアはこのゲームの性質を理解しているのか、驚愕に目を見開いている。
そしてその言葉を口にしてすぐに頭を左右に振って冷静さを取り戻さんとした。
「いや。普通に考えて無理だよね?どうしてタクミはそうやってそれが当然であるかのようにしているの?」
頭を一旦冷やし考えた結果、ダルクだけを負かすことなんて不可能、ノアはそう結論づけた。
そりゃあそうだろう。
ブラックジャックは同じテーブルで戦うと言っても、基本的には個人戦のようなものなのだ。
それを狙い撃つなんてできるはずがない。
だけど俺は律識の言葉を信じている。
だって、
「だってあいつは婀神 律識だからな。」
律識がカードを用いたゲームにおいて、負けるなんてありえない。
世界最強のカードゲームプレイヤー婀神 律識とは彼のことであり、そして今からやるのはそんな彼の土俵、トランプゲームなのだから。
主人公視点は内容的には書きやすいんですが、何というか、キャラ的に知ってっていいこととかそこら辺が面倒です・・・・今回の話はそんなものが幾重にも降り積もり、気づいたらトランプゲームが始まっているという惨状が・・・・
もっと文章を書く練習をしたほうがいいですよね?