173 お金と制止
最終的にその日のダンジョン探索は午前中で終了することになった。
理由としては入り口で大量に敵を倒してしまったせいか、あまり魔物に出会わなくてノアが飽きてしまったせいだ。
彼女曰く、魔物が全く出ないダンジョン探索なんて柔らかくないスライムと一緒、だそうだ。
俺としては硬いスライムは経験値いっぱいで美味しい・・・と思うのだが、どうやらこの場合は趣がないという意味で用いられているらしい。
ともあれ、そんなこんなで俺たちはこの町の冒険者ギルドにて報酬の受け取りを済ましている。
俺はもう受け取りが終わったので、あとはみんなを待つだけだ。
「よーし!受け取ってきたよー!!みんなは何体倒してた!!?」
最後のノアが少し離れた場所で待機していた俺たちの元へ来てそう尋ねてくる。
誰が何体倒したかなんてどうでもいい話ではあるのだが、ここは正直に答えるとしよう。
「俺は8体だな。攻撃を避けるのに専念してたから妥当なところだと思う。」
戦闘はできるだけ安全に生きたいタイプの人間だ。
相手を倒すことより相手から攻撃を受けないことを優先した結果だな。
今日出て来たサハギンの群れは次々とダンジョンの奥から供給されたりしていたため、この数は全体からしたら微々たるものだろう。
「へぇ〜、、ボクは19体だからタクミの倍以上だね!!」
ノアはそう言って満面の笑みをこちらに見せてくる。
勝ち誇っているみたいだ。
それを気に留めるようなことはないが、こうまでしてやられると少し言い返したくはなる。
「おお、それはすごいな。・・・参考までに他のみんなはどれくらいだったんだ?」
ここで1人でもノアより討伐数が多い人が出てくれば、彼女はでかい顔ができなくなるだろう。
・・・・まぁ、見ていた感じだとリリスは確実にノアよりは倒していたからな。
「えっと、私は確か45体って言われたわね。やりようによってはもう少しくらいは倒せたと思うわ。」
流石はうちのパーティのメインアタッカーだ。
今日のサハギンだが、リリスの一撃を耐え切るやつはいなかった。
つまり一発一殺状態だったのだ。
ノアの場合はそうはいかなかったので、それが討伐数に大きく現れたのだろう。
近接攻撃は次に行くのが早いというところもあるしな。
「む〜・・・やっぱりリリスには勝てなかったか。くっ、次行こう次!エレナちゃんは!!?」
ノアが躍起になってエレナの方に声をかける。
今日のノアはどうしたのだろうか?
まさかとは思うけど、この討伐数の順位で何かをやるのだろうか?
「えっと私は・・・36・・・」
おっと、エレナも結構倒してるな。
彼女はリリスと違って一撃で仕留めるということは難しいみたいだったが、それでも敵陣のど真ん中で暴れまくっていた成果が出たみたいだ。
「すごいわよエレナちゃん!!初めてのダンジョンでここまで活躍できるなんて!!今日はお赤飯ね!!」
それを聞いたリリスがエレナを後ろから抱き上げた。
そしてそのまま頭の上まで持って行く。
というか、赤飯って風習はこっちにもあるんだな。
「この流れで言えばあとはリアーゼだな。今日は初めて直接攻撃をやったんだよな?どうだった?」
リアーゼの成果だが、正直なところ俺もよくわかってない。
弓兵だし始めは俺の後ろから攻撃しているのは見えていたんだが、途中からリアーゼの姿はどこかへ行ってしまっていた。
いつものごとく、見失ってしまったのだ。
正直、ずっとこのままだと不便だからいつかはリアーゼを発見できるスキルか何かを取ろうかなとは思う。
「えっと・・・25体です。」
おぉ!!?
「すごいじゃないかリアーゼ!!今日は赤飯だな!!」
彼女の口ぶりから、弓は扱い方は分かるけど得意というわけではないと行った感じだった。
そんな状態で25体も敵を倒せるのは、彼女が天才だからなのだろう。
後半の一言は若干余計だったかもしれないが、そのくらいめでたいことだ。
「でもごめんんさい。私、弱っている相手にとどめを刺していただけで・・・私1人じゃ1体も倒してない。」
「ん?それの何が問題なんだ?弱っているやつを確実に仕留めるのも立派な仕事だろ?」
「でも、皆さんの頑張りを横取りしたみたいで・・・」
「あー?そんなこと誰も気にしてねえと思うぞ?なあ?ノア」
というか、俺たちのパーティって攻撃面が若干オーバースペックな感じがあるから、弱っていたというのならそれはノア系列の攻撃だろう。
リリスは言うまでもなく、俺の討伐の8体というのも俺があの戦いの中で攻撃のために剣を振った回数と同じだ。
エレナなんかも、傷をつけた敵には即座に追撃を加えていたので横取りとかは難しそうに思えた。
「そうだね。そんなことよりはボクは今日初めての妹より役に立たないことの方がショックだったよ。」
ノアが落ち込んでいる。
だが、これに関しては自分から切り出した話題からの派生のため、自業自得と言っても差し支えない。
「ってか、討伐数なんてどうでもいいだろ?結局集めて再分配するんだから。」
一番討伐数が少ない俺がこういうと何か思われそうだが、これが俺たちのルールだから仕方ない。
「そうよ。今日の分もちゃっちゃか配っちゃいましょ?」
そう言ってリリスがみんなの報酬を一度集めた。
そして均等に分けて再分配していく。
今回、俺たちの倒したサハギンの合計数は128体で、1体につき4000Gだから512000G、それを頭割りで102400Gだ。
サハギン1体が計算しやすい金額で助かってるな。
「じゃあこれ、みんなの分ね。一袋持って行きなさい。」
均等に分けられたお金が入った袋をリリスが机の上に置く。
俺はそのうちの一つを受け取った。
それで思ったのだが、いい加減金の保管場所を決めておいた方がいいかもしれない。
銀行みたいなものはないのだろうか?
俺が今まで溜めてきたお金はもう大金と言っても問題ないくらいにはなっている。
これを持ち運ぶのは流石に危険な気がする。
何か考えて置くとしよう。
「おいおい、みんなで分けるって言ったのに俺にはなしかよ。」
俺、ノア、リアーゼ、リリス、エレナがそれぞれ報酬を受け取ったところで1人、文句をいう奴が出てきた。
誰かなんて言うまでもない。
ダルクのやつだ。
「いや、お前はサハギン討伐に関してはなんの関係もないだろ?」
「そうは言ってもシェルタートルは俺が倒してやったじゃねえか。感謝の印としてお金を恵んでくれてもいいんじゃねえのか?」
「いや、別に面倒だから譲っただけで時間をかければ倒せる相手だったから手助けいらなかったんだけどな。」
「そう強がるなって。どうだ?50000Gでいいからよ。」
「バカ言え!!つーかあんたはあんたでシェルタートル分の報酬貰ってくればいいだろうが!!」
「そう冷たいこと言うなよ〜、シェルタートルは依頼として貼り出されてないから倒しても無収入なんだって。」
あ、そうなのか。やっぱり俺たちが倒さなくて正解だったな。
「諦めろって。お前も結構強いんだし、今から別の依頼を受けてきたらどうだ?まだ正午前後だぞ?」
早めに切り上げたから今からもう一狩くらいはできるはずだ。
結局のところカラクリは掴めなかったが、あの強力な一撃があれば多少の強敵が出てきても戦えるはずだし。
「お前たちが狩り尽くしたせいでダンジョン内の敵がほとんどいないのは一緒に確認したじゃねえかよ!!」
あ、そう言えばそうだった。
そもそも、俺たちが早めに帰ってきている理由がそれだし。
と言うことは今日ダンジョンに潜った他の冒険者は迷惑しているかもしれないな。
・・・いや、多分第二階層とかにはまだ敵は残ってるだろうから大丈夫だろう。
「兎に角、諦めろって。少なくとも俺は金をあげるつもりはないからな!!」
俺はそう強く拒絶した。
こう言う奴には強く言ってやることが大切なのだと、誰かが言っていた気がするからだ。
俺自身も、ダルクという人間は甘やかすとろくなことが無いような気がしているので強く当たる方針だ。
「チッ、仕方ねえなあ。・・・そこの獣人のお嬢ちゃん、お兄さんに少しだけお金を恵んではくれないか?」
こいつ・・・・俺が拒否したからって言ってそれを目の前で見ていたリアーゼに行きやがった。
「ダメです!!これは矢を買ったりするために使うんです!!」
リアーゼはきっぱりと断った。
だがダルクは諦めずにリリスと、彼女に抱き上げられているエレナの方へと目を向けてーーーーーーーーリリスに睨まれて目をそらした。
ああ、分かるよ。
リリスに本気で睨まれると怖いよね。
俺自身はまだされたことはないが、時たま怒っているリリスを見て常にそう感じているから分かる。
そしてダルクは最後の砦、ノアに飛びついた。
「なあ、ノアちゃん。ちょっと相談なんだが・・・・」
「何?お金ならあげないよ?」
おお、ノアも意外と手厳しい。
「違うって、いや、明確に違うとは言いがたいんだけどそうじゃなくって、ひとつ賭けをしないか?」
「賭け?」
あ、やばい。ノアのやつが食いついた。
これは非常に危ない流れだ、だがその流れはダルクにとってはとてもいいものだ。
彼はそれを見逃さなかった。
「ああ賭けだ。ここにチップがあるんだが、それを賭けてゲームをしよう。そしてゲーム終了時、チップの数に応じた金額を手に入れる。それでどうだ?」
「ちょっとノア!!?まさかこんなアホみたいな勝負受けないよな!!?」
「そうだよノアお姉ちゃん!!絶対に受けちゃダメだからね!!」
俺とリアーゼは必死に待ったをかける。
「まぁこっちはお願いしている立場だし、ノアちゃんに有利な条件でスタートしよう。そっちのチップはこっちの3倍の数からスタートでいいぜ?」
「う、そ、それなら・・・」
ちょっと待てノア!!ゲーム終了時ならともかくゲーム開始時のチップ数ってそれイコール自分の資産だ!!
それがダルクの方が少ないって事は、あいつ今あんまり金を持っていないって事だぞ!!
直ぐに俺がそう、制止の声をかけようとした時、
世界の動きが止まった。
俺の体も動かない。だが、意識だけは鮮明だ。
体のどの部位も動かす事はできないため、視界は固定だが、耳だけは周りの様子をしっかりと感じ取る。
周りはえらく静かだった。
さっきまで騒がしかった冒険者ギルドとは思えない。
誰かから、なんらかしらの攻撃を受けているのだろうか?
それにしては少し妙な気がする。
動けないなりに、俺は思考を巡らせた。
だが、どれだけ考えてもその答えには行き着かない。
みんなは大丈夫だろうか?
動きが完全に制止しているため、多分俺と同じ状況か?
多分これは俺が動いていないのではなく、世界が動いていない。
直感的だが、この状況に対してそう感じた。
そして少ししてから、この現象に対する答えを俺は手にすることになる。
突然、後ろの方から発せられた声を俺の耳が拾った。
『では、クラスを選んでください。』
それは俺がこの世界にきた時、初めて耳にした言葉と非常に、似通った言葉だった。
今更ですが、この物語は様々な逸話や神話などを多量に取り込んでそれを軸にして話を作ることがあったりしますが、図書館の話でもあったように起源とかは元ネタのままですが、話自体が変わってたりする事はあります。
ですので、「あ、この話知っているぞ。このあとはこうなるんだ。」と思っても違うことがあると思いますので、その辺りはご了承ください。