172 天命と天秤
あの亀をもらっていいか。
突然乱入して来たダルクはそう言った。正直、俺としてはアレの相手をするのは少し面倒だと思い始めていたところなので有り難く譲ることにする。
「ああいいぜ。倒したかったら好きに倒すといい。別に横取りしたとかは言わないからさ。」
「お?そうか。ありがとよ。」
ダルクは嬉しそうに笑った。そして俺の許可を得たすぐ後に、彼はその外套の中から1つのものを取り出した。
ーーーーーーーーー!!?あれって・・・
俺はそれを見て少し驚いた。
「ん?おじさん。なんなのそれ?」
見慣れたないものにノアが不思議そうな顔で質問をしている。ノアは初めて見たのだろう。
だが、俺はそれに見覚えがあった。
ダルクが取り出したのは拳銃だった。
見た瞬間、この世界にもあるのかと衝撃が走ったが、あれでどうするつもりだろうか?
銃は確かに強力だ。
それはこの世界の人間ではない俺はよく知っている。だが、それは人間同士の争いの話だ
それが魔物に通用するかは別なのではないだろうか?
俺はそう思った。
少なくとも、今、目の前にいる巨大な亀の装甲を突破できるようなものではないと思う。
「気になるか?これは俺専用の武器だ。何をするかは・・・・まあ見てれば分かるって。きっと驚くから期待してみてな。」
ダルクは薄い笑みを浮かべながら、その銃口をシェルタートルの方へ向ける。
そして撃鉄を起こしそのまま引き金を引く。
ーーーパァン!!という薬莢がはじけるような音が鳴り響き、銃弾がシェルタートルの方へ向かう。
だが、その弾丸はシェルタートルの装甲を貫くことはできずに弾かれ跳弾してしまう。
幸いにも、跳弾した弾が俺たちの方へ飛んでくるようなことはなかった。
「うわあ、耳がいたいよ。でも、効いてないみたいだね?」
「ははは、それを効いて俺も耳が痛くなったな。まぁ、流石に固えな。」
やはり、拳銃ではあの防御は抜けないらしい。
そりゃそうだ。石の壁を粉砕するようなリリスの一撃を受けてなんともなかった奴が、拳銃なんかでどうこうなるとは思えない。
最低でも対物ライフルとか、そのくらいは欲しい。
「でもまぁ、あのくらいならなんとかなるだろうな。」
だが、ダルクはそれを全く問題にした様子はない。何か見せてくれるのだろう。
あのシェルタートルの圧倒的な防御力を抜くなにかを。
俺はそれを期待しながら彼の方を見た。
リアーゼやノアが言うには、この男は隣の帝国でも屈指の実力者らしい。
その力の一端でも見せてもらえるなら、今日ここで頑張った甲斐があるかもしれない。
「ふぅ、相手さんはまだ待ってくれそうだな。」
ダルクはまずそれを確認した。なんだ?準備に時間がかかるのか?
そう思いながら見ていると、彼は銃に装填されていた弾丸を全て抜いた。
彼が持っているのは拳銃、その中でもリボルバーと呼ばれるタイプのものだ。
先程一発撃ってしまい、取り出された銃弾は5発だけだった。
しかし、いきなり銃弾を抜いてどうするつもりだろうか?
なにか、威力の高い銃弾があるとか?でも銃の威力って大体銃本体きまりそうなものだし、少し威力が上がったところで無理そうだが・・・・・
俺は頭を悩ませる。
そんな俺に答えを提示するように、ダルクは何かを唱えた。
「さあ来い!!『砕撃の魔弾』!!」
手を広げて少し高めにかざし、彼はそう声を上げる。
次の瞬間、彼の手の中には6発の弾丸が握られていた。
はじめに銃を見た時、弾丸の補給とかどうしているのかと思ったりもしたが、彼の場合は能力で生み出しているらしい。
そういえば、専用武器とか言ってたし、もしかしてあの能力に合うように作ったら銃が出来上がったとかかな?
もしそうなら帝国の技術力半端なさそうだな。
6発の弾丸、彼はそれをリボルバーに1つずつ込めていく・・・・・と思いきや、たった1発だけを弾倉に込めた。
そしてそのまま回転式弾倉を勢いよく回転させた。
「ん?その武器ってその小さいのを発射するんだよね?そんなことしていいの?」
「いいんだよ。まあ見てなって。・・・・さあ、運命の輪はどちらのために回る?」
ダルクは回転式弾倉を収納した。
その間、彼は手元の銃を見るようなことはしなかった。要するに現在、ロシアンルーレット状態だと言うことだ。
弾が出る確率は6分の1、部の悪いどころの話ではない。
同じ弾がもう5発あるのだから、それも全て入れて仕舞えばいいのにどうしてそんなことをしたのだろうか?
俺がそう思うのもつかの間、ダルクは撃鉄を起こした。
そして迷いなく引き金を引く。
ーーーーーーーードカン!!と言う擬音がふさわしいような、そんな爆発音が辺りに鳴り響いた。
ダルクはたった1発しか入っていない弾丸を見事に引き当て、それを以てシェルタートルを攻撃したのだ。
そしてその威力たるや、俺たちが手招きをしていたあの防御を鼻で笑うかのようだった。
狙いがそれたのか弾丸はシェルタートルの頭ではなく、最も硬い甲羅の方に着弾したのだが、その着弾点周辺の甲羅はボロボロに壊れてしまっている。
また、その内部にも多大な影響を及ぼしたのだろう。割れた甲羅の間から血液のようなものが吹き出す。
「おいおい、どう言うことだよ今の・・・拳銃で出していい威力じゃねえだろ。」
「すっごーい!!ねえおじさん!これどう言うことなの!!?」
ノアが両手放しで喜んでいる。
銃にはきっと何か、彼女の気を惹く何かがあったのだろう。
「おじさんはやめてくれって、、どう言うことって言われたら、見た通りだな。俺がこいつで一撃加えただけだぜ。」
ひらひらと拳銃を見せつけるダルク。
もう勝負はついたと言わんばかりの余裕だ。
だがしかし、それを許さないものもいる。当然だが、その攻撃を受けたシェルタートル本人だ。
今までずっと守りの姿勢をとり続けていたシェルタートルだが、初めて向こうから動いた。
巨体を直進させダルクに近づき、その巨大な腕を横に振る。
その一撃をもろに受けて仕舞えば先程のリリス同様、壁に叩きつけられて大ダメージは免れないだろう。
だが、
「やめとけやめとけ。もう運命様は俺を選んだんだ。これ以上は無駄でしかねえよ。」
ダルクは全く避けようとしなかった。
彼はその体でシェルタートルの一撃を受け止める。
「あ!!おじさん危ない!!」
「大丈夫だって。こいつはもう、俺には傷1つつけられねえよ。」
彼の言葉の通り、シェルタートルの攻撃がダルクに影響を与えることはなかった。
その巨大な腕から放たれる横薙ぎは、まるで何かに阻まれたかのように彼の体には届かなかったのだ。
そしてダルクはまた一つ、弾倉に弾を込める。
今度も先程同様、ロシアンルーレットをやるみたいだ。
回転させ、適当な位置で止めて、そして撃鉄を引き発射する。その一連の動作を彼は何の迷いもなく行った。
ドカン!!
弾丸はまたも発射された。
完全に無作為に行った動作だということは、この二回ずっと見ていた俺だからこそわかる。
彼は単純に運だけでその2発を成功させてみせたのだ。
今度はシェルタートルの頭部に深く食い込む。
しかしまだ絶命には至っていないようだ。
「おー、まだ生きてるか。流石にしぶといねえ。」
しかし彼は追い討ちと言わんばかりに3発目を発射した。先の2発とおなじ方法でだ。
そして当然のように引き当てる。
3度目の爆音、その音とともにシェルタートルの姿は消え去った。
3発は耐えられなかったみたいだ。
「はは、こんなでかいやつを仕留めちまうなんて、今日も俺はついてるねえ。」
消え去った魔物の姿を確認したダルクは、非常に満足そうに笑みを浮かべているのだった。
本当は土曜日のうちに投稿しようとしてたんですが、少し熱を出してしまって休んでいたらこんな時間にまでなってしまった。
・・・・もう少し早めに書き始めるべきでしたよね?
急いで書いたからいつにも増してひどい文章のような気がします。