170 成長と領分
今回少し長いかも?でも別に内容的にはそこまで濃くはない。
いや、むしろ薄い。
ふう。とっても満足だ。
この酒場の魚介メニューの充実っぷりに俺は何もいえなかった。
文句なんてあるはずはない。
基本的なものから少し珍しいものまで、大体のものが揃っていたのだ。
この世界にきて早数ヶ月。
その間ずっと食べられなかったものを今日、こんなにも食べられてもはやなんの心残りもない。
食事を終えた俺は椅子にもたれかかってその余韻を楽しんでいた。
まあ、それはそれとして・・・・
「それでリアーゼ、さっきの男は誰なんだ?」
俺は忘れないうちにリアーゼにそう問いかけた。
俺が最初の注文をする前、リアーゼがさっきのギャンブル男について何かを言おうとしていたのはちゃんと聞こえていた。
当の本人は既に食事を終えて店を出てしまっているが、それについてはなんの問題もないだろう。
「さっきの男ってさっきの男の人だよね?」
「うん、その男のことだ。何か知っていることがあったら教えてもらえると助かる。」
リアーゼは有名人なんかには結構詳しい。そんな彼女が反応したなら、あの男も何かあるのではないだろうか?
対照的にこの世界の有名人には全く詳しくない俺だから、どんな情報でもありがたい。
「えっと、じゃあ話させてもらいます。っと言っても私も詳しいことを知っているわけではなくて、遠くから見たくらいですけど・・・・あの人は確か『運命』のダルクって人だったはずです。」
『運命』のダルク・・・・当然のことだが聞いたことはない。
この世界の有名人なんて俺が知るはずはないのだ。
「あー!その名前ならボクでも知ってるよ!!確かあれだよね!!?」
ノアが何かを閃いたように周りにそう確認をとるが、
「はい、その人です。」
リアーゼしか肯定しない。
多分だけど、この場所ではノアとリアーゼ以外その名前を知っている人間はいない。
エレナは言わずもがな、シュラウドは絶賛記憶破損中だし、リリスは人間んとかあんまり興味なさそうだしな。
・・・あれ?俺たちのパーティ結構知識面やばい?
リアーゼという小さな子どもに知識面を担当させるのは流石に危機感を覚えたほうがいいな。
行くつもりはなかったが、今度ベイルブレアに帰ったら図書館にでも行ってみようかな?
「えっとノア、知っているなら詳しく解説頼む。」
「あれー?タクミってば知らないの?『運命』のダルクって言ったら帝国の最強の騎士団の団員だよ?」
へぇ、帝国最強の騎士団の1人・・・・
俺はその言葉を脳内で反芻して疑問に思ったことを口に出す。
「あれ?でもここ王国だよな?どうしてそんな奴がこんなところで油売ってるんだ?」
「それはーーーボクは知らない。でも何か任務できている可能性が?」
おいおい、それならやばいんじゃないのか?
確かこの国って帝国とあまり仲が良くなかったよな?
「まぁ、そんなことどうでもいいじゃない。どうせ、もう会うこともないでしょうし。」
リリスはそのことに興味がないのかエレナを愛でながら受け答えしている。
実際興味はないのだろう。
「えっとそれじゃあ、そいつが所属している騎士団の話とかってある?」
「それなら・・・・最強とは言われていますが謎が深い部隊みたいです。帝国の大きな功績の影には必ずその部隊の姿があるらしいんですが、そのくらいしか情報が出回っていません。」
「団員の数とか、構成員とかもか?」
「正確なことは、でも一部は表舞台に出てきています。あの人もそのうちの1人です。」
色々聞いて見たが、そいつにはかかわらないほうがいいということだけはわかった。
存在自体は確定しているやばい部隊の人間、そのくらいに思っておけばいいだろう。
下手に手を出したら何か起こりそうだし、今度見つけたら刺激しないように離れることにしよう。
「というかタクミ!!そんなことより明日のダンジョンの話をしようよ!!」
もう少しだけ聞きたいことはあったが、ノアのその言葉によって俺たちの会話は中断されてしまった。
強引に続けることもできたのだが、それまでは暇そうにしていたエレナやリリスが食いついたのでそれはまた今度の機会にすることにした。
◇
そして翌日。
今日は予告しておいたダンジョン攻略の日だ。
ーーええ。今日もいつものことながら、大量の魔物のお出迎えですよ?
非常に不本意ながら、俺は目の前のサハギン(半魚人型の魔物)の攻撃を捌く。
いつものように早朝のうちにダンジョンに入った俺たちを待ち受けていたのは大量のサハギン。
前日の冒険者たちはなぜこれを放置して帰ってきてしまったのか?
昨日はこんなんじゃなかったのだろうか?
俺たちはダンジョン入ってすぐのひらけた場所でサハギンの群れに襲われていた。
「あはははは!!みんな朝から元気だね!」
迫り来るサハギンの群れに対して元気よく声をかけるノア。
こういうことにはもう慣れてしまったのだろう。
だが、あまり笑い事にしていいことでもないような気がする。
今は早朝のせいでダンジョンに来ている人は少ない。
また、戦っているのが入り口というので後から人がきても俺たちを見て一度撤退する。
つまりは増援には期待できないということだ。
この大量のサハギンは俺たちで処理しなければならない。
1体1体はさほど強くはないが、数が多いから結構時間がかかりそうだ。
それにしびれを切らしたのだろう。
途中、俺とリリスの陰からヒットアンドアウェイを繰り返していたエレナが一言。
「・・・早くみんな死んで。」
次々と押し寄せてくるサハギンの群れの中に
、突っ込んでいった。
何をしているんだあいつは
すぐに引き戻そうとしたが、この大量のサハギンたちは基本的に俺の方を向いている。
だから俺が勝手に動くことは許されない。
結局俺はそれを見ているしかない。
エレナはたとえ今の体が壊れても、リリスが再度呼び出せば問題なく動けるようになるらしが、それでも傷つく姿は見たくないな。
そう思いながら俺はエレナの動きを確認した。
彼女は昨日決めた通り、両手に1つずつの短剣を持っている。
だが、その攻撃方法は探検に依存し切ったものではなく、むしろ短剣は補助のようなものに思えた。
エレナはサハギンの1体を両足で勢いよく蹴り飛ばす。
そしてそのままその蹴りの衝撃を最大限利用し、後ろに飛んだ。
イメージはサマーソルトのような形だ。
空中で一度宙返りをし、落ちてくるタイミングに合わせて足を振り下ろす。
重力の力を存分に使ったかかと落としがサハギンの頭をかち割るのだ。
そしてそのまま着地。
そこにエレナの間合いの外から刺又で攻撃を加えようとしている奴がいた。
しかし彼女は一切の躊躇なくそいつに向かって持っている短剣の片方を投擲した。
刃が真っ直ぐサハギンの喉元に突き刺さる。
苦悶の叫びが聞こえるが、エレナは全く意に返した様子もなく、短剣を投げて空になった方の手を大きく引き寄せるように振った。
するとサハギンの喉元に刺さっていた短剣は、何かに引っ張られるようにエレナの元へと戻って行く。
よく見てみると、彼女の持っている短剣は束本に小さめの穴が空いており、そこに糸がくくりつけられているみたいだ。
サハギンの返り血を浴びたその糸が、空中で鈍く煌めく。
そして短剣を回収し終わった後も、その勢いは衰えることはない。
ただ走るという行為でさえも、前に跳躍しているといった方がしっくりくる勢いだ。
「すげえなエレナ。これは俺たちも負けていられないぞ。」
自然とそんな言葉が俺の口から漏れた。
エレナがそこそこ強い。その事は初めから分かっていたが、彼女の才能は乱戦でこそ輝くのだろう。
相手の真ん中に潜り込み、周りもの全てを傷つけて回っている。
「当たり前でしょ?私の子よ?」
リリスが嬉しそうにそういって笑う。彼女はいつにも増して張り切って槍を振るう。
その一撃はサハギンの一体や二体で止められるものではない。
だが、見慣れた光景ということと、エレナの動きを考えると少し見劣りしてしまう。
それを感じ取ったのだろうか?リリスが何かを思い出したように動き出す。
「ふふっ、そういえばみんなにはまだいっていなかったかしら?来なさい!『醜悪な兵士召喚』!!」
リリスの声に呼応して、地面から一体の魔物が這い出て来た。
初めてみる魔物だが、どこか見覚えがあるような、そんな感じだ。
状況からしてリリスが生み出したのだろう。
「ってリリスお前!!それ魔王の技じゃねえかよ!!」
「そうよ?エレナちゃんが私の子になるときにおまけとしてついて来たの。」
リリスはそうやって軽く流しているが、割と重要な事だと思う。
そもそもの魔王ベルフェゴールの目的がエレナを引き取ってくれるやつを探す。
という話だったから、あのスキルはその報酬という事なのではないか?
俺はそう思ったが、リリスとしてはおまけ程度にしか思っていないらしい。
でも、それなら少し気になることがあるな。
「俺の記憶じゃベルフェゴールのやつは大量に、それももっと強そうなやつを出してたように思えるんだけど?」
それに対してリリスが呼び出したのはそこそこは戦えるだろうが、さほど強くなさそうな魔物一体だけだ。
「まあ見てなさい。すぐにびっくりさせてあげちゃうから。」
リリスはそういって槍を振り回す。
最近思うのだが、彼女は槍を先の尖った長い棒くらいにしか考えていないのだろうか?
間違えではないが、何か間違えているような気がする。
リリスが槍を振り回す。サハギンたちはその間合いより外に出ようと後ずさりをしている。
そして次の瞬間ーーーサハギンの足が何者かの手によって掴まれた。
予想外のことにサハギンは後ろに倒れる。
そこに『醜悪な兵士』の一撃が入れられた。
「えっとこれはどういうことだ?」
「見ての通りよ。本当は4体呼び出されているんだけど、上にいるのは一体だけ、他のは全部地面に潜って油断を誘うの。・・・見た目が悪からね。あまり量を出したくないわ
」
あぁ確かに、あんな奴らを引き連れて歩いていたらいつ俺たちが討伐対象になるか分かったものじゃない。
スライムとかならなんとかごまかせないこともないかもしれないが、気持ち悪いアンデッドもどきのようなやつを大量に引き連れていたら流石に何か思われるだろう。
「むむむむむ!!召喚はボクの仕事なのに!!」
そのことに対してノアから何か言いたいことがあるみたいだ。
言い分を要約すれば、キャラが薄れるからやめてくれってことだろうか?
なんともノアらしい意見だ。
「まぁ、言われなくても制限があるから多用はしないわよ。」
リリスはそんなノアに対して軽く流す程度の対応しかしない。
そのやり取りを見ながら、俺は周りを確認した。
するとサハギンの数は予想以上に少なくなっていた。
まぁ、軽口を叩く余裕が出て来ているくらいには少ない。
まだ少しいるが、これなら普通にエンカウントしてもおかしくないくらいの数だ。
あと十体もいないだろう。
俺は残りを処理しに向かう。
ちなみにサハギンだが、今の武器ならなんのスキルも使わずとも体に大きく当てるだけで倒しきることができる。
俺も成長したものだ。
「よし!!これで、最後!!」
こうしてダンジョン入り口の攻防が幕を閉じた。
あたりには魔物の遺灰とドロップアイテムが散乱している。
リアーゼがそれをひょいひょいとカバンの中に入れていく。
俺がこの前あげた贈り物、早速使ってくれているみたいだ。
・・・・・そう言えば、リアーゼも戦ってくれるんだからもう彼女にばっかりこういった後始末をさせるのは流石に悪いよな?
そう思うと罪悪感がどんどん湧いて来た。
「リアーゼ。あっちの方は俺が拾っておくよ。」
「あ!!タクミお兄ちゃんは休んでていいよ!!」
そう言われたが、ここは強引にいく。
俺はリアーゼがアイテムを集めている反対側に落ちているものを拾う。
サハギンのドロップは当然と言うべきか、その体の一部だ。
爪や牙、鱗などオーソドックスなものから白骨など、地味に見たくないものまであった。
そして少しして、俺たちのアイテム回収はもう少しで終わると言う頃。
そいつは現れた。
ーーードシ、、、、、、ドシ、、、、ドシ
それの接近は結構早くから察知が出来た。
何か大きな体を持つものが歩く音が、こっちに向かって来ているのがすぐに分かったからだ。
ーーードシ、、、ドシ、ドシ
その音は次第に大きくなり、そして俺たちがいる場所に姿を現した。
『ガン、ガンガンガンガンガンガンガンガンガン』
嘴のようなものを叩きつけ音を出して威嚇するそいつは亀だった。
だが、ただの亀ではない。
その全長は15メートルは軽く超えているだろう。
体の大きさだけが全てではないが、戦闘において体が大きいと言うことは有利になりやすい。
それを考えると、こいつも結構な戦闘能力を備えていてもおかしくはない。
俺はこいつを知っている。
そもそもこのダンジョンの情報はある程度調べた状態で来たのだ。
こういった強敵の存在は真っ先に頭に入れた。
「みんな!!一旦下がれ!!そいつは領域守護者だ!!」
まさか遭遇するとは思っていなかったが、どうやら俺は運が悪いらしい。
最近、忙しくなって更新が不定期になっております。
まぁ、そもそも定期更新なんていちどもいったことはないんですがね・・・・