168 食事処と負けん気
エレナの武器は結局短剣に決まった。
そのことを話したところ、今日中にはシュラウドが作ってくれるとのことだ。
本当に彼には頭が上がらない。俺だったらそれをする能力があってもなんやかんやで2日くらい貰いそうだ。
「悪いなシュラウド、いつも苦労をかけて。」
「いいえ。大丈夫ですよ。自分は皆さんとは違い戦うことはできませんから、このくらいはお安いご用です。」
彼はそう言って俺たちの方が偉いと持ち上げてくれてはいるが、今まで色々なゲームをやってきた俺からしたらシュラウドの働きは本当に評価するべきものだと思っている。
戦う人は基本的に武器がなければ戦えない。
一応俺も素手で戦闘はできなくはないが、それでも武器を持った方が強いのは当たり前だ。
エイジスなんかはこの範疇に収まらない、いわゆる例外というやつなのだが、彼はそもそも種族が違うので考えても無駄だ。
武器は必要、特に俺たちみたいな基礎能力が低い人間にとっては特に必要だ。
繰り返すことになるが、つまりは武器がなければ戦えないのだ。
そしてここでシュラウド。
彼は武器を持っても戦えない。だが、それがどうしたというのだろうか?
確かに外に出て魔物を倒せばそれだけ街が攻撃されにくくなるだろう。
だから魔物を討伐すれば報酬がもらえるし、冒険者なんていう職業もある。
だが、突き詰めて言えば戦闘なんてしなくても生きていくこと自体は可能だ。
人間はものを作れる。考えられる。逃げられるし隠れられる。
無理に戦わなくても、生き残ることくらいはできるかもしれないのだ。
そう考えると、戦える人より何かを作ることができる人の方が圧倒的に助かる存在なのではないかと俺は思う。
・・・・と、そういうことを以前前の街で何気無く言ってみたことがあったのだが、シュラウドは
「いえいえ、体を張ってちゃんと帰って来れる方が立派だと思いますよ。」
としか言わなかった。
まぁ、突き詰めたときの話だから両方大切っていうのは俺にもわかるんだけどさ。
こうしてある程度明日のダンジョン攻略の目処がたった。
あとは準備をして眠るだけだ。
その前に夕食を食べることにしよう。
少し前に食べはしたのだが、運動したらまた腹が減ってきた。
ここの宿は食事に関しては追加料金をもらうということだったので、今回それを遠慮した俺は外に食べに行かなければならない。
「ということでシュラウド、今から夕食に行くからついてきてくれ。」
「はい、わかりました。」
シュラウドを引き連れた俺は部屋を出て、鍵を締める。
そしてそれがちゃんと閉まっていることを確認したあと、隣の部屋をノックした。
「俺たちは今から夕食を食べに行くけど、そっちはどうする?」
ノアとリアーゼ、リリスとエレナが泊まっている部屋にそれぞれその質問をした。
答えは両方「YES」だった。
俺たちはどの店で夕食を食べようかと話し合い、昼のうちに見つけはしたが営業時間が夕方から朝までの酒場で食べることにした。
酒場といっても基本的に酒よりは料理の方に力を入れているらし。
これならエレナやリアーゼ、ノアがいても安心だ。
「いらっしゃいませ〜。」
俺たちがその酒場に入ると即座に俺たちの対応にと店員が駆け寄ってくる。
そして俺たちの人数を確認し、それに適したテーブルまで案内された。
何気にこの世界ではここまで気遣いされるのは珍しいかもしれない。
思えば、今まで食べさせてもらっていた食堂やらなんやらは料金だけちゃんと徴収出来ればみたいな感じで結構適当だったような気がする。
「さーて!!早速注文しようよ!!何食べようかな〜。」
ノアが目をキラキラさせてメニュー表を開く。
流石に写真といったものは載っていないが、名前だけでどんなものが出てくるのか想像がつくものばかりだ。
「そうだな・・・今日はノアの奢りでいいんだっけ?」
「ええ!!?なんで!!?」
何気無く言い放った俺の一言に、ノアがびっくりしている。
なんで?と言われても・・・・・
「そりゃあお前、賭けをして買ったんだろう?だったらお金持ってるだろうから出してもらっても問題なくないか?」
お前がエレナの武器選びの時、俺に攻撃を受けるなと叫んでいたのを俺は忘れていない。
「うっ、確かに少しは儲かったけど・・・・」
「ちなみに、あの賭けってレートはどのくらいだったんだ?」
「エレナちゃんが1、3倍、タクミが1、6倍だね。」
へぇ、エレナの方が人気が高かったのか。
短剣を持ち出す前に賭けが始まっていただろうし、その時点では危なげなく回避できていたから意外だな・・・・いや、意外でもなんでもないわ。
男と可愛い女の子、どっちにかけるかと言われたらそれは当然可愛い女の子か。
「で?お前はいくら俺に賭けたんだ?」
「30万Gだね!!」
「よしみんな、今日は18万までなら好きに食べてもいいらしいぞ!」
「わー!ありがとうノアお姉ちゃん!大好き!」
「・・・いっぱい食べる。」
「ありがたく、頂くわね。」
「えっと、、、いただきます。」
俺もありがたく頂くとしよう。正直、ここは別に高給料料理店とかじゃないからいつものように俺が全部払っても問題ないんだけどな。
なんというか、勝手に賭けの対象にされたのが癪だったのでこういう措置を取ることにした。
「むぅ〜、酷いよタクミ!!」
「いいじゃないか。こういう時くらい。ほら、みんなも喜んでいるしいいだろ?」
「うぅ〜、あそこでタクミが大人気なく勝たなければ〜・・・」
俺のおかげで勝てたのに、俺のせいにされるっていうのは少し納得はいかないが、別にいいだろう。
「はいはい悪かったな。大人気なくて。」
事実そうなので俺は言い返さない。というか、ここで必死になって言い返したらそれこそ大人気ない。
うまいものを食わせてもらう立場だし、少しくらいの小言は受け入れるさ。
「まぁいいや。タクミが大人気ないおかげでこうしてみんなに感謝されているんだからね〜。」
「そうそう。俺も感謝してるぜ?この兄ちゃんが大人気ないおかげでうまい飯が食えるんだからさ。」
会話に紛れて、聞き覚えのない声が俺の耳に届く。いや、最近どこかで聞いたような?
その声は明らかに俺たちの会話に入ってきていた。
俺は声の聞こえてきた方向に目を向けた。
その方向には1人の男がいた。テンガロンハットで、皮のチョッキ。
くすんだ色のズボン。腰にベルトを巻き、何やらマントのようなものを羽織っている。
要するに、西部劇にでも出てきそうな男だ。
そいつは俺の視線が言ったことに気がつくと、手を軽くあげた。
「あ!!さっきのおじさん!!」
ノアはその男に見覚えがあったみたいだ。指をさして驚いている。
「おいおいおじさんはやめてくれよ。俺まだ30代なんだからよ。」
その男はノアの言葉を聞いてそう言ったが、どうみてもおじさんだ。
間違ってもお兄さんという容姿ではなかった。
正確な年齢絵を言わずに30代とぼかしたのも少し怪しい。
「えっとノア?誰なんだそいつは」
「えっと・・・・賭け事が好きなおじさん?」
ノアの答えで俺はこの男の声をどこで聞いたのかを思い出した。
こいつは確かさっきの賭けの最中に俺に晩飯が掛かっているとかほざいていたやつだ。
俺が勝ったからこうして飯を食っているというわけだろう。
「な?嬢ちゃん、この大人気ない兄ちゃんに賭けて正解だったろ?」
「そうだね〜、他の人はおじさんの意見は全く聞かずにエレナちゃんに賭けちゃってたけど・・・」
あはは、とノアが笑う。
詳しく話を聞いたところ、そもそもノアが俺に賭けたのはこのおじさんのせいで、元はと言えば彼女もエレナを推していたみたいだ。
だが、絶対に俺が勝つと言われてそれならと変更したらしい。
そもそも賭けるなよと言いたかったが、そこは置いておくとしよう。
「でも、どうして俺が絶対に攻撃を喰らわないと思ったんだ?一撃入るかどうかならエレナの方が有利に見えるんだけど?」
「それは簡単だ。俺がお前に賭けたから。俺が賭けた方が絶対に勝つようになっているのよなぁ?」
・・・?なんだそりゃ?
質問に対する答えがあってないように思える。
これはあれだ。
昔ネットのスレで見た
Q、名前が違うというのはどういうことですか?
A、名前が違うということです。
みたいな受け答えだ。
自分が賭た方が勝つ。自分の運に圧倒的な自信を持っている人間にしかできない考え方だ。
「あ、今お前俺が何言ってるかわからないって顔したな?まあ、気にするな。天才の考えは往々にして理解されないものだからな。」
男はそう言ってニカッと笑った。
バカと天才は紙一重って言う言葉で切り返すべきかどうかを一瞬考えたが、思えばこの男に何か恨みがあるわけではない。
むしろ俺を信じてくれたのだから何も言うべきではないだろう。
そう思って俺がその男から目を話そうとした時、男は思い出したかのように
「まぁ、強いて根拠を挙げるとするならばあんたがかなりの負けず嫌いに見えたってことかな?あんたは子供相手にも全力で戦えるタイプだ。」
と付け加えた。
俺はなんだか自分を見透かされているような気分になった。
それを誤魔化すように、俺は自分たちが座っているテーブルに目を戻す。
あのやりとりの間にもう既にいくつか料理が運ばれてきており、エレナはそれに手をつけていた。
「あ、タクミ。このペースでいけば18万なんてあっという間だから早めに食べたいものは頼んでおくのよ?」
いったいどれだけ注文したと言うのだろうか?
リリスが俺にそう注意喚起してくる。俺は何を頼もうかと即座に目をメニューに落とした。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
よし!!決めた!!
「あー!!あの人って・・・「すみません!!この天麩羅盛り合わせセットとイカ焼きを1つずつください!!あと、ライスも!!」
俺は手を高くあげて近くにいた店員に向かってそう叫んだ。
あとがきで何か言っておこうと思ったことがあったのですが、書いている間にそれがなんだったのかを思い出せなくなってしまいました。