166 戦力増強と教育
今回から第5章です。どこまで書くかを考えていなかったので、今回は短めに刻みます。
俺たち一行はルイエの街に向かう。
今回は珍しく、その道中で何か問題が起こると言ったことはない。丸一日掛かるが、非常に緩やかな旅を楽しむ事ができている。
長い間、馬車に揺られているだけではあるが、雑談などやることは意外に多いため、そこまで暇をしているわけではない。
「あ、あの。タクミお兄ちゃん、すこしいいかな?」
馬車の中で、リアーゼが少しだけ意を決した様子で俺に話しかけてくる。
「どうしたリアーゼ?何か気になることでもあるのか?」
「そうじゃないんだけど、頼みたい事があって・・・・えっと、私も戦いに参加しちゃダメ・・かな?」
リアーゼは少しだけ言いづらそうにそう言った。
戦闘に参加・・・・この前もこんな話をしたような気がしないでもない。マジックパラセリア討伐とか、魔王ベルフェゴールの召喚した魔物と戦う時とか結構貢献してくれたと思うんだけど?
「戦闘にならもう参加してるじゃないか。あのサポートは結構助かってるぞ。」
「いや、そうじゃなくてですね。私も直接戦闘に貢献できないかなって・・・」
「直接って?」
「私も武器とかを使って攻撃してみようかなって・・・」
あぁなるほど。薬品の攻撃から武器攻撃へシフトしても大丈夫か?という事だな。
直接攻撃すれば気づかれやすくなりそうだし、リアーゼのことだからそうなったら迷惑になるとでも思っていちいち許可を取ろうとしているのだろう。
「へぇ、それでどんな方法で攻撃するんだ?」
というか、リアーゼのクラスってどの系統なんだ?いやまぁ、感覚的にわかってはいるけど・・・
「はい、私は近接がそこまで得意ではないので弓を使いたいと思います。」
弓か。
弓に対する俺のイメージとしては面倒というのが1番強い。
相手にしたときもそうだが、自分が使うときも矢を使い分けたり補充したり、最適な距離を見つけたりで案外やる事が多かったりする。
ただ、上手く立ち回ればそれだけのリターンもあるいい武器だとは思っている。
「別にいいんじゃないか?・・・みんなもいいよな?」
特に俺には異論はない。戦闘に協力的なのはいい事だし、大体の敵は『挑発』をすり抜ける事ができずに俺の方向に向くから彼女が狙われることもないだろうし。
「んー?ボクは大歓迎だよ!!正直、後衛が1人ってのも思うところがあったしね!!」
うちのパーティはメイン火力が近接と間接を合わせて2人、ノアとリリスに任せているがリリスは敵を引きつける役も兼任している時があるので攻撃は基本ノアに任せれている。
それがリアーゼも加われば負担は大きく減るはずだ。
「私も歓迎よ。それより、これどうかしら?」
リリスはその話題にほとんど興味がないようだ。それよりかは、今自分の腕の中にいるエレナの髪を2つ結びにして感想をもらいたそうな感じだ。
ちなみにエレナの2つ結びは見た目の年相応で結構にあっていたとだけ言っておこう。
「ありがとうございます!!これから迷惑かけるかもですが、私、頑張りますね!!」
リアーゼは深く頭を下げた。
それで1つ、思い出した事がある。
「そういえばさ、それで言ったらエレナはどうするんだ?一緒に戦ってもらうのか?」
魔王ベルフェゴールが最後に呼び出したエレナは、並みの魔物よりは圧倒的な強さを誇っていたと思うんだけど、それについてはリリスはどう考えているんだろうか?
「その事なんだけど、この子結構身体能力は落ちているみたいね。ベルフェゴールの毒を核として呼び出されたのが影響していたみたい。」
リリスの話によると、エレナを呼び出すのには何かを核として呼び出す必要があるのらしい。で、今回はベルフェゴールの体が使用されたわけだが、それは彼の死とともに消滅。
エレナの素体のほとんどが消え去った形となっているらしい。
つまり、今の状態じゃあ戦闘能力は低いということだ。
しかしそれでもそこそこは戦えるから、別に一緒に戦ってもいいんじゃないか?ということみたいだ。
「でもそれって前の感覚で戦って怪我しそうじゃないか?」
急に身体能力が落ちたんだから、そういうことが起こってもおかしくはなさそうだけど。
「それについてはあんまり問題なさそうね。戦いに多少の怪我はつきものだし、この子、私が消えない限りは死なないわよ?」
リリスが軽く説明してくれたことによると、彼女が魔王ベルフェゴールから引き取ったものはエレナという少女ーーーだけではなく彼女を呼び出したりするスキルも一緒だったみたいだ。
だからリリスが死なない限り、エレナの体が壊されてもリリスの中に帰るだけなのだと・・・・
なんだそりゃと思ったが、それが事実らしい。
「でも身体能力が落ちているっていうんだからそのまま戦わせるわけにはいかないよな?やっぱり何か武器を持たせるとかしないと。」
「それはそうね。・・・ねえシュラウド、この子にはなんの武器が似合いそうかしら?」
似合う似合わないではなく、得意不得意で選んで欲しいものだ。
「自分にはよくわかりません。色々持ってきていますので、1つずつ試してみてはいかがですか?」
シュラウドは彼にプレゼントした家に色々なものを詰め込んで持ち運んでいるみたいだ。
当然その中には、店で取り扱っている武器の一部も存在している。
「ちなみにエレナちゃん、何か使ってみたい武器とかあるかしら?」
一応リリスも本人の希望は初めにとるみたいだ。よかった。このままエレナの意思を全く無視して似合うか否かで決められるものかと思ってた。
「・・・・」
彼女はリリスの言葉を聞いて色々考えているみたいだ。
頭を捻らせているが、答えは出ないらしい。
「やっぱり実物を見ないと難しいわよね?シュラウド、何かすぐに取り出せる武器はあるかしら?」
「すみません、全て家の中ですので、この場所では取り出せません。」
「あ、それでしたら私がいくつか持っていますよ。」
リアーゼがカバンの中に手を突っ込み、その中から剣を取り出した。
長い間俺が愛用していた木の剣だ。
「タクミお兄ちゃんはすぐ武器をダメにするから、こうやっていつも準備しているのです!」
えっへん!、という様子でそんなことを言っているが、事実なので否定はできない。
だが誤解しないで欲しいのは、俺が武器を壊すのは武器が脆いのが原因なのだ。別にわざとやっているわけではない。
リアーゼから木の剣を受け取ったエレナは、興味深そうにそれを手に持って眺めた。
そして次の瞬間ーーー〜ーブン!!という音を立ててそれを一度振った。
流石にこの行動を予測できなものはいなかったみたいだ。みんな認識はできたが、反応はできなかったみたいだ。
今、俺たちがいるのは馬車の中。
今回はそこそこ大人数だということで広めのやつを手配したが、それでも剣を振り回すことできるほど広いわけではない。
つまり、こうやって狭い室内で剣を振れば当然何かには当たるわけで・・・・今回はそれは俺だったみたいだ。
ガツン、と頭に硬いもので殴られる衝撃が走る。
「ちょっとエレナちゃん!ダメじゃないそんなことをしたら!!」
「・・・・何か間違えた?こうやって使うものじゃない?」
「いや、剣の振り方は大体それであってるぞ。」
頭を殴られはしたが、リリスのいうとおり身体能力が落ちているせいだろう。その一撃は俺にはほとんどダメージを与えなかった。
だからというわけではないが、俺は別に気にしていない。
「・・・そう。ありがとう。」
だが、俺がそう言ったせいだろう。エレナは再び剣を振り回そうとする。
別に当たってもそんなに痛くはないのだが、流石に危険だ。
だから俺は彼女の手から剣を取り上げてそれを阻止する。
「・・・どうして?間違っていないって言った。」
「確かに使い方は間違ってないけど使う場所が間違ってるんだよ。これは敵が出たときに使うもの、あと、見方を攻撃したらダメだ。」
俺がこの短い期間のエレナとの付き合いで気づいたことは、この子はほとんど何も知らないということだった。
ベルフェゴールはそこら辺、何も教えておらず食べ物と言われたものは食べる、とかそのあたりの最低限しか知らないみたいだった。
だからこうやって1つずつ教えて行く必要があるのだ。
「あぁ、兄が妹に正しいことを教える姿!!とってもいいわ!!私の子供達はとっても仲がいいのね!!」
ただ、俺がやるとリリスが暴走しそうになるのはどうにかならないのだろうか?
多分だがどうにもならないんだろうな。
「アンさん達。見えてきたよ。」
そんなやりとりをしていたとき、馬車の外からそんな声が聞こえてくる。
その声につられて、俺たちは馬車の窓から前方を見て見た。
「うわぁ!!あれが今回の目的地だよね!!」
俺たちの視線の先には、海と隣接する街ーーー今回の目的地であるルイエの街の姿が映し出されていた。
それから大体20分程度経った後、俺たちはその地に降り立った。
第5章書き始めたばっかりで悪いんですが、第6章どうしようか・・・・
そんなことばかり考えています。