165 感謝とお返し
魔王ベルフェゴールが討伐されたことによって、彼の毒に侵されていた人間は皆元気を取り戻したみたいだった。
その証拠と言ってはなんだが、
「おお!君か!!此度は僕のために本当にすまない。この恩は必ずーーー」
エリックが元気にギルド内で騒いでいる。
魔王を討伐し終えた後日報酬を受け取りに来たら二階からすぐに降りて来てこれだ。
ずっと眠っていたから体力が有り余っているのだろうか?
今回の魔王討伐の報酬は参加した者全員で山分けということになっている。
通常、討伐依頼を受けた場合は仕留めた人に全ての報酬が支払われるのだが、こういった強者を協力して倒した場合にはその限りではない。
だから俺は安心して報酬を受け取りに来ていた。
「では、こちらが今回の報酬、1億4000万Gになります。ご確認ください。」
ってあれ?
「あの、、、」
「はい?どうなさいましたか?」
報酬が聞いていた額と大きく違うようだけど、どういうことだろうか?
確か魔王討伐の報酬は3億Gを頭割り。
だいたい参加者は25人くらいだったので、1人当たり大体1200万Gくらいのはずなんだけど。
俺は今日、パーティメンバー全員の報酬を受け取りに来ているからその額よりは多くなるのは当然なのだが、それでも多いような気がする。
「明らかに多いんですけど、何か間違えていませんか?俺たちのパーティは4人で参加したから4800万くらいのはずでは?」
「そのことなのですが、他の冒険者たちからの情報にあったのですが、敵の戦力が予想外に多かったらしいじゃないですか。」
「まぁ、確かに・・・」
思ってみれば作戦開始当初予想していた戦力より敵の戦力は多かったよな。
エイジスはともかく、魔王があんなに大量に魔物を召喚するのは少し予想外だったかもしれない。
いや、もっと正確にいうならあんなに強いやつを召喚したことが予想外だよな。
「それでは今回の報酬とは少し見合わないと判断したギルド側から、ボーナスという形で報酬の増額が行われたのです。」
「それにしても、増えすぎじゃないですかね?」
「それは他の冒険者達が、あなた達に自分のボーナスの大半を渡してくれ、という声がかかったからですね。本来なら4人で8000万と少しです。」
ん?なんでそんなことになっているんだ??
報酬がバカみたいに増えたことには理解が行ったが、どうしてそうなったのかは理解ができない。
「わからない。という顔をしていらっしゃいますね。皆さん、あなたのパーティにはとても助けられたと言っていましたよ。特にアリオスさんなんか、ボーナスどころか元の報酬まで削っていたご様子です。」
アリオス誰だよ・・・と思いはしたが、確か冒険者パーティのまとめ役をやっていたやつの名前がそんな感じだったような気がする。
それにしても、こんなに大金を手に入れたら何ができるのだろうか?
使い道を考えようにも、小市民でしかない俺には使いきれる気がしないな。まぁ、使われなかった分は店の運営資金にでも回せばいいか。
それに、少なくとも少しは使い道を考えてあるのだ。
あまり悩むことでもないだろう。
「そうですか。なら次にあったときにでもお礼を言っておくとします。ではありがとうございました。」
「いえいえこちらこそ、この街の危機を救ってくださり本当にありがとうございました。私共一同、感謝しております。」
別に魔王を倒したのは冒険者みんなであって、俺たちだけではないのだが感謝の気持ちは素直に受け取っておくことにした。
報酬を受け取った俺はそのまま冒険者ギルドを後にしようとする。
「ま、待ってくれ我が友よ!!」
だが、ギルドの扉を開く寸前でエリックに呼び止められた。
「どうしたんだエリック。何か用事でも?」
「えっとそうだな。実は明日の午後から魔王討伐記念のパーティをやるのだ。君も出席してくれないだろうか?」
パーティのお誘いか。考えてみれば、俺ってそういうのをやったことがほとんどないんだよな。
でも、明日の午後か・・・
いまの予定では明日の朝にはもう既にルイエの街に出発しているんだよな。
「すまんエリック、残念だけど多分参加できない。」
「む?そうか。残念だが仕方ないな。でも気が変わったらいつでも言ってくれ。」
エリックが逆に申し訳なさそうにそう言う。
少し罪悪感だ。俺はそれを誤魔化すように、もう用はないなと言う感じで今度こそギルドの外に出ようとした。
「ま、待って!!」
だが、また呼び止められる。
俺は再び振り向いて、声のした方を見た。
その方向にはエリックのパーティメンバーであるオリビアがいた。
彼女は少しだけ息を吸い込み、そしてそのほとんどを吐き出した後呟くように、
「あの、助けてくれてありがと、感謝するわ。」
その言葉を口にした。
「オリビア!感謝の言葉はもっとはっきりと言うべきだぞ!!」
そこに空気を全く読まないエリック。
俺の予想だが、さっきの言葉でさえ結構勇気を出したって感じだったんだけど、それ以上をエリックはご所望だ。
「ああもうエリックは黙っててよ!!とにかく、ありがと!!私が感謝してあげるんだから、感謝しなさいよね!!」
オリビアは少し嫌そうな顔をしながら今度は大きな声でそう言った。
「それにしても、オリビアがちゃんとお礼を言うなんて意外だよ。」
「どうしてよ。私だってちゃんと感謝の言葉を言うときは言うわ。」
「いや、だってお前俺のこと嫌いだろ?」
いつも射殺すような視線を俺に送って来たことを忘れてはいない。
「そりゃあ、悪魔と仲良くやっているあんたは大っ嫌いよ。でもそれとこれとは話が別。」
「そうか。」
俺はその言葉を受け取り、今度こそギルドを後にした。
そしてそのままみんなが待っている宿に戻るーーーー前に少しだけ寄り道をして帰った。
◇
「ただいまー。」
俺は自分の部屋の扉を開く。
扉を開けた先、そこにはリリスとシュラウド、そしてリリスが魔王から引き取った少女ーーーエレナがいた。
ノアとリアーゼは自分の部屋だ。
「お帰りなさいタクミ、それで?どうだった?」
「そうだな。思った以上に報酬が多くてびっくりしてたよ。これ、リリスの分な。」
俺は4つに分けられた袋の1つをリリスに手渡す。
流石に大金が入っているため、持ち歩くのを少しためらうくらいには重い。
「あらありがとう。これがあればエレナちゃんに好きなものを買ってあげられるわね。」
リリスはエレナを抱き上げてそう言った。
出会って数日しか経っていないというのに、えらく仲がいいなと思った。
「それで、今日はこれからどう致しましょうか?」
今日は休みにするように言ったため、俺たちの店は現在しまっている。
突然休暇を言い渡されたことで、唯一の外部従業員であるスペラが喜んでいたりもしたな。
「あー、そうだな。ちょっと渡したいものがあるからのあとリアーゼを呼んで来てくれるか?」
自分で言ってもいいのだが、こう言う場合は誰かに呼んでこさせた方がいい。
俺はそう思ったのでシュラウドにそう頼み込む。
「分かりました。すぐに呼んで来ますね。」
彼はその頼みを快諾してくれた。
部屋を出てすぐにノアとリアーゼを連れて戻ってくる。
初めてこの宿に来たときは4人だけだったが、今では人数も少しだけ増えて部屋が狭く感じる。
まぁ、マルバスがでかいライオンの体で居座っていたときよりはマシだけど・・・
「タクミ!!急に呼び出してどうしたの!!?」
元気よく部屋に入ってくるのは毒から回復したノアだ。
リリスが魔王を倒すまでの間、ちゃんと約束通り耐え切ってくれた。そのときは本当に安心したものだ。
「報酬を受け取って来たからまずはそれの分配からだな。」
今回はギルドの人があらかじめ分けてくれていたからいちいち面倒な分配をしなくて済んでいる。
俺はのあとリアーゼの分の報酬をそれぞれに手渡した。
「おおー!!これだけあればあれだね!!美味しいものをいっぱい食べられるね!!」
ノアの想像はそこで止まってしまったのだろう。
人が大金を手にしたとき、それをどう使うかを考えるのが普通なのだが、ノアはそれが食欲に行ってしまったらしい。
実に彼女らしいと思う。
「そうですね!これだけあればもっといいお薬を常備出来そうです!!」
リアーゼは自分のため、と言うよりはパーティのために使うつもりらしい。少しは自分の好きにしてもらいたいものだが、それはあまり俺が言うようなことではない。
リアーゼの出費は薬に行くらしいので、最悪俺たちが使わせないように立ち回ればなんとか自分のために使わせることができないこともないからな。
「えへへ、ありがとねタクミ!!じゃあボクはもう部屋に戻ることにするよ。明日の準備もあるしね!!」
明日はついにずっと延期になっていたルイエへの出発の日、それの準備をするためにノアが部屋に戻ろうとする。
それに続くようにリアーゼも。
「あ!ちょっと待ってくれ。まだそれだけじゃないんだ!!」
「ん?これだけじゃないって?」
疑問に思っているノアをよそに、俺は先ほど寄り道をして買って来たものを取り出した。
「まず、リアーゼにはこれだな。」
そしてそのまま俺はそれをリアーゼに手渡した。
「えっとこれって・・・!!?まさか!!」
疑問に思いながらも受け取ったリアーゼはそれをまじまじと見て、それが何かに気づいたみたいだ。
「うん。魔法の鞄、無限の小魔法鞄だよ。」
小さい鞄だが、その容量は計り知れない魔法の鞄だ。
リアーゼはいつも小さな体で大きな鞄を背負って大量のアイテムを運搬していた。
彼女自身は大丈夫だと言っていたが、見ているこっちが大丈夫ではない。
小さな女の子に荷物を持たせるとか、流石に良心が痛むのだ。
それを解消するためのアイテムがこれだ。
どんなにアイテムを入れてもその鞄が膨れることはない。それに、重量も常にその鞄の分しかかからないという夢のようなアイテムだった。
ちなみに、お値段大体1000万G。そこそこ値が張るが、性能を考えると安いまである。
「えっと、いいんですかこんなに高価なものをもらって?」
「いいんだよ。この前の贈り物のお礼、それといつも頑張ってくれていることのへのお礼お兼ねてな。」
「わ、私のプレゼントなんてこれと比べると・・・」
「贈り物は値段じゃないってこの前言っていたろ?・・・それを考えると俺のやつの方が無粋かもな、はは。」
「そ、そんなことないです!!」
リアーゼは顔を赤くして否定してくる。そして俺のあげた鞄をぎゅっと胸の前で抱きしめた。
ちゃんと受け取ってくれたみたいだ。
「じゃあ次、ノアにはこれだな。」
次に俺が取り出したのは1つの腕輪だ。
銀色の輝きを放つそれには、赤と青の宝石がそれぞれ対象になるように埋め込まれている。
「うわあ!ありがとうタクミ・・・・・で、これってどんな効果があるの?」
それを知りたければアイテム詳細を見ればいいだけの話なんだけど、それをしないのは以前俺がやったことと同じ理由なんだろうな。
俺はそう思いノアに渡した腕輪の説明を始めた。
ノアに渡したのは共進の腕輪という、召喚士にとって意味のあるアイテムだ。
値段はそこまで高くはないが、強いて言うならこれを店で見つけるのには苦労した。
そしてその効果は召喚魔法にボーナスがかかるというものだ。
「なるほどねー。ボクが1番上手く扱える装備ってことだね!!」
「俺たちのパーティじゃあそう言うことになるな。次にシュラウド。」
「自分ももらえるのですか?」
「当たり前だろ?お前この前すごい剣くれたじゃねえか。」
俺がシュラウドに渡したのは1つの石板だった。
それを受け取ったシュラウドは興味深そうに眺めている。
だが、それが何なのかの答えは出なかったみたいだ。
「タクミ様、これは一体なんなのでしょうか?」
「それは持ち運びが可能な家って言ったところだな。」
「家ですか?」
「うん、考えたんだけどさ。やっぱりこの街に店があったらシュラウドは外に出にくいだろ?だからさ、出張用の店として買って来た。」
「なるほど。自分にはもったいないほどいいものです。」
シュラウドの表情はほとんど変わらないが、それを喜んでいるのはよく見て取れた。
最近、彼が何を思っているのか、少しだけだがわかって来ているような気がするのは気のせいではないはずだ。
「この流れでいえば私にも何かあるのかしら?お母さん、どんなものをもらっても嬉しいわよ。」
当然、リリスにもちゃんと用意してある。
1番何を渡すか悩んだのはリリスだ。
彼女は何が喜ぶだろうか?そう考えて色々な答えが出て来たが、どれもピンとこなかったのだ。
彼女は食べることが好きだ。だからと言って食べ物を渡すのは安直だし、ただ単純に高価なものを渡したところでリリスはそんな物は興味がなさそうだ。
リアーゼみたいな便利なものをーーーと考えもしたが、リリスのスライムが大概便利すぎてこれも没。
で、結局持って来たのが・・・
「喜んでもらえるかわからないけど、これ・・」
シュラウドやノアのものと違い、それは見ただけで何かがすぐにわかる。
「まあ!これは、、、、早速着てみてもいいかしら?」
リリスへの贈り物は1着の服だ。
一見地味だが、よく見れば所々に装飾を施されており見るものを惹きつける。
ぶっちゃけてしまえば、踊り子用の服だ。
一応、リリスに似合う見た目で選んだつもりだが、性能もかなりいいものだ。
「いいぞ。俺は後ろを向いているからその間に着替えてくれ。」
俺はノアたちがいる、扉の方を向いた。
シュラウドも俺と同じようにそっちを向いている。あと、なぜかのあとリアーゼも。
「別にみたかったらみてもいいからね?」
リリスはそんな前置きをしながら着替えを始める。
シュルシュルときぬ擦れの音がしばらくなり続けた後、
「いいわよ。」
リリスがそう声をかけた。
俺は声に釣られるように振り向いた。
・・・・
・・
「どうかしら?」
「うん、やっぱり見立て通り似合っているよ。」
「うわあ!!すごい綺麗だよリリス!!ねえタクミ、ボクにもこんな服ないの!!?」
「リリスさん、、美しいです。」
俺よりもどっちかと言うと女性陣の方がはしゃいでるような気がする。
でも俺の心中ではそれに劣らないくらいにははしゃいでいたような気もする。とにかく、その服を着ていたリリスはとても美しかった。
美しいと言う言葉では、何も表現できていないくらいには・・・
「そう。ありがとね。」
褒められたリリスは少し照れるように笑った。
◇
「じゃあボクはもう部屋に戻るね!!結構準備も大変なんだから!!」
「私も!!新しい鞄に移し替えたり忙しいです!!」
リリスの服のお披露目が終わった後、ノアとリアーゼは素早く部屋に戻ってしまった。
まぁ、いまは2人に用事はないから別にそれはいいだろう。
「それにしても、魔王ベルフェゴールって結局何がしたかったんだろうな?街を落としているように見えたけど、そんなに本気じゃなさそうだったし。転移が使えるみたいだったけど最後、負けそうになったときにも使わなかったよな?」
明日の準備をしながら、手だけ動かすのも退屈なので俺はリリスに話しかけた。
「それについてはもうわかっているわよ。簡単に言えば、疲れちゃったのね。」
「疲れた?」
「ええ。もうどれだけ生きたかわからないくらいだもの。怠け者の彼は生きることに疲れちゃったのね。」
ベルフェゴールといえば怠惰の悪魔。
生きることに疲れたから、最後には死ぬことを選んだって言うのか?
「それだけなら自殺でもすればいいのに・・・一体どうしてこんなことを?」
「それは簡単よ。エレナちゃんを預ける人を探していたみたいなの。彼が死んだら、エレナちゃん、1人になっちゃうらしいから。」
そういえば、エレナって魔王の固有スキルで呼び出された割には魔王が死んでもそのまま残っているんだよな。
これって魔王とは切り離された存在なのか、そもそもそう言う仕様なのか。
今のリリスの発言を聞くに前者だろうな。
「ってことは何か。エレナを守れるほど強いやつを探してついでにそいつに殺してもらおうって、そう言う魂胆だったってわけか?」
「大体、そんなところね。本当、初めから私を頼ってくれればこんなことをせずに済んだのにね。」
リリスは少し怒ったようにそう言った。
「あれ?その口調だと、やっぱりリリスってベルフェゴールのこと知ってたのか?」
ベルフェゴールのことを怠け者、とか言ってたし、あれ?でもこの前聞いたときは知らないって。
「ええ。最後の最後に思い出したのよ。あいつ、ずっと引きこもっていて一度しか見たことなかったから忘れてたわ。」
そうなんだな。今更言っても仕方のないことだが、確かに、少し暗い周りを頼ってもよかったのかもしれないよな。
それができなかったのは、怠け者なのか。それとも性格が醜くねじ曲がっていたからなのか。
それは誰にもわからない。
「ああそうだ。まだプレゼントタイムは終わっていないんだよな。」
「?まだ何か持ってきてたの?でももうみんなには配り終えたでしょう?」
俺が寄り道して買ってきたものの中からそれを取り出そうとしているときに、リリスが疑問に思ったことを口にした。
確かに、ノア、リアーゼ、リリス、シュラウド、みんなの分は全て配り終えた。
でもまだ1人、何も渡していない奴がいるだろう?1人だけ仲間はずれは良くないよな。
そう思って買ってきていたのだが、リリスの衝撃が大きすぎて一次的に頭から抜けていた。
「エレナ、ちょっとこっちにきてもらえるかな?」
俺の言葉を聞いたエレナが、一瞬だけリリスの方を見てから俺の方に近づいてきた。
近づいてきたエレナの頭に、俺はそれをつける。
「さて、リリスの方に戻っていいぞ。」
そして俺はエレナを送り出した。
俺の方に顔を向けていた彼女は、リリスの方に振り返ってそれを彼女に見せつける。
「まあ!!」
それを見たリリスは少し驚いたような表情を見せた。
リリスが魔王から引き取った少女エレナ、その頭には宝石で作られた白いの髪飾りが乗せられていた。
今回で第4章は終幕になります。
長くダラダラ続いた第4章でしたが、ここまで読破いただきありがとうございます。
第5章は少し開けてから投稿しようかな、そんなふうに思っています。
内容的に、または設定的に何かわからない事があったら感想、もしくは作者ツイッター辺りで言ってください。
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