164 魔王の願いと蠱毒の少女
びっくりした。
最後の戦場に向かって歩いていると突然、魔王がいる方向から強烈な風が押し寄せてきたのだ。
そしてそれに続くように後ろからも強烈な風が・・・・
それには何とか踏ん張って耐えることができたが、それが吹き抜けたあと、遠くに見えていたノアが急に具合が悪そうに膝をついているのが見えた。
どうやらさっきの風は魔王の毒のようだ。
こう言う時には本当に異常無効化のスキルを取得しておいてよかったと思う。
これがなかったら今ので俺も戦闘不能だからな。
俺はその風が吹いたあと、急ぐようにノアに駆け寄った。
「ノア!!大丈夫か!!?」
「あ、タクミ、そっちは無事に終わったんだね。うん、ボクは大丈夫だからリリスの手助けをしてあげて。」
その言葉を口にするノアに、いつものような快活さはなかった。
どう見ても無理して話をしている。そんな様子だ。
どうにかして彼女を助けなければいけない。だからこそ俺はノアをここに放置しておくことを決めた。
そもそもこの戦いはこの街に撒かれた魔王の毒を消し去るための戦い。
この状況でやるべきことは当面の予定通り、魔王を打ち倒すことだけだ。
「ごめんなノア、これが終わったら何でも言うこと聞いてやるから終わるまで耐えてくれよ・・・」
「あー、言ったねタクミ!!絶対だよ!!?」
「ああ、絶対だ。・・・お前は多分新しいノアの召喚獣だよな?ノアのこと、頼んだぞ。」
「そりゃあまあ、呼び出された身ですし?リリスさんが怖いからちゃんと護衛くらいはしますよ。」
先程からノアの近くにいる梟は渋々、と言う様子を見せながらもノアを守ってくれるようだ。
少し思うことがないでもないが、すぐにでもリリスのいる場所へ向かわなければならない。
俺は会話はそこまでにして、リリスと黒い糸繭が存在している場所に向かった。
「リリス!!」
俺は彼女の名前を呼ぶ。
「あ、タクミ!!ちょっと手伝ってくれるかしら!!?この繭、想像以上に硬いのよ!!」
そう言ってリリスは思いっきり糸繭に向かって槍を叩きつけた。
宙に浮いている糸繭だったが、それはリリスの攻撃を受けてもびくともしなかった。
彼女が手加減している様子はない。
であるならば単純にそれだけ硬いということだろう。
「この中にベルフェゴールがいるんだな!!?」
「そうよ。あいつ、さっきの毒の風でやることは済んだって感じで引きこもっちゃったのよ!!」
さっきので文字通りやることは終わったのだろう。
先程の風の勢いを考えると、この街全体に届いていてもなんらおかしくはない。
あとは時間が経つのを待っていればそれだけで耐性がないやつは全滅してしまうだろう。
「そうか。ならすぐにでもこじ開けないとな!!」
俺は黒牙の剣を使って目の前の糸繭を大きく切り裂いた。
俺の攻撃で、少しだけだが糸繭に切れ込みが入る。だが、その傷は少し時間が経つとすぐに塞がってしまった。
「うわぁ、これは結構厄介だな。」
いくら硬くても、俺の持っている剣には防御力を2割まで無視してくれる効果がある。
だからこの糸繭はすぐにでも破壊できると思ったのだが、自己修復機能持ちとは恐れ入った。
次に俺は一撃ではなく、連続攻撃をその繭に向かって放ってみる。
だが、確かに傷はついていっているのだが、ギリギリ決定力が足りない様子だ。
あともう少しというところが届かない。
「タクミ大丈夫?私が変わろうか?」
リリスがあともう少しのところで壊せないのを見て、自分なら壊せると思いそう話しかけてくる。
リリスの力は俺より強い。
俺があと少しなら、リリスなら壊せるかもしれない。
そういうことなんだろうが、現状では無理に思われた。
俺は感覚的に半分まで切り開いたと思ったらそこで『斬鉄』を使って火力を底上げしている。『純闘気』も初めから終わりまで起動している。
要するに、この一瞬において俺の方がリリスより攻撃能力が高いのだ。
「それじゃあ無理そうだよな。・・・なぁリリス、今俺が叩いて見た感じ、足りないのは攻撃力と素早さ、どっちだと思う?」
「ーー?そうねぇ。・・・どっちかで言えば素早さかしら?最後の一撃、スキルを使って攻撃力を上げてるみたいだけど、あんまり強化されているようには見えないもの。」
確かにそうだな。
こっちは相手の防御を2割無視する。
それは逆に言えばこっちの攻撃を8割軽減されているのとほぼ同じだ。
相手の防御が高い場合、細々とした攻撃を連続で続ける方がいいような気がしないでもない。
どうせあと少し攻撃を加えることができれば壊せそうなところまで来ているんだ。
どっちを上げてもほとんど変わらないだろうし、ここはリリスの指摘通り素早さを高めるとしよう。
「あ、1つ聞くけどリリス。お前1人でこの中にいるやつ倒せそうか?」
いけないいけない。
これだけは聞いておかなければいけなかった。
「ええ、いけるわ。この中から出て来たら私も出し惜しみしないで一気に勝負を決めちゃうから、タクミの出番はここで打ち止めね!」
そうか。それなら良かった。
多分だけどこの繭を破壊し終わったら俺は、・・・・
そんなことを考えながら俺は『白闘気』を発動させる。
素早さアップなので今回は変更なしだ。
だが、これだけでは足りない。状況が切羽詰まっている現在、できれば次の攻撃で確実に破壊したい。
その思いから俺は『限界到達』も同時に発動した。
これで今から少しの間、俺の速度は誰にも追いつけない場所にまで到達する。
俺はその速度を存分に使い、次々とその糸繭を切りつけていった。
さっきまでは1度目の攻撃と2度目の攻撃の間にはすでに少し再生されていたのだが、今回はそんなことはなかった。
切った分だけ、確実に前に進んでいる。
「あああああああ!!いい加減、壊れろ!!」
その速度を落とすことなく俺は糸眉の中心近くまで切り開く。
「ああーー、まさか揺り籠が壊されるなんて・・・」
そしてそんな声とともに、その糸繭は維持能力を失ったのか俺がつけた傷からガラガラと崩れていった。
そしてその中心には魔王の姿。
俺は上げた速度を利用して、そのまま魔王にも切りかかった。
『限界到達』を使うと体へ大きく負担がかかる。
それを回復なしに連続使用してしまっているのが現状だ。
リアーゼのおかげで痛みはないが、感覚的にもうすぐ動けなくなるだろうということはわかっていた。
だが、魔王相手にやられっぱなしじゃあ少し面白くない。
俺は動ける時間を最大限に使って攻撃をしようとした。
だが、繭を壊してから剣を触れたのは一度だけだった。しかしその一撃は確かに魔王にまで届いている。
「揺り籠を破壊してすぐに切りかかってくるとは、あなたはとても元気ですね。」
その届いた一撃は魔王が咄嗟に構えた短剣によって勢いを殺されてしまった。
圧倒的な速度での攻撃だったため、流されたりはしなかったが威力としては少し足りない。
繭を壊すのに『斬鉄』さえ使っていなければこの一撃で仕留めれたかもしれないが、それはいっても仕方のないことだろう。
そもそも壊さないと攻撃すらできなかったのだ。
俺は剣を振り抜いた勢いのまま走り抜け、そして少しだけ離れた場所で前のめりになって倒れた。
ああ、時間切れだな。
「リリス、後は頼んだぞ。」
「任せときなさい!タクミが頑張ったんですもの、私が負けるわけにはいかないわ!!」
呟いただけだったのだが、俺の言葉は届いたみたいだ。
よし、後は彼女に任せれば大丈夫。
そう思った時、ふと俺の体が軽くなった。そして少しだけだが意識が薄れる。
なんだ?
そう思ったときにはもうそれは終わっていた。
一瞬で俺の視界に移るものが変わる。
気づけば俺はノアの隣まで来ていた。
「お疲れタクミ、場所的に危なそうだったから。ボクが移動させておいたよ。感謝してよね。」
息も絶え絶えの様子のノアがそういって笑った。
ノアが召喚によって俺を戦場から遠ざけてくれたみたいだ。
「そうか。ありがとうノア。」
俺はそう言ってリリスと魔王がいる戦場へと目を向けたのだった。
◇
タクミがノアによって転送された後、リリスは宣言通り全力で魔王を倒しに行く。
魔王は逆にリリスにどうやって対抗しようかと思案する。
魔王ベルフェゴールのスキルはどれも強力だが、1日に1度しか使えないものが多い。
そしてそのほとんどを使ってしまった。
毒の攻撃は自分の身体能力のため無制限に使えるものの、リリスにそれは効かない。
となると、ここで使えるのは本日まだ使用していない最後のスキルだけだった。
魔王はそれを使うことに迷いがなかった。
だってもう、これしか残されていないのだから。
魔王は守りに徹する戦いをしながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「ーーーその花は我とともに生まれ、生きることの儚さを体現する。」
「呪文詠唱!!?随分と余裕ね!!」
一部の魔法使い系のクラスを持つものは詠唱破棄をすることができるからこの限りではないが、基本的に魔法を使用するときは詠唱がつきものだ。
魔法使いはこの詠唱中に攻撃をされないために通常は後方で戦士の陰に隠れて安全を確保しているが、別にやろうと思えば戦闘をしながら詠唱ができないというわけではない。
しかし詠唱と戦闘、2つのことを同時にやるとどちらも疎かになってしまうため、通常はよほど切羽詰まった状況でなければ、戦闘と詠唱は切り離すべきだった。
詠唱に少なからず気を取られている魔王はリリスの攻撃を避け切ることが困難になり、次々と繰り出される攻撃に少しずつ削られている。
だが、致命傷だけは避けている様子であった。
「ーーー光なき、混沌渦巻く邪悪な大樹で生まれたその花は・・・」
「ちょっと!!?今攻撃ちゃんと当たったはずよね!!?」
魔王はリリスの一撃を受けても、その詠唱を止めようとはしない。
「ーーー周りにあるもの全てを穢し、蠱毒の中でも美しく、何より強く咲き誇る毒の花。」
「詠唱をやめなさいって言ってるのよ!!」
詠唱中にできている隙を存分に使い、リリスは渾身の一撃を魔王に叩き込んだ。
その一撃は見事に胸部を貫いた。人間が相手なら、これで勝負はついている。
「ーーーさあ、今こそ!!我が身より生まれし毒を糧として、人の形を持ち、今ここに狂い咲け!!『|蠱毒之恋人』!!!」
だが、相手は魔王。
その一撃で絶命はしないし、その一撃を耐えて呪文詠唱を完成させた。
詠唱が完了した魔法はそのまま発動まで持っていかれる。
魔王が呪文を完了させると、それまでイドルによって抑えられ、その場に留められていた毒が一箇所に集まっていった。
そしてその毒を核として、1人の少女がその身を形成した。
肌は焦げ茶色で、紫色の長い髪、そしてその人位は赤く輝いていた。
見ようによってはただの女の子だ。
だが、魔王が危険を冒してまでこの場に呼び出したのだ。
ただの少女であるとは思わない。
「あぁもう!!敵が増えちゃったわ!!」
リリスは槍を勢いよく引き抜く。
そんなことを口にしはしたが、詠唱中に魔法自体には大ダメージを与えていたのでそこまで問題にはしていなかった。
「さて、養分は目の前ですよ。」
魔王は少女に指示を出す。指示と言うよりは教え込んだことを実行させる。
そんな感じだ。
「養分、、、なら食べる。」
少女はその言葉を聞き、リリスを標的として認定する。
そしてすぐに動き出した。
少女は一直線でリリスに向かう。
その速度は凄まじく、少なくとも魔王ベルフェゴールより速い。
醜悪な魔王の中にいた陰の殺戮者よりも速いだろう。
リリスは向かってくるならば、と一度魔王を遠ざけて少女の攻撃を槍で受け止めた。
ガン!!と言う音が鳴る。
リリスの腕には信じられないほどの衝撃が走っていた。
(信じられない!!こんな少女のどこにこんな力があると言うの!!?)
自分には少し劣るが、それでも十分すぎる力だ。
少なくとも、今の一撃でリリスの警戒心を最大まで引き上げるのには十分なほどだ。
「驚きましたか?その娘、私より強いんですよ?」
リリスの驚く姿が見られてご満悦の様子のベルフェゴール。何かに満足したのだろうか?一人称が少し変わっている。
単純な戦闘能力において魔王より強い少女、それに加えて魔王を相手にしないといけないのは流石に辛い。
そう判断したリリスは切り札を切る。
できれば切りたくないと思っていたのだが、こうなってしまっては仕方がないのだろう。
「そう?それならまずは弱い方であるあなたからね。この娘もあなたの固有スキルで生み出した子なんでしょ?それならあなたを倒せば全て解決するはずよ!!」
「う〜ん、それはどうでしょうね。それに、それを許すとでも?」
少女は魔王を守ることができる位置にいる。
それを無視して攻撃するなんてことができるのだろうか?
人数がいればできるだろう。だが、今は1対1だ。
それができるとは到底思えない。
だからリリスはその前提をぶち壊す。
「ええ。今のままでは無理でしょうね。だから数の暴力で突破して見せるわ!!さあみんな起きてお母さんを助けなさい!!」
リリスが発動したのは彼女が持つ一番の特徴とも言える固有スキルだ。
その名を『不定の落とし子』。
存在だけを確認しているタクミが勝手に『スライム創造』と呼んでいるあのスキルだ。
リリスはそのスキルを全力で行使する。とりあえずレベル75のスライムを20匹、順番に生み出した。
これだけでその日生み出せるレベルを大体半分を使用したことになる。
だが、このくらいやらなければ確実な足止めはできないだろうとリリスは考えたのだ。
生み出したスライムはどれも戦闘特化にしてはあるものの、その性質は少しずつ変化を加えられていた。
どのような状況にも対応できるようにするためだ。
「さあみんな、行くのよ!!」
リリスは少女の方を指差してそう指示を出した。
その言葉に従うように、スライムたちは進行した。
少女は何の疑問も抱かずにそのスライムたちと相対する。
スライムたちには技術といったものは一切ない。そのため強さはレベルに比べて少し弱いが、それでもこの数は驚異だ。
だがそれは普通ならの話。
少女は戦闘を走ってくるスライムに手を突き入れた。
相手は不定形の魔物、形が変わるだけでダメージが入ったようには見えない。
それどころか逆にその溶解液のような体液で少女の手の方にダメージが入っている。
だが次の瞬間、スライムの色が急変した。
少女は魔王の毒を使って作られている。その毒がスライム内を回ったのだ。
「成る程。毒に完全耐性を持っているわけではないのですね。ならばこれでいいでしょう。」
それを見た魔王が腕を振った。
その腕には先ほどつけた傷がついており、その切り口からは血液が飛び交う。
スラムたちはそれを何の抵抗もなく浴びることになった。
次々とスライムたちの動きが悪くなっていく。最終的にその攻撃を耐え抜いたのはリリスが毒の完全耐性を付与した4匹だけだった。
だが、4匹だけでも残れば十分、少女の方にも毒があることを確認したリリスは続けて残りのスライムは全て毒の完全耐性を持つスライムを生み出すことにした。
その強さで残った4匹のスライムと渡り合っている少女。そこに追加でスライムを送りつけた。
流石に多勢に無勢、少女はだんだんと数の暴力に防戦一方になってしまう。
倒すことはできてないが、足止めという役割にしては十分すぎる結果だ。
リリスはそれを確認して魔王の方に攻め込む。
今度こそ正真正銘1対1だ。
「まさか。毒も物理攻撃も効かないなんて卑怯とは思いませんか?」
半笑い気味に魔王はそういった。
「いいえ?そんなものよりもっと理不尽なものって世界にはいっぱいあるもの。それに、私が生み出した子供達よ?そんなこと思うわけないじゃない。」
リリスが最後までこのスキルを使うことを出し渋った理由は彼女は生み出される存在すべてに愛着があるからだ。
呼び出すのではなく、生み出す。だからこそそれを使い捨てるのはあまり好きじゃなかった。
「それもそうだ・・・はは・・では、最後の戦いを」
魔王ベルフェゴールは短剣をリリスに向けて突き出した。だが、タクミやリリスの攻撃をその身に受けてきた魔王の動きは鈍っており、リリスからしたら簡単に捌けるものであった。
そして攻撃の合間を縫って、リリスは魔王の核がある位置を貫いた。
核は人間の心臓と同じ位置だ。
あそこまで激戦を繰り広げて起きながら、最後は実にあっけないものだった。
「これで終わりね。流石にこれなら死ぬでしょう?」
「ふ、ふふ、、そうですね。これならすぐに死んでしまいます。」
「あなたの毒、あなたが死ねば消えるのよね?」
リリスとって、いや、みんなにとってそれが1番大切なことだった。
「案じなくとも、あれは毒だ毒だと言われていますが毒の性質を持った私の体ですので、当然、本体である私が死ねば死んでしまいます。ですが、、、」
「何かあるのかしら?」
「失われた命も体力も無くなりませんし、それにあの娘は私が死んでも消えません。」
魔王はスライムに周りを囲まれて奮闘している少女の方を見る。
「そう、じゃあ戦いは続くわけね。」
「場合によってはそうなります。」
「場合によってはってなによ。あなたが死んだ後、なにが起こるっていうの?」
「私が死んだ後ではなく死ぬ前、つまりこの時ですね。1つ、頼みごとを聞いてくれませんか?」
「・・・物によっては聞いてあげてもいいわ。」
「ありがとうございます。では時間もないので単刀直入に、あの娘、引き取ってくれませんか?」
魔王が優しげな笑みを浮かべてそこまで言ったところで、リリスは全てを悟った。
「あなた、最初からーー・・・」
「ゴフッ、、ゴフッ、、どうなんですか?」
「あぁ、もう!!わかったわよ!!あの娘は私が母親として責任持って引き取ってあげるわよ!!」
「そうですか。ありがとうございます。・・・こっちに来なさい。」
「スライムちゃんたち、お疲れ様。もういいわよ!!」
近くで戦っていたスライムと少女は動きを止め、少女はリリスたちがいる方へトテトテと小走りで近づいてくる。
少女はすぐにリリスを攻撃しようとしたが、
「やめなさい。」
という魔王の一言で動きを止めた。
そして魔王は続ける。
「いいですか?今からはこの女性と一緒に行きなさい。いうことはちゃんと聞くんですよ?」
少女の頭を撫で、魔王がそう言った。
その手は弱々しく、もう先が長くないのだと分かる。
少女はその言葉を受け、魔王の方を見て小さくコクリと頷いた。
「ありがとうございます。これでやることは全部終わりですね。それではこのまま私は眠りにつくことにしましょう。」
最後の役目を終え、魔王は穏やかに眠りにつこうとする。
「待ちなさい。まだあなたの役目は終わっていないでしょう?」
それをリリスが静止した。
止めてどうにかなるものではないが、まだ終わっていない、そう言えばまだ、頑張ってくれるような気がしていた。
「まだ、何か?」
「悪魔に頼みごとをするんだから報酬くらいはおいて行きなさい・・・それとこの娘の名前は?」
前半分は完璧な建前だ。
リリスが聞きたいのは最後質問に対する答えだけだった。
「報酬は私が死んだら自動的に支払われるようになっています。それにしても名前ーーー?」
「そう、名前よ。何かないの?」
「呼び名なんて無いですね。・・・あなたがつけて下さい。どうせ私には関係ないことですので。」
魔王はちらりと少女の方を見た。
少女はその場で止まって動かなかった。
「・・・・じゃあエレナ、エレナにしましょう!!今日からあなたの名前はアリアよ!!」
リリスはなんとなく、これでいい気がするという理由でその名前をつけた。
「そうですか。エレナ・・・・いい名前ですね。」
「さあ、これで心置きなく逝きなさい。エレナちゃんは私が責任持って育ててあげるわ。」
「そうですか、エレナ・・・・・強く咲きなさい。」
その言葉を最後に、魔王は逝った。
そして彼の死と同時に、予告されていたエレナを引き取るという報酬がリリスに贈られる。
リリスには魔王が持っていた『蠱毒之恋人』改め『太陽華之子』と、醜悪シリーズのスキルが贈られた。
そしてリリスは思い出した。
リリスは彼に覚えがあった。
自分が長年暮らしてきたあの樹の中で、自分より下の階層にいた悪魔。
それが魔王ベルフェゴールだったのだ。
魔王ベルフェゴールの最後の贈り物、それは自分が司る『悪徳』である『醜悪』だった。
別に、これをもらったところで何かが変わるわけではない。
ただの不名誉な称号だ。
「全く、気づいていたなら少しくらい話をしてくれてもよかったでしょうに。ね?あなたもそう思わない?」
リリスは今しがたこの世を去った悪魔のことを思い浮かべて目の前の少女にそう言った。
それに対して少女は首をかしげるだけだ。
「分からないわよね?じゃあそろそろ、みんなのが待っているから行きましょうか?」
リリスはエレナの手を取った。
次にエピローグ入れて第4章は終わりですね。
『醜悪』の『悪徳』を手に入れましたが別に伏線とかでは有りません。
忘れていると思われるので『悪徳』についての簡単なおさらい。
生命樹のダンジョンの下にいる悪魔たちが持っている特性的なやつです。