156 決戦と集団戦
時が進むのは、というよりは事が進むのは思ったよりも早いもので、魔王ベルフェゴールの討伐は俺がエイジスに交渉に行った次の日の朝にはもう始まっていた。
まぁ、エリックの体力がもう持たないことを考えるとそれはそれで正解なんだけど、欲をいえばもう少し準備の時間をとりたかったような気がするな。
最低限の準備だけは済ませてきたが、少しだけ不安が残りはしている。
「それにしてもまさか、こんな街のど真ん中に潜伏しているとは思わなかったよ。」
前日調査で魔王は街の中央通りに沿うように建っている宿に泊まっていることが判明している。これはギルド職員が調べたことだから信憑性の有無はわからないが、作戦決行ということは確定事項ではあるのだろう。
「そうですか?案外、捜索範囲が広い場合って敵地の真ん中は見つからなかったりするんですよ?」
俺のつぶやきに、かくれんぼのプロであるリアーゼがそう教えてくれる。
そうなのか、俺にはできない考え方だな。
いくら理論を積まれても、イメージというのが俺にそう言った行動をとらせないようにしているせいだろう。
俺は基本的にリスクを嫌う。
だからこそ、見つかる可能性はともかく見つかった時にどうしようもなさそうな場所には隠れる選択肢が浮かばないようだ。
見つかりにくいというだけで、見つからないわけじゃあないだろうしな。
現にこうして見つかっている奴がいるわけだし。
俺はそんなことを考えながら周りを見渡す。
周りにはそこそこの数の冒険者が集まっていた。
いつもは朝一番にギルドに行くからほとんど見る機会はなかったのだが、今回はみんなに合わせるように来たためこうなっている。
数としては20人程度、魔王討伐と考えると少ないように思えるかもしれないが、これが今集められる最高戦力らしい。
数は確かに少ないが、各々がそれなりの戦闘力を持っているらしいので期待していいだろう。
「それでは、これより魔王討伐に向かう!!今ならまだ引き返せるが、お前たちはどうする!!?」
ある男が冒険者たちの前に立ち、その意思を確認するようにそう言った。
死にたくない奴はこの場所から早く逃げろ、そう言いたいのだ。
「ああ?そんな臆病者いるわけねえだろうが!!」
「そうだそうだ!!魔王とかいうにくったらしい奴らの1人だぞ!!?ギルドのメンバーとして逃げるわけにはいかねえんだよ!!」
「これだけのメンバーがそろっていて何を怯える必要があるって言うんだ!!」
多分だが、ここにいるほかの奴らは互いが互いに少しだけでも面識があるのだろう。
会話のからそんな感じが伝わってくる。
だからこそ、こんなに自信があるのだ。
「なんか、完璧にアウェーな感じだよな。」
それがない俺たちは仲間内だけで軽く会話する。
なんというか、元々そこまでクラスになじめていたわけではないのに同窓会に参加しているような気分だ。
「そうだねー。みんながもっと朝早くギルドに来ていたらボク達だって少しは顔が広かっただろうに・・・」
ノアはそう言っているが、明らかにお前が起こしてくるのが早すぎるだけだからな?
冒険者ギルドは人員を回しているらしく、24時間体制でやっているからいいが、そうでなかったらただの迷惑者でしかない。
こんな俺たちでも部外者として扱われないのは、多分依頼報告に来た時に俺たちを見かけた奴がいるとかそういう話だろうな。
「あら?別にいいじゃない。必ずしも仲良くなっていいことがあるっていうわけではないのよ?それどころか不利益を被るかもしれないし。」
今の境遇に満足しているなら、それはそれでいいんじゃないの?
リリスはどうでもよさそうにそう語った。
それはそれでいいのかもしれないが、やっぱり横のつながりっていうのも大切だと思うんだよな。
「私は少し位見知った顔はいますけど・・・そうですね。親しいわけではない、かな。」
リアーゼはたまに情報収集とかで会話をすることがあるらしい。
やっぱり俺たちの知らないところで頑張ってくれているみたいだな。
「それでは!!今から作戦を開始する。といっても今の俺たちに連携ができるとも思えん!!だから互いの邪魔にならなければいい。どんな手を使ってでも勝つぞ!!」
互いに顔見知りでも、その戦いを知り尽くしているわけではない。
普段から一緒にいなければ、連携というのは身につかないものなのだ。それをわかっているからこそのこのセリフだろう。
「では!!出撃!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
朝のギルド内に、雄たけびが木霊する。
近所の住人が聞いたら何事か?と思わなくもないだろうが、幸いこの場所は冒険者ギルド、こういった叫び声が聞こえてきてもそこまで不思議に思われなさそうだ。
俺たちはリーダーらしき男についていくように街中を歩く。
そして一つの建物の前に到達した。
ここの宿の人にはあらかじめ昨日話をつけている。
宿の客は避難、店主も俺たちが来たと同時にこの場所から離脱するようになっている。
俺たちは隠密性の欠片もなく宿の中にどかどかと踏み込んだ。
そして事前情報にあった部屋に突入する。
ドアには鍵がかかっていたが、そんなものは破壊してしまえば問題ない。
「覚悟しろ魔王!!」
ドアを破壊し、中を見る俺たち。
そこにはひとりの男がベッドの上で眠っているだけだった。
俺たちが立てた騒音など、まったく気にしていない様子だ。
だが、こうして部屋の中にまで入ってきたら流石に気が付く。男は目を覚まし体を起こしてこちらの方向を見た。
以前見たことのある俺なら、こいつが目的の相手だということは確認できた。
「えっと?お客さんですか?すみませんね。すぐ帰ってくれませんか?」
状況を呑み込むということはせずに、めんどくさそうに人払いをしようとする魔王。
「そうだな。お前を打ち滅ぼしたらすぐに帰ってやるとしよう。」
だが、それは許されない。
1人が剣を抜きはなち、魔王に向かって振るった。
魔王はそれをいともたやすく回避する。
「はぁ、討伐に来た方たちですか。分かりました。面倒ですがささっと倒して安眠を取り戻すことにしましょう。」
憂鬱といった表現がふさわしい表情を浮かべ、魔王はベッドの上から立ち上がった。
この場所は宿の中、俺たちが部屋の中に入ることができていないことからもわかるように、ここでは集めた数という利を活かすことができない。
「『ウィンドブラスト』!!」
だから、魔王が攻撃態勢に入る一瞬の隙をついて、魔王を窓から宿の外に放り出すように前のほうにいた魔法使いが魔法を使った。
俺たちの方向から、強力な風が吹く。
それによって魔王は軽く飛ばされ、宿の前の大通りに放り出された。
「おや?いつもこの場所には沢山の人が歩いていたと思ったのですが、違ったみたいですね。」
飛ばされた先で、魔王は不思議そうに回りを見ている。
「お前がこうやってぐーすか寝ている間にもうみんな避難しちまったよ!!」
大通りに出た魔王を追いかけるように、冒険者たちがどんどんと外に出ていく。
こうなるなら俺は外で待機しておくんだったな。
前のほうの奴らは窓から、俺たちは普通に扉から外に出て魔王を扇状に囲んでいく。
「はぁ、これは1人では面倒そうですね。そちらが数をそろえたというのでしたら、自分も同じことを・・・・『醜悪な騎士団召喚』」
いつの日か、こいつが初めて現れた時に置き土産感覚で使用した魔法だ。
魔王がその魔法を唱えると、彼の近くの地面からいくつもの異形が這い出てくるように現れる。
長時間見ていたら気がおかしくなってしまいそうな、醜悪な存在たちだ。
「死霊魔法か!!?みんな、あのゾンビたちは強い!注意していくぞ!!」
あの魔物たちの危険性をいち早く察知したものが、そう叫び声を上げる。
あれを倒さなければ、本丸を攻撃することはできない。
俺達も戦闘に参加して、呼び出された魔物たちに攻撃を始める。
相手の軍団構成は以前戦ったものと完全に一致している。
これなら危険な奴から順番に処理していけば何とかなりそうだ。
あの時と比べて、今の俺の武器は大幅に強化されている。それに、ステータスもだ。
今ならこいつらを軽く倒すことなんてわけはない。
俺は他の冒険者たちに集中して俺のほうに意識を向けていない奴を、確実に仕留めていく。
見る見るうちに敵の数は減っていく。
そもそも、相手が人数を増やしてもまだこちらのほうが数が多い。個々の能力はそれほど差が開いているわけではなさそうなので、こっちのほうが有利だろう。
俺がそんなことを考えながら戦闘をしていたからだろうか?
その時、魔王が動いた。
「皆さん、足止めご苦労様です。では、『醜悪な傭兵団召喚』」
安全な場所から、ゆっくりと詠唱を済ませた魔王がその魔法を発動させた。
こいつはこともあろうことか、さらに戦力を増やすことを選択したのだ。
先ほどまで戦っていた奴らとは違う、新たな異形達が地面の底から這い出てきた。
ちょっと体調を崩してしまい、更新が遅れました。
すみません。