155 天敵と契約
キリが悪くなりそうだったので今回は短めです。
イドルという風の精霊は実のところ、リリスが生み出した精霊である。
ただただ子供という名のスライムを生み出し続けていた時、リリスの体から分離するように生み出されたのがイドルという精霊なのだ。
つまり、イドルはリリスの体の一部なのである。
「本当に、すみませんでしたー!!」
いくら本体が弱くなろうとも、自分の一部分でしかない存在に敗けるなんてことはあり得なかった。
イドルはその実力をいかんなく発揮したが、どんな攻撃をぶち当てようともリリスはびくともしなかった。
まるでそういうシステムが働いているかのようだった。
「あら?いいのよ。反抗期は誰にでもあるものね。それで?契約、してもらえるかしら?」
リリスは優しい笑みを浮かべて頭を下げるイドルに話しかける。
だが、それを受ける本人にはその笑みは邪悪な者のようにしか映らない。
「は、はい!!喜んで契約させていただきます!!」
地面に頭を叩きつけてそう言うイドル。
見た目が梟のそれなので、かなりシュールな光景だ。
「いやー、やっぱりリリスを連れてきてよかったよ。なんかびびっと来たんだ!!」
今日はリリスと一緒に行動したほうがいい。
ノアが1人で依頼板を見ていた時、そんな予感がしたのだ。暇そうだったから誘ったというのもあったが、あの時呼びに来たのはそれが理由であった。
それを聞いたリリスは少しあきれたように、
「あなたの勘って凄い精度なのね。」
と苦笑した。
ともあれ、ノアはイドルを召喚できるようになった。
ノアはそれを良しとしてスキルウィンドウを開示、召喚魔法の欄を見てみた。
名称 召喚魔法
対象 イドル・リリ
そしてちゃんとそこにあることを確認する。
消費MPなど、通常ならゆっくり調べるところではあるが、これをタクミに見せたら詳細な説明を見せてくれる。
彼は何の気なく使っているが、スキルの中身が完璧にわかるというのはそれだけでも大きなアドバンテージを持つことができるのだ。
正直、ほかの冒険者たちはそこまで自分のスキルを把握していない。
仮に『物理攻撃力増加(並)』と書かれたスキルがあって、それを取得したところでどのくらいの攻撃力上昇があるかは実際に元のステータスと比較してみるしかないのだ。
これだけなら問題ない。ちょっとステータスを見て計算すればいいだけなのだから。
だが、召喚魔法などは違う。
タクミが言うには召喚魔法は発動後一定時間ボーナスがあるらしいのだ。
それらを全て調べるのはさすがに骨が折れる。
そもそも、多分だが知らされなかったら気づくことすらできなかっただろう。
これがアクティブスキルが人気な理由でもあるのだ。
アクティブスキル―――要するに行動が決められたスキルは常に同じような挙動をする。
つまり一度使って覚えてしまえば常に期待した働きをしてくれるのだ。魔法使いの魔法も、基本的にこっちの部類だろう。
最近はタクミにちょいちょいスキルの内部ステータスをいじってもらっているノアだから、その感覚は少しずつ薄れていっているのだが・・・・
ちなみに、リリスは逆にステータス上昇系や耐性系などのパッシブスキルを好み、スキル構成も基本的にパッシブスキルで埋めている。
「うんうん、あとは召喚時のボーナスを教えてもらうだけだね!!あ、一応先に聞いておくけど、君って何ができるの?」
確認作業を終えたノアは、未だにその場でうずくまっているイドルに話しかける。
「えっと、はい。嵐を起こしたり突風で相手を吹き飛ばしたりですかね?」
よっぽどリリスが怖いのだろう。一緒にいるだけのノアにも敬語で対応してくれる。
イドルの能力はシルフのように風で直接攻撃―――というよりかは風を使って間接的に攻撃するほうが得意だ。
風で刃を作って敵を切り刻むこともできなくはないが、それよりかは相手の足元から上に向けて突風を吹かせて大空に放り出してやる方が適している。
ここら辺は精霊の種類によるものだから得手不得手があっても仕方はないのだろう。
「うんうん、それならシルフちゃんとお仕事がかぶらないし使い道も多そうだね。」
その答えにノアも満足そうだ。
「じゃあそろそろ帰りましょうか。もうここには何も用はないのでしょう?」
「あ、うん。それでなんだけどリリス。ここから歩いて帰るのって少し面倒だと思わない?」
ノアは何か、いいことを思いついたようにリリスにそう問いかけた。
「それもそうだけ・・・・なるほど、そういうことね。いいじゃない、やってもらいましょう。」
それもそうだけど、と言いかけた時にリリスは何が言いたいかを理解した。
「よし、じゃあ決定!!ほら、イドルちゃん、初の仕事だよ!!」
「えっ?えっ?」
突然指名されて頭にはてなを浮かべるイドル。
何をすればわかっていない彼女に、リリスが小さく耳打ちをする。
―――私たちをのせて街まで飛びなさい。
それを聞いたイドルはげんなりしていた。
彼女は今まで背中に誰かを乗せて飛んだことは無い。というのも、自分一人で飛んでいる分にはいいのだが、何か重いものを乗せて空を飛ぶのは非常に疲れるからだ。
鳥の身体の中身は思ったよりもスカスカだ。
少しでも重くなるとそれだけで空を飛ぶことができなくなるのだから、少しでも体重を軽くするために最低限のものしかついていないからだ。
精霊ではあるが、一応梟の形を模しているイドルも同じように作られているのだ。
本当のことを言えばその体は仮初のもののため、脱ぎ捨ててほかの精霊と同じような感じになれないことは無いのだが、それをしてしまったら2人を運ぶということはできなくなってしまう。
彼女は渋々2人を背中に乗せる。
大きさ的には何も問題なく乗せることができるが、問題はその重量だ。
しかしそこは風の精霊。
大気を操作して何とかではあるが飛ぶことができている・・・・ただ、少し辛そうだ。
――うわーん、やっぱりリリスさんは酷いよー!!
少しだけ昔のことを思い出しながら、イドルは必死に街まで飛んでいった。
戦闘シーン入れてもよかったんですけどね、それ書いちゃうとあれなので止めました。
また、イドルとリリスとの関係が分かる過去話も一応ありますが、機会がなければ書くつもりはないのでそれぞれの頭の中で好きな関係を思い浮かべてください。
また、多くのブックマークをありがとうございます。これからも頑張るのでよろしくお願いします。