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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第4章   魔王の願いと蠱毒の少女
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151 病状と希望

その後俺たちは何の問題もなくその場を離れることができた。

正直、リリスが暴れたり勝手に牢屋の外に出たりしたから再拘束されたりするかと思ったのだが、そんなことは起こらなかった。


多分、表に出していなかったけどリリスを怒らせるのが怖かったんじゃないかと思う。

出ないとあの場が速やかに収束するとは思えないからな。


「もう、リリスったら突っ走ることしか知らないの?」

ひと段落ついたところでノアがそんなことを口にしているが、正直リリスもお前には言われたくはないと思う。

いつも突っ走っているのは誰だ、といいたくなるような台詞だった。


「もういいじゃない。こうしてみんな帰ってきたことだし・・・それで、これからどうする?まだ日は高いからルイエ行きの馬車は出ていると思うわよ?」

その提案も魅力的だが、とりあえず行っておきたいところというか、あっておかなきゃいけない奴がいる。


「いや、それは明日以降にしよう。とりあえずはエリックに会いに行くよ。」

あいつ体調を崩したみたいだからな。少し見ておいてやらないといけない。

それでないと取り返しのつかないことになるだろう。


牢屋の中で聞いた話と、今の現状を考えるとそれはほぼ確定事項といえる。


「えー、あの人ボク達を捕まえて放置してたんだよ?おみまいに行ってあげる必要はないって。」

ノアの中でエリックの評価は結構下のものなんだろうな。それか苦手意識か?

彼女はあまり乗り気ではない。


「あ、来たくないなら別に先に宿に戻っておいていいよ。ちょっと確認したいことがあるだけだから。」


「行く、行くよ。別に行かないわけじゃないよ。」

ぶーぶー言いながらも来てくれるみたいだ。

確かあいつは冒険者ギルドに行けば会えるとか言っていたな。体調を崩しているにもかかわらず、依頼で儲けているのだろうか?

具合が悪いときは素直に休んだらいいのにな。

そんなことを考えながら歩いていると、冒険者ギルドが見えてきた。


俺は中に入りあたりを見渡した。

しかしエリック達の姿は見当たらない。あれ?ここにいるんじゃなかったか?

受付の人なら何か知っているかもしれない。


「すみません。」

俺は一番近いところにいた受付嬢に話しかけた。


「はい。どうなさいましたか?」


「エリックっていう人を探しているんですが、ここに行けば会えるって聞いたんですけど。」


「それでしたら、あちらの階段から上に上がって真っすぐ進んで突き当りの左側の部屋にいらっしゃいますよ。少し、調子がすぐれないみたいなので気を付けてくださいね。」


「ありがとうございます。」

お礼を言って差された階段のほうを見る。そういえばあの階段、今まで登ったことがなかったけど二階はどうなっているのだろうか?

なんとなく、気にならなかったというかなんというか。

冒険者ギルドの建物の構造は大体どこも一緒なのだが、二階に上る機会はなかったな。これを機に何があるかを知っておいたほうがいいのかもな。


俺は教えてもらった通りに進む。

冒険者ギルドの二階は階段を上がってすぐに長い一本の廊下があった。

そして左右には等間隔にドアがついている。あれは全部部屋ということだろう。


「えっと、ここって。」


「はい、居住スペースになってます。」

戸惑いながらつぶやいた言葉に、リアーゼが反応する。彼女は知っていたみたいだ。


「へ~、ギルドの二階ってこんなことになってたんだね!ボク知らなかったよ。」

廊下を歩きながらノアが言う。


「ここは冒険者専用の宿って感じの場所です。冒険者しか使えないし、一定期間依頼をこなしていない人も使えませんがその分値段は安くてどの街で泊っても一律で300Gなんですよ。」

そして注釈のリアーゼ、一泊300Gって、今の宿の大体十分の一か。

ずっとここに泊まっていたらどれだけの費用が浮いただろうか?ついついそんなことを考えてしまう。


それにここ、一律っていうところは素晴らしいな。

どんなに物価が高い場所でも、300Gあれば寝泊まりはできるのか。出来ればもっと早く、この世界に来てからすぐに知りたい情報であった。

もっと情報収集はしたほうがいいな・・・・


少し落ち込みながら突き当りまで進み、左手側にあるドアをノックした。


コン―――コン――コン

軽い音が響く。そして少し待つと中から声が聞こえてきた。


「ちょっと待ってください。今あけます。」

この声はエリックパーティの軽装の男の声―――確か名前はフリッシュとか言ったっけ?

内側からドアが開かれる。

その時、部屋の中の様子が俺の目に映る。


ベッドの上に横たわるエリック、その隣で必死に看病をしているオリビアの姿。

また、その近くに少し疲弊した様子の神官の姿もあった。


「・・・何をしに来たのよ。」

俺たちを見たオリビアが煩わしそうにそう言った。パーティリーダーがこんな時に、会いたくもない人間にあったらそういう反応をするのもうなずけるが、ここはいったん我慢してほしいものだ。


「ちょっとエリックに聞きたいことがあったけど・・・・その様子じゃ厳しそうだな。」

伝言を残すくらいだからまだ会話くらいはできると思ったんだけど、思えば伝言しか残さないくらいだから結構切羽詰まっているのかもしれない。


「そうよ。私たちは今見ての通り忙しいの。フリッシュ、そこ閉めて。」


「え―――えっと・・・・」

話を聞く耳を全く持ってくれない。だが、俺としてもここは退くべきところではない。


「なぁ、ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ、その病気、回復魔法が効かないなんてことないよな?」

俺の言葉に、オリビアと神官、そしてフリッシュも反応した。

どうやら俺の予想は当たっていたみたいだ。


そもそも、この世界では体調不良というのはある意味珍しいものとなっている。

というのも、依頼をすれば病気を治す神官を派遣してもらうこともできるからだ。まぁ、その場合は結構なお金をとられることになるらしいんだけど、すぐに治したいときとかは金を払えばいいということだ。


それで、エリックのパーティにも神官はいる。

多分だが、病気を治す魔法も使えるのだろう。だが、エリックは治っていない。

それをやったという証拠というべきものは神官の様子、彼女は疲れ切ったような感じをしている。


これはたまに見る光景、魔法使いが魔法を使いすぎた時に見られるものと似ていた。

多分俺の予想が正しければ、MPが尽きる寸前まで回復魔法をかけていたんじゃないかと考える。

ただ、それは何らかの原因のせいで効果を及ぼしていない。


「あなた――何か知っているの?」

先ほどは俺を追い出そうとしたオリビアも、エリックの体調がよくなるかもしれないと思うと話くらいは聞いてくれるみたいだ。

ならばと俺は質問を始める。


「そうだな。ちょっと聞きたいんだが、俺たちの無実が証明されたって言ったよな?あれって何があったんだ?」


「それの何が関係あるの――――・・・・いや、そうね。あの後も同じような死体が数人立て続けに発見されたのよ。みんな同じ死に方、あなたたちが牢屋に入っている間に起こったことよ。」

ふむ、それは結構やばい事態じゃないのか?

その思いは一度置いておいて次の質問だ。


次はオリビアのほうではなく、神官のほうに質問だ。


「なぁ、最近神官が体調を崩したとかいう話はないか?いや、別に神官じゃなくてもいいな。病気の治療に行ったやつとか―――」


「分からない。私は今はここの専属、神殿に戻ることは無い。」


「あなた、さっきから何が言いたいの?早く知っていることを教えて頂戴。特に治療法」

オリビアは俺をせかす。こうやって怒りを俺にぶつけながらも、エリックの看病をやめない。

彼女は濡らした布を使い、寝ているエリックの汗を拭きとってあげていた。



―――――・・・これは


「じゃあ、最後の質問。オリビア、お前も体調不良だろ?」


「チッ、」

肯定の言葉は聞こえなかったが、俺の質問の直後の舌打ちがそれを肯定してくれる。

これで決まりというわけではないが、ほぼ確定だろう。


「やっぱり、その病気は魔王の毒によるものだ。感染者に接触するだけでも感染する。」

ここに来る前から、その可能性が濃厚だったため、今現在俺はドアから半分体を部屋に入れるだけにすることによって俺の仲間たちとエリックパーティとの壁を作っている。


「魔王の毒―――!!?あいつか!!」

歯を食いしばり、怒りをさらに面に出すオリビア。その息は荒い。

先ほどまでその息遣いが怒りによるものだと思われたが、彼女もまた毒に犯されていると考えると不調によるものにも思えた。


「先に行っておいてあげるけど、この前君がやられた奴じゃないよ?別の魔王が今この街に来ているんだ。」

俺の後ろからノアがそう答える。

こうでも言っておかないと、エイジスが住んでいるあの森に急行して殴り合いを始める可能性があるからだ。

そうなったら、オリビアは確実に殺されてしまうだろう。


「別の魔王ですって、いや、今はそんなことはどうでもいいわ。彼を元気にする方法をあなたなら知っているというのね?」


「いや、知らない。」

知らないことは無いが、それはどちらも不可能だ。一つ目は『巻き戻し(リバース)』の魔法で毒を受ける前に戻すこと。

エリックは数日前に体調不良を訴えたらしいので、一日時間を巻き戻したところで意味はない。

命が少し伸びるくらいだ。


そして二つ目はマルバスに頼ることなんだが、彼女はこの前東を目指して旅立ってしまった。

本当に間が悪い奴だ。あと数日待ってくれたってよかったのに・・・・


「何しに来たのよ!!」

質問に答えただけなのだが、それが火に油を注ぐ結果となってしまった。

オリビアは八つ当たりをするように俺につかみかかってくる。


「あなたね!!おちょくるならよそでやってよ!!エリックは今、死にそうなのよ!!?」

日ごとに悪くなっていく仲間を見るのがつらかったのだろう。溜まっていたものを、すべて俺に吐き出すように・・・


そんな彼女を見かねたのかはわからないが、リリスが救いの手を差し伸べる。


「まだ治らないと決まったわけではないわ。だからタクミを離しなさい。このままだと私のタクミにまで毒が移っちゃうわ。」

ちなみにだが、俺にあいつの毒は効かないらしい。

あの時毒の霧を受けたが、その後一切症状が出ることは無かった。『状態異常無効』の耐性を突き抜けるとかはしてこないみたいだ。


まぁ、あれで俺も毒をもらっていたら無効ってなんだっけ?と考える必要があったわけだけど。


「治るの?ねぇ、エリックは治るの?」


「かもしれないっていうだけだけど、多分大丈夫よ。」

そんな手があるんだな。

何かこの毒を倒す特効薬的な者でも存在するのだろうか?あったとしてもリリスがそれを知っていると思っていなかったんだけど。

仮にも長い時を生きているというだけあってそれなりに知識を持っているみたいだ。


「それでリリス、その方法っていうのは?」


「簡単よ。その魔王を倒せばいいの、この毒は恐らくあの魔王の固有スキルによって生み出されているものよそれなら、あの魔王が死ねば解除される可能性があるの。」

えっと?俺のイメージで申し訳ないんだけど大丈夫なのかそれ?

一度くらってしまった毒が、その元凶を倒したくらいで何とかなるとは思えないんだけど?


周りを軽く確認したが、そう思っている人は多いみたいだ。

だからなのか、リリスがその先を説明してくれる。


「私のスライムがそうなんだけど、固有スキルで生み出したものってそれを持っている人物が死んじゃうと消えてしまうことがあるのよ。だから私が死んだら私が産んだスライムちゃんたちは後を追うように死んじゃうのよ。」


「っていうと?」


「以前見た限りだとあの毒は魔王の体から出ていたみたいだったわよね?あれも当然そのルールを適用している可能性があるの。」

でも生き物と毒――――同じに考えていいのだろうか?冷静に考えるなら何か別の手段を探したほうがいいような気もする。

というか固有スキルってそういう仕様があるんだな。


あの言い方だと、ものによって違うみたいだけど何も手がないのならかけてみる可能性くらいはあるかもしれない。


「ありがとう。それならすぐにでも倒しに行かないといけないわね。」

そう言って部屋の外に出ようとするオリビアは、俺が止める。この状態で行っても無駄死にするだけだ。

それはさすがに許さない。


俺はオリビアをつかんでエリック寝ているものの隣のベッドにオリビアを軽く投げ倒した。


「な、なにするの、よ。」

そう口にしたオリビアの息は荒い。もう普段通りふるまうのは限界みたいだ。


「どうせ行っても死ぬだけだからな。」


「私にこうしてじっとしていろっていうの!?仲間が死にかけているというのに、何もせずにこうしていろっていうの!!?あなたは私たちに死ねっていうの!!?」

オリビアは起き上がろうとしたが、うまく体を起こせないでいた。

ほら見ろ。こんな状態の人間ならゴブリンだって簡単に倒せるぞ。


「そうじゃねえよ。どうせお前たちが行ったところで殺されるだけだ。それならもっと別のやつを送り込めっていうことだ。」

冒険者ギルドに来ている依頼は大きく分けて二通りある。

一つ目はギルドが依頼したもの。

二つ目は個人が依頼したものだ。


そう、手順さえ踏めば誰でも依頼ができるのだ。

その場合手数料やら、依頼が達成された場合の報酬は全部依頼者が負担することになるが、協力を募るならこの手が一番早いだろう。

通常冒険者なら普通に近くのやつに話しかけて協力を持ち掛けるという手もあるのだが、今回はこいつらはいかないから依頼形式のほうが適切だろう。


「・・・・分かったわ。」

俺の考えを理解してくれたみたいだ。

正直、あの魔王に対しては人海戦術は逆効果な気もするが、一対一では確実に勝てないので仕方がない。


オリビアは少しだけ安心したのか、起き上がろうとするのをやめた。


「フリッシュ、少し手間を駆けさせて悪いんだけど、ギルドに依頼をしてくれない?」

そしてフリッシュにそう頼んだ。自分で行くのはあきらめたみたいだ。


「わ、わかったよ。」

彼は部屋の外に出ようとしている。

俺たちももうここにいても仕方がない。俺たちは彼と一緒にこの部屋を後にした。



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