150 牢屋生活と蝕み
もう少し早く投稿する予定だったのですが、一度文章がすべて消えてしまったため今回は描き直しとなっております。
ないとは思いますが、書いたと思って書いていない内容があるかもしれないので、違和感があったらご容赦ください。
「君たちは少しの間ここで待っていてくれ。友人をこんな目に合わせるのは心苦しいが、理解してくれ。」
エリックがそう言うと衛兵の一人が牢屋の鍵を閉めた。
俺たちは今、牢屋の中にいる。
少し暗い話を聞いてもらえると思って従ったのだが、問答無用でここに連れてこられた。
「ごめんなさい。私のせいで・・・」
エリック達がいなくなった後、リアーゼが申し訳なさそうにそう言った。
ちなみにリアーゼ、ノアがここに運んでくる途中に目を覚ました。また状況が分からないといろいろと不便そうだから大体何が起こっているのかの説明は済ませておいた。
そして今俺たちがここにとらわれている原因がリアーゼにあるという誤解を生んでしまったのだ。
「一応確認のために聞いておくけど、やってないんだよな?」
「あー、リアーゼちゃんを疑うの?ひどーい!」
「いや、そういうわけではないよ。信じているから聞いているんだ。」
一度疑った後だからこそ、その者をより信じることができる。無条件に信じるのはただの狂信だと俺は思う。
「私はやっていません。でも、誰がやったのかはわかります。」
ここに来るまで、俺たちがメインで会話をしていたから言い出す機会がなかった。だから今になってリアーゼは事の真相を話し始める。
彼女は昨日、俺たちと別れた後何があったのかを話し始めた。
その内容を要約すると―――――魔王と出会ったリアーゼが会話をしていると乱入してきた件の男が魔王ベルフェゴールの返り血を浴びた。
で、その特殊効果で毒に犯され息絶えたということだった。
まぁなんというか、予想ができたようなそんな感じだ。
「じゃあさ、次誰かが来た時にそれを説明したら出してもらえるんだね!!?」
多分そうだろうが、確実にそうとも限らないのが少し怖いことではあるよな。まあでも、その時はその時だ。
とりあえずエリックは少しここで待てと言っていたので何か適当に時間をつぶして待つことにしよう。
当然のことながら、ここは牢屋であるため娯楽アイテムなどは一切ない。
だが、嬉しいことに俺たちは一緒の牢屋に入れられて、この牢屋には他に誰もいない。つまりは少し位うるさくしても怒る奴なんていないということだ。
ここは雑談でもして暇をしのぐとしよう。
俺たちは他愛のない話で盛り上がった。だが、その日はそれだけでエリック達が戻ってくることは無かった。
牢屋生活二日目。
流石に昨日丸一日話をしていたせいかそろそろ話のタネがなくなってきた。
また、ずっと同じ場所にいるからか少しイライラしてき始める。
「はぁ、本当なら今頃ルイエの街についているころなのになぁ。」
ノアがため息をつきながらそう言った。
確かに、何もなければ俺たちは昨日の午前中には馬車に乗ってルイエの街に出発しているところだった。
ここからルイエまでは大体一日くらいしかかからない為、今の時間帯は丁度ルイエについているか、着いていなくても遠くから街が見えるくらいはしているだろう。
まあ、何かあったからそうはなっていないわけだが、これを考えると一昨日の夜のうちに俺たちをとらえに来たエリックは割とファインプレーだったのかもしれない。
・・・・・俺たちが本当にそれをやっていたなら。
「はぁ、手の届きそうで届かないものほど欲しくなるよなぁ。」
刺身、天婦羅、フライ、開き―――――俺はいろいろな魚料理を頭の中で思い浮かべた。ただ、こうしていてもむなしいだけだった。
その日はスキルの調整やら、時々どうでもいい会話とかをしながら時間をつぶした。
定時になったら衛兵が1人で俺たちの食事を運んでくる。その人に話を聞こうと思っても、俺たちの言葉には耳をかさない。
ここの食事は栄養は考えられているんだろうけど、本当に『食事』という感じで満足勘や幸福感を得られるものではない。
早くここから出たいものだな。
牢屋生活三日目、その日は朝から何やら騒がしかった。
「やっと会話の機会が与えられるのか?」
そう呟いて、俺は耳を澄ました。この場所は結構音が響く作りになっている。
だからこうやって静かに耳をすませば、外の音は結構聞こえるのだ。
「貴様ら。私のタクミをいい加減返せよ。後ノアとリアーゼ、私の友人たちもだ。」
「皆のもの、悪魔が襲撃に来た。各員、戦闘準備!!!」
「抵抗するのか?なら死ね。」
・・・・ん?
何やら聞き覚えのある声――っていうかあれ、リリスの声だ。しかも怒り狂っているときのリリスの声だ。
それが今にも戦闘になろうとしているのは聞こえてくる会話を聞いただけでも理解ができた。
「・・・ノア、リアーゼ聞こえたか?」
「あー、やっぱりこうなっちゃったね。」
「ですねー。」
リアーゼとノアはわかっていたみたいだ。リリスがこうやって襲撃に来ることを。
その様子を見た俺は少しだけ深く考えてみる。
えっと、そういえばリリスってあの時一人だけ取り残されて宿で寝ていたんだったよな?で、その部屋にはシュラウドもいた。
シュラウドはその時起きていて、外の会話を聞いていたはずなので何が起こったのかは知っているだろう。
多分それを朝起きてすぐに俺たちを探したリリスに説明したと思われる。
で、いつまでたっても俺たちが戻ってこない。
・・・・・リリスの性格ならこうやって殴りこみに来ても何らおかしくないよな?
というか、今日までおとなしかったのが不思議なくらいだ。
「どうやら緊急事態みたいだな。リリスが怒っているのは俺たちがずっと戻ってこないからみたいだし、顔を見せに行こうか。」
俺は『白闘気』を発動させた。
このスキル、昨日丁度暇だったからなんとなく尖らせた性能にして遊んでいたのをそのまま放置してある。
元々エイジスと戦うために物理防御力と力以外のステータス上昇を切った構成だったが、今は力以外のステータスは一切上がらない代わりに力のステータスが倍まで上がるようになっている。
この状態なら―――いける!!
俺は壁を思いっきり殴った。
硬い石の壁、それを殴ったこちらの手は少し痛みはしたが、同時に壁のほうに風穴があいた。
少し小さめだが、通る分には問題ない。
「はー、やっと出られるんだね。っていうかタクミ、そんなことができたなら初めからやってよ。」
不満を垂らすノア。
ごもっともな意見のように思えるが、こっちは会話をしよう止まっていたのに壁を壊して出てしまったら会話どころじゃなくなるのでそれはできなかった。
今も緊急事態だから仕方なく出ているだけなのだ。
決して、牢屋の中でじっとしているのが嫌になったわけではない。
俺たちは騒ぎのしているほうに向かう。
そこではリリスと衛兵たち数人が戦闘をしていた。
リリスは力の限り、力任せに槍を振り回す。そこには確かに技も入っているのだが、それを感じさせないほどの荒々しい攻撃だ。
以前確認したとき、リリスの力は1000を余裕で越えていた。
俺の今の力は大体400と少し、『白闘気』で倍にしたとしても800程度にしかならない。要するに、常に俺の全力より強い力で攻撃を繰り出していることになるのだ。
俺の一撃で壁に穴が開いた。
それ以上の力で繰り出される槍の一撃は、生半可な受けは通用しない。
武器で受ければその武器を叩き壊して人にまで被害を及ぼし、受け流そうとすれば圧倒的な力に巻き取られるだけだ。
だからこそ、衛兵たちは一定の距離をとりながらリリスの攻撃を回避することに専念していた。
「くそっ、こいつは化け物か!!誰か、早くあいつの動きを止めろ!!」
隊長と思しき人が命令を下す。だが、それは命令ではなくただの願望、リリスを止めてくれという願望だ。
そんなこと、言われたところで簡単にできるはずがない。
あの戦いぶりを見ていたら、あのリリスを止めるのは今の俺では苦労しそうだ。
リリスの血液を呑み、ドーピングした俺がきついのだ。普通の人間が1人であれを止めるのは難しいと言えた。
だからこそ、俺が行く。
この場で一番リリスを止めることができる可能性が高い俺が行ったほうが安全なのだ。
俺はリリスと衛兵たちの間に飛び込んだ。
「―――!!?タクミ!?」
突然飛び出してきた俺に驚きながらも、リリスの槍は止まらない。
槍、というよりは長い棒きれを使っているような払い攻撃。あれを食らったらただじゃすまないだろう。
だが、リリスは俺の登場で少し動揺して槍が鈍ってしまっている。
この状態なら、素手でもなんとかなるかもしれない。
俺は割り込んだ勢いのまま、飛んだ。
リリスの払い攻撃は空中の俺の腹のあたりをかすめたが、それだけにとどまった。
多少服が破けたくらいで、体には何の問題もない。
そして宙に投げ出された俺の体はそのままリリスに突っ込んだ。槍を振り切った体勢のままリリスは、勢いよく飛んでくる俺を受け止めきることができずにそのまま俺と一緒に後ろに倒れてしまう。
押し倒したような形だ。
「ほらリリス、俺たちならここにいるぞ。だからもう暴れんなよ。」
「あ、、、、タクミ。」
リリスの頬が紅潮し、態度が軟化する。先ほどのような怒りに満ちた目はもうどこにもなかったみたいだ。
「よくやったそこの、よし今だ!!」
そこに空気を読まない衛兵隊長の号令。その号令に従うべく、周りの衛兵たちが動き出した。
そしてその号令は再開を喜ぶリリスのムードをぶち壊す。
「・・・・・・」
何だろう。リリスから凄い怒りを感じる。ってあれ?なんか元に戻ってないか?
先ほど一度はいつもの彼女に戻ったみたいに見えたのだが、それはどうやら勘違いだったみたいだ。まだリリスは怒っていて、その目は倒すべき衛兵をとらえているという。
「ええっとリリス?ちょっと落ち着こう、な?」
今はこうして上から抑えているから彼女を止められているように見えるが、彼女が本気をだせば俺をはねのけることなんて容易い。
だからまずは一番危険なこいつをなだめることからだ。
正直、後ろの衛兵はあんまり脅威じゃない。
多分だが、素手でもなんとか戦える。そのくらいのステータスしか持っていないと思う。
「・・・大丈夫よ。でも相手さんはやるつもりだから、タクミはそこをどいてちょうだい。」
全然大丈夫じゃなさそうだ。
相手が戦うつもり、というのがただの大義名分にしか聞こえない。
「ちょっと衛兵さんたち!!?剣を納めてくれないか!!?このままだとこいつがまた暴れだしてしまう。」
「・・・・我らが剣を納めればそいつは本当に暴れないのか?」
どうやら話は通じるみたいだ。
「はい。そうさせないと誓います。」
「―――ちッ、飼い犬の手綱くらいちゃんと握っておけよ。お前ら、剣を納めろ。貴様らはあとで覚えておけよ」
明らかにこちらまで聞こえる声で悪態をついた隊長。
元はといえばお前らが俺たちを拘束したまま放置したのが問題だと思うんだけど・・・それについてはどう考えているのだろうか?
「それはともかく、エリック達は今何をやっているかわかります?あいつ、ずっと俺たちを放置して酷いと思いません?」
その言葉で、隊長は何かを思い出したかのように俺に言った。
「そうだ。君たちはここに拘束されていた者達か。そこの獣人の身の潔白は証明されたからもう出てもいい、それがエリック様からの伝言だ。」
それは結構なんだが、伝言?あいつのことだから直接伝えに来そうなのだが、何かあったのだろうか?
「エリックは今どこにいるんですか?ちょっと話したいことがあるから会いたいのですが。」
「エリック様は今現在、体調を崩してしまったからゆっくりしておられる。どうしても会いたいというのなら、冒険者ギルドに向かうといい。」
体調を崩した?
俺はその言葉にある可能性を見出し、エリックが今危機に陥っているのではないかと感じた。