15 スキル調整と俺だけの技
俺の剣がマタンゴを一刀のもとに切り捨てた後、仲間を倒されたからか他のマタンゴたちが一斉に俺にとびかかってきた。
先ほどのことを考えると、タイミングを合わせて横なぎをすればとびかかってきたマタンゴたちを一斉に切り捨てることができそうだが、俺はそれをしない。
俺は一番早く俺のもとに到達するマタンゴのみを切り捨てて、残りの奴の攻撃を回避する。
そして、すぐに近くにいる1体を叩き切る。
するとマタンゴたちがとびかかってくる。そこにノアが放った魔法がたたきつけられる。
そして魔法を受けたマタンゴがノアのほうに行こうとするのを、俺は《挑発》のスキルを使用して阻止する。
俺たちはこの動作を永遠と繰り返した。
俺が剣を振るうたび、ノアが魔法を放つたび、1体ずつであはあるが、確実にマタンゴが数を減らしていく。
確かに、相手の数は多い。
しかし敵が持ちうる攻撃手段は、体当たりのひとつなのだ。
その単調な攻撃故に、俺には攻撃が届くことはない。また、ノアの方向にもいかせないようにしているため、彼女の方向にマタンゴたちが走っていくことも許されない。
初めは見渡す限りキノコの魔物が視界を埋め尽くしており、気が遠くなるような作業だったが、時間がたつにつれてその数が減っていく。
今はもう、数えられる程度の数しか残っていなかった。
普通の生き物なら、このように一方的に殴られる展開になれば、すぐさま逃げようとするのだが、そこはこの世界の魔物の性質なのか、はたまた《挑発》の効果なのか、一向に逃げる気配はない。
それどころか、ためらいなく突っ込み続ける。
結局、俺たちが戦闘を始めて一時間も経過しないうちに、あれだけいたマタンゴは全滅していた。
「いやー、すごかったよタクミ!!まさか木の剣で真っ二つにしちゃうんだもん。初め見た時は目を疑っちゃったよ!!」
敵が全滅していることを確認したノアが、マタンゴが落とした魔石を拾いながら、そう言ってくる。
「いやー、大丈夫だとは思ったけど、まさかここまで効果が出るとは思わなかったな。」
「そういえば、結局何のスキルをとったの?2つ取ったって言ってたよね?」
「一つ目は《挑発》のスキルだ。これは詠唱中のノアに魔物が行きにくくするためだな。」
「うん、それはわかってるよ。わからないのはあのマタンゴを切っていたスキルのほうだよ。いっちゃあ悪いけど、タクミってレベルが低いでしょ?その段階でそんないいスキルあったかなって思って・・・」
レベルが低いとは失礼な・・・ノアだってほとんど変わらないじゃないか。
ちなみに、今日の朝教えてもらった限りではノアのレベルは11だそうだ。俺と会った時は5だったらしく、ゴブリン討伐でここまで上がったらしい。
どうやら、経験値はパーティ内全体に振り分けられるようだ。
とっているスキルは、
魔力強化 弱 3
MP増加 弱 3
水魔法 ウォーター 3
魔力自然回復 弱 3
の4つらしい。スキルポイントは1レベルにつき、2ポイント入るっぽいので、昨日の時点で覚えていたスキルはウォーターくらいだろう。
「でー?結局何のスキルとったの?」
「ああ、俺がとったスキルは斬鉄というスキルだな。戦士系のスキルでスキルポイント10消費で覚えることができるんだ。」
「斬鉄・・・?って確か一定時間だけ武器攻撃力を増加してくれるスキルだっけ?」
「お、よく知ってたな。」
知ってたんなら、思いつていもよさそうなものなのだが、どうやら予想外だったらしい
彼女は訳が分からないといった顔をしながら、首をかしげている。
「でもそれってそんなに強化してくれないって聞いたことがあるよ?ほんの少しだけ攻撃力が上がるとかなんとか・・・」
俺の叩きだした火力が腑に落ちないのだろう。彼女はそう言って俺のほうを見てくる。
胡散臭いものを見るような目だ。俺が嘘をついているとでも思っているのだろう。
しかし、残念ながら俺が話したことはすべて真実だ。
「いやな?スキルってある程度自分でいじれるだろ?それで強化率の部分を最大まで引き上げたんだよ。」
これが今回の出来事の真実だ。
あの夜、スキルウィンドウに表示されていた《挑発》のスキルを何気なしに注視してみたら、設定ウィンドウみたいなものに切り替わったのだ。
そこには効果説明と、威力、効果時間、冷却時間といったものの数値が書かれていた。
そしてそれは何か動かせそうだったのだ・・・
俺は興味本位で、効果時間を伸ばしてみた。
すると効果時間が伸びると同時、今度は冷却時間大幅に伸びた。
どうやら、スキル内の数値の絶対値だけは固定で、その割合は自由に選べるようなのだ。
それから先は、俺は楽しくなっていろいろなスキルを注視していく。
残念ながら、まだ習得していないスキルは効果説明しか表示されなかったが、俺にとってはそれだけで十分だった。
消費スキルポイント、説明文、スキル項目が上から何番目かだけで、その内容は大体理解できる。
そして俺は発見してしまった。この《斬鉄》というスキルを・・・
これは素の状態では、使用後10分間だけ武器攻撃力が1、05倍になるというスキルだった。
悪くはないが、序盤でほしいかと言われれば微妙なスキルの類だろう。
名前に似合わず、ショボいスキルだ。普通はそう思うだろう。
しかし、このスキルは長時間使用が前提とされているためか、冷却時間の設定が甘かったのだ。
時間にして約10秒。
おそらく開発者は、10分間効果が続くのなら、生半可な冷却時間では意味がない。しかし、この程度のスキルにそんな思い制約をつける必要はない。
そのように判断したのだろう。
それはおそらく、スキルの内部設定のことを忘れていたか、それともそもそもその時点では話に上がっていなかった段階にスキルを作ってしまったからだろう。
ともあれ、俺はこの《斬鉄》を見つけた瞬間、迷わずにそれを習得して設定をいじくった。
そしてその結果が、
スキル 《斬鉄》
効果
武器攻撃力×9、9倍
効果時間 0、1秒
冷却時間 10秒
これだ。
10分あった効果時間を、限界ぎりぎりまでのゼロコンマ1秒まで引き下げ、その分威力を増した《斬鉄》だ。
一瞬しか効果はないが、その分威力は極大。
初めはショボいスキルに見えた《斬鉄》だが、こうなってしまうとその名にふさわしい効果に見える。
これを発見したときは、夜なのにもかかわらず少し小躍りしてしまったな・・・なんて俺は昨夜あったことを思い出していた。
いやぁ、武器屋に木の剣しか売ってなかったことなど、もう覚えていない。
しかし、ノアのほうはまだ納得がいっていないみたいだ。
「いやいや、スキルの調整ってタクミは何を言ってるの?そんなことできるわけないじゃない。」
彼女はそんなことを言ってくる。
それにしても妙だな?スキルの調整ができない?
「そんなことはないだろう?ためしにスキルウィンドウを開いてみ?」
「う、うん・・・」
ノアは俺の言ったとおりにスキルウィンドウを開いた。
そしてそれを俺に見せてくる。そこには朝聞いた通りの習得されているスキルが、明るい文字で表示されており、それ以外は薄暗い色だ。
「じゃあ次は、覚えているスキルを注視してみるんだ。」
「えっと、こう、かな?」
ノアは言われた通りにスキルのほうを見るが、そのウィンドウの画面が切り替わる気配はない。
―――どういうことだ?
そう思い今度は俺がノアのスキルウィンドウを注視した。
すると昨日俺が見たものと同じようなスキル設定ウィンドウに切り替わった。
「え!?何これ初めて見た!!」
ノアは初めて見るそれに驚きの声を上げる。
・・・・・・・なるほど大体は理解した。
どうやらこれを開けるのは俺だけみたいだな。
これは主人公―――プレイヤー特有のものらしい。
「ところで、ノアはそれを動かすことができるのか?」
驚いた顔をしているノアに俺は聞いてみる。
「うーん・・・これ、動かないんだけど。」
しかし表示されているそれを操作することすらできないらしい。
しかし、
「ん?どれどれ・・・お、俺なら動かせるな。」
俺はノアのスキルのひとつ、水魔法 ウォーターの威力項目を上げたり下げたりして確認する。
先ほど同様に、俺ならばこれも操作することができるみたいだ。これは少し面倒な気がするな、と思いはしたが、思ってみれば俺がいないと開くことすらできないんだからそこは関係ないか・・・
俺は一通り動かした後で、性能を元に戻す。
勝手に動かしてしまっては、勝手の違いから困惑するかもしれないからな。
俺はノアのスキル設定ウィンドウを閉じて、彼女のほうに向きなおり笑顔で言った。
「じゃあ、キノコ狩りも終わったことだし、今日はもう帰ろうか。」
もう少し書こうと思ったのですが、長くなりそうなので今日はいったんここで切ります。