145 一歩と別れ
昨日の宣言通り今日も冒険者としての仕事をするようにする。
本日受けた依頼は『マジックパラセリアの討伐』だ。
前情報によればうねうねした植物らしい。
名前の通り魔法も使う。報酬額は1体につき3万Gだ。
先日のトロール王に比べたら大分安いが、あれはボスモンスターフラグか何かを持っていそうだったし、こちらは数いるということを考えたら妥当なところだろう。
「あ、ノア。昨日トロール討伐に行ったけど召喚術って増えたのか?」
討伐系の依頼を受けたのはそもそもそれが理由だったような気がする。
今日もそれが理由で討伐系だしな。
運搬系や採取系だと安全なのだが、それでは大金を手にすることができないというのも理由の一つとしてある。
討伐系のほうが比較的に報酬がいいのだ。
「いや?無理みたいだったよ。普通のトロールたちには試してみたけど王様への忠誠が――って感じで無理だったよ。王様はそんな隙は無かったよ。」
あー確かに倒すことを最優先にしたからそういうことをする隙は無かったよな。
まぁ、プライドが高そうなあのトロール王がノアの召喚獣になってくれるとは思わないけどな。
「って言うことは無駄足だったってことかしら?何のために昨日あんなに頑張ったの?」
「いやリリス、昨日仕事をしたのも今日仕事をするのもお金稼ぎが目的だからな。別にノアの召喚獣は増えても増えなくても関係ない。」
「関係ないってことは無いよね!!?お友達いっぱい増えたらうれしいじゃん!!」
それはそうだが、それとこれとは話が別だと思う。
というか、トロールを従えて友達・・・・?トロール王はともかくほかのやつらは知性が微塵も感じられなかったのだが、対話とかできるのだろうか?
「まあいいや。そろそろ行こうか。今日の目的地は少し遠いから早めに出たほうがいいだろう。」
今現在の時刻は大体7時くらいだ。
もう少し遅く出ても余裕で夜までに帰ってこれそうだが、何が起こるかわからないから早め早めに行動したほうがいい。
「そうだね!行こうか!!」
「はい!えっと、タクミお兄ちゃん・・・」
リアーゼが少し俯いて俺に何か言いたそうな雰囲気を見せてくる。
「どうしたリアーゼ。何か心配事でもあるのか?」
足りないアイテムでもあるのだろうか?それとも何か別の用事でもあるのか?
「今日の戦闘なんだけど、あの、私も一緒に・・・・いいですか?」
「おう、いいぞ。でもまずは身を守ることを考えろよ。魔物に囲まれても時間を稼いで死なないようにしてくれ。」
そうしたら誰かが助けてあげられる。
この世界でのレベル上昇についての話だが、今までの戦闘でわかってきたことがある。
経験値というのは基本的にパーティ全体に割り振られているのだが、それは以下の要因、
倒した数や、魔法によって味方を回復させた量、与えたダメージ、稼いだヘイト値、状態異常を与えた量、などの様々な要因によって割り振られているみたいだ。
だが、これらに一切触れない場合たとえその場所にいても経験値は一切入らない。
これは当然だろう。
一定距離内にいる場合に全員が経験値をもらえる、ということだったらダンジョンに行って強そうな冒険者を尾行するだけでレベルが上がっていく。
でも実際にはそうはならない。
これに気づいたのはリアーゼの身体能力がいつまでたっても上がらないことからだ。
初めは高いと思ったその能力値だが、日が経って俺のレベルが上がっていくというのと同時にリアーゼが少しずつ、弱くなっていっているような気がしていた。
ステータスを確認する機会はなかったため、それが本当かどうかは定かではない。
実際は俺の能力が上がったことで感じた勘違いだったのだが・・・・
ともあれ、このままではリアーゼのレベルは上がらない。
今は何とか見つからずに隠れることができているのだが、それもいつまで続くかはわからない。
もし敵に見つかってしまった時、何らかしらの自衛手段は持っておいたほうがいいと思うのだ。
・・・・まぁ、こうやってかっこつけてつらつらと述べてみたが、経験値のシステムについては『渡り人への救済』の本で大雑把に解説がついていたから知っているんだけどな。
「は、はい!足を引っ張らないように頑張ります!!」
「そんなに緊張しなくていいわよ。危なくなってもタクミが何とかしてくれるわ。」
そこは全部俺に丸投げなの?
パーティメンバーが危なくなったらみんなで助けようよ。
「お、お願いします!!」
リアーゼが深く頭を下げる。
「お、おう、任せとけ・・・・あ、自衛用にこの杖使う?」
そう言って俺が渡そうとしたのはノアから貰った破裂の杖だ。ノアは近接戦闘でも使えるようにとカスタムしてくれたみたいだが――――カスタムしたのはシュラウドだったか―――暴発しないように持っている関係上発動させるにはどうしても一工夫いる。
近いうちにノアが考えていたであろう運用方法ができるようにしておこうとは思うが、当面は使いづらいのだ。
「えっと・・・いいの?」
「いいよな?ノア。」
これを贈ってくれた人物と、一応所有者の俺がいいといえばいいのではなかろうか?
「あ、いいねそれ!!これなら自分の居場所を知らせることなく攻撃できるから安全に攻撃できるだろうし。」
ノアの了承も得た。
これなら大丈夫そうだ。そう思い俺は腰から抜いた杖をそのままリアーゼの手の上に乗せた。
彼女はそれを大切なものを扱うように受け取った。
「あ、知っていると思うけどそれ三回しか使えないから使いどころは考えたほうがいいぞ。」
考えなしに使えるアイテムという訳ではない。
もし仮に目的地に向かう途中で全弾撃ち尽くしてしまったらその日はそれは文字通りお荷物にしかならないからな。
速攻で使えば昨日のトロール王も速やかに倒せたかもしれないのに、最後まで使わなかったのはそれが理由だったりする。
まぁ、リアーゼは賢いからそこらへんは言わなくてもわかるだろう。
「はい。気を付けます。」
「あと、それ手に持ってたら結構簡単に発動するから使ってないときは今みたいに布か何かでくるんでおくように。」
ひとつ前に言った残弾の話は別にいいが、こっちには絶対的な注意を向けておいてほしいから念押ししながら俺はそう言う。
その杖は肌に直接触れて物体を凝視するだけで発動動作は完了するのだ。
見ようによっては・・・いや、どう見ても危険極まりない物体だ。
ちょっと物を注視しただけで、冗談じゃない威力の魔法が飛び出すんだからな。
「はい!気を付けます!!」
俺の思いが伝わったのか、先ほどと同じセリフだが少し力強く感じられる。
これなら大丈夫だろう。
「さて、そろそろ行くわよ。早くいって早く帰りましょう。」
それもそうだな。
ここでゆっくりしていても仕方ないし。
俺たちは街の外へ向かう。
そして門をくぐろうと思った時、見慣れた姿を目にすることになった。
街中にはそぐわない、威圧感を放つ姿。
お前は草原にいるべきだろうといいたくなるような見た目。
そう、マルバスだ。
「マルバスじゃないか。どうしたんだこんなに朝早くから。」
「ああ、我は今日この街を出る。だからリリーに挨拶をしにね。」
そうか。このライオンとも今日でお別れなのか。
「あら?あなたは結構この街を気に入ってたみたいだけど、どうして出ていくの?」
「ちょっと調べものをね。」
「そんなものあなたのスキルを使えばこの場にいてもできると思うけど・・・・言っても無駄ね。」
「そうだ、我の『接続』に引っかからないこともあるってことをドヤ顔ダブルで知ったからね。」
その呼称はずっと継続なのだろうか?
もう突っ込む気も起きない。
「へぇ、で、次はどこに行くのかしら?参考までに聞かせてもらっても?」
「次はそう―――ここからずっと東、神国の最東端にでも行こうと思うよ。」
って言うことは当分は出会うことは無いんだろうな。
こうやって知り合いが離れていくのは少し寂しいものがあるな。
そいつが自分にとってあんまりいい奴じゃなかったとしても。
「理由は?」
「日本、っていう場所に心当たりがあってね。ちょっと確認に、」
これは俺の出身地の話をした時の話だな。
日本という場所そのものを知っているというものではない様子だが、何か手掛かりになりそうな場所を知っているのだろうな。
たしか地図では神国はこの場所、王国から隣国の帝国をはさんだ東側だったっけな?
そこのさらに東、といえば大陸の最東端になる。
「そう、なら、またね。」
「うん、またいつか。」
マルバスはそれだけ言って全速力で走り始めた。
ライオンはネコ科の動物だ。そしてネコ科の動物は全体的に瞬発力に能力が寄っていて持久力というのはさほどないと聞く。
だが、彼女は初めと同じ速度を維持したまま俺たちから見えなくなる。
よくわからないが、多分あれは俺の知っているライオンじゃないのだろう。中身は悪魔なわけだし、体のつくりが違うとみていいと思う。
「さて、時間をとらせて悪かったわね。行きましょうか。」
走り去るライオンを見送ったリリスは、彼女が見えなくなった後こちらを振り向いてそう笑った。
「ああ、次はいつ会えるか楽しみだな。」
当分は会えないだろう。だが、またいつかは会いたいものだ。
それは俺じゃなく、リリスが一番そう思っているだろう。
ほんの少しだが、振り向いたリリスはさみしそうな顔をしていた。それを見ると、俺はそう言わずにはいられなかった。
「そうね。次会う時には何か、彼女が思いもしない面白い話でも用意しておきましょうね。」
「はは、それは少し難易度が高くないか?」
あいつは世界の記録とやらに干渉するらしいんだぞ?そんな奴相手に驚く話をするなんて、どれくらい難しいことか想像がつかないな。
まぁでも、次会った時のために何か用意しておくとしよう。
聞いた話―――いや、わかっていたのだが悪魔に寿命なんてものは存在しない。
その為か、悪魔たちは物事をかなり長いスパンで考える傾向にあるようだ。
もしリリスが次にマルバスにあった時、俺はその場所にいるのだろうかね?
そんなどうでもいいことを考えながら、俺はみんなを引き連れてマジックパラセリアがいるという場所に向かっていった。