141 なれと不得意
トロールの集落は滝の裏にある、という情報のもとで俺たちは滝まで来たわけだがいまだにトロールたちを目視できないでいる。
というのも、滝の裏というのは良くも悪くも騒音の中+見えない場所ということで確認が取りづらいのだ。
「流石に何の確認もなしに突撃っていうのは無しだよな。誰か何か安全に中の様子を確認する策とか持っているか?」
これに該当するのはノアの召喚あたりだろうな。
シルフとか結構適任かもしれない。
あ、発見のされ辛さから考えたらウンディーネのほうがいいのかな?
「あ、それなら私が―――「はいはい!!私がやるわ!!」
リアーゼが挙手しようとしたとき、リリスが遮るように声を上げた。
「えっと、リリス、何ができるんだ?」
「偵察型スライムちゃんを産むわ。」
また新しい便利スライムか。いい加減リリスのスライムは反則的な便利さを持っているな。
リリスは言うが早いか、一匹のスライムをその場に作り出した。
丸い体に、そのまま人間の足が生えたみたいな小さなスライムだ。
またその体には大量の眼球のようなものがついている。正直言って、気持ち悪い見た目だ。
それはこの場に現れてから少しずつ色が薄くなっていく。
「うわっ、何それ!?気持ちわる!!」
「失礼ね。よく見たら可愛いわよ?」
リリスはそういうが、段々と消えていくスライムはもうすでによく見ることはできない。
ただ、多分だがあれをずっと見ていても可愛くは見えないんじゃないか?
「じゃあそいつに見てもらうってことでいいんだよな?」
「そうね。ということで早速いってちょうだい。」
滝のほうをリリスは指さした。
スライムはもうすでに完璧に透明になっており、ほとんどその居場所を知ることはできない。
よく見てみれば光の屈折とかでわからないことは無いが、それもよく見ればの話だ。
そこにいると知っていなければ見つけることはできないだろう。
スライムは滝の裏に走っていってしまった。
「ちぇー、ここは僕のシルフちゃんのほうが見栄えもいいし適任だと思ったのになー。」
ノアが不貞腐れている。
うん、俺も初めはそう思ったからその気持ちはわかる。
「いいじゃない。こっちのほうが見つかりづらいわよ。」
「確かにそうだけどー、」
俺としては確実なほうがいいからリリスのスライムは大歓迎だったりするんだけどな。
「それでリリス、どのくらいで完了しそうだ?」
「えーっと、多分二十分もすれば戻ってくるんじゃないの?」
ずいぶんと適当だな。まぁ中の様子が分からないし二十分ですめばいいほうだけど。
それまでやることは無いし適当に時間をつぶしていくとするかな。
何も持っていないときに暇つぶしにやることといえば大体スキル一覧を眺めていたりするんだけど今はみんないるしな。
適当に会話でもしていたらいいだろう。
「そういえばリリス、お前のスライムってどのくらいの範囲ならできるんだ?っていうか逆に何ができないんだ?」
臓器作ったり偵察したり、椅子になったり本当にいろいろなことができる。
限界はあるのだろうか?
「私にできることなら大体何でもできるわよ。できないことといえば魔法を使ったりすることくらいかしらね?」
「へぇ、スライムを生み出す条件とかは?」
「特にはないわ。強いて言うなら一日に生み出せるスライムの合計レベルは3000以内に抑えなければいけないというところかしら?」
「ってことは何?一匹だけ強い奴を生み出すっていうのもできるの?」
「あ、それはできないわね。私のレベルより高いスライムは産めないのよ。」
制約は一応あるみたいだ。
それが何か意味を成しているかといわれればちょっとよくわからないけど。
「ん?でもそれなら生命樹のダンジョンのスライムは何なんだ?確かあれ部屋の機能って言ってたけど、リリスのスライムとは無関係なのか?」
「そうでもないわよ?あの部屋は私が前の日に余らせたレベル分だけスライムを生み出すの。要するに私が毎日スライムをフルに活用したらあのダンジョンは機能しないって言うことね。」
成程ね。
で、スライムは平均33だったから大体あのダンジョンでは毎日90体くらいのスライムが生み出されているのか。
で、多くなりすぎたら隔離。
あのダンジョンは結構複雑なシステムで成り立っているんだな。
まぁ、もう行くつもりはないしスライムには襲われない系の人間になったからいくらスライムが増えようが関係ないんだけどな。
「ちなみにボクのウンディーネは一度に3人まで呼び出せるよ!!シルフちゃんは200人、ひのたまーはMPの限り呼べるよ!!」
聞いていないんだがノアが召喚の上限数を教えてくれる。
強い奴は数に限りがあるみたいな感じかな?
シルフは200が限界とか言ってるけど、実際にそんな大量に呼び出すことは無いだろうから問題はないんだろうな。
実質無限といってもいいかもしれない。
「ちなみに俺の『白闘気』は30秒で切れるぞ!!『純闘気』は5秒で『斬鉄』に至っては0、1秒で切れるぞ」
なんとなくだが俺も自分のスキルの限界点を教えておく。
何の意味もないのだが、参考にしてもらえばいいんじゃないかな?
「いつも思うけど君はよく『斬鉄』を外さないよね?何かコツでもあるの?」
0、1秒っていうのは言葉で言うと結構短い時間に思えるかもしれないが実際戦闘中には結構余裕がある。
剣を振っている途中に発動させれば大体効果時間内に攻撃が当たるからな。
別に意識することなんてないんじゃないだろうか?
某狩げーでは回避時の無敵時間0、02秒を確実に当てる必要があったし、それに比べたら簡単なほうだ。
「コツというかは慣れのほうだろうな。」
「ふーん、」
あんまり興味はなさそうだな。
まぁ、魔法使いは戦士の気持ちがわからないというのもよくある話だからそれはそうなのかな?
「俺としてはいつもリアーゼがどうやって魔物から隠れているかが気になるけどな。」
「えっと、私ですか?私はみんなに視線が集まっている間にみんなとは全く違う方向に行く感じで隠れています・・・・いつも隠れてばっかでごめんなさい。」
「リアーゼちゃんが謝るようなことじゃないよ!!それを言ったらボクだっていつもタクミの後ろからしか攻撃してないしね!!」
リアーゼが落ち込みそうになるのを、ノアが咄嗟にフォローを入れて止める。
「そうだぞリアーゼ、人には得意不得意があるんだ。できないことはやらないほうがいいまであるんだぞ。というか、俺はそんなに完璧に隠れることとかできないからそれも何気凄いことなんだぞ?」
隠れるという動作は俺は結構苦手だったりする。
オンラインのハッキングかくれんぼゲームを友人にやらせてもらったことがあったのだが、数回しか成功したことがなかったしな。
それをやらせてくれた友人曰く、俺はかくれんぼは素人みたいだ。
ああいうのは隠れられる場所ではなくて隠れていると思われない場所に隠れているのがいいんだとか言っていたけど、俺にあれをまねできるとは思えなかった。
どうしてあれでばれないのかわからないからな。
「それでも私はやれることが少ないから・・・」
「そう思うなら見つからないように敵に向かって何か攻撃を仕掛けてみたらどうだ?最悪見つかっても意識を再び俺のほうに向ければいいから試してみる価値はあるかもしれないぞ?」
それほど隠れるのがうまいなら、敵の後ろのから気づかれる前に崩すということとかできそうだ。
それをやってもらえたら何故かよく起こる対集団戦においては結構有効に働くんじゃないだろうか?
見えない敵が後ろにいると思わせるだけで集団は疑心暗鬼になって勝手に崩れることもあるし・・・・
「そうですね。やってみます。」
リアーゼは手を強く握りしめた。
何か決意に満ちた目だ。
そんなに気負わなくても、気楽にやってもらえばいいんだけどな。
「あ、タクミ。調査が終わったわよ。今から中の状況を説明するわね。」
そこでリリスが先ほどはなったスライムが調査を終えたみたいだ。
予定していた時間より明らかに早いのだが、早い分には問題ないだろう。
「そうか。じゃあ説明頼んだぞ。」
俺たちはリリスの言葉に耳を傾けた。