140 旅費調達と試運転
『図書館は発見と驚きであふれている。』
本が好きな友人が偶に口にしていた言葉だったっけな。
確かに、発見も驚きもある。
それはこの世界に来て2回にわたる情報収集で思い知らされた。
「はぁ、もうここには来たくねえな。なんか来るたびに衝撃を受けている気がする。」
帰れないことや、英雄たちがもう死んでいることなど、知りたくなかったことを並べられては次に来たくなくなってしまうのもわかる話だと思う。
それでも情報を集めるならまず文献を探すのが手っ取り早いからまた困ったら来るんだろうけどな。
図書館を出て空を見てみるともうそろそろいい時間になっているのが分かる。
みんなも宿に戻っていることだろう。
俺も早く戻って食事に参加しないとな。
俺は早足で宿まで走った。
「あ、遅かったね。何かいいものでも見つけたの?」
宿の食堂ではもうすでにノアたちが食事を前に待っていた。
先に食べてしまってもよかったのだが、彼女たちは待っていてくれたらしい。
「ごめんごめん。ちょっと調べものしてて遅くなった。」
「あ!!もしかしてあれだね!!さっき言った奴だね!!?」
「ああ、もしかしなくてもどこのダンジョンに行こうかっていうやつだ。」
「ありがとうタクミ、期待してるから行くときになったら早く声をかけてね!!」
流石のノアも今すぐ行こうとか、明日になったらすぐに行くとかは言わないんだな。
店を抱えている事とかをちゃんと考慮しているのかもしれない。
「それより早く食べようぜ。今日の夕飯は何なんだ?」
「はい、今日はアードラという鳥型の魔物のから揚げとなっております。タクミ様の分もすでに用意させていただいています。」
それは気が利くことだ。
今日は唐揚げか。何気にこの世界に来てから初めて食べるかもしれない。
「じゃあ早速食べようぜ。冷めてしまったら美味しくなくなってしまうだろうからな。」
「そうね。食べましょう。」
その言葉をきっかけに、みんな目の前に積まれていた鳥の唐揚げの山を崩し始めた。
◇
そして次の日。
いつものようにノアに起こされた俺は今日は冒険者ギルドにやってきていた。
「さて、ダンジョンに行くためにはまず旅費、その他もろもろの準備が必要だ。そこはわかるなノア?」
「それくらいはボクでもね!!ということは今日は大きく稼げる奴を倒しに行くんだね!!?」
「ああ、そのつもりだ。で―――――ノア、リリス、どれかリクエストはあるか?」
依頼版の前で、何か受けたい物はないかと問いかけてみる。
今日張り出されている依頼も多岐にわたるが、安い依頼と高い依頼に綺麗に分かれている。
逆に中途半端な依頼はないともいえる。
「えーっと、行きたいのは討伐系だね。運が良ければ召喚契約に応じてくれるかもしれないし。」
あー、確かに。
それが出来たら一石二鳥だな。
それをやった場合討伐完了扱いにならなくて討伐履歴の石板に映らなかったけど、ノアが召喚士である事とウンディーネは契約したということを言ったら報酬は貰えたんだったよな。
「そういえばノア、召喚契約の詳細な条件はわかったのか?」
これも図書館で調べとけばよかったな。
そこらへんは目を通しはしたが詳細までは見ていなかった。
当分は図書館に行きたくないとも思っているのでわかっていてもらいたいところだが。
「あ、それなら大体わかったよ!!相手に受け入れる気持ちがあれば大体大丈夫みたい!!」
「へえ、じゃあ実は倒す必要とかは?」
「ないね。でも魔物とかは一回力を見せつけないと折れてくれないと思うよ。」
それはそうだろうな。
いきなり来て『召喚獣になれ』とか言われて受け入れる奴のほうが少ないと思う。
それを言われてきてくれるのはよほどの暇な奴くらいだろうな。
「結局どの依頼を受けるのかしら?私としてはどれでもいいわよ。」
リリスが催促してくる。
「えーっとねー・・・・あ!!これとかどうかな!!?」
ノアがそう言って指さしたのは『トロール王の討伐』の依頼だった。
報酬額は550万Gだ。
トロール王はこの街の近くを通る川の上流、そこにある滝の裏側に洞窟がありそこに集落を構えているらしい。
で、討伐するのは王だけでいいとも書かれている。
普通のトロールたちは王を倒せば勝手にばらばらになるらしいから放っておいてもいいのだと。
逆に倒しても報酬は入らない。
依頼書だけ見たらトロールに困っているのか困っていないのか全く分からない内容だ。
「いいんじゃないか?リリスもこれでいいよな?」
「ええ、いいわよ。私が受けてきましょうか?」
「いや、一応俺が受けてくるよ。」
俺は依頼板からその依頼が書かれた紙を引きはがして受付までもっていく。
その依頼は何の問題もなく受けることができる。
実はの話なのだが、今日の依頼は何気に俺も楽しみだったりする。
ステータスの大幅上昇、魔法が使えるアイテム、新しい武器。
みんなからもらったプレゼントを早く試してみたいという気持ちがあるからだ。
「では、気を付けていってきてくださいね。」
ギルドの受付嬢から、そんな言葉をもらった後俺は待たせている3人の元に戻りそのまま朝のギルドを後にした。
トロールの集落へは川沿いに行けば迷わないので見落とすことはなさそうだ。
俺たちは気楽に外を歩いている。
「あ、見てみてタクミ!!あそこ!!オーガがいるよ!!」
「おー、本当だな。あ、ちょっと俺が1人で倒してみてもいいか?」
「うん!その杖を使ってみるんだね!!」
本当に、気楽に歩いている。
開けた場所を進んでいるため索敵もとても楽だ。
それに対して魔物は感覚が鈍いのか、はたまた警戒しているのか見つけてもすぐに襲い掛かってくるのは結構稀だったりする。
初めのころは結構大群に襲われていたことを考えると警戒されているのだろうな。
俺は杖を左手に持って構える。
ノアが別に体に触れていれば手に持っている必要はないとは言っていたが、こういうのは気分だ。
「えーっと確か使用方法は――――こうだったかな?」
俺は少し遠くに見えるオーガの足元を強く見つめてみた。
すると――――パァン!!!!
という大きな音とともに、オーガの足元が爆ぜた。
爆発、というよりかは破裂したみたいな感じがする。
突然足元で強力な爆発が起こったからだろう。
オーガはびっくりして転倒している。いや、あれはびっくりしたわけではない。
脚が機能していないのだ。
遠くからで見えづらいが足に大きく裂傷が出来上がっており、細かく痙攣している。
想像以上の威力だ。
俺の予想としては火傷跡がついて足を引きずりながらもこっちに向かってくるくらいの威力があると思って使ってみたいんだけど・・・その予想は外れたみたいだな。
「どう?すごいでしょ?すごいよね!!」
遠くで倒れるオーガのほうに視線をやりながら、ノアが感想をもらいたそうに話しかけてくる。
「これはすごいけど使いどころが限られそうだな。なぁノア、一つ聞いてもいいか?」
「うん、何でも聞いて!!」
「この杖は本当に身に着けていないと―――、肌に直接触れていないと発動しないだろうな?」
「そうだね!!ボクも布越しに触って確かめてみたけど発動はしなかったよ!!」
それなら安心した。
もし触れていなくても近くにいるだけで発動するならば、これを腰に差したままちょっとした喧嘩とかになったら大けがのもとだからな。
「そうか。ならよかった。これなら結構有用な杖だな。破裂の威力は大きいけど見た感じ範囲はそれほどでもなさそうだし、使い道は多そうだ。あらためてありがとな。」
「どういたしまして!感謝してよね!それ、結構準備に手間取ったんだから!!」
誇張とかではなく、実際そうなんだろうな。
俺が別のVRのゲームでこれと同じような武器を入手しようとしたときそこそこ苦労したような記憶がある。
そのゲームを作った製作陣としては『威力がある上に周りを巻き込まない、それに発動条件は触れているだけでいい、近接しながら隙を見せずに魔法が使える、それも必殺レベル。』という理由で入手難易度を上げたんだっけな?
これも同じ理由かは知らないけど、準備に手間取ったという台詞に嘘はなさそうだ。
「うん、大切に使わせてもらうよ。じゃあ俺はあれにとどめを刺してくるから。ちょっと待っててな。」
強力だが回数制限があるからとどめは俺が直接やりに行かなければいけない。
あのまま放置するわけにもいかないので俺は鞘から剣を引き抜く。
いつもは使っているのが木の剣だからむき出しの抜き身状態だったのだが、今日持っているのは黒牙の剣ということでちゃんとした鞘も用意してある。
丁度動けない的もいることだし、切れ味チェックにはちょうどいい。
俺はオーガの近くによって、その場から歩けないオーガに向かってその剣を振り下ろした。
それは驚くほど滑らかに、オーガの体を両断して、灰に変えたのだった。