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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第4章   魔王の願いと蠱毒の少女
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135 重い空気とこれからへの

勇者たちは魔王と戦った3日後には王都に向かって馬車を走らせていた。

目的は簡単、国王への報告のためだ。


本来ならこういう場合は手紙などを魔法で転送することによる報告が一般的なのだが、勇者たちは直接話すことを選択した。

報告の内容が内容だからだ。

魔王の仕組み、それを手紙なんかで伝えきることができる気がしなかったのだ。それに、手紙だと途中で第三者に勝手に読まれてしまうこともある。

安全性を確保するなら自分たちが行ったほうが確実性が高いのだ。


ベイルブレアの街から王都までは約1週間かかる。

その間、馬車の中の空気は行きより圧倒的に重くなっていた。


「なんというか、想像以上だったな。」

ダミアンは重苦しい空気の中そう口にする。

魔王・・・いや、厳密にいえば魔王ですらない相手に殺されそうになり、本物の魔王には手も足も出なかった。

それに、仲間を一人みすみす失うところだったのだ。

生き道では負けるつもりなど毛頭なかったが為に、その事実は彼らの心に深く突き刺さる。


今まで彼らが倒してきた魔王は、エイジスと比べてみても見劣りするものだった。

それでもまだ魔王ではないというのだ。

なら、今まで自分たちがやってきたのは何だったのかと考えさせられる。


「そうだね。俺も自分の未熟さを思い知らされたよ。あそこで頭に血が上ったまま魔王を倒しに行ってたら確実に殺されていただろうね。」

ライガはため息をつきながらそう呟く。

タクミの店での勇者は冷静ではなかった。あの時自分は魔王を倒しに行くという選択肢しか頭になかった。

自分は勇者で、相手は魔王だということを考えればそれも当然なのかもしれない。

だが、明らかに負けることが分かっている戦いをするのは愚かな行為でしかない。それを止めてくれたあの男には感謝せねばならない。


何か隠していることがあったような気もするが、そのことを聞くのはまだ今度来た時にしようということになった。

彼だった言いたくないことの一つくらいあるだろう。

マルバスと呼ばれていたあのライオン――いや、悪魔か―――の質問に答えた後、明らかに不自然な話題の転換をしていた。

よほど掘り下げられたくない話だったように思える。


―――出身地は日本で知識の出元はネット―――その言葉がどういう意味を持つのかはよくわからない。

ただわかるのは、その言葉が自分たちに聞き覚えがないことだということだ。


後者はともかく、前者の地名と思われる部分さえ聞いた覚えはない。

思うところはあるがこのことを考えても仕方がなさそうだ。


「それでライガ、あなた国王様になんて報告するつもりよ。負けて帰ってきましたなんて私たちの立場で言えると思うの?」


「はは、リオーラは手厳しいな。」

リオーラは先の件からアイナのそばにぴったりとくっついている。

このパーティ内で一番アイナと親しいのは彼女だし、そのアイナを失いそうになって一番取り乱していたのも彼女だ。


大切なものを手放さないようにぴったりとくっついている。


それよりも彼女の言葉だ。

自分はこの王国の勇者の称号をもらった人間、そんな自分が魔王相手に何もできないという情報を持って帰るのはどうだろうか?そう言いたいのだ。


人々は不安になるだろう。

本当の魔王には自分たちの戦力は全く宛にならない証明をされてしまったのだから。


「だからこうやって自分たちの足で報告?」

アイナは気づいたようだ。

手紙だと王にたどり着く前にその内容を知られ拡散される可能性がある。


秘密にする必要がありそうな内容だから、こうして報告に向かっているのだ。


「そうだね。それもある。」


「それもってことは、ほかに何か用事が?」

基本的に自分たちは王都で活動をしているから用事がなくてもそこにいるのが普通なのだが、それ以外にも理由があることにもアイナは気づいているようだ。


いつでも冷静な彼女は心強い、あの魔王に毒をもらった時も助けてくれたのは彼女だった。

目を覚ました後に礼を言っても「それが役割だから」と一点張りだった。

もう少し誇ってもいいと思うが、無理強いすることもないと思いその時はそれだけにした。


だが、近いうちに何か形の残る贈り物をしたほうがいいというのは自分でもよく分かった。


「うん、今あの魔王に勝てなくても、あの魔王の対策を立てることはできるだろう?そのための調べものとかをしようかと思ってね。」

毒を使う魔王、だがその毒は異常無効で普通に無効化できる。それが分かっているなら戦うものが全員毒無効のスキルをとってしまえばいい。


タクミはまだ何か隠している可能性が高いといっていたからそれにまつわる文献がないか調べて対策を立てる。

今は勝てなくてもできることはいくらでもある。


敗けたからといって立ち止まる時間はないのだ。


「でもそれならあの魔王を知ってそうなあのライオンかタクミって言われてた兄ちゃんに聞けばよかったんじゃないか?」

ダミアンの言うことも最もだ。


「そうなんだけど、これ以上あのライオンに要求をしたら少し危ない気がしたんだ。あれ以上、あれに何かを求めてはいけない。そんな気がしたのさ。」

これはただの勘だ。根拠は一切ない。


だが、勇者の勘はよく当たるのだ。

この鋭い勘は幾度となくこのパーティの危機を救ったこともあった。


「あなたがそういうならそうなんでしょう。でもあの男のほうは?彼は何も問題なさそうじゃなかった?」


「確かに、何か掴んでいる情報がありそうだったけど魔王討伐の申し出を断られた後に聞くのは気が引けてね。」

情報は金で取引されることもある。そのことを考えると恥を忍んでも魔王の情報は引き出すべきだったのだろうが、いまいち踏ん切りがつかなかった。


それに、何か教えてくれなさそうな雰囲気もあったのだ。


「そう。あなたがそういうならそれでいいわ。それで、ヴィクレアさんは何か気づいたことはあったかしら?」

リオーラは今この中で一番暗い顔をしている人物に話しかける。

彼女は馬車の隅で丸くなってずっと床を見つめている。


「ごめんなさい。我が愚弟が中途半端な情報を送ってきたばっかりに・・・・」

彼女は一連の失敗が自分の責任であるかのように考えている。それに加えてエリックにも問題があると。

もっと早く魔王が2体いると分かっていれば、あの場でももっといい動きができたかもしれない。


ヴィクレアはあの時、変わっていく状況に対応できず何もしていなかった。

そんな自分があの場所で一番の役立たずだとはっきり理解していたのだ。


戦闘技能に関して自分より劣る少女でさえ、できることをやっていたというのに自分と言ったら・・・


ヴィクレアの気分はさらに暗いものとなる。


「誰もそんなこと思っていないさ。魔王が2体いるというのは予想ができるはずもない。それに、あの魔王はあの時やっとあの場所についたみたいなことを言っていた。」

あの時初めてあの場所に現れたというのなら、知らずに報告書に記載がなくても仕方がないのことだ。


今言うべきはそれではない。あの魔王について、何か気づいたことは無いかということだけだ。

勇者はリオーラが放ったものと同じ質問を投げかける。


「気づいたこと・・・いいえ、ありません。強いて言うならあれも悪魔、聖水が効果的なのでは?ということでしょうか?」

聖水は対悪魔における最強の武器だ。

あれも悪魔ということならそれも聞くことだろう。事実、どんな強い悪魔であろうとも聖水を食らえばその動きは大きく鈍る。


「ああ、確かにそうだな。いいところに気づくじゃねえか!」

そのこと自体はダミアンも気づいていただろう。

だが、それをヴィクレアの手柄のようにダミアンは褒めた。


落ち込んでいるヴィクレアを慰めるためだろう。


ああ、遠くを見ると王都の壁が見えてきたな。

どうやって今回のことを報告するべきだろうか・・・・

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