134 会議終了とどうでもいい話
マルバスは半ば確信しているのだろう。俺がこの世界の住人ではないということを。
その考えが彼女が言い放ったその質問に現れていた。
彼女はその質問をした経緯を軽く説明してくれる。
「明らかにおかしかったんだ。我やリリーの情報を持っているのは・・・まぁいい。でも、君は数か月より前の記録がないのはどういうことだい?」
数か月前の記録?っていうのはどういうことだろうか?
数か月前、というのは俺がこの世界に来た時が境目だろうな。確かこの世界に来て三か月くらいは経っていたような気がする。
「我の固有スキルに『接続』というものがある。これは世界の記憶を見ることができるスキルなんだけど、君の記憶はある時を境にぷつりと切れているんだ。それはどういうこと?」
俺としてはそのスキルの性能がどういうことと聞きたい気持ちなんだけど、それは答えてくれないのだろうな。
それより、どうやって答えたものか。
ここには全く関係ない奴らもいるし、元の世界のことをそのまま言ってもいいだろうか?
えっと、確かこいつが出した質問は俺の出身地と知識の出元だったか。
・・・・これ、言い方によってはそのまま言っても大丈夫そうだな。
「そうだな。さっきの質問に戻るけど、俺の出身地は日本で知識の出元は基本的にはネットからだな。これで満足か?」
人間、わからない話を目の前でやられても大概忘れてしまうものだ。
こういう場合、詳しい説明をわかりやすい言葉でやったりしない限りは大丈夫・・・だよな?
流石に今言ったことだけですべてを理解するのは無理だろう。
「日本、ネット?とは?前者は地名?でいいとして、後者は?そもそも日本という地名は我の『接続』に引っかからない。どこ?」
マルバスは俺の答えにクエスチョンマークを頭に大量に浮かべながらぶつぶつ何か言っている。
これは放っておいて大丈夫そうだな。
でも何かの間違いで詳しく聞かれる前に話題を変えておいたほうがいいだろうな。
「それよりもだ。勇者たちは魔王は結局どうするんだ?倒しに行くのか?」
「あ、あぁ、その件については少しだけ話し合って決めようと思うよ。まだアイナの意見も聞かないといけないからね。」
すぐに飛び出していくということではないんだろうな。
まあどっちにしても居場所を突き止めるところから始めるだろうから、すぐに出ていくということは無いんだろうけど。
「そうか。じゃあもう用はないよな?ないなら俺は表のほうを手伝って来ようと思うけど・・・」
俺はその場で立ち上がろうとする。
今、この場での脅威はマルバスから先ほどの答えにの詳細を聞かれることだ。
それをされない為にはこの場所から離脱してしまうのが一番手っ取り早い。
「うん。こっちとしてはもう何もないよ。また何かあったらここに来させてもらうよ。」
勇者はもう何もないようだ。
少しだけ、そんなことは無いだろうと思ったが、ないというならないのだろう。
「あーハイハイ!!ボクちょっと言いたいことがあるんだけど!!!」
ノアが右手を高く上げてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
彼女の動きに合わせるように下のスライムも跳ねる。
ノアは今日、初めてあれに乗ったみたいだけど、もうすでに使いこなしているようだな。
「ん?言いたいことって?」
「うん!!ずっと前から言おうと思ってたんだけどね、リリス!!」
「何よ。」
「君、いい加減タクミのことを勝手に自分のものにするのをやめてくれないかな!!?」
あ、ついにそのことに関して何かを言うものがあらわれたか。
俺が言っても聞いてくれないし、誰も言わないからずっとそのままだったんだけどついに!!ノアが触れてくれた。
「えー、いいじゃない。この子は私の子よ。自分のもの同然じゃない。」
何度も言うが、俺はお前の子供ではない。
先ほどまでの重苦しい話題とは一転、今度は本当にどうでもいいような話題だ。
俺はこのまま店頭エリアに行ってしまってもいいのだが、少しだけこの話の続きが気になる。
この言い争いはどっちの勝利で終わるのだろうか?
この2人と一緒に今までやってきた者としては気にならないわけがない。
なにせどっちかがどっちかを言い負かせるということはそれだけ制御が簡単になるということなのだから。
「そもそもいつタクミが君の子になったのさ!!タクミはボクが初めに見つけたんだからね!!」
どっちが初めに見つけたとか、鉱脈みたいな扱いされても困るんだけど。
「それはそうだけどあの街で私と一緒に過ごすのを決めたのは彼のほうでしょ。あなたと敵対しても私を助けてくれたし、彼の心は完全に私のものよ。」
それとこれとは話が別だと思うけどな。
「なにをー!!それを言うならボクは一人飛び出した時必死に探してくれたもんね!!」
それも少し違うくない?今関係ないような・・・・
「それが何よ!!私の子は優しいからそのくらいのことは誰にだってやってあげるわ!!その上で最後には私を選ぶのよ!!」
リリスは若干ヒステリック入ってるな。冷静に考えたらその言葉も暴論に近いし。
「あー!!また私の子供って言ったー!!ねえタクミ!勝手にそんなこと言われて迷惑だよね!!」
あ、こっちに飛び火した。
話の終わりを見届けようとここにとどまっていたせいか俺のほうにまで被害が拡大してきた。
「えー、出来ればやめてほしいとは思うけど、今のところ何か不都合があるわけじゃないからどっちでもっていう感じかな?できればやめてほしいけど。」
「ほら!!タクミもこう言ってるしいいじゃない!!」
「出来ればやめてほしいって言ってるからやめてあげなよ!!」
お互い、自分の都合のいい部分しか聞いていなかったのだろうか?各々嬉しそうな顔で何か言っている。
うーん、俺の勘だけどこのタイプの言い争いは止まることは無いだろうな。
どっちも自分の主張を譲らないタイプだ。
これ以上見てても無駄だろうし、そろそろスペラを手伝いに行ってやるとしようか。
えっと確か・・・・あ、この部屋のタンスに俺の服は収納してあったよな。
何度か攻撃を受けて今着ている服――――というか防具もボロボロだからそろそろ何着か買っておく必要もありそうだな。
あ、そういえば。
「なあシュラウド、ちょっといいか?」
「はい、何でございましょうか?」
「お前って服とか作れる?」
今まで武器一辺倒だったけど、防具も作れるんだろうか?性能を考えてもこいつに作ってもらえばいいものができるような気がするんだけど?
しかしシュラウドは少し顔を下に向けて申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。作れません。魔石も防具には入らないようです。」
一度もうすでに試していたみたいだ。
彼はできないことを悔やむようにそう言ってさらに顔を下げる。
「あ、気にしないでいいってなんとなくできないか聞いてみただけで必要っていうわけではないから。それより、作業の邪魔して悪かったな。」
「いえ、大丈夫です。気にしなければ作業に支障はありません。」
すげえな。あのうるさいのを前に全く集中力を途切れさせずに作業できると言い張ったぞ。
まぁ、シュラウドは機械だしそのくらいはできるのかな?
そもそもこれを機械といっていいのか最近少しわからなくなってるけど・・・・
「そうか。ありがとう。」
「---?はい、ありがとうございます。」
さて、騒いでいるこいつらは置いておいて俺は俺でやることをやるとするかな。
俺はその場で素早く服を着替えて店の経営を手伝うべく店頭に向かっていった。