130 救世主と悪魔の事情
「はい、じゃあマルちゃんはここで待っててね。」
リリスは連れてきた少女を俺たちが戦っている場所から少し離れたところにおいて戦闘に参加するべく近づいてくる。
当然だが今彼女は素手だ。
「えー、ちょっとリリー!!?我を連れてきておいて放置!!?」
何も説明なしに問答無用で連れてきたのだろうか?
意味が解らないといった様子であたりを見渡している。
状況を整理する時間もほしそうだし、俺はその間にこっちの魔物たちを処理するかな。
「お帰りリリス、ちょっと手伝ってくれるか?」
「いいわよ。そっちの気持ち悪いのをぺしぺし叩けばいいのよね?」
間違ってはいないが言い方っていうのはあるだろう。
手伝ってもらえるからまぁ何でもいいんだけどさ。
リリスは遠くから走って助走をつけて後ろから一体の魔物に向かって飛び蹴りを食らわせている。
かなりの勢いが乗っていたのだろう。
魔物はなすすべもなくこちらのほうまで飛ばされてきた。
当然のごとく吹っ飛ばせてるけど、そいつエイジスの攻撃を受けても無事だったんだけどな・・・
リリスの恐ろしさをあらためて実感した気がする。
攻撃能力だけならこの場で最高値か・・・・
「あれ?思っていたより柔らかいわね。」
彼女は敵をけり飛ばし綺麗に着地した後、若干的外れな意見を口にしている。
最後尾にいた後衛の魔物とはいえ、それでも勇者たちは倒しきるのにそこそこ時間を要したみたいだぜ?
「あー、やっぱり俺、あの姉ちゃんが怖えわ。」
大盾に拳を叩きつけながらエイジスがそんなことを言う。
確かにあれを見たら怖いとしか思えないかもしれないが、それでも俺はそうは思わないけどな。
「今は頼もしいんだから別にいいだろ。それより俺も手伝うよ。」
「お?そうか?ならちょっと頼むぜ。こいつが邪魔でイライラしていたところだ。」
確かに物理攻撃しか攻撃手段がない奴に抜けない盾は相性最悪だろうな。
エイジス特有の武器攻撃無効化の効果も俺の予想通り盾にまでは適用されないみたいだし。
「よし、じゃあこの盾は俺が何とかするよ。ちょっと踏み込むからカバーはよろしくな。」
相手の持っている盾は構えればそれだけで前に壁があると錯覚するような風貌だ。
端から体が見えているということとかないし、倒すには裏に回って攻撃するしかなさそうだ。
正面からあの盾を壊すことも考えたが、エイジスの攻撃を正面から受け続けることができているみたいだからそれは無理そうだ。
そいう言うわけで後ろに回るんだけど・・・どうしたものか。
通常の方法で回ろうとしても当然前衛職のこいつが許してくれるわけがない。
軽く横に回ろうとしたがそれをしたとたん警戒したようなしぐさを見せた。
ノアは――――――まだあのよくわからない奴をノックバックさせて足を止めさせている。
魔法使いのほうは―――――、ダメだ。神官につきっきりでこちらを手伝える様子ではない。
リリスは後ろから攻めてきてくれているが、まだ少し時間がかかることを考えたら俺がやったほうが圧倒的に早そうだな。
俺は剣を片手に突進を繰り出す―――で、直前で曲がる。
盾は確かに巨大で、堅牢で、そして素早く回ってくるがそれでもその体は1つでしかない。
俺がこうやって露骨に後ろに回りこもうとすれば、どうしても意識をせざるを得ない。
大周りでもいいから真後ろに回ろうとすれば、たとえその動きに対応しようとしてもその背中をエイジスのほうにさらすことになってしまう。
どちらかの対応は疎かになってしまうのは確実だ。
「おっ!!?これならいけそうだな!!」
その防御がおろそかになったわき腹を、エイジスは思いっきりぶっ叩いた。
幾つもの骨が折れるような音がする。
それと同時に魔物が怯み、こちら側にも大きな隙を見せる。
「多対一の時、ひるんだら敗けってそれ、一番言われてるから。」
俺は隙だらけの背中に向かって剣を突き立てた。
これでこいつは何とか突破、まだ絶命はしていないみたいだが、動きが鈍くなりすぎて戦闘に参加してもしなくても同じだ。
地形効果の一部になったみたいだな。
だが、問題はここからだ。
俺の後ろには大きな魔物、倒しきることはできなかったためまだそこにいて、そして俺の真後ろを塞いでいる。
前には別の魔物もいる。
後ろのやつがいなければすぐにでも離脱するのだが、道がふさがれていてそれがしにくい。
こういう時は一度横に避けるべきなんだろうけど、それをするよりはもっといい手がありそうだな。
俺は無言でこちらに近づいてくる魔物を見てそう判断する。
盾の後ろに隠れていたのは2本の短剣を片手に一つずつ持っている魔物だ。
速度も俺よりは早いだろう。
そいつは軽やかな動きで俺の近くまで来て、その短剣を左右から同時に振るう。
とりあえずは回避だ。
そして前蹴り―――――はよけられたか。
相手の攻撃をよけた後の攻撃は当てやすい――――はずなんだけどうまくかわされたな。
そんでその流れで攻撃、、っと、結構厄介だな。
俺のHPはそこまで余裕があるというわけではない。
攻撃をわざとくらって攻撃するのもこれを最後にしたほうがよさそうだな。
俺は左からくる短剣だけは一応避ける。
右の短剣は『白闘気』の物理防御アップを当てにして貰うことにしよう。
さっき2体の攻撃を同時に受けてダメージが俺の全体HPの半分だったことを考えるとこれを食らっても死ぬということは無いだろう。
鋭い痛みが俺の腕に走る。
だが、その痛みと引き換えに俺は確実に攻撃を食らわせる権利を得た。
先ほどは失敗した前蹴りだが、このタイミングなら確実にくらわせることができる。
俺の蹴りを食らった魔物は大きく後方に飛ばされていく。
そしてその方向には―――――
「うわぁ!!気持ち悪いからあんまり近づかないでよ!!」
リリスがいる。
彼女は俺が飛ばした魔物を遠ざけるように蹴り飛ばす。見事な回し蹴り、こっちが飛ばした勢いも相まってとんでもない威力が出ているようにみえる。
蹴り飛ばされた魔物は吹き飛ぶ―――といったことは無くその場で消え失せた。
あの一撃で絶命したみたいだ。
「ナイスだリリス。よくやった。」
戦闘中の味方に敵をけしかけるのはどうかと思ったが、何故だかリリスのほうにはあんまり敵が興味を持たずにただなされるがままだったし大丈夫だろう。
「もぅ、一声くらいかけてよね。当たったらどうするの?」
「あー、それはごめん。今度から―――いや、こういうことはなるべくしないことにするから許してくれ。」
「いいわよ、今回だけは許してあげるわ。」
そんな会話中にも彼女は後ろから次々と魔物をしばき倒している。
一撃で倒せるということは無いが、3発入れればほぼ確実に倒すことができている。
あれ?以前より威力が上がっていないか?
気のせいだと思うが、そんな気がしないでもない。
敵は連携をとってくる。それが厄介なだけであって魔物の性能自体はそこそこ強いくらいだ。
こうやってばらしてしまえばそこまで脅威ではない。
俺とエイジス、そしてリリスは前、後ろ、中からそれぞれ魔物の集団を倒していった。
◇
リリスの連れてこられた少女はいつの間にかライオンになっている。
当然ながら連れてきたのはマルバスだ。
多分だけど、リリスが街の外に出ていると知って油断していたのかな?
街中で人型をとっていたら見つかったって感じだろうな。
で、そのまま連れてこられたと。大体こんな感じじゃなかろうか?
「あー、ライオンになっちゃってる。あのままがいいのに。」
一名残念そうだ。
でも俺としてもライオンの姿は怖いから人型でいてほしいというのはあるな。
ライオンの姿がダメってわけじゃないけど、確実にアドはとっていきたい。
「で、リリス、詳しい話も聞かずにつれてきてくれたってことは俺の予想通りこいつは毒の治療ができるんだよな?」
「ええ、確かできたはずよ。」
「リリーはともかく、どうしてどや顔ダブルが我の能力を知っているのか・・・・」
おい、なんかいつの間に俺の呼び名が悪化してるんだけど。
突っ込みたい気持ちを心の中だけにとどめて俺は話を聞く。
俺がこいつの能力が大体わかっているのは名前が元ネタ丸出しだからだ。
少しは隠すとかしたらどうだと思ったりもするのだけど、こいつらにそんな認識はないんだろうな。
「それはいいだろ?取り合えずこの人なんだけど治せそうならそうしてもらいたいんだけど・・・」
俺は神官のほうを差してそう言った。
そこでは息を荒げて苦しそうにしている女性の姿がある。
マルバスにはその女性を何とかしてほしいといいたいのだが・・・
「はぁ?嫌だけど。」
彼女はそれを断った。
動物のもののため表情はわからないが、心底嫌そうだ。
「どうして?このままじゃああの人は死んでしまうんだけど?」
「それが何がいけないの?」
マルバスは苦しむ女性を見てそう言った。助けるほうがおかしいのだと、そう思っているかのようだ。
どうして?その言葉を俺は口にできなかった。
その前にマルバスが次の言葉を口にしたからだ。
「あのねぇ、我はというか我らは悪魔なんだぞ?どうして人間を助ける必要がある?」
それは・・・・・
「しかもこいつ、勇者お付きの神官、助ける理由がないんだが?これが死んだほうが悪魔的には利益がある。」
締めくくるようにマルバスはそう言った。
助けてくれるつもりはないらしい。
「ね、ねぇ・・・・」
そこで声を上げたのは魔法使いだった。
修正
どやダブル→どや顔ダブル
特に意味はありませんが一応。