129 戦闘と救援到着
何が飛んでくるかはわからないが、あれを受けたら無事では済まないだろうな。
なら何が何でも避けてやらなければならない。
そう思いながら俺は意識を集中させると、
「おらぁ!!背中ががら空きだぜ!!」
その後ろから戦士が斧を振りかぶっているのが見えた。
敵の隙間からだからよく見えないが、多分勇者もいることだろう。
戦士は巨大な斧を骸骨頭の魔法使いにたたきつける。
ぐしゃっ、という音とともにその頭は見事につぶされた。
完全な不意打ち、それに骸骨頭に対しての破砕攻撃。
それらの要素が合わさり最後尾にいた魔法骸骨は一撃で葬り去られた。
「そこのあんた!!大丈夫か!?」
これは俺に話しかけてきているのだろう。
俺は大丈夫だけどちょっとこれを倒しきるのは厳しいということを伝えた。
「そうか。俺たちのほうはもう終わったから今度はこっちを片付けるぞ!!」
「タクミ―!ボクが助けに来てあげたよ!!」
ノアが大量の火の玉を魔物の集団にたたきつける。
後方からの攻撃だったが、それらを同時にぶつけられたことで起きた爆発によって近くにいた敵全てに一様にダメージを与えていく。
例によってそのダメージ量は大したことは無いだろうが、衝撃で遠くに飛ばされた個体がいる。
いまいち何をやってくるかわからなかった前かがみの魔物だ。
あれは戦闘中、ずっと機会をうかがうようにこちらを見ていただけなのだが、それが遠くに行ってしまったというならありがたい。
俺としては何をやってくるか読めないのが嫌だからな。
「よくやったノア!!そのまま距離をとって今みたいな感じでやばそうなやつは引き離してくれ!!」
「了解だよ!!吹き飛ばすならシルフちゃんだね!!」
シルフは風魔法を使う。
敵を飛ばすという用途で使うならこいつが最適だろう。
ノアは先ほどすべて使い切ってしまった火の玉は補充せず、代わりに半透明の妖精を召喚し始める。
供給スピードは火の玉より遅いが、そこらへんは大した問題じゃないだろう。
向こうに意識を裂かれない限りは遅い分には問題はない。
「俺も俺のほうで前の敵を何とかしなきゃな。」
後ろのほうは勇者たちが何とかしてくれる。これならあの弓使いの脅威も減る。
近接戦闘だけしかしないのなら、脅威は半分未満だ。
何とかならなくはなくなったな。
俺は再び槌を持っている奴がそれを振りかぶっているので身をかがめて躱す。
俺の頭上を大質量のものが通り過ぎる音がする。
それが過ぎ去った後、俺は体を前に転がらせた。
直後俺の後ろで何かが地面にたたきつけられるような音がする。
聞こえてくる音は軽い音、細い金属を地面にたたきつけた音だから巨大半月包丁だろう。
先ほどは挟まれるという理由でできなくなった前方回避も今なら選択肢に入る。
俺は前転をして攻撃を回避した後、今度は立ち上がり攻撃に走る。
相手の動きはそこまで速くはない。
後方からの支援さえなければ隙を見つけて攻撃をはさむことができないわけではない。
俺は前進したことで目の前に現れた爪の魔物に前蹴りを食らわせる。
場所は先ほど俺が刺し貫いたまま放置された剣の上だ。
上からの衝撃を受けた剣はさらに深々と突き立つ。
そしてその少し後にその魔物は霧のように消え去った。いつもの魔物の消え方ではない。
これは召喚によって呼び出された魔物だからかな?
だが倒せたことには違いないだろう。どこかに行っていしまったわけではなさそうだ。
その証拠とは言っては何だが、俺の突き立てた剣はその場に落ちている。
俺は即座にその剣を拾い上げ、後ろを振り向いた。
その方向では既にこちらに攻撃を仕掛けてきている影がある。
半月包丁を両手に高く飛び、そのまま俺の首を狙っているようだ。
戦闘において空中に身を置くというのは実はそこそこ危険な行為だ。
途中で動作の変更とかできないからな。
まぁ、成功したとき少しだけリターンがあるし、やる意味がないとは言わないけどな。
俺は飛んでくるその魔物の着地点を避けるように前に出て、先ほど拾い上げたばかりの剣を構える。
直前まで魔物に刺さっていたためか少し汚れている。
そしてそれを落ちてくる相手の勢いも利用してたたきつけた。
突き刺してしまってはまた抜けないということになりそうだったので今度はけさ斬りだ。
半月包丁は形状の関係上リーチが極端に短い。
下手すれば素手で殴ったほうが早く相手に到達するのだ。そして今回もその例に漏れずに俺の剣のほうが確実に先に命中する。
当然のことだが、全てのスキルを剣に乗せた最高の一撃だ。
俺は剣を振りぬいた。空中で強撃を受けたその魔物は一気に後方に向かって飛んでいく。
だが、倒せはしていないみたいだ。
俺の一撃を耐えたことといい、エイジスの咆哮でだれも脱落しないことといい。
攻撃力や敏捷はさほどでもなかったし――――耐久値にステータス全振りでもしているのか?
いや、この世界にはステータスの振り分けとかないし、単に耐久が高いだけって話だろう。
あ、そういえばリリスも今力と耐久が振り切れてたな。あとで聞いてみるのもいいかもしれない。
俺の攻撃を受けて一度は倒れたその魔物は、よろよろと立ち上がる。
飛ばされている最中も両手はしっかりと武器を取り落とさなかった。
いや、違うな。あれは左手が武器で右手でそれを支えているって感じだな。
どうでもいい情報を見つけつつ、俺はその魔物の行動を見る。
まだ戦意はあるようだ。だが動きは鈍くなっている。痛みとかあるのだろうか?
それよりも今は目の前で大きく振りかぶられている巨大な槌のほうが問題だな。
こいつ結構ガタイがいいし、こいつも耐久型と考えると俺が攻撃して怯むかどうかもわかんないな。
動きはこの中のどいつよりも遅いから端から削っていけば何とかなるか?
遠距離攻撃も持っていないみたいだし時間を稼いで魔法使いに吹っ飛ばしてもらうっていうのもありかもしれないな。
でも一応、俺もできることはやっておいたほうがいいだろうな。
巨大な槌が頭上から降ってくる。
俺はそれを安全を期して大きく横に跳んで避けた。
「こっちは終わった。俺たちも手伝おう。」
そこで勇者がこっちの戦闘にも参加してくれる。どうやら後ろにいた弓持ちはどうにかなったみたいだ。
奇妙な奴が残っているが、そこはノアが何とかしてくれている。
「よっしゃあ、行くぜ!!うおおおおお!!」
戦士が斧をもって槌持ちと対峙する。
斧と槌を正面からぶつかり合わせる、何とも豪快な戦いだ。
その反面、勇者は実にスマートに戦っていた。
相手の攻撃を綺麗に避け、その攻撃の合間に攻撃を加えている。
これは俺はもう戦う必要はなさそうだな。
敵は嫌に頑丈だが、あの様子だといつかは問題なく倒せそうだ。
エイジスと戦っているときはそうは思わなかったけど、やはりここは勇者、戦闘能力はかなり高いみたいだ。
真正面からぶつかり合ったら俺より強いだろうな。
さて、じゃあ俺はエイジスのほうの加勢にでも行ってやるとしようか。
彼も結構頑張ってるけど戦い方が馬鹿だから苦戦している。
俺が彼のほうに行こうとしたとき――――――
「おーーーい、タクミー!!連れてきたわよー!!」
丁度1人の少女に小脇にかかえたリリスが手を振りながらこちらに向かって走ってきているのが見えた。