128 魔物と人間
エイジスは俺と魔物たちの間に割り込むと即座に大声で吠えた。
牽制という意味で俺たちを苦しめていた『怒りの咆哮』だ。
俺は即座にその場から飛びのく。
俺たちとの戦闘、最後のほうは対策が取られているせいか使ってこなかったから威力はかなり高まっている。
だが、エイジスの一撃を受けても魔物の集団は吹き飛ぶといったことは起こらなかった。
その足で地面を強く踏みしめてその衝撃をこらえた。
ダメージはあるみたいだが、進軍は止まらない。
あの強撃に耐え、まだ動けるところを見ればあれと正面切って戦うのは少し危険かもしれない。
「はっ、耐えきるかよ。気持ち悪い奴らだなぁ!!」
一見元気に見えるが、エイジスの体はボロボロ、このまま戦っても勝てるかはわからない。
相手は魔物ということもあって武器攻撃だけがすべてではない。
その鋭利な爪や牙で攻撃してくるのもあり得るのだ。
そうなれば彼の防御は当てになりえない。
その上多分だがHPもほとんど残っていないだろう。
エイジス1人に任せてしまっては敗北するのは必至だ。
「大丈夫かエイジス、俺も手伝うよ!」
一度は距離を置いた俺だが、ここでエイジスの隣に立ち目の前の魔物たちと対峙する。
先ほどの攻撃でヘイト値が変化したのか、俺を見てもすぐさま飛びかかったりしては来ない。
「おお、助かるぜ。正直ちょっときつかったからな。じゃあそっちのほうは頼むわ。」
大体6体か・・・・見えている能力値を考えると半分に減ったけどちょっと厳しいか?
何とかならないわけではないけど、ちょっと厳しい戦闘になりそうだな。
こんな魔物をいとも簡単に呼び出すとは・・・多分だけどさっきの戦闘、まったく全力じゃなかったんだろうな。
俺は目の前の醜悪な魔物達を視界にとらえて剣を握る手に力を込めた。
俺が担当することになったのはこっちから見て右側の6体だろう。
その魔物たちの特徴をとらえる。
まずは俺に一番近い位置にいる奴。
周りのやつらより重装備・・・というよりかはごてごてした装備をしている。
手に持っているのは巨大な槌で、あの攻撃を受けたらひとたまりもなさそうだ。
そしてその後ろに控えているのは鎖帷子のようなものを着た魔物、その右腕だけは歪に膨れ上がっており、その先端には長い爪が見える。
多分あれが主な攻撃手段だろう。
次はその隣、こちらは曲がった両手持ちの刃物、イメージとしては巨大な半月包丁のようなものだ。
魔物の見た目と相まって、見えるものの恐怖を覚えさせる。
ただ、他の奴らに比べると幾分戦いやすくはありそうだな。
そしてそのさらに後ろ、あれはさっき聖水を撃ち落とした弓持ちだな。
飛んでいる瓶を即座に撃ち落とす技量を見ると、この場面では一番厄介な相手かもしれない。
俺には遠距離攻撃の手段が武器投擲くらいしかないからな。
そしてその隣、背骨を大きく曲げて前かがみになっている。
手が鋭い、というわけでもなく、手にも何も持っていないから、こいつが如何言った攻撃をするのかがよくわからない。
注意をするならこいつかな?
最後は最後尾、骨をむき出しにした魔物。
あれ単体で見るとアンデッドだと思いそうだが、周りのやつらが何かを混ぜ合わせたような魔物ということを考えたら多分あれにも何か混ざっているんだろうな。
体はローブのようなものに覆われており、手には杖を持っている。
立っている場所といい、あれは魔法攻撃をしてきそうだな。
・・・さて、大体相手の特徴を捉えることに成功したが、これはどう戦ったものか。
相手は魔物といっても集団行動をしてくるし、その上で前衛、中衛、後衛とちゃんと分かれている。
言ってしまえばいつもの俺たちとは逆の戦い方になるのだ。
そして数はこっちが1で向こうが6・・・・それぞれが仮に俺と同じ戦闘力を持っていると仮定した場合、戦力差は36倍・・いや、武器のこともあるから40倍か?
実際にはそこまで戦力差があるとか考えたくはないが、これは正面から戦っても勝てそうにないな。
というかそれをやるのはただの馬鹿だ。
そう思い俺がどう攻めるか、あるいはどう守るかを考えていると。
「よし!!じゃあそろそろ行かせてもらうぜ!!」
エイジスの馬鹿が正面から魔物の集団に向けて突進をしていった。
彼はこの中にいる誰よりも強い、彼ならなんとかなるかもしれないが、それは少し愚策のように思える。
いや、彼にそんなことを言っても無駄だろうな。
多分だが、エイジスのやつはまっすぐ突き進むことしか知らないしやらなそうだ。
「ああ、もう、くそっ!!」
俺はそれに続くように任された敵に向かって攻撃を開始した。
ここで俺が何も動かなければ、俺の担当している魔物たちはエイジスのほうに行ってしまう。
それでは俺が今、ここに立っている意味がないのだ。
見方の馬鹿な突進のせいで、作戦を考える時間が無くなってしまった。
仕方がないので慎重に戦闘を運ぶことにする。
俺は魔物の集団に急接近したが、剣を振って攻撃を加えることはしない。
あくまで一番前―――巨大な槌をもったやつの間合いぎりぎりに入るだけで何もしない。
すると当然だが、一番前のやつが真っ先に攻撃を仕掛けてくる。
力任せの大振り、上から下にたたきつけるような攻撃だ。
普段なら俺はそれを横に躱し、前に進むことでカウンターを決めるのだが、今は後ろに飛びのくことで攻撃を回避し相手の間合いの外に逃れる。
俺が相手の攻撃を避け、後ろに着地した――――と同時に魔物たちの間を器用にすり抜けて一本の矢が飛んでくる。
「うおおっ!!?危ねえ!!」
俺はそれを何とか頭をかがめることで回避することに成功する。
やっぱりあの弓持ち、結構危険だな。
こっちの攻撃はあそこまで届かない。あれを処理しようとするのなら前の3体をまず倒す必要がある。
しかしそのためにはあの弓持ちが邪魔になって――――、、、、若干魔物の気持ちが分かったような気がするな。
数がいて、それがそれぞれを守りあう関係というのは非常に厄介だ。
これは俺がどうやったとしても止められてしまいそうだな。
俺が頭をかがめ、隙ができてしまったのだろう。
後ろに控えていた2体が槌持ちの後ろから飛び出てくる。
それぞれが己の武器を構えており、今にも俺に向かって攻撃してくるだろう。
自然に避けるのなら前に転がるのが普通なのだろうが、それをやってしまうと今はよくても囲まれる感じになってしまって次が厳しくなるだろうな。
しかし後ろに避けるのは少し厳しい。
どっちか・・・爪の攻撃はくらってしまいそうだな。
ならば・・・
「これは肉を切らせて骨を守る・・・って感じかな?うわぁ、いやだなぁ・・・」
俺は『白闘気』を発動させて相手の攻撃に備える。
両方物理攻撃だ、これで大幅に軽減できる。
この状態でよけようと思えば、巨大半月包丁の攻撃は避けれるのだが、俺はそれをしない。
直後、鋭い痛みが俺の体に走る。
俺は歯を食いしばってその攻撃に耐えた。痛い―――――が、この程度なら大丈夫だ。
俺はその攻撃を受けきった後、持っている剣を長い爪の魔物に向かって突きつけた。
『斬鉄』も『純闘気』も使った俺の今持つ全力の一撃だ。
先ほど発動した『白闘気』も効果時間内で、力のステータスも上がっているからその威力はいつもより高い。
俺の剣は容易に敵の腹部を貫いた。
それを受けたそいつは大きく苦しみ始める。
よし!ダメージレースでは勝っている感じだ。
まぁ、相手は6体いるからここで勝っていてもたいして意味はないんだけど。
俺は攻撃を終えると即座に突き刺した剣を引き抜いてその場から飛びのこうとした――――が、抜けない。
チッ、ッと俺は舌打ちをして剣を手放し後ろに飛んだ。
抜けないものに固執しても仕方ない。
ここは早く引いたほうが追撃を受けないでいいと俺は判断した。
だが、その判断は間違っていた。
俺が後ろに飛んで距離をとり、ほかの魔物の攻撃に備えるために顔を上げたところ―――――
最後尾にいる骨野郎が、今にも魔法を発動させる直前といった様子でこちらを見ていた。
あー、剣があったら魔法を切って回避できたのにな。
少し無理にでも引き抜けばよかったかー
ノアが魔法は発動前によく見ればどんなのが来るかわかるって言ってたよな。
それができたら余裕でよけられたんだろうけど・・・
俺は来るであろう魔法を前に、どうすればいいのかと考えながら他の魔物の動きも確認した。