127 醜悪な騎士と再起の魔王
リリスはこの場から立ち去った。
彼女が戻ってくればこの状況は何とかなるかもしれない。
いや、俺が説明するより早く向かってくれたから何とかなるはずだ。
俺はそれを信じて目の前の魔王と対峙する。
「あれ?まだやるんですか?あなたも病気、もらいましたよね?」
正直言ってこのまま引いてもらえるなら、俺は戦いたくはない。
だが、それは俺の後ろで再び奮起している勇者たちが許さない。
「おい手前!!アイナになんてことしてくれやがったんだ!!」
「俺はお前を許さない!ここで死んでもらうぞ!!」
剣を振りかざし、真っすぐな目で魔王を見据える勇者。
その目には絶対に魔王を殺してやるという意志が見て取れる。
「はぁ、自分もう疲れたので一度帰っていいですか?」
だが、その情熱は魔王には届かない。彼はもう面倒だから関わりたくないという様子だ。
魔王は頭をポリポリと書きながら半眼の状態で勇者たちを見ている。
「ここで逃がしたら犠牲者が増える!それに、お前が死ねばアイナが助かるかもしれない!」
毒はもう体に入ってしまったから、魔王を倒したところでそれが回復するのか?と思わないでもないが、そこは魔王の特別な毒、使用者が死ねば何とかなるかもしれない。
「あー、そうそう。そういう考えするんだったんですよね。はぁ、でも自分、帰りたいので。『醜悪な騎士団召喚』・・・あとは任せましたよ。」
魔王がそう呟くと、地面から這い出るように鎧を着た集団が出現した。
それを確認した魔王はそそくさとどこかへ行こうとしてしまう。彼の言葉の通りなら、住んでいるところに帰るのだろう。
魔王が呼び出した騎士団は、体がアンデッドや悪魔、そこらの魔物がつぎはぎされたような姿だった。
そのすべては人型をしており、鎧を着ている。
だが、人の形をしているとはいってもそれはどれかで言えば、というだけで、体の一部のサイズが以上に大きかったり、明らかにそこにあってはならない部位がついていたりととても醜い姿だ。
鎧はそんなものたちが着ることを考えているのだろうか?
ところどころが壊れていたり、一部分がそもそもなかったりと様々だ。
そしてついでにそこそこ数がいる。14から16ってところだ。
「くそっ!!アンデッドか!!?めんどくせぇ!」
「いや、悪魔もいる!ダミアン、気をつけろ!!」
それぞれ呼び出された魔物の一部だけを注目し、それを自分の知識を照らしあわせて敵の正体を探る。
俺からしたらどちらの意見も正解のように思えるが、あれは分類的にはアンデッドなのだろうか?それとも悪魔なのだろうか?
どっちにしても聖水が有効そうなことには変わりないな。
「リアーゼ!!聖水を頼む!!」
「はい!!了解です!!」
リアーゼはそいつらが呼び出されたばかりで、まだばらけていないうちに聖水を放り込む。
あれが当たれば確実にダメージが通る、殺すことはできないかもしれないが、少なくとも動きを止めることはできるはずだ。
聖水は高価であり、大量に用意できるものではないがその分効果は絶大だ。
俺もこういう時のためにリアーゼにはいくつか持っておくように言ってある。今もちゃんと持っていたみたいだ。
俺がその効果に期待して、聖水を中に入れて飛来する瓶を眺めていると―――――突然、その瓶が空中で何かに当たり割れた。そして、中の聖水はその場で飛び散った。
その聖水が呼び出された魔物たちに当たるといったことは無い。
いったい何が?
と思い魔物の集団を見てみると、そこには弓を放った後の、骸骨のような魔物の姿があった。
まさか撃ち落としたのか?
あの集団は聖水が彼らにとって危険なアイテムだということを理解している!?
それなら最低限の知能があるということか?
それが本当かどうかはわからない。ただ偶然、何かが飛んできているからとりあえず撃ち落としただけかもしれない。
だが、これではそいつらに聖水を掛けるのは少し工夫がいるかもしれない。
「リアーゼ、あと何本だ!!?」
「すみません。あと一本しかありません。」
チャンスは一回、不用意に使える本数ではない。確実に当てられるときではないといけない。
基本的に、この戦闘は聖水に頼ることができないだろう。
「ふん、あんたたちを一瞬で倒してすぐに魔王を追いかけさせてもらうわよ!『炎魔法:暴発』!!」
いつの日か、スペラがノアに向かって使った魔法だ。
最大値を引けば無詠唱で高火力の炎魔法、最低値でも最低限の威力は保証してくれる魔法・・・らしい。
俺からしたら乱数幅が激しい攻撃とかは当てにしたくはないのだが、それは価値観の違いだろうか?
ともあれ、今回は大体平均値を引いたっぽいか?
そこそこ大きめの炎が魔物たちに向かって飛んでいった。
アンデッドは炎に弱い、、、、ことが多い。それはこちらでも同じみたいだ。
「えっ!!?」
そんな声を上げたのは魔法を使った本人だった。
驚くのも無理はないかもしれない。彼女が放った魔法は太った大きめのやつが大盾を構えて受け止めた。
余波はあっただろうが、その炎は一体の魔物にすべて吸い取られてしまった。
「はー、成程、遠距離攻撃に関しては大体効果がないと考えてもいいかもしれないな。」
飛来物は撃ち落とされる、魔法は受け止められる。
遠くからでは決定打は与えられないだろう。
いや、火力に特化させたノアのウォーターならいけるか?
そう思ったが、あれの詠唱時間は30分、戦争では使えても戦闘では使えない。
変に楽をしようとしても、逆効果になるだけだろう。
彼女には普通に戦ってもらったほうがよさそうだ。
「ノア!!お前はできるだけ手数で攻めろ!!でも隙を見てデカいのを叩き込んでもいいぞ!!」
「わかった!じゃあタクミはいつも通りそいつらをひきつけてね!!」
「後、勇者たちは一定以上距離を保ちながら戦ってくれ!ないとは思うけどまた変な病気貰っても面倒だからな!!」
「では、君は?」
「俺は状態異常は大体効かないから普通に戦うよ。適度に前に出て、適度に引く感じで。」
「わかった。了解した。」
俺は剣を構えながらじりじりと前に出る。
相手の戦闘技能がある程度高いということが先ほどの攻防から大体予想ができる。
踏み込みすぎたら速攻で踏みつぶされてしまいそうだ。
それにあんな見た目が悪い魔物に至近距離まで近づきたくはない。
「ヴぁ・・・ぁあ゛あ゛あ゛」
俺が少し近づくと、魔物のうちの一匹が何かしらの声を上げた。
よく見るとその個体は周りの魔物たちより一段階強そうな鎧を身に纏っている。あれが指揮官か何かだろうか?
俺の予想が当たったのかどうかはわからないが、その魔物が声を上げた瞬間、先ほどまで守っているだけだった魔物たちが一斉に動き出した。
ドスドスという足音を響かせながら、耳に響く声を上げながらこちらに近づいてくる。
俺はそいつらが後ろに行かないように、『挑発』のスキルを発動させた。
戦士のほうも同様にやってくれたみたいだ‐――――が、その魔物のほとんどは俺の方向に向かってくる。
あれ?どうして・・・ってあぁ!!
そういえばリリスの時に改造したの忘れてた!!
今までは周りにヘイトを気にするような人がいないから忘れてたけど、俺の挑発の上書き数値は通常のものの数倍になってるんだった。
「あれ?こりゃあどういうことだ!!?おい、そっちのあんた、気をつけろよ!何かを企んでるかもしれねえ!!」
事情を知らない戦士のほうは、魔物の動きが奇怪に映ったみたいだ。
彼は自分のほうに集まってくる魔物を処理しながらそう注意勧告してくる。
あ、ごめんなさいお騒がせして。
想像したのとは少し違った動きを見せられたため、これは予定変更だな。
当初の予定としては勇者と戦士、そして俺が前衛となって敵を引き付ける。
その間に魔法使い組が攻撃を仕掛ける。
勇者と戦士はあくまでも攻撃をもらわないように引き気味に、そして俺は少し踏み込んで敵の処理を優先して戦う・・・って感じを想像してたんだけど、これは無理そうだな。
俺の前には全体の8割くらいの魔物・・・大体12、3体位がこっちに向かって走ってきている。
俺は下がりながら戦うことにする。
幸い、ここは平原のため後ろのスペースには事欠かない。
下がりたいだけ下がれる。
俺たち前衛組は魔法使いの位置まで下がれないというくらいか?
俺がそんなことを考えて迫りくる魔物との接触に身構えていると・・・
またも予想外――――というほどでもないが若干予想外のことが起きた。
「っはっはー、困っているようだから俺様も手伝ってやるぜ!!」
予想外のことというよりは――――エイジスのやつが少しだけ回復して起きてきた。
ボロボロの彼は俺と魔物の間に割り込み、大声で笑っていた。