126 巻き戻しと疫病神
次に動きが悪くなってきたのは戦士だった。
突如として足取りがおぼつかなくなってきている。
勇者同様、少しずつ動きに力がなくなっていくようだった。
「ライガ、ダミアン、どうしたの?」
急に動きが悪くなった勇者たちに、神官が心配したような声を上げている。
勇者たちが動きが悪くなった原因、それはある程度予測は簡単だ。
「多分毒だ!!あの霧、毒の効果か何か、体の動きを悪くする効果を持っているはずだ!!」
あのあからさまな攻撃が何もなしということは無いはずだ。
勇者の顔を見れば初めのころより心なしか青白いようにも見える。
「おや、ばれてしまいましたか。でも、もう手遅れなのでは?あなたももらいましたよね?」
気づかれても問題はない、その自信が魔王にはあった。
やる気がなさそうに、あくまで毒で弱らせるつもりなのだろう。
だが、俺に毒は効かない。
いつぞやに取った状態異常無効化が働いているからだ。
その証拠に、ステータス画面を横目で見るが状態の欄はいまだに正常、そしてそれは変化する様子は一切ない。
「毒・・・わかった。治療する。『全体状態回復』」
俺の言葉を聞き、神官が動いた。
範囲内の見方に状態異常を治癒する魔法をかける。
しかし―――――
「どうして・・・?」
勇者たちがよくなったという様子はなかった。
動きは鈍いままだ。先に症状が発生した勇者なんかはもう立っていることすら辛そうだ。
「アイナ、私が2人をを引っ張ってくるわ。」
魔法使いが戦闘中の2人を連れて神官の近くに連れていく。勇者たちは実際突っ立っているだけに等しいので、魔法使いの力でも簡単に連れていくことができる。
魔王はその様子を止めるでもなく、ただ見守っているだけだ。
「お願い!2人を頼んだわ!」
迷いない行動だが、何か宛でもあるのだろうか?
「無理だと思いますけどねぇ。」
魔王は毒を取り除かれるという可能性をまるで考えていないといった様子だ。
何か特別な毒なのだろう。
ならもしかして、俺もかかる可能性があるかもしれないな。
状態異常無効化があるから大丈夫だとは思うが、万が一ということもあり得る。
これからはできるだけ相手の攻撃は避けるようにしたほうがよさそうだ。
「任せて『巻き戻し』!!」
神官はまずは勇者に触れて何かの魔法を唱えた。
すると先ほどまでは打って変わって勇者の顔色がよくなっている。
どうやら治療には成功したみたいだ。
「あれ?どういうことでしょうか?」
魔王は驚いている。やはりあれは治療できるような代物ではなかったのか?
しかし事実治療には成功している。
どういうことだろうか?
俺が疑問に思っていると、その間に神官は戦士のほうを治療している。
こちらも何の問題もなく完了している。
「『巻き戻し』は対象の時間を巻き戻す、いくら毒が強力だろうと、なかったら効果は及ぼさない。」
俺たちの疑問を丁寧に解説してくれる神官。
毒を抜くこと自体はできなかったけど、毒を食らう前の状態に戻せば関係ないみたいだ。
おそらくだが、その魔法で治せない傷なんてものはないのだろう。
死んだ人間も巻き戻し範囲によっては生き返るかもしれない。
「あー、そういえばそういう魔法もありましたね。でも知ってますよ?それ、触れている人一人ずつにしかかけれない上に消費も大きい、それに最大の欠点として自分には使えないんでしょ?」
魔王は自分は知っていますよ?という自信満々の様子だ。
神官に毒を与えてしまえば、治療するものはいなくなるということだろうな。
それと、連発ができないということも・・・・
ということはこれからはあの神官が狙われるということだろうか?
俺はならばと魔王がそちらに進行してもすぐに対応できるように少し神官のいるほうに移動した。
魔王の大体の速度はわかっている。
このこの位置にいれば割と余裕で対応できるはずだ。
俺は剣を使って魔王との距離を測り、最適な場所を見つける。
だが、俺の目論見は外れてしまった。
「ああ、その必要はありませんよ。もう、終わってますから。」
魔王が俺のほうを見て笑いながらそう言った。
もう終わっている?――――――――――まさか!!?
俺は素早く後ろを振り返った。
そこには顔色が悪くなった神官の姿がある。
いつの間にやられたのだろうか。少なくとも俺が見ている限りそうのような動作は見せなかった。
「アイナ!!?大丈夫なの!!?」
すぐに魔法使いが駆け寄り、具合を確かめようとその体に触れようとする。
「触るな!!今そいつに触るんじゃねえ!!多分だがそれは罠だ!!」
そこに、エイジスが大声で制止をかけた。
倒れたままであるが、状況は理解しているみたいだ。彼は神官の体に障ろうとした魔法使いに怒声を上げ、寸でのところで止めることに成功する。
「はぁ、エイジスさん。やめてくださいよ、こっちの手の内をばらすのは・・・・」
「やっと思い出したぜお前のこと。かなり昔にずいぶんと陰湿な嫌がらせをする奴がいたと思ったが、お前だったとはな。」
「えー、あなた、そんな目で見ていたのですか?心外ですね。」
「とにかく、お前ら今そいつに触るんじゃねえ!!触ると感染するぞ!!」
先ほどまで、自分にとどめを刺そうとしていた勇者たちを助けるような台詞をエイジスは叫んだ。
そしてそのおかげで俺たちは目の前に立つ魔王の能力の一端を理解する。
あいつが与えていたのは接触感染するタイプの病気なのだと。
そういえば、ベルフェゴールといえば疫病によって大量の人間を虐殺したという言い伝えのある悪魔だったっけか?
後は女性不信だっていうな。
多分こっちは今関係ないだろうから考える必要はないけどな。
「アイナ!!?大丈夫なの!!?」
ドンドン衰弱していく神官に、魔法使いが必死に呼びかける。
だが、呼吸が荒くなっていくだけで返事はない。
それにしても、勇者は戦士と違って症状が出てくるのが早い気がする。
勇者や戦士は考えてみれば動き回っていたから、毒が回るのが早いのはわかるのだが、神官のほうが早いというのはどういうことだ?
「あー、ふき取るためか顔についていた血液のほうを触ってしまったみたいですね。」
魔王はラッキー、という様子でまじまじとそれを見ている。
その言動から判断すると、あの霧よりも彼の体液のほうが効果が強い?
いや、もしかしてあの霧は魔王の血液を気化させたものなのかもしれない。
思えば、勇者の動きが鈍り始めたのも返り血を食らった時だったな。
っと、そんなことを考えている場合じゃない。
「おい!!その神官を治療する魔法とか―――アイテムとかなんかないのか!!?」
彼女がいないと次に毒を食らったやつはそのままお陀仏とかいう可能性もある・・・というか、そのまま神官が死んでしまうんじゃないのか?
「ダメだ、俺の記憶が正しければ通常の方法じゃあそいつの毒は抜けないようになっていたはずだ。」
倒れたままのエイジスが古い記憶からその知識をあさってきた。
先ほどの神官の状態異常回復魔法が利かなかったのもそういう理由か?
「はぁ、エイジスさんそうやって能力の秘密をばらすのやめてもらえません?あなたとは違うんですよこっちは。」
はぁ、と魔王はため息をつく。
そうはいっているが問題はないといった様子は変わらない。
唯一の回復手段を失い、返り血を浴びればあれと同じ状態になる。
この状態が続くのは厳しいな。
ベルフェゴールを疫病を与える―――――伝染病・・・・治療・・・あ!!
もしかしたら何とかなるかもしれない!!
「リリス!!早急に頼みたいことがあるんだけど!!」
「わかった!すぐに呼んでくるわ!!」
俺の考えを肯定するように、リリスは呼ばれた瞬間に俺の頼みを理解してすぐさま街のほうへ向かって走っていった。
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