124 決着と降臨
あー、やらかしてしまったな。
以前にも言及したことはあるが、俺は素手縛りでゲームを攻略したこともあった。
その時の心構えとして、踏み込まない。
というのがあったことを今になって思い出した。
例え相手のHPがレッドバー・・・ギリギリ残っているだけの状態であってもペースを崩すことは許されないのだ。
だってこんな感じに、積み上げたものが一撃でひっくり返されるのだから・・・・・
「はっ、やっと捕まえたぜ!!」
ノリノリで拳をこちらに向けて突き出してくるエイジス、その攻撃は今からじゃあ回避は間に合わない。
「タクミ!!危ないよ!!」
その上、これに関しては予定にないこと、対応が遅れてしまいノアの召喚も間に合わない。
これは体で受けるしかなさそうだs。
――――ビキッ、、、メキメキ・・・
彼の拳が俺の胴体に直撃した。
この一撃で勝負を決める、そんな意志が伝わってくるような一撃だ。
俺の体から、骨が折れる音が聞こえてくる。
「はっ、勝負あったな。」
拳から伝わってくる感触で、俺に多大なダメージを与えたことを理解しているようだ。
ただの一撃、それを受けただけで今までコツコツとためてきたダメージはすべてひっくり返った。
俺の肋骨はいくらか折れており、これまでと同じ動きができないことを考えると状況は見た目より悪い。
しかし、エイジスの強撃を受けてこの程度で済んだのは、おそらく『白闘気』の物理防御力上昇と、ノアの召喚ボーナスによるものだろう。
機敏な動きはできないが、立っているくらいならわけはない。
「勝負あった?まだ終わってないだろ?」
「はっ、直に終わるさ、すぐにとどめを刺してやるぜ!!」
エイジスはその言葉の通り、俺にとどめを刺すべく行動を開始した。
彼も少なくないダメージをもらっているはずなのだが、関係なく動いている。
魔族はHPも多いのだろう。
ここから、俺の逆転は不可能に思えた。
だが、それは戦っているのが俺一人だけだったらの話だ。
「何度も言うけど、お前は俺一人を相手にしているわけじゃないんだよ!」
「ああ!?」
何を言っているんだ?彼が足を止めてそう言おうとしたとき、その人物は動いた。
動きが止まったエイジスに向かって、一直線に走ってくる。
場所はその後ろから、俺には見えるが、彼には見えない位置取りだ。
「そういえばエイジス、お前、女性はおっかないとか言ってたよな。」
「てめえ、何を言って・・・・はっ!!?」
気づいたときには遅かった。
彼がそれに気づき後ろを振り返った時には、リリスがもうすぐそこまで来ており、今にも蹴りを放たんとしている。
「私のタクミに何するのよ!!!」
そしてその勢いのまま、対応を許さずにリリスは足を振りぬいた。
それを受けたエイジスの体は軋み、軽く吹き飛ばされる。
「ナイスだリリス!!よくやった!でも俺は別にお前のものじゃないからな!!?」
ここらへんでこれは否定しておかなければ、いつか何か起こりそうな気がするので少し場違いな気がしたけど訂正しておいた。
それにしても殴り合い手に関してはリリスは本当に優秀だな。
「がぁ、また油断しちまったぜ!!だが、まだまだこれからぁ!!」
だが、そんなリリスの一撃を受けてもまだ立ち上がるエイジス。
あれを受けても立ち上がるなんて、タフな奴だ。
エイジスは立ち上がりはしたが、流石にダメージが溜まってきたのだろう。
その立ち姿は少しだけ力が入っていないように見える。
流石にリリスの一撃は効いたみたいだな。
「エイジス、まだ続けるつもりか?」
「はっ、当り前だろ?俺を誰だと思ってるんだ!?」
そんなになっても彼は戦うことをやめない。
多分、そのほうが格好いいからだろう。
それを彼はどこまでも貫きたいのだ。何故そこまでやるのか、俺には理解できないが、少なくともこいつがこの程度では止まらないことは理解できた。
「でも、いくらお前でもこれはきついんじゃないのか?」
「ああ?今度は何をするつもりだぁ?」
俺は周りを軽く見渡した。
そこには先ほど倒れた勇者たちの姿、エイジスと戦い、一度は倒れたものの姿があった。
勇者だけは、最後まで倒れなかった。
そんな彼は俺が、俺たちが戦っている間に仲間を治療していたみたいだ。
満身創痍に見えたものの傷も、すっかり綺麗になっている。
「そこの、回復してあげる。」
後ろから俺に回復魔法が掛けられる。
この場所に神官は一人だけなので、誰がくれたのかは想像に容易い。
「エイジス、もう一度聞くけど、まだ戦うつもりなのか?」
流石にあれだけやれば彼の防御力の秘密もばれている。
その証拠に戦士と勇者は取り落とした武器を拾いに行こうとはしない。
完全に盤面はこっちに傾いているのだ。
「はっ、聞くまでもねえってことはわかってるんだろう?」
流石にこの質問は無粋だったな。
「ああ、わかってるよ。それなら総力戦だ!!お互い絞りつくす、それでいいんだろう?」
「おうよ!案外戦ってみたら勝てるかもしれねえ、戦いなんてそんなもんだ!!だから俺は最後まで戦うぜ!!」
エイジスは最後まで一歩も引くことは無く戦い続けた。
◇
「はぁ、はぁ、は、はぁ、流石に、疲れたな。」
「えぇ、結構耐えたわねこの男、流石に今の私じゃ一人で倒すのは無理だったわね。」
俺は仰向けでその場所で倒れ、空を見ながら呼吸を整える。
エイジスは俺たちに全員で囲んだにもかかわらず、倒しきるのにはかなり骨が折れた。
勇者たちは素手での戦闘に慣れておらず、いまいちだった。
後衛の支援は助かったのだが、割と助かったのはそのくらいだ。
魔法攻撃を使ったりして一気に体力を削ることはできないし、そもそも一定以上与えたら『怒りの咆哮』をはじめとしたカウンタースキルを警戒しないといけない。
その為俺以外のやつは攻撃をある程度加えると引き気味に戦わざるを得なかったのだ。
「はぁ、しかしタクミ殿は、流石だな。魔王をこうも容易く打ち倒してしまうなんて。」
ヴィクレアも疲れているのだろう。
その場に座り込んで俺を讃えてくる。
「はぁ、いや、俺一人じゃあ見ての通り倒すことはできなかったと思うよ。勝てたのはヴィクレアが勇者たちを連れてきてくれたおかげだ。」
彼らがエイジスの手の内を晒させることをしてくれなければ、彼らが最後手伝ってくれなければ、という感じはある。
そこは素直に感謝するべきであろう。
「ということで、勇者様たちありがとう。」
疲れているから寝ている体勢で申し訳ないが、俺は礼を言った。
「いや、俺たちは結局傷1つ付けられなかったからな。この勝利は間違いなくあんたのおかげだよ。」
「そうだね。俺たちは武器に頼りすぎていたみたいだ。」
勇者と戦士は少し反省したみたいにそう言ってくる。
武器に固執していたことが、自分たちの一番の失敗であると。
だが、別にそれはいいのではないだろうか?
エイジスみたいなやつはおそらくだがレアケースだ。今後もこういったことがないとは限らないが、少ないことは事実ではあるだろう。
「そうね。私たちはまだまだ未熟ってことね。」
「うん、今日、それが分かった。」
まぁ、今回の戦いで彼らが何かをつかめたならそれでいいのかな?
勇者みたいだし、強くなって問題があるということは一切ないだろう。
「はーーっはっはー、まさか俺が負けるとはなぁ!!思ってもいなかったぜ!!」
俺の近くで同じく仰向けで倒れているエイジスがそこで笑い声をあげた。
動けないみたいだが、笑う余裕くらいはあるみたいだ。
みんなから袋叩きにあってこれだけ元気なのだから、流石はといったところだ。
「ってことだから、今回は俺の勝ちってことでいいよな?」
「あぁ、いいぜ。今回はお前たちの勝ちだ。だが、次は負けねえぜ!!」
俺もそうだが、彼も相当の負けず嫌いみたいだ。
また今度勝負を吹っ掛けられそうだな。
「いや、残念だが君に次はないよ。」
そこで立ち上がった勇者が倒れているエイジスのもとへ向かう。
あれ?これってとどめを刺す流れか?
「ああ、そうか。俺は負けたんだからな。仕方ねえか。」
エイジス本人も何か納得しているようだ。
いやいやいや、それでいいのか?
「うん、潔いんだな。」
「あぁ、敗者は殺されても文句は言えねえ。そういうものだろ?」
そういうものではない・・・とは言えないな。
命を奪い合うこの世界では、それは当然のことだ。
俺だって俺との戦いに敗けた魔物の命は問答無用で奪ってきたのだ。
・・・・・でもなぁ。
「ちょっと待ってくれないか。」
とどめを刺すべく、腕を上げたところで俺は口をはさんだ。
「何かな?言っておくけど、こいつは魔王。魔王である限り人類の敵なのだよ。それでも待てというのか?」
「エイジス、お前魔王として何をした?」
「あぁ?俺が魔王としてやったこと?・・・・・売られた喧嘩は買ってきたぜ?まぁ、当然そいつらはのしてきたけどな。」
「で、殺したりとかは?」
「してねえよ。意味ねえしな。」
「で?なんでお前は今殺されそうになってるんだ?」
誰かを殺したわけではない。
魔王といっても名ばかりで、彼が配下を持っているという話も一切聞かない。
そんなやつがどうして魔王ってだけで殺されそうになっているのか、俺にはそれが理解できなかった。
多分だが、リリスの時と同じ理由なんだろうな。
「そりゃあ、俺が負けたからだろ?ここでごねるのは漢じゃねえ、」
どうあっても、彼はここで引くつもりはないみたいだ。
エイジスはどう考えても敵には見えない。
どこか親近感さえ沸いているから、彼にここで死んでもらいたくはない。
これは俺のわがままなんだろうか?
「では、もういいかな?」
彼は勇者で、目の前に倒れている相手は魔王。
結局はそう言うことなんだろうか?
俺は疲れ切って立ち上がることもできない自分を呪う。
もし立ち上がれたら、彼を助けることができるのに・・・・・
魔王から勇者を助けたら、勇者から友を殺される。
果たしてそれはいいことなのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は何かないかと思考を巡らせていた。
「おやぁ?エイジス君、えらく無様な姿ですね。」
そしてその時、聞き覚えのない声が俺の耳に響く。
少なくとも、先ほどエイジスと戦っていた俺たちの誰かの声ではない。
ということは新手、それもエイジスのことを知っているということはおそらく彼に何か関係のある奴なのだろう。
「あぁ?お前は――――――誰だっけ?」
そんなことは無かったみたいだ。
エイジスはその人物のことを知らないらしい。いや、覚えていないのかな?
「おやまぁ、私のことをお忘れと?一緒に魔王になった中じゃないですかー」
一緒に魔王?ってことは?
「あ、皆さん初めまして、自分、ベルフェゴールって言います、一応魔王やってます。」
突然現れたそいつは笑顔でそう自己紹介した。