123 完全対策とリベンジマッチ
「ま、待て!!そこの君!!」
俺たちが今から激突しようというその時、勇者が血相を変えて話しかけてくる。
流石に敵に背中を見せるのは危険だと思うので俺はそのまま前を向いたままだ。
「君、その武器では勝ち目がない。足元に落ちている剣を拾うんだ!!君の持つものとは比べ物にならない性能のはずだ!!」
そう言われて軽く確認すると、そこには先程勇者が取り落とした剣、その柄には宝石が散りばめられており、見るものを引き込む魅力があった。
それに対し、俺が持っている、というか腰につけている剣はシュラウドに強化してもらってはいるがただの木の剣だ。
どちらの性能が高いかは一目瞭然だ。
「あー、そうだな。これは重しになるよな。」
俺はその木の剣をノア達が見ている方向へ放った。
武器攻撃の効果がない相手に、武器を持っていても邪魔なだけだ。
そして足を取られたりしたら不味そうなので一応、この綺麗な剣も避難させておこう。
俺は勇者が持ってきた剣を先程と同様に遠くへやった。
「なっ!!?何を!!?」
俺の行動が理解できなかったのだろう。
勇者は驚愕に目を見開いた。
「悪いなエイジス、待たせてしまったか?」
俺はステータスウィンドウを開きながらそう言った。
「いいや、お互い万全の状態で戦ってこそだ。構わねえよ。」
よかった。これで存分に戦える。
俺は両手をグーパーさせて具合を確かめる。
素手での戦闘はこの世界に来てからも一度、やったことはあるがその時はすぐに武器を奪ってしまったからな。
本当の意味で素手で戦うのは初めてだ。
「それで?お前さんに勝算はあるのか?一度負けてんだろ?」
「ふっ、俺は負けず嫌いなんだよ。それに、それは聞くべきじゃないだろう?」
どちらが勝つか、それは案外戦って見ないとわからないことだ。
勝てるか?なんて質問は無粋だろう。
「はっ、そうだな。じゃあ行くぜ?俺を楽しませてくれよ!!」
足を止めていたエイジスの全身が再開する。
ただ、目標は先程とは違い勇者ではなく俺だ。
俺は拳を握りしめ、そしてこの前の敗北の後、新たに獲得したスキルを発動させた。
エイジスは相変わらず大振りの一撃からスタート、数回見て見慣れた俺ならギリギリのところで回避は可能だ。
俺はエイジスの拳を懐に素早く潜り込むことで回避する。
そして俺は拳を彼の鳩尾めがけて叩き込んだ。
「がはっ、ちっ、やるじゃねえか。この前より一撃が重めぇ。」
彼は一度、わざと攻撃を受けて確実に俺を捉えようとしたみたいだ。
その証拠に左腕が振り上げられているが、それが振り下ろされることはなかった。
鳩尾は人体の急所だ。
彼は魔族ということだからそれがどのくらいの意味をなすかは分からないが、少なくとも人型を取っている限りは効果はある。
そして俺の一撃は彼のいう通り、以前戦った時より強化されていた。
『白闘気』、今回このために俺が獲得したスキルだ。
『白闘気』は『純闘気』とは違い自分の身体にしか効果を及ぼすことができない。
そしてその上昇は固定値ではなくステータス参照の割合だ。
例えば、無改造の『白闘気』は60秒間、俺のすべてのステータスを1割ずつ上昇させてくれる。
この時点で結構有用なスキルだ。
そして当然のことながら、俺はこれを改造して来ている。
その効果は力と物理防御力のステータスを30秒間、6割り増しにしてくれる。
肉弾戦を仕掛けるならこっちの方が何かと都合がいい。
彼はこの強化を予想できなかったみたいだ。
前回の最後の一撃、あれを踏まえた上で攻撃を受けても無視できると考えたのだろうが、その考えが仇となった。
「どうしたエイジス?まさか俺を舐め切っていたとかいうことはないだろうな?」
「どういうことだ!!?あの魔王に物理攻撃は効かないはず。なのにどうして!!?」
勇者がもう驚き役以外の何者でもないな。
エイジスが無効化するのはあくまで魔法攻撃と武器攻撃だ。
っと、説明してやりたいがそこまで余裕があるわけではない。
俺は即座にその場所から飛び退いた。
「はっ、成長したっていうのは認めるぜ。だが、それだけじゃあ俺は倒せねえな!!」
もう無警戒に攻撃を受けてくれるということはないだろう。
次からはきっと防がれるはずだ。
それに、一見この状況では最強に見える『白闘気』だが、1つだけ弱点がある。
それはMPの消費量だ。
一瞬でも効果を切らすことがないように、冷却時間を効果時間内に押し込めたら消費MPが高くなってしまった。
俺の今のMPでは精々5回、2分30秒しか持たない。
だが、焦ることはない
「おお!!?どうした!!?そんな攻撃じゃあ俺は倒せねえぞ!!」
エイジスの攻撃を避け、そして小さな打撃を与えて早めに離脱する。
そうして俺は少しずつ彼にダメージを地奇跡して行く。
そしてそろそろ、2分が経とうとしていた。
これを使ったら次はない。
だが俺はそんなことを気にせずに最後の『白闘気』を使用した。
「へっ、お前さんのその感じじゃあ、その強化は長くは続かないみたいだな!!」
俺には全て分かっている、そう言いたいのだろう。
その効果がそろそろ終わるだろうこともおそらくだが直感で理解している。
MP切れで次はない。
「足りないなら別の場所から持ってくりゃあいいんだよ!!リアーゼMP回復薬を!!」
だが、別に俺は1人というわけではない。
足りない力は別で補えばいいんだ。
俺の声を聞いたリアーゼは1つの薬瓶をこちらに投擲する。
だが、・・・
「へっ、やらせねえぜ!!」
その射線を、エイジスは遮った。
彼は飛んでくる薬瓶をその太い腕で叩き落とす。
「残念、フェイクだよ。」
俺はその隙にあらかじめ持っていたMP回復薬を一気に飲み干した。
これで一定時間、MPが急速に回復をする。
30秒もあれば十分に回復可能だ。
「くそっ!!こいつやりやがったぜ!!」
裏をかかれたエイジスは即座に切り替えて攻撃を再開する。
彼は一撃を狙い、俺は小さく刻んでいく。
これが続けば勝つのは俺だろうが、そうは問屋が卸さない。
「はっはっは、いい感じに溜まったぜ!!」
エイジスはそう言って息を吸い込んだ。
これは先程ヴィクレアと魔法使いを吹き飛ばした、『怒りの咆哮』の予兆だ。
あの時見た被害範囲と、息を吸い込んでから技が出るまでの時間を考えると今から逃げても間に合わない。
「行くぜ、『怒りの咆哮』」
「ノア!!いまだ!!!」
だから俺は叫んだ。技が発動する、少しだけ前に。
「あいあいさー!!」
ノアが俺の声に応え、ある魔法を発動させる。
「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
その直後、雄叫びが辺りに木霊した。
周りの草木は大きく揺れ、その中心地の地面はひび割れている。
「ありがとう、ノア。助かったよ。」
「ふふん、ボクにもっと感謝してよね!!」
その攻撃を防ぐには、範囲の外に出てしまうのが一番だ。
ノアには予め、俺が合図したら俺を召喚してもらうように指示をしていた。
そしてそれを確実に行うために詠唱時間をほぼゼロにも・・・・その代償としてMPを10倍払うことになったけど、まぁ、俺召喚のMP消費は元々2だし?
「じゃあ、また危なくなったら頼むな!」
「任せといて!!」
俺は再びエイジスに近づく。
「ちっ、確実に仕留めたと思ってたんだがな。」
「そりゃ残念だったな。」
「だが、あの嬢ちゃんのMPも無限ってわけじゃないだろう?いつかは避けられなくなるさ。」
あ、ノアのMPは確かに無限ではないけど、俺を召喚するのなら自動回復の方が多いから問題ないよ。
と、言って動揺を誘いたい気持ちもあるが、今回は別のところを指摘しよう。
「そうは言うがエイジス、おそらくだがさっきの技、今使っても大した威力は出ないんだろう?」
彼はそれを使う前、溜まったと言っていた。
彼の言う通り、使用自体はできるのだろう。
だが、威力は出ない。
そのはずだ。
『怒りの咆哮』、多分だけどその身に受けた攻撃が関係しているはずだ。
「ちっ、バレてんのか。」
少し悔しそうにエイジスは吐き捨てる。
「ああ。俺を前に自分のスキルを見せすぎたな。」
いくら強い敵であろうと、手の内が知れ渡っていれば勝つことは難しくなる。
対策を寝れば脅威ではなくなるからだ。
彼は勇者との戦いで俺に見せすぎた。
動きの癖、スキル、思考パターン。
相手を見て戦う俺からしたらそれだけで十分すぎるほどに。
それに加えて俺はこいつの一番のスキルを初めから知っていた。
それも大きな要因だろう。
だが、怖いものがあるとするならば・・・・
「はっ、ぬかせ!!ならこれならどうだ!!?」
それはまだ見せていない攻撃だろう。
彼がそう言って毎度同じように拳を突き出して来た。
今回は真っ直ぐなものではなく、上から振り下ろすような攻撃だ。
言っては悪いがそんな攻撃、避けられない方がおかしい。
動作が変わり、少しだけ避けづらいように思えるがその動きはより遅くなっている。
俺はここぞとばかりにその攻撃をギリギリで避け、攻撃を叩き込もうとした。
だが、油断していたのは俺の方だった。
一度見せた攻撃はなんらかしらの対策を立てて来ている。
それを見せた後に、ただ目新しい動きをしただけの攻撃なんてするはずがない。
冷静に考えればわかるはずなのに、勝利が目の前に転がっていると思って油断してしまった。
エイジスの拳は俺から狙いをそらした後、彼の足元に叩きつけられた。
そしてその瞬間、大地が砕けた。
元々先程の『怒りの咆哮』でひび割れ、脆くなっていたのだ。
そこに体重を乗せた渾身の一撃、それだけではない。
おそらくだが何らかしらのスキルも使用している。
それらが合わさり、彼足元が勢いよく砕け散った。
「しまっ、、」
砕けた地面は、礫となり近くにいるものを無差別に攻撃する。
決定打を打とうと、不用意に近づきすぎたことが仇となった。
爆弾が爆ぜたような勢いで飛んでくる石礫を全身で受けてしまう。
だが、それだけなら問題はなかった。
問題は俺がそれでひるんでしまったことだろう。
石礫をうけ、足を止めてしまったのがいちばんの問題だった。
「はっ、やっと捕まえたぜ!!」
俺が気付いた時には目の前で拳を握りしめる、魔王エイジスの姿があった。
最近では投稿直後の1時間以外にも、この作品を読んでくれる人がいるみたいでとっても嬉しいです。
いつもありがとうございます。