122 勇者と魔王
魔王エイジスと勇者達は森から出て少しだけ歩いた場所で戦闘を開始した。
移動中に後ろから斬りかかる、と言ったことは起こらなかった。
勇者は正々堂々戦うみたいだ。
「さて、ここら辺でいいよな。」
「俺は別に、どこでもよかったのですがね。」
勇者は宝剣とも言える剣をその具合を確かめるように軽く振った。
「そうか、悪かったな付き合わせちまって。じゃあいつでもかかって来てくれ。」
エイジスは構えることはなく、準備完了の言葉だけを言う。
どうやら彼は先手を譲るみたいだ。
「行くぞ!!みんな!まずは話した通りに公道だ!!」
勇者達は当然と言うべきか、作戦を立てて来たみたいだ。
前衛が前に、後衛が後ろにと言うオーソドックスな布陣で構える。
初めに動いたのは斧を持った戦士だった。
彼はエイジスに急接近し、その斧を横薙ぎに振るう。
あんなに大きな武器を持ったまま俊敏に動けるのは素直に見事だと思う。
対してエイジスはというと、その斧を剥き出しの腕で正面から受け止めた。
彼の体には武器攻撃は通用しない、攻撃してくるのが武器であるならばどんな攻撃であっても無駄らしいのだ。
「な、!!?こいつ素手で!!?」
「下がれダミアン、俺が行く!!」
瞬時に勇者と戦士が入れ替わった。
戦士は無理やり後方に飛ぶことで、勇者は頭上からエイジスに迫る。
大上段からの振り下ろしだ。
「くらえ魔王!!『大破壊斬り』!!」
おそらく、威力重視の一撃だ。
戦士の攻撃より高い攻撃力を誇るであろうその一撃は、またもエイジスの体を傷つけることはできない。
「はっ、そんなんじゃあ俺を殺せねえぞ!!俺を殺したかったら漢を見せろぉ!!」
エイジスはここぞとばかりに挑発をしている。
勇者達は一度距離を取り、2度の攻撃を受けてもなお無傷のエイジスを睨みつける。
「どういうことだよあれ、俺たちの攻撃を受けて無傷なんてありえるのか?」
「報告によると魔法も効かないって言うし、反則じゃない!!」
魔法が効かないことは事前情報としてあったみたいだ。
多分これはオリビアの時のことをエリックが伝えたのかな?
「落ち着いてくれみんな、無敵なんてことはあり得ない。次はダミアンとリオーラ、同時に攻撃を叩き込んでくれ。アイナは俺とサポートだ!!」
「「「了解。」」」
成る程、勇者は一度に無効化できるのはどちらか一方だけ、そう読んだみたいだ。
そしてそれを証明するための同時攻撃、もし当たった場合に威力の高い斧の攻撃を重視。
俺が何も知らなければこれは的確な判断だと称賛したはずだ。
俺がやって来たゲームの中では物理か魔法、常にどちらか一方だけを無効化する敵もいたことだしな。
「じゃあ、今度はこっちから行くぜ!!」
次はエイジスから仕掛けた。
俺の時と同様、ただ拳を握りしめてまっすぐ突き進む。
ただそれだけだが、やられてみると案外厄介だったりする。
「攻撃は俺が受けよう。ダミアンは横から。」
「おうよ!!」
勇者は剣を高めに構え、攻撃に備える。
エイジスはそんな勇者に向かってまっすぐ突き進み、そして握りしめていた拳を突き出した。
勇者はその攻撃を剣を使って拳をそらすことによって見事に受け流してみせた。
勢いをつけた拳が受け流され、ほんの少しだがバランスを崩し隙ができているエイジス。
そんな彼に向かって横合いから戦士が斧を叩きつけんとしている。
「へへっ、隙ありだぜ!!」
「行くわよ!『炎魔法:暴聖炎』!!」
それに合わせるように、勇者の後方から黄金に輝く炎がエイジスに向かって飛来した。
彼はそれを顔面で受ける。
また、その体には斧が叩きつけられている。
「おしっ、完璧だぜ!!」
「やったわ!!」
普通ならあれで大概の者は生き絶えるであろう。
だが、、
「ちょっとびっくりしちまったじゃねえか!!お返しだ!!」
魔王エイジスは健在、受けた攻撃など意に介す様子もなく、引き戻した拳を再び勇者に突き出した。
2つの攻撃は見事と言うしかないほど同時にヒットしていた。
それを目の前で見た勇者は、たとえどちらかを無効化されたとしても大ダメージは免れないと、そう考えて油断した。
突き出される拳を、完全に避け切ることはできそうにない。
「しまった!!」
勇者はとっさに身をよじる。
このまま放っておいてはエイジスの拳は心臓のある位置に直撃する。
鎧は着ているが動きやすさ優先で軽装だ。
このままくらえば下手すれば動けなくなる。
それはまずい、とっさの勇者の行動で、エイジスの拳は当たる場所を左胸から左肩に変える。
「はっは、まずは俺の先制ってところだな。」
拳を振り切り、ニヤリと笑みを浮かべるエイジス。
勇者は彼の拳を受けてその場に倒れたのだが、彼はそれに対して追撃をするということはしない。
再び立ち上がるのを待つのみだ。
「ライガ、大丈夫?」
そこに神官の女性が立ち寄り、勇者に回復魔法をかけている。
「大丈夫だよ。それにしても、どういう仕組みだ?物理攻撃も魔法攻撃も効果を及ぼさないなんて・・・」
心底不思議そうな顔で勇者はエイジスの方を見る。
どこからどう見てもダメージを負っているようには見えない。
実際、エイジスには1ポイントもダメージは入っていない。
強いて言うなら少しびっくりしたくらいだろう。
「ライガ、次はどうする?」
情報を整理すればするだけ分からない。
戦士の方は勇者に指示を仰ぐ。
やはりと言うべきか、勇者があのパーティの司令塔なのだろう。
「まずは様子見だ。少し距離を置いて戦う。誰か何か気づいたことがあったら教えてくれ。」
賢明な判断だ。
今の彼らがこの状況で踏み込んでいいことはないだろう。
「なら防御支援をする。『全体防御力上昇』。」
神官が防御力向上の魔法をかけた。
この魔法は範囲魔法らしい。
発動時に範囲内にいた者に防御向上効果を与えるみたいだ。
俺にもかかっていることを見ると、多分対象を選別する、といったことはできないのかもしれない。
これではエイジスの防御能力も上がってしまうが、そもそも効いていないから関係ない話だろう。
「じゃあ私はこれね!!『攻撃能力上昇』『攻撃能力上昇』『攻撃能力上昇』」
魔法使いは攻撃能力上昇を神官以外に個別にかけている。
これはエイジスにもかかったらまずいからだろうな。
それにしても、どうして数ある支援魔法の中で攻撃上昇系は神官じゃなくて魔法使いが覚えるときがあるんだろうな?
「リオーラ、受け取って。『魔素の泉』。」
神官は続けて何かの魔法を発動した。
それと同時に魔法使いを中心に光が現れた。
「なぁノア、あれって何かわかるか?」
魔法関連は何気にノアが詳しい。
分からないことは聞いて見るのがいいだろう。
「あれは主に魔法使いを支援する魔法だね!MPの自然回復とか魔法の威力とかが上がるよ!」
あぁ、魔法上昇エリアを作り出す魔法なのか。
「そうか。教えてくれてありがとな。」
フィールドを作り出す系の魔法は俺のイメージに過ぎないが結構強いイメージがある。
多分これはあるゲームで鈍足化エリアにノックバックの敵のコンボを食らったり、毒エリアに自己回復し続ける敵にあったりして嫌なイメージがついてるからだろうな。
「はっ、そんな小細工、俺には通用しないぜ!!」
「しまった!!リオーラ!逃げるんだ!!」
エイジスはそれを小細工扱い。そして勇者と戦っていた彼は魔法使いに狙いを定める。
うわぁ、魔法がそもそも効かないからそんなことする必要は一切ないのに、魔法使いを有利なフィールドから引き摺り下ろすつもりだ。
それにしても、後衛から狙う魔王とかいたらこんな感じなんだろうかな?
「む、リオーラ殿、危ない!!」
そこにカバーとしてヴィクレアが入る。
彼女はずっと俺の隣で戦闘に加わる機会を伺っていたのだが、それを今と判断したようだ。
シュラウド製の剣を使ってエイジスの突進を受け止めた。
「ヴィクレアさん!?助かったわ。ありがとう。」
「大丈夫そうでよかった。ここからは私も戦うから協力しよう。」
ちなみにヴィクレア、誰かが危なくなった時とっさにカバーに入れるように待っていたみたいだ。
今回はその判断が功を奏したというところだろう。
「先程から見ている限り、この魔王はその肉体のみで戦うみたいだ。それならば私が受け止められる。」
ヴィクレアのクラスは騎士、物理攻撃を生業とするエイジスの攻撃なら防御するのは容易だ。
今回は後ろに優秀そうな神官もいる。
先程のように不意を突かれて後方を狙われたりしない限りは大丈夫そうだ。
「はっ、そうかよ。ならこれならどうだ?いくぜ!!『怒りの咆哮』!!」
そこで初めて、エイジスが俺に見覚えのない行動をとった。
彼は息を少し吸い込むようにして、・・・・・
「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
その場で叫び声をあげた。
いや、それは叫び声なんてものではない。
「くっ、」
それを間近で受けたヴィクレアは大きく後方に吹き飛ばされる。
また、次に近くにいた魔法使いも。
「ヴィクレアの姉ちゃん、リオーラ!大丈夫か!!?」
戦士がそう投げかけるが、大丈夫そうではない。
死んだりはしていないようだが、すぐに立ち上がることはできないだろう。
「アイナ、早く2人の回復に向かうんだ!!」
「分かった。」
「お前がいると戦闘が長引くし向こう方が真剣になれないからな。大人しくしててくれや。」
「ーーッ!!」
神官が倒れた2人の回復に向かおうとしたところを、エイジスは狙い撃ちする。
その動きは完全に狩猟のそれだ。
聞こえてきた彼の言葉から察するに、彼はコンティニュー機能は嫌いみたいだ。
まぁ確かに、倒したそばから回復されてたら嫌気がさしてくるよな。
「アイナ!!クソ!!こっちだ魔王!!」
神官はエイジスの一撃で倒れている2人から遠ざけさせられるように飛ばされた。
あの距離では自分を回復した後に再び回復に行こうとしてもまた阻止される可能性が高いだろう。
仲間が3人やられたところで、激怒した戦士が我を忘れて力の限り斧を振る。
「いいねいいね。その目つき、それでこそだ!!」
エイジスは嬉々としてそれを狩る。
怒りで我を忘れて武器を振る相手など、彼の敵ではない。
彼は斧を完全に無視して戦士を狙う。
「こいつはサービスだ。『怒りの拳』!!」
エイジスの攻撃を、戦士は斧を盾に使いガードしようとする。
だが、エイジスは盾となっている斧の上から戦士を殴り飛ばした。
おそらく、見た目は変わっていないがあの拳にも何かスキルが乗っているのだろう。
少なくとも俺の知っている威力ではない。
「あとはお前さん1人だな。」
「くそっ!!ダミアンまで、うおおおおおおお!!」
そこまでは終始冷静だった勇者も、最後の仲間を倒されたのを見て激昂する。
なんの策も用意していない、ただ単純に真正面から斬り伏せるつもりだ。
「結局、お前たちは最後まで漢にゃなれなかったな。」
エイジスは最後だと言わんがばかりに勇者を蹴り飛ばす。
何気に蹴りを見るのも初めてかもしれない。
勇者の鎧はエイジスの蹴りで見事に壊され、衝撃はそれをきていた本人にまで伝わる。
しかしそこはさすが勇者、その攻撃を受けながらもしっかりと地に足をつけている。
だが、彼が持っていた剣は蹴られた衝撃でエイジスの足元だ。
「そういえば、お前さん勇者なんだってな。」
「それがどうかした!!」
「いや、勇者を倒した魔王って最高にかっこいいと思ってな。・・・なんでもねぇ、忘れてくれ。」
トドメを刺す。
そう確信させる前進だった。
エイジスは一度強撃を受けてしまいうごきがわるくなっている勇者の元へ近づいていく。
そこへ・・・・・
「今度はお前が戦うのか?」
「ああ、この人は勇者らしいんでな。何かの間違いで大怪我したら困るかもしれない。だから守らせてもらうよ。」
俺は割り込むように間に入った。
「お前さん、この前俺に負けたばっかじゃねえか。勝てると思ってるのか?」
お前は負けるだろうから、そこを退いたらどうだ?
そんな意味を孕んだ言葉だがそれを言うエイジスはどこか楽しそうだ。
「エイジス、知らないのか?男子3日会わざれば刮目してみよって言葉を、あの頃と同じと思わないほうがいいぞ。」
「はっ、面白え。なら見せてもらおうか!お前さんの成長とやらを!!!」
「行くぞエイジス!リベンジマッチだ!!」
俺は拳を握りしめた。
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