12 報酬と分配
「本当にひどい目にあったよー」
「本当にな、まさかあんなのが出てくるなんて思わなかったよ。」
俺たち二人は、ゴブリンをすべて倒し終わった後、すぐさま街に戻ることにした。一応、もう何も起こらないとは思うが、そもそも依頼の報告とか武器の調達とかいろいろやるべきことがあったからだ。
オークから奪ったこん棒は、オークが死んだ後もなお残り続けている。
ゴブリンの装備品も一部残っていたことを考えると、ドロップ品ということだろうか?
いや、多分これは違うな。どっちかというとオークのこん棒は倒す前にあいつから離れたから残った節があるな。
それが正しいなら、武器を持っている敵は武装解除すれば確実に武器を手に入れれることになるな。
今度余裕があるときに試してみたほうがいいのかもしれない。
ちなみに、ゴブリンが落としたさびた武具は、鑑定したら
名前 錆びついた剣
効果 物理攻撃力+1
説明 ゴブリンが持っている剣。弱いうえにそこそこ重量がある。
と、こんなのばっかりだったため拾っていない。
オークのこん棒も
名前 木のこん棒
効果 物理攻撃力+3
説明 何も加工されていおらず、素材の味が出ているこん棒
と、性能は似たり寄ったりだ。
木の剣と大差ない武器がぶつかり合って俺が吹き飛んだのは、完全にステータスの差が引き起こした現象だったみたいだな。
そう思いながら歩いていると、冒険者ギルドにたどり着いた。
俺たちはすぐさま建物の中に入り、先ほど依頼を受けたカウンターのところまで行く。
俺たちが声をかける前に、向こうのほうが気づいたみたいだ。
受付嬢がこちらに声をかけてくる。
「依頼の報告ですか?早かったですね。」
そういえば、俺たちが依頼を受けたのは今から約2時間前のことだ。移動の時間も考えると、依頼に割いていた時間はごくわずかだ。
「はい。ちょっとトラブルが発生してしまいまして・・・一応ゴブリンは倒しはしましたので、報告に来ました。」
「そうそう、危うく死にかけたんだよー」
「それは大変でしたね。それではこちらに触れてください。」
そう言って受付嬢が取り出したのは、何か石板のようなものだった。
それが何なのかは、予想がつくのだが一応聞いておく。間違いがあったらいけないからな。
「これはモンスターの討伐履歴を見る石板です。試しに触れてみてください。」
「そんなことも知らないなんて、タクミって意外と無知なの?」
ノアが俺を煽りながら、その石板に手を触れる。すると、
ゴブリン×4
という数字の描かれたウィンドウが表示された。
その石板に記されるんじゃないんだな・・・
「ゴブリンが4匹ですか。それでは、1匹200Gの為800Gになります。」
「うぅ・・・ボク結構頑張ったんだけど、倒せたのは4匹だけだったみたいだね・・・」
どうやら石板はその人がとどめを刺したモンスターを示すみたいだな。
その結果を受けてノアが落ち込みながら、受付嬢から100G硬貨を8枚受け取っている。
「それでは、そちらの方もお願いします。」
「あ、はい」
今度は俺みたいだ。
俺は先ほどノアがやったようにその石板に手をかざす。すると、先ほどと同じようにウィンドウが表示された。
ゴブリン×63
オーク×1
うん、結構いたと思ったけど、ノアが倒したのと合計で67匹もいたんだな。
どうりで疲れているわけだ。
俺はその結果に納得しながら、受付嬢のほうを見る。すると、彼女は驚いたような顔をしてこちらを見ていた。
「あの、いったいどこに行ってきたんですか?オークなんてここの近辺では出ないはずなんですけど・・」
そういうことらしい。俺の経験則は当たっていたようだ。
やっぱり、最初の街付近に出るにしては、オークは強すぎると思ったんだよ。
「いや、街を出てすぐにゴブリンの群れを見つけて・・・それで丁度よかったから叩いていたら、急にオークが襲ってきて・・・」
説明しても信じてもらえないかもしれない、そう思いながら俺は何が起こったのかを話す。
すると、その受付嬢は少し合点がいったという顔をした。
「ああ、おそらくそのオークはゴブリンを食べに来たんでしょうね。それで食料を目の前で灰に変えられたから、怒って襲ってきたんだと思います。」
まさか、ゴブリンがオークを引き寄せていたのか・・・
というか、食うんだな。今までいろんなゲームをやってきたが、オークがゴブリンを食べているのはいまだ見たことがなかった。
だが、この明らかに一般人ともいえる受付嬢がそのことを知っていたのだから、この世界では常識的なことなのかもしれない。
俺はノアが言うように、無知なのだろう。
「まあ、それはいいや・・・報酬をいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。ゴブリンが63匹で12600Gになります。これがそうですね。」
彼女はそう言って俺に1枚の札と8枚の硬貨を手渡そうとする。しかし、
「あ、すべて硬貨にしてもらってもいいですか?」
こっちのほうが都合がいいため、俺はすべて硬貨での支払いを頼む。すると、すぐにそのようにしてくれる。
「はい、ではこちらになります。」
先ほどの8枚の硬貨に、10枚の硬貨を足した18枚が俺の手元に落とされる。
するとノアが、
「ん?タクミいいの?お札のほうが重くないしリッチな感じがするからよくないかな?」
と、言ってくる。
全く、こいつは何を言っているんだろうか?そもそも、お札にリッチな感じなんて意味が分からない。
「何言っているんだよノア、お札だと分けにくいだろ?」
「え?それはキミの取り分じゃないの?ボクはもうすでに自分の討伐分はちゃんともらっているし・・・」
「そうだったな、じゃあ・・・オークの件もあったし、これだけな。」
そう言って俺はノアの手の上に1000G硬貨を5枚落とす。
彼女はそれを落とさないように、慌てて受け取った。これで俺たちの配当は俺が7600Gでノアが5800Gだ。
自分の手の中に入ったお金を確認したノアが、驚いたように声を上げる。
やっぱり、完璧に二分するべきだったか?
「えぇ?こんなにもらってもいいの!?タクミは知らなそうだから言っておくけど、普通は報酬はもらった人のものなんだよ!?だよね!?」
「はい。皆様、そうやって分けているのをよく見ますね。」
どうやら違ったみたいだ。
というか、この世界の常識は少し俺の知っている常識と異なるみたいだな。
そんなことが普通なら、パーティなんて普通は組まないんじゃないだろうか?報酬の件で色々揉めたりしそうだし・・・
「でもそれだと不公平だろ?支援系のクラスについているやるとか、どうやって報酬を手に入れろっていうんだよ。」
「支援系・・・神官職のことですか?彼らは神殿から派遣してもらう時にすでに報酬は払っているので、問題はないと思いますが・・・」
ノアに聞いたつもりだったが、受付嬢が答えてくれる。
それにしても興味深い情報が入ったな。神官職は神殿からくる。
そういえば、初期職にヒーラーといえる職が入ってなかったな。言ってしまえば、ヒーラーはこの世界では特別な存在である可能性がある。
また、時間があるときにでも神殿とやらに行ってみるのもいいかもしれない。
俺はそう思いながら、今現在の問答を終わらせようと言葉を発する。
「あ、そうなんですね。まあ、報酬の分配については今度しっかり考えておくから、ノア、お前は今日は素直に受け取っておくといいよ。」
「う、うん。タクミがいいっていうならボクは喜んで受け取るよ。」
やっぱり、こういう時は争いの種を極力減らしたほうがいいからな。
口ではそういったが、次からも今回と同じように報酬を分割していこうと思う。まあ、俺のほうが稼ぎが多いときはという前提のもとだが・・・
そうしないと、不満のステータスが溜まっていく可能性があるからな・・・
ある時突然ドカン!とかやられたらシャレにならん。
俺は手の中のお金を嬉しそうにみているノアを眺めながら、そう思うのだった。




