表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第4章   魔王の願いと蠱毒の少女
118/293

118 怨嗟の声と魔王が魔王になった理由

俺と魔王の殴り合いがあった日から3日、今日も俺たちは大忙しである。


製図はゴブリンがやってくれたからそれに従って作業するだけなのだが、その作業するのが難しい。

俺たちは素人なのだ。職人的な仕事ができるはずもなく作業は難航していた。



「だからよ。街に行って大工でも雇ってきたらいいにじゃねえかって言ってんだよ。」


「あのな。そうは言ってもお前一応魔王だろ?そんな奴が家を作るって言って協力すると思うのか?」

こいつは自分の正体を知られても大して気にする様子はないが、俺は気にする。


魔王がここにいるという情報をそんなにホイホイと流していいはずはないのだ。

あ、ちなみにあの殴り合いの後、改めて自己紹介をしたのだが、この魔王の名前はエイジスと言うらしい。



エイジスといえばイージスの別呼称だったと思う。

確か、アテナが持っていた厄災から身を守ってくれる防具の名前だったはずだ。


ただこの防具は魔族ーーーと言うよりは天使族のアイテムだったため、偶然名前が一致している可能性もありえるかもしれない。


「でもよ。これじゃあいくら時間があっても足りないんじゃないのか?」


魔王の言うことも最もだ。

俺は2日目からノアたちも動員して作業に勤しんでいるわけだが、そこは素人、数を増やしてどうこうと言うことではない。


ただ、ゴブリンが書いたものを見る限り出来上がるのは山小屋みたいなものだ。


これに対して魔王がオッケーを出したのを見たとき、それでいいのかと思ったりもしたのだが、今思えばあれは最良な判断だった。


あそこでごねて大きな図面を書かせたとして、俺たちに建てることができるはずがなかったのだから。



あ、ちなみにマルバスはこの作業には参加していない。

やる気が出ないとかで街でぶらぶらしてくるそうだ。


俺の予想でしかないが多分人型になって羽を伸ばしているのだろう。


「ねえタクミ!!この木はどうしたら良いの?」


「あーっと、それは・・・・あっちにいるゴブリンに聞いてくれ。」

あいつの方が詳しだろうからな。

というか俺に聞くよりまずはあっちに行くだろう普通。


俺は木材片手にゴブリンの方へ向かうノアを見ながら苦笑した。


「お前さん、よっぽど仲間に信頼されてるんだな。」

そんなノアを見ながら魔王はそう言った。


「そう見えるのか?」


「ああそうさ。どうして良いかわからなくなった時、まずお前さんに聞きにきたのが何よりの証拠だ。」

そういうものなのかな。

誰かに信頼されている、それを客観的な意見で言われると少し嬉しいな。


「ねえタクミ、この石なんだけどー」


「だから俺じゃなくてあっちに行けって、」

次はリリスだ。

彼女も当然と言った顔で俺の方に質問にきた。

やっぱりそういうことなんだろうか?


だとしたら、嬉しいな。














俺たちがそんな風に作業を続けていると、突然その空気をぶち壊すものが現れた。


「君たち!!無事か!!僕が来たからにはもう大丈夫だ!!」

うん、この声はエリックだね。

何してたんだよ、探したんだぞ。


っと、言ってやりたかったがそれは我慢するとしよう。


「エリックじゃないか、どうかしたのか?」


「どうしたもこうしたもない!!君たち、早くこっちにくるんだ!!」

一応、切羽詰まった様子のエリックの指示に従った方が良さそうだ。

彼もここ数日、遊んでいたわけではなさそうだし何かここら辺に危険なものでも潜んでいる情報を得て来ているのかもしれない。



おっ、よく見たらエリックの後ろにはオリビア、フリッシュ、あと名前は知らないけど神官の人もいるな。

エリックパーティ勢揃いだ。


まずは近くにいた俺が、そして次はリリスが、ゴブリンは討伐されるかもしれないから物陰に隠れるように、そしてノアがその次にエリックの方に小走りで行った。


そして最後に魔王も・・・・・・



「むっ、貴様!!よるな!!誰が近づいて良いと言った!!?」

魔王が俺たちと同じようにエリックの方に寄った時、エリックが腰に刺さっていたレイピアを引き抜きブンブンと振り回した。



えっと?あぁ!!

そういえばエリックは魔王の調査で来ていたんだった!!


俺もそのことについて彼に話したいことがあったのだが、ずっと会えずじまいのうちに本人を見つけたものだから完全に忘れていた。



「っとと、何するんだよいきなり。」

俺は知っていることだが、この魔王、エイジスには武器による攻撃は通用しない。

これはおそらくどんな武器でもだ。


それは一番本人がわかっているんだろう。

魔王はエリックのレイピアを避けようとはしない。


「みんな!!無事なら早く逃げるぞ!!僕に続け!!」

エリックは自分の攻撃が効かないと見るや否や、撤退の指示を出す。


彼は彼なりに俺たちを助けようとしてくれているみたいだな。

でも作業を中断してしまっては魔王の家の建築が滞ってしまうしな。


「エリック、落ち着け。まずは深呼吸するんだ。」


「何を悠長なことを言っているのだ!!?あれは魔王、魔物の王なのだぞ!!?」

エリックは半ばパニック状態だ。

なんだかこの感覚も懐かしいな。


「まあまあ、いまは相手に攻撃の意思がない感じだから、とりあえず落ち着けって。」


「あなたまさかその魔王にも味方するつもりなの!!?」

・・・・・味方というか、なんというか、争う必要がない相手だし・・・って言ってもオリビアは聞きそうに無いな。


こいつは結局リリスのことまだ認めてなさそうだし。


「おいおい嬢ちゃん、俺が魔王だからってそういう目で見るのはやめてくれねえか?」

彼もそれに関しては気にくわないらしい。

大概のことは笑って流しそうなエイジスだったが、それには納得がいかないらしい。


てか、なんでこいつ魔王やってるんだろう・・・


魔王就任のシステムに関しては特に大して情報が得られなかったのでそこらへんはよくわからないな。


今度マルバスにでも聞いてみるとしよう。


「黙れ!!あなたは魔王で、魔王は人類共通の敵なのよ!!それだけで十分だわ!」

オリビアは徹底して魔物やら悪魔やらが嫌いだな。

過去に何かあったのだろうか?


そう思ったところで俺に知る由はないし、解決してやることもできないのだが。


オリビアは杖を突き出して魔王エイジスに向かって魔法を放つ準備をしている。


「あぁ!!やばいよタクミ!あの人広範囲魔法を使うつもりだ!!」

それを見たノアが慌てたような声を出す。


そういうのって見ただけでわかるようにできてるんだろうか?

本職でない上に魔法を見慣れていない俺にはわからないな。


もしできるならいつかはわかるようになっておきたいものだ。


「広範囲魔法、、、というとどのくらいの範囲かわかるか?」


「正確にはわからないけど結構広いよ!!少なくともタクミの位置じゃあ巻き添えを食らうかも!!」

なんだって?俺の位置で巻き添えって・・・それじゃあ最悪エリックにも当たるけどいいんだろうか?


広範囲魔法は相対的に威力が低くなることが常だ。

だからこの場面、味方を巻き込んでまで発動する物ではないはずなんだけど?どういうつもりだろう。


「悪魔や魔王に肩入れするあなたも同罪よ!!一緒に消えなさい!!」

オリビアはそう吠えた。


彼女は散々目の敵にしてきた俺ごと魔王を攻撃するためにわざわざ範囲魔法を使おうとしているみたいだ。


「ちなみにノア、魔法ってどんな感じのが来る?」


「多分だけど杖の先から出る炎系だね!!・・・あ!!このままじゃあ後ろの建設中の家にまで届くよ!!」

何!!?それはまずい。このままじゃあここ3日の苦労がすべて水の泡だ!!


魔王もそれを理解しているのだろう。

いつになく焦った様子を見せている。


「オリビア!!止めるんだ!!このままでは森に火をつける結果になってしまうぞ!!」

エリックもエリックで別の心配をしている。


確かに、ここの周りには燃やすことのできるものが多い。

そこで広範囲にわたる炎魔法なんてはなった日には・・・・・


くそっ!!俺は魔法を斬ることはできても魔法を消すことはできない。

これじゃあどうやって防いでもどこかには引火してしまう。


「もう遅いわ!!くらいなさい『炎魔法:フレイムダンス』!!」


「っち、バカな嬢ちゃんだぜ。」

オリビアが魔法名を叫んだ瞬間、エイジスが前に出た。

彼はオリビアの杖の先に自分の体を持ってきた。


成る程!出元を断てば周りに被害がいかないということだな。

あれは俺にはできない止め方だ。俺がやったら大火傷間違いなしだからな。



オリビアの魔法は確かに発動しているのだろう。幾重もの炎が杖の先から出てはその前にあるエイジスの体に吸い込まれて消えていく。


あいつは俺との手合わせの時魔法も無効化すると言っていたが、その言葉は嘘じゃなかったみたいだな。


完全に防ぎきっている。


「嘘よ!!どうして!!?」

流石にその光景には戸惑いを覚えるオリビア、魔法の効果が終わり次第すぐにエイジスから距離を取る。


「ったく、俺と喧嘩がしたいならそう言えばいいのによ。周りにまで手を出すんじゃねえよ。」

作りかけの家を壊されそうになってか、エイジスは少し怒った様子だ。


「ちっ、なら今度はこれならどう!!?」

オリビアが詠唱を始める。

本来なら相手との距離がほとんど空いてない状態で詠唱を開始するのは、自殺行為以外の何物ではないのだが、それがわからないほど頭にきているということだろうか?



それとも仲間がいつものように時間を稼いでくれるとでも?


オリビアのーーというかエリックの?仲間はカバーに入る様子はない。

エリックは依然として隙を見てみんなで逃げようとしているし、フリッシュは周りに気を配っているが詠唱の手助けをすると言った様子はない。


そして神官だが彼女は今にも逃げ出しそうだ。


神官職は金をもらって派遣してもらうってことだったしな。

命と秤に乗せたときにすぐに傾いてしまうのだろう。



結果、オリビアの詠唱は達成されることはなかった。

即座に近づいたエイジスが彼女に向かって全力の拳を振るう。


「ひっ、」

耐えようとはしたみたいだが、悲鳴をあげてしまい詠唱は止まった。

と同時にエイジスの拳も止まった。


「まあなんだ。俺たちは今忙しいから帰ってくれるか?」

急にやる気がなくなったという風にエイジスがそう言った。


「だ、誰が・・・」

そうやって抵抗の意思を示そうとしているオリビアも、先ほどの拳の圧を受けてか腰を抜かして動けそうにない。



「ということだからエリック、お前は仲間を連れて帰ったらどうだ?」


「その前に1つ聞かせてほしい、君は、君たちは何をやっているんだ?」

何をやっている?


「見たらわかるだろう?あいつが住むという家を建ててるんだよ。」


「あ!!タクミ!この人たちにも手伝ってもらうってのはどうかな!!?」

ノアが名案を思いついた風にそう言っているのだが、どうなんだろうか?


頼んで協力してくれるんだろうかね。

いや、一名確実に無理なやつがいるからやめておこう。


「あいつは魔王なのだぞ!!?君はそれをわかっているのか!!?」

わかってるよ。魔王じゃなかったらこんな場所に建物を建てる必要も、俺たち自身が作業をする必要もなかったんだから。


「そうはいうけどエリック、こいつ本当に魔王なのか?」

情報ではこいつは魔王って話だけど、どうにも俺にはそう感じられないんだよな。


「それは・・・どういう?」


「ていうのもさ、さっきのオリビアへの対応やらも魔王っぽくなくないか?エリックが切りつけても何もしなかったし。」

この世界では魔王はそういう生き物なのだろうか?


「そ、それは・・・いや、でも、しかし!我々人類は魔王とは戦わなければならない運命なのだ!!」


「それはリリスの時みたいにしないっていうことには・・・・」


「無論、できるはずもない!!」

そうかぁ。でもちょっと気になることができたな。


「なあ、どうしてエイジスは魔王になったんだ?ていうか魔王ってどうやって決まってるんだ?」

それを知らないことには始まらないだろう。


何か特別な理由があって・・というのもあるかもしれない。

話を聞かないままに問答無用で切り捨てるのはどこか違う気がするのだ。


「魔王のなり方?そんなん簡単だ。俺が魔王だって宣言して、それをみんなが認めてくれたら成立だ。」


「みんなっていうのは?」


「当然、魔族の奴らだな。ちなみにそこら辺にいる知性のない魔物は気にしなくていいぞ。」

はー、魔王ってそんなシステムだったんだな。

それで何人もいるっていう話になる訳だ。


若干腑に落ちないことが解決して突っかかりが取れた気がするな。



「で、魔王になった理由の方は?」


「それは当然、その方がかっこいいからだ!!王って響き、最高にかっこいいだろう?」


「それだけかよ!!!」

はっ、思わず叫んでしまった。


でも想像以上に理由がしょうもなかったものだから仕方がないのだ。

優しき魔王、彼が魔王になったのは壮大な物語がーーーーーー的なことを若干きたいしていたのだがそんなこと一切なかった。


ただその方がかっこいいからという子供みたいな理由でこいつは魔王になったのだ。

まぁ、それで実際に慣れているのだからかっこいいはかっこいいんだけどさ。



「えっと・・・とりあえずそこまで悪いやつじゃなさそうだしこの場は放置して調査書でも書きに帰ったらどうかな?」

どうせ戦っても勝てないだろうし、それなら出直した方がいい。


「そうさせてもらう。だが僕は諦めたわけではないということをここに明言させてもらうからな!!」



「あ、ちなみに後数日は俺たち毎日ここらへんにいると思うから、」


「うむ、心した!では僕が戻ってくるまでその魔王を引き止めておいてくれ!!任せたぞ!!」

エリックはそう言ってオリビアを肩に担いで帰ってしまった。


あの様子だとまた来そうだな。

そう思いながら去り際の彼らの後ろ姿を見ていたところ、


「おーい、お前ら!!俺と勝負がしたいならいつだって受け付けるからいつでも来いよー!!」


エイジスはそんなことを口走っていた。

これで彼がだれかに討伐されたとしても完全に自業自得としか言えないのだが、そんな心配をする必要はないんだろうな。




その後、小細工や難しいことが嫌いな魔王は、小難しい家の設計図とにらめっこしながら


「うーむ、分からん。どうしたらいいか教えてくれ。」


と言って唸っていた。



現実の世界で起こる出来事はいつも唐突です。


それを小説でやってしまうとここまで違和感しかない文章が生まれるんですね、と、この話を書いていて思いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ