117 対魔王?と真剣勝負!
「ワカッタ、チョット書イテミルカラドコカデ時間ヲツブシテイテクレ。」
ゴブリンは意外なことに設計技術まであるみたいだ。
若干ダメもとで来た感じがあったのだけど、頼って正解だったということだろう。
魔王的にはどんな家でも住めたらいいということだったので自由に作らせるみたいだ。
で、今はその待ち時間だな。
街に帰って時間をつぶすのもまぁ悪くはないんだが、どのくらい時間がかかりそうかがよくわからないのでここで待っていたほうがいいだろうと思い、俺はその場に腰を下ろしている。
そんな時、魔王のほうから話しかけてきた。
「なぁ、手合わせしようぜ。」
コンビニに行こうぜ、くらいの軽いノリだ。
ここら辺はよくわからないのだがこの世界ではこれが普通なんだろうか?いや、今まで一度もみなかったことを鑑みると普通ではないとは思う。
「またどうして?」
「暇だろ?お前もこの前俺と戦いたそうな顔をしてたじゃねえか。」
この前―――って言ったら初めて俺がこいつのことを見た時の話だろうな。
あの時はいろいろ思うところがあってそんな目で見てしまっていたのだが、色々な情報が出そろっている今の状況ではもうこいつと戦う気は全くない。
意味がないうえに危険だからだ。
「遠慮しておくよ。どうせやっても勝てなさそうだしな。」
「そういうなよ。ほら、早く準備しろよ。」
問答無用、やると言ったら絶対にやるタイプだこいつ。
俺に拒否権が存在していないのだろう。魔王の中では手合わせをすることが大前提となっていて、もうすでに準備体操を始めている。
「またなんで俺が・・・・」
暇だからという理由で殺されたらたまったものじゃないな。
俺はそうぼやきながらも立ち上がった。
放っておいてもうるさいだけだろう。
それならば彼の望み通り軽く剣を交えて満足してもらおう。
俺は剣を片手に構える。
「あの、タクミお兄ちゃん?大丈夫なの?」
リアーゼは心配みたいだ。
そんな目でこちらを見てくる。
「多分大丈夫だろう。あいつも殺すなんてことを――――――」
するはずがない。と言いかけてやめた。
その保証はないからだ。
相手は一応ながら魔王、人間を殺すことにためらいがあるとは思えない。
「あー、安心してくれ。お前さんが本気を出している限り死ぬなんてことは無いだろうさ。」
俺の言葉が詰まったのを見た魔王が補足説明を加えてくれる。
それと同時に絶対に本気で来いという言葉も付け足して・・・・・
これは本気で来なかったら俺を殺すかもしれないという意思表示だろう。
これでは適当に流すなんてことができなくなった。
一応ながら俺も本気で戦ったほうがいいみたいだ。
俺は右手に持っていた剣に左手を添えて構えなおす。
これで準備は万端だ。いい機会だし今の俺が魔王に対してどのくらい通用するかを確認させてもらうとしよう。
「嬢ちゃん、始まりの合図は任せたぜ。」
「えっ、あ、はい!」
リアーゼは戸惑いながらもその役を請ける。
そして手を高く上げた。
っと、全力で戦うなら始める前にやっておくことがあるな。
俺はステータスウィンドウを呼び出した。
そこには当然というべきか俺のステータスが表示される。
名前 天川 匠
クラス 魔闘士
レベル 20
HP 2345/2345
MP 222/222
力 151
魔力 92
体力 160
物理防御力 169
魔法防御力 108
敏捷 121
スキルポイント 13
状態 正常
うむ、ちゃんと問題なく表示されているな。
ちなみにこのステータスウィンドウだが、指で場所を動かすことはできるのだが基本的に俺についてくるようにできている。
だから歩きながらでも確認はできるのだ。
俺はそれが目の端でとらえることができるが視界をほとんど妨げない、という位置に移動させて開いたままにしておいた。
これによって俺の視界はほとんどゲームのそれだ。
HPやMPが数値によって表示されており、ステータス異常もつけば一瞬でわかる。
要するに自己管理がやりやすいのだ。
このスタイルは一度エリックと戦う時に使おうとしたがリリスの中断によって使うことがなかった戦い方だ。
その後もなんやかんや使ってこなかったけど、これが魔王相手にどれだけ通用するかが楽しみだ。
俺は自分の口の端が少しだけ吊り上がっているのに気が付いた。
そしてそれは対面にいる魔王も気づいたみたいだ。
「なんでぇ、お前も案外やる気じゃねえかよ。」
そう言って魔王はリアーゼに目配せした。
早く開始の合図を出せということだろう。それには俺も同意する。
リアーゼ、早く始めてくれ。
その意図をくみ取ったのだろう。
リアーゼは上げていた手を勢いよく振り下ろし、
「では、始めてください!!」
と大声で宣言した。
その声が聞こえたと同時、魔王は勢いよく俺のほうに向かって突進してきた。
かなりの速度だ。もし仮に油断していたとしたら対応が遅れて怪我のひとつでもしたかもしれない。
そんな速さだ。
俺はその突進に対して逆に俺は近づくように前に出る。
「はっ、いい度胸だな。」
魔王は拳を握り締めそれを俺のほうに突き出してくる。
俺はそれに対して防御姿勢――――――などはとらない。俺もそれに合わせて剣を振る。
≪純闘気≫も≪斬鉄≫も乗せた今、俺が誇る最大の一撃だ。
その火力たるやリリスの全力の一撃をも凌駕する。
俺はその一撃を体を少しだけ横に傾けて放つ。
相手の攻撃をよける必要はない。相手の攻撃を受けて俺が倒れず、俺の一撃で相手を沈めればいいのだ。
俺は魔王の拳に対しては急所に食らわないように、体をそらしただけだった。
相手の拳は一直線だ、それなら簡単に充てる場所を調整することはできる。
そして俺の一撃は正確に魔王の体を穿つ、そして当たる場所はこのままいけばその首筋だ。
この試合は完全に俺の勝利で終わる―――――と、限界ぎりぎりまではそう思っていた。
結果から言うと、俺の剣は確実に魔王の首に到達した。
だが、ダメージを与えたようには見えなかった。
そして逆に魔王の拳は確実に俺の体にダメージを与えてきたのだ。
どういうことだ?
訳が分からない。
物理攻撃の無効化の能力でも持っているのか?とにかく俺の攻撃はダメージを与えたようには見えない。
やせ我慢をしている――――というわけでもないはずだ。
そもそも当たった時点で首が飛んでもおかしくないのだ。
「がはっ、ごほっ、、」
俺は魔王の拳によって少し後方に飛ばされた。
「タクミお兄ちゃん!!大丈夫!?」
心配するリアーゼの声が鼓膜を揺らす。俺は横目で自分のステータスを見た。
名前 天川 匠
クラス 魔闘士
レベル 20
HP 1511/2345
MP 192/222
力 151
魔力 92
体力 160
物理防御力 169
魔法防御力 108
敏捷 121
スキルポイント 13
状態 正常
よかった。見た目よりダメージを食らってはいない。
これも何とか受けてもいいような場所で攻撃を受けたことによるものだろうな。
うまくやればあと2発、耐えられそうだ。
だが安全性を考量するなら後一撃しかくらってはいけないだろう。
「どうした?もう終わりか?ん?」
明らかな挑発だ。これには乗るべきではない。
「あー、大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけだよ。」
攻撃を受けたことに関しては何も問題ではない――――ということを態度で示す。
実際は一撃で結構減らされてしまったから問題なのだが、まぁ魔王の攻撃を食らってこれなら安いほうではなかろうか。
「はっはっは、俺の拳を受けてもなお挑発できるたあ、おもしれえ。」
俺の挑発に乗ってくれるみたいだ。
またも同じように突撃してくる魔王、そこに小細工といったものは一切存在しない。
今度は俺はその突進に対してカウンターを繰り出すような真似はしない。
なにせ原因はよくわからないが俺の攻撃は通用しないらしいのだ。
俺は今度は防御に専念する。
「あぁ!!?なんだぁ、大口叩くと思ったら逃げるだけかよ!!」
早く打ってこい。そう言っているみたいだ。
だが俺はそれには乗らない。聞こえてくるのは雑音だと割り切って相手の分析に走る。
まずは魔王の攻撃、これ自体はただの拳による殴打だ。
別に何か変哲があるものではないということは先ほどくらって確認した。
そして次はステータス、これは結構高めだろう。
しかし見た感じ元のリリスよりは低そうだ。比較対象が悪いような気もするが、言ってしまえば今までで最強の敵ではない。
俺が何とかではあるが1人で攻撃をしのぐことができているのもそれを証明してくれる。
元リリスは今のステータスでも無理だろうからな。
最低でも俺が3人、ないしは4人は欲しい。
なら変わっているところがあるとするならばスキル面の話だろう。
何か物理攻撃を無力化するスキルでも持っている可能性だが・・・・・・そんなもの存在するのだろうか?
もしあったとしても制限時間や何らかしらの制約があるはずだ。
俺は攻撃の合間を縫って軽く、剣を相手の体に届かせてみる。
「はっ、なんだぁ?その蚊が刺したような攻撃は?」
やはりというべきか効果なしだ。
一応≪斬鉄≫は発動していたのだが、効果は見られない。
俺がスキルを見てきた感じ、例外はあるが効果が大きいものほど制限時間は短い傾向にある。
戦闘開始からずっとこの調子なことを見るに通常のスキルではありえない。
ということは・・・・
「なるほど、固有スキルの効果だったか。」
固有スキルというのはその名の通りその者だけ、もしくは極端に使えるものが少ないスキルのことを指す。
これが昨日、図書館で得た情報だ。
多分、リリスのスライム創造とかがそれにあたるんだと思う。
考えてみれば、踊り子がスライムを生み出せるわけがないもんな。
本によると固有スキルは使用者が少ない代わりに効果が大きいらしい。
もし、俺の攻撃が物理無効化の固有スキルによって阻まれているなら、それはそれで納得がいく。
「はっ、意外に早く気付いたな。これが俺のスキル、『漢なら拳で語れ』の効果だ!!武器の攻撃や魔法の攻撃、すべては俺に届かねえぜ!!」
成程、この男のスキルは正々堂々と言った言葉が似つかわしいな。
こいつにダメージを与えたければ小細工を捨てて素手で殴りにいけということだろいう。
「まさに漢のスキルだな。ちなみにお前は武器を持たないのか?」
別に相手の攻撃を無力化するだけだろう?
「ふん、隠し事はしねえっつったからな。教えてやるよ。俺のスキルは俺が素手の時にしか発動しねえ。相手にだけ押し付けるスキルじゃねえってことさ。」
懇切丁寧に説明してくれる魔王。
かなり強力なスキルだと思ったが一応、制約はちゃんとあるみたいだ。
自分の素手で、相手も素手でってことか。
――――――――――面白い。
俺もそれに乗ることにする。
俺は魔王の攻撃を剣で受け止めると同時に、その剣を持っている力を抜いた。
剣は魔王の力によって遠く後方に飛ばされる。
これで自然な形で剣を手放すことができた。
まあ一応、前に向かって投げるという手もあったがそれは小細工なしの勝負を望む相手には失礼だろう。
剣を飛ばさせた直後、俺は両手の拳を握り締めた。
狙うは初めと同じカウンターだ。
俺の得意とするスキルである≪斬鉄≫も≪純闘気≫も、装備の効果に影響を及ぼすスキル―――今は助けてくれない。
そして、俺の残りHPは――――――1294/2345
剣で攻撃をさばいている際に、受け止めた衝撃から少しダメージをもらってしまったが十分一撃耐えれる量残っている。
「おめえも覚悟を決めたみてえだな!!さあ、いくぞ!!!」
攻撃が来る――――次の攻撃は、はじめと同じ軌道。
誘っているのか?いや、でも行くしかない!!
俺はその拳を額で受ける。
人間の額は拳より硬い、下手したら殴った拳が砕けることがあるほどだ。
そして俺の拳は確実に魔王の頬に当たっていた。
先ほど、剣で切りつけた時とは違い、確実にダメージが入っている。
そんな感覚が拳を通して伝わってくる。
それと同時に、魔王の口角が上がってくるのも
「やっぱり俺の目は正しかったよ。お前さん、面白い奴だぜ。」
魔王は笑顔でそう言った。
まだまだ元気そうだ。だが、俺はといえば・・・
HP 322/2345
ちょっと限界が近いな。
見方によってはまだ全体の10%以上残っているとか、思ってしまいがちだがこれが0になったら人は死ぬのだ。
残り約15%、生きているか死んでいるかで言えば8割5分死んでいる。
「あんたも、魔王とは思えないくらい真っすぐだな。ふふ、、、」
俺は仰向けになるようにその場に倒れた。
これ以上は戦えない。
俺の負けだ。でも、なんだか晴れやかな気分だな。
全力をぶつけたことによって心の中で仕えていたものが気にならなくなった感じがする。
俺はステータスウィンドウを閉じる。
すると目の前に広がるのは大きな青空だ。
「タクミお兄ちゃん!大丈夫なの?これ!お薬だよ!!」
リアーゼが慌てて駆け寄ってくる。
その手には言葉通り傷薬、HPを回復させてくれるアイテムが乗っている。
「ありがとなリアーゼ、助かったよ。」
俺は休憩がてらその傷薬を飲みながら、流れていく雲の風景を見て楽しんでいた。
アイテム補足、傷薬
HP回復速度を大幅に早めるアイテム。
飲んでもよいし振りかけてもよい。 ちなみに少し苦い。