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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第4章   魔王の願いと蠱毒の少女
115/293

115 不思議と急と

何というか、強烈な内容だったな。

『渡り人への救済』というタイトルの本―――というかメッセージを読み終えたところで俺は一息ついた。


窓から外を眺めてみるともう既に外が暗くなってきている。

店も閉めて宿に戻っているころであるため、俺も早く戻らなければいけない。


この世界から脱出するのはもう不可能に近い。

そんなことを開発者本人から告げられて確かにショックな事もあったが、落ち込むほどではないなと自分に言い聞かせる。


考えてみれば、元の世界に戻ることが当然のように目標になっていたが、あちらに戻ったところでという感じなのだ。

今は親しい友人がいるわけでもないし・・・・・一つ心残りがあるとするならば母親を一人あの世界に残してきたことであろうか。


生まれてから今まで何もためになることをやってあげられなかったことが唯一の心残りだ。


だが、言っていしまえばそのくらいなのだ。

元の世界に戻ることができないことをはっきりと告げられて冷静になった頭で考えた結果気づいたこともある。


俺は別に戻りたいわけではないということだ。


案外、開発者の意図したとおり俺はこの世界を楽しむことができているのではないか?と、考えたのだ。

こちらには一緒に旅して、笑いあえる仲間もいるのだ。

文明的な意味で劣ることはあっても、何ら不便と思うようなことはほとんどない。


「さて、そろそろ出るとするかな。」

当面探すべき情報は大体手に入れたことだろう。

日も傾いているし早く帰ったほうがよさそうだ。


俺はその場から立ち上がり読み終わった本を元の棚に戻しに行く。


そこには先ほどの司書がいた。


「どうでしたか?何かわかりましたか?」

俺が真剣にこの本を読んでいたのを見ていたのだろう。そして何かを読み取ることができたと感じたみたいだ。

彼はそう聞いてくる。


「いいえ。残念ながら何もわかりませんでした。でも、少し面白いですね。」

わからないことだらけだ。


「そうですか。面白い――確かにそう感じるかもしれません。書いてあることの意味は私には理解できませんでしたが、何か大切なことが書かれているようで、・・・不思議な本ですよね。」

この世界の住人には、こっちの世界元の世界という話は何のことかはさっぱりわからないのだろう。


だが、それでも書いてあることの雰囲気だけを読み取ることはできたみたいだ。

そんなことを言ってまじまじと本を見ている。


「では、今日はありがとうございました。」

俺は本を元あった棚に戻してその場を立ち去った。

彼やこの図書館にとって、俺はただの一人の客であり、毎日何人とみる顔の一人にすぎない。


だが俺にとって今日、この場で見たものは忘れられないものになりそうだな。


そんなことを思いながら、もう何にも気を取られることなく俺は外に出ていった。











外は窓から見えていたから知っていたが結構暗くなっている。

早く帰らないとな。


しかし今、冒険帰りの冒険者がいるのかこの辺りは通常より人通りが多くなっている。

こうなったら人がいる大通りよりは裏道を通ったほうが早く宿につきそうだ。


そう思った俺は、迷いなく細い道を選ぶ。


別にこういう道に詳しいというわけではないのだが、こういうのは大体方向さえ合っていればどう進んでも目的地に着くものだ。

最悪行き止まりになってしまってもステータスにものを言わせて屋根の上を通るとかもできなくはない。


俺は薄暗い道をまっすぐ走り抜ける。


そこで―――――――


「やめてください!!放して!!」

という声が俺に耳に届いた。

それもかなり近くでだ。そして俺はその声に聞き覚えがあることにも気が付いた。


これはリアーゼの声だ!!

俺はすぐさま声のしたほうに向かって走る。



「やめて!!引っ張らないで!!」


「いいからこっちにこい!!」

俺が駆け付けた時、リアーゼは知らない男に腕を引っ張られている最中だった。

彼女は必死に抵抗しているのだが、力づくで引っ張られて今にもどこかに連れていかれそうになっていた。


「おい!!何やってんだ!!」

1も2もなく俺はそう言ってリアーゼを引きずる男にそう叫んだ。


「タクミお兄ちゃん!!」

俺の存在に気が付いたリアーゼは涙目になりながら俺のほうを見ている。


「あぁ?誰だよ手前。こいつの知り合いか?」


「誰だよ、はこっちの台詞だ!!はやくリアーゼを放せよ。」

勝手に出てきて人のパーティメンバーをどうしようというのか。


「リアーゼ・・?ああ、この奴隷のことか。いいなぁお前、新しいご主人様に新しい名前までもらってよぉ。」

リアーゼのことを元奴隷だと知っていて、名前も俺が付けたものだと分かっている。

ということはこの男はリアーゼが俺に出会う前に出会った人間の一人なのだろう。


「待ってろよ。すぐに助けてやるからな。」

そう言って俺はいつも腰に差している剣を引き抜こうとした――――が、今日は図書館に行っていたことがあって武器を持っていなかった。

相手は俺が今から飛びかかろうとしていたことを察知していたのだろう。


その手には小型のナイフが握られており、それを見せつけるように振りかざしている。


武器持ちの相手に徒手空拳で挑む、それ自体は何も問題ではないのだが、問題はリアーゼの位置が悪いな。

あの場所だと速攻で人質にされてしまう。


というか今、それを見せつけるためにナイフを見えるようにかざしているのか?


「おう、いいのか?お前がそれ以上近づくとこの奴隷に傷がつくぜ。ま、構わねえというならそれでもいいけどよ。」

にやけた顔でそう言っている。

男はリアーゼを人質にとった。しかしそれで油断するということはしない。


彼はリアーゼのことを奴隷だとしか思っておらず、俺がそれでひるむとも思っていないからだ。

いざとなったらすぐに切り捨てる、そういう行動を俺が取ると思っているのだろう。


だからどちらかで言うとリアーゼのことは盾程度としか思っていないみたいだ。


「チッ、」

俺は舌打ちをしてどうしようかと考える。

今日は特にどこかへ行くという予定はないことをリアーゼにはあらかじめ教えていた。


「タクミお兄ちゃん!!私に気にせずやっちゃって!!」


その為か彼女はいつもの鞄を身に着けていない。

あれがあれば自分で何とかできるかもしれないが、今のところリアーゼは少し身体能力の高い少女でしかない。

それに、いくら身体能力が高くても力でさえ勝っていれば捕まえた後は簡単に抑え込める―――というのはリリスが昨日証明してくれた。


その為自力での脱出は期待しないほうがいい。


結局のところ、俺の判断にゆだねられているのだ。


どうするか?そんな言葉ばかりが俺の頭の中を駆け巡り、肝心のどうすればいいかということは浮かんでこない。

そうやって俺が悩んでいた時だった。


「ほら?どうした?そんなにこの奴隷が大切か?」

俺が動かないのを見て男は挑発的に前に出た。その瞬間、俺の後ろから何者かがその男を殴り飛ばした。


俺はそれによってできた隙をついて即座にリアーゼを救出する。


「大丈夫か?」


「うん!ありがと!!」

彼女が無事なことを確認して俺は後ろを振り向いた。

そこにはひとりの男が経っていた。

男は不覚フードをかぶっており、この路地裏の暗がりも合わさってか顔がよく見えない。

だがそれでも男だと判断できたのは、体つきからだった。


服の上からでもわかる筋肉は――――――――――あれ?

何か既視感が・・・・


ともあれまずはお礼を言わなければいけない。

「どうも助けてくださってありがとうございました。おかげで彼女も無事みたいで。」


「何、礼はいらねえよ。俺は当然のことをしたまでだ。」

男は陽気な声でそう言った。

そこから感じられるのは目の前の人物がいい人であるということだ。だがしかし、男が続けた次の言葉で俺はそいつがどんな存在なのかを思い出すことになる。


「そういえばあんた、この前俺のほうを見てひそひそ何か話してたやつだよな?何か俺に用事でもあったのか?」

この前―――フードの男、筋肉隆々・・・・あ!!

思い出した。こいつはマルバスが魔王だといった男だ。


「あ、いや。特には。」

予想外のことに少し言いよどんでしまう俺、そんな俺を見た魔王は―――――


「はっはっは、そんなに怯えるなって。別に怒ってるわけじゃねえよ。」

と、またも陽気に返してくれた。

どうやら怒っているわけではないようだ。


だが、これ以上ここにいるのは危険かもしれない。


「では、自分達はこの辺りで失礼させていただきます。」

目線は低く、俺はその場所から退散しようとした。


「ちょっと待てよ。」

しかし呼び止められてしまった。

何だろうか?俺がじろじろ見ていたことに対して怒っていないというのなら、他に呼び止められるようなことは無いと思うんだけど?


「どうかしましたか?」


「あー、あのな、恩を売るようで悪いんだけどさ、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだよ。」

魔王は少しだけ申し訳なさそうな声で、そんな言葉を口にした。


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