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茶番を入れると話が進まない上に面白くもない、かといって話を進めることだけをしてしまうと厚みがなくなる上にみづらくなるしなぁ・・・・
話を作るって難しいですね。
「なぁ、ノア、リリス、ちょっと俺あの建物が気になるんだけど。」
3人で街中を特に目的もなく歩き回っているとき、ひとつの建物が俺の目についた。
外観や雰囲気から何の建物化は大体予想はついているが、一応なにかは聞いておいたほうがいいだろう。
「え~っとあれは~、多分図書館かな?どうしたのタクミ、本でも読みたいの?そんなキャラだったっけ?」
ノアやリリスは俺が本を読むタイプではない、と踏んでいるんだろう。
確かにこの世界に来てから俺は一度も本を手に取ったということは無いし、実際に積極的に本を読むタイプでもないしな。
「とにかく気になるんだけど、ちょっと見てきてもいいか?」
図書館といえば情報の宝庫だ。
この世界に来て大体2か月くらい過ごしたような感じがするが、それでも未だにこの世界と俺とで何か常識に齟齬が生じている。
これも世界のことをあまりよく知っていないからなのだ。
それならば、この世界についての情報を手に入れるために俺が図書館に行くことは必須事項になるのだ。
「そうだねー。たまには本もいいと思うけど・・・・却下だね!!」
「それはどうして?」
「タクミ、時間を考えなさい。もう暗くなってきているからどれだけ時間を消費するかわからない図書館は危険よ。」
もうそんな時間か。確かに、本を一冊だけ読んで帰るにしてもそれだけでかなりの時間がとられそうだ。
貸出システムなんかがあるとも思えないし、今日はおとなしく引いたほうがよさそうだな。
「それもそうだな。ここには明日俺一人で来るとするよ。」
考えてみれば図書館ってあんまりぞろぞろと人数引き連れてくる場所でもなさそうだしな。
今日はひとまず宿に戻ることにした。
宿に戻り、そしてそのまま俺たちは自分の部屋に戻る。
部屋にはマルバスが人型でベッドの上に横たわっていた。
やっぱり人間の生活圏であの姿は不便だったんだろうな。
思えば、あの姿のままだと鍵を開けることすら難しそうだし、扉を開けるということも一苦労しそうだ。
多分、その段階で人型になったのだろう。
彼女はどう見てもライオン、という姿から今度はどう見ても人間、という見た目になっている。
性別は女性で、元が獣の姿というのにその要素は人型になった彼女には一切見受けられなかった。ケモ耳がついているということもない。
っていうか、リリスがこれを見ているのだが大丈夫だろうか?
「ぁあ・・・かわいいわ。」
危ない香りをさせたリリスが動き出した。
もう手遅れみたいだ。彼女は一瞬で彼女が寝ているベッドのそばに近づいて・・・・・そのまま一気にマルバスを抱きしめた。
「ふぐっ、」
「ねぇタクミ!!可愛いでしょ!!?」
リリスが腕の中にマルバスを収めながらそれを俺のほうに見せつけるように近づいてくる。
急に体を締め付ける感覚からか、マルバスも起きたみたいだ。
苦しそうに暴れている。
「ね!かわいいでしょ!!?」
早く答えをくれ、そう言いたげなリリスはもう一度同じ質問を口にしている。
「あ、うん可愛いんじゃないか?」
実際、人型になったマルバスはリリスの言う通り可愛い。
というのもライオンの姿ではそこそこ大型だったのだが、人型ではそんなことは無い。
むしろ小さいくらいだ。
リアーゼよりは背が高いかな?
それに顔も整っており、だれがどう見ても美少女と思うであろう見た目をしていた。
ある種完璧だ。
「あの、そんなことを言っていないで助けてくれると助かる。」
リリスの腕の中で揺らされながらマルバスは悲しそうな表情でこっちのほうを見ている。
あの、、、そんな目で見られても多分助けるのは無理なんだけど?
「ねぇタクミ、リアーゼちゃん知らない?」
そこで後ろからノアの声が聞こえる。
どうやらリアーゼはまだ帰ってきていないらしい。そういえばシュラウドも戻ってきていないな。
店のほうはもう閉めている時間だし、そろそろここにつくくらいかな?
「あ、ノアはあれをどうにかできそうか?」
一応、暴走気味のリリスのことも聞いてみる。
「えっと~、無理っぽい?あの女の子には悪いんだけど諦めてもらうしかないよ。」
やっぱり無理か。
パット見強引に行けば何とかなりそうな構図ではあるが何か言い知れぬ雰囲気があるのだ。
あれ以上近づいたら待ち受けるのは死である――――そんな気がする。
「ということでマルバス、悪いけど収まるまでリリスの玩具にされてくれ。」
最悪、ライオンに戻って無理矢理振りほどけばいいのでは?
そんな意味を込めて俺はそう言った。そしてこちらに飛び火しないように、俺たちはノアの部屋に避難することにした。
そしてそこから大体三十分後、シュラウドは戻ってきた。
彼は一人だった。シュラウドは一度俺たちが泊っている部屋の中を確認した後、ノアの部屋に入ってきた。
やはり彼の目からもあれは危険だと映ったみたいだ。
「お疲れ様です。タクミ様、ノアさん、これからお食事ですか?」
時間的にはいつもこのくらいに食事をとっている。
だからこその質問なのだろう。そろそろ行くべきだな。
そう思ったのだが、あることに気が付く。
「なぁシュラウド、リアーゼは一緒じゃないのか?」
てっきりシュラウドの店の手伝いに行ってたのかと思ったんだけど、違うのだろうか?
「リアーゼさんですか?自分は今日は見ていませんよ。」
見ていない・・・ってことはあいつはあいつで何かをやっているということか。
アイテム補充―――にそんなに時間を使うわけはないし、あいつにも何か趣味みたいなものがあるのか?
そんなことを考えていると、この部屋の扉が開かれる。
「すみませんっ!!遅くなりました!!」
そこで話の中の人物が現れた。
何をやっていたかは知らないが、とりあえずは無事みたいだ。
「戻ってきたみたいだね!!じゃあご飯を食べに行こうよ!!」
その為には隣のやつらをまずどうにかしないといけないよな。
それを誰が行くかだけど.....
「ということでタクミ!!リリスたちを呼んできて!!」
やっぱり俺がいかないといけないよな。
俺は一度部屋を出て、すぐさま隣の部屋に入る。
「まーちゃん、どうしてむくれてるのー?笑って、笑ってー。ほらっ♪」
そこでは部屋を出る前と全く変わらない光景、変わっているところといえば戦場がベッドの上になっているくらいだ。
危ない匂いがプンプンするが、俺は今からあれに飛び込んでいかないといけないのか?
「おぉ!!戻ってきてくれた!!はやくリリーを何とかして!!」
マルバスが目尻に涙をためてそう叫ぶ。
なんか、すんごいかわいそうだ。
それにしても、リリスは弱体化しているはずだから無理矢理何とかならないものなのか?
「何故だか知らないが力だけは変わっていないのだ!我をいじめる為だとしか考えられん!!」
そうなんだ。確かに、一度捕まえてしまえば敏捷やら魔力やら、それらのステータスは何の意味もないし、力で優っているだけで今の状況なら問題ないのか。
リリスが不意打ちを成功させた時点で勝負は決していたみたいだな。
「リリス、そろそろご飯だぞ。」
とりあえず、マルバスの可愛さと食事を天秤にかけてみる。
「ごはん・・・・・?」
なんかこの反応、リリスの知能は低下しているんじゃないかとまで感じる。
だが、これはいけるかもしれない。
リリスはその時の感情で動く、この態度も、表情も、すべてはその時の感情を表しているのだ。
そんなリリスがご飯という言葉に反応した。
これならマルバスから気をそらすことも可能ということさえある。
「頼む!我のことを一旦忘れて!」
俺の狙いはわかっているのだろう。彼女もその可能性に掛けるように祈っている。
「ごはん・・・・分かったわ。行きましょう。」
よし!聞いてくれた。
これで俺も食事に行くことができる。
リリスはマルバスを捕まえたまま立ち上がった。あ、それは持ったまま行くのね。
「あの?リリー?そろそろおろしてくれると助かるけど。」
完全に解放される、その流れだったため若干予想外の事実に驚いている感じがあるな。
まぁ、俺としては一緒に食べに来てくれるならどっちでもいいんだけど。
「おーい、みんなー夕飯を食べに行くぞー。」
「あ!!タクミ!生きていたんだね!!」
おい、ノアお前俺が返ってこないとでも思ってたのかよ。
確かに危ない雰囲気はしてたけど多分死ぬなんてことは無かったと思うぞ?
・・・なかったよな?