112. 消えない意識と消えない過去
今回はリアーゼ視点、少し暗い視界での話。
私、リアーゼは奴隷である。
その事実は今も変わっていない。ただ変わったことといえば私自身への扱いくらいだ。
今、私を受け入れてくれる、優しくしてくれる人がいるということが前回までとの違いだろう。
だが、あまり勘違いをしてはいけない。
私は奴隷なのだ。良くされているからと言って調子に乗ることは許されないのだ。
タクミお兄ちゃん、ノアお姉ちゃん、リリスさんは3人で街を見るために出ていった。
それに私はついていかない。
それは負い目からだろうか?
・・・多分そうなのだろう。
今日、食材を取ってきてくれとの依頼が入った。
タクミお兄ちゃんはそれを受け、自分もそれをサポートするべく同行した。
依頼は採取系、荷物持ちとして同行させてもらっている自分が一番輝く内容だと、その時は思った。
だが、違った。
自分が一番、役に立っていなかった。
自分が一番、何もできなかったのだ。
自分が必要だろう?と言ってついて言っておきながらだ。
その時、私は改めて自分が奴隷であることを強く意識することとなった。
そんなことはないとは信じたいが、この人たちも私が役に立たないとわかったならそこらへんに捨てるのではないか?
考えたくはなかった。
その話は誰も切り出すことはしなかったが、本当は誰かは機会をうかがっているのではないか?
ネガティブな言葉ばかりが頭の中をよぎっていた。
気づけば、自分は誘いを断っていた。
役立たずな私なんかが、ついて行っても仕方がない、そう思ってしまったからだ。
今日はおとなしく、明日に向けて準備をすることにしよう。
明日は店だろうか?それとも外だろうか?
どっちになってもいいように準備を整えておかなければいけないな。
リアーゼは1人、街中を歩く。
目的はアイテム補充、そこまで減っているわけではないが、いつでも万全の状態を守っておかなければならない。
それが自分の勤めなのだ。
リアーゼはいつもこの街でアイテム補充をする際に利用する店を訪れた。
「いらっしゃい!!今日もきてくれたんだね。」
店主が私の顔を見るなり、そんな声をかけてくる。
すっかり常連となってしまった私はバッチリ顔も覚えられているのだ。
「回復薬4つと解毒薬を2つ、お願いできますか?」
私は今日消費した分と同じだけのアイテムを持ってきて欲しいと頼む。
「はいよ。すぐに持ってくるから待っててな。」
こういう時、このパーティで良かったと本当に考えさせられる。
通常のパーティであれば依頼をこなした際、その報酬はギルドから直接渡されたものだけになる。
これはギルドの魔物討伐を証明する石版がその人がとどめを刺したものしか表示しないせいであった。
だが、今のパーティはそれを一度全て回収した後に綺麗に等分して再配布するのだ。
これは私も頭数に入っているようで、毎回少なくないだけのお金が私の懐に入る。
彼はこれを自分の金として使っていいと行ってくれているのだ。
だからこうやって勝手にアイテムの補充をすることができる。
これが通常のパーティであった場合なら、一度リーダーか誰かにお金を頼んで受け取らなければいけない。
大概はこれで気を悪くする。
それはそうだ。必要なこととはいえ奴隷が自分に金をせがみにくるのだから。
この過程を経ずにアイテムの補充をできる今の環境は、ある意味天国とも言えるだろう。
「待たせたね。じゃあ回復薬一本1000G、解毒薬一本850Gで合計5700Gだよ。」
「これで。」
私はそれだけ言って代金分のお金を店主の手の上に乗せた・・・・と同時にその手に私の手を掴まれてしまう。
「どうかしたんですか?」
普段はこんな行動をとる人ではない。
それだから私は困惑した。
「いや、今日、何かあったのかい?と思ってね。」
「何もありませんよ。いつも通りです。」
私はそう言って握られた手を強引に引き抜きアイテムを回収してその場を即座に後にした。
自分のことを、言い当てられたような気がしてその場に居づらくなったのだ。
「さて、アイテムの補充も終わったし、これからどうしよっかな。」
普通に考えたら宿に戻るべきなのだろうが、店の方に顔を出すという選択肢もある。
まだ時間はあるのだから何か別のことをして彼らが帰ってくるまでの時間を過ごすのもいいかもしれない。
それに、考えてみたら宿の部屋の鍵はノアお姉ちゃんが持っているんだった。
これでは自分の部屋に戻ることはできない。
戻るとしたらタクミお兄ちゃんの部屋になるのだが、勝手に入っていいものかという気持ちがある。
それに、マルバスさんがゆっくりするといっていたし邪魔してしまってはいけない。
となれば店の手伝いの方だな。
私がアイテムを補充した場所は店とは街の中心を挟んだ真ん中だ。
少し時間はかかるだろうが、何もしないよりはマシだろう。
私はそう思って足を動かし始める。
店まで後半分といったところだろうか?
その声は突然、私に向かって投げかけられた。
「お、リヴィアスちゃんじゃねえか。どうしたんだこんなところで?」
初めはそれを自分に向かっていっているなんて知らなかった。
だから私はその声を無視するように目的地への足を緩めない。
そもそもその声を意識していないのだ。
だが、私が無視してその場を立ち去るのを声の主が許さない。
そのものは路地裏から出てきて私の前に立ちふさがった。
「リヴィアスちゃん、どうして無視するのかな?」
リヴィアス・・・・・・・?
「誰だか知りませんが人違いでは?私の名前はフェプリアーゼと言います。」
そんな名前に覚えはない。私はそういって横をすり抜けようとするが、やはり止められてしまう。
「いやー、俺もびっくりしたよ。まさか俺が売った奴隷が、次久しぶりに見てみたらそこそこいい服着て歩いてるんだもんな。」
ーーーーーその言葉で私はその男の事を思い出した。
次回はちゃんと?主人公視点です。