110 食材とそれの仕様
その場所の魔物は少しだけ特殊だった。
というのも、基本的には魔物というのは倒せば灰となってきえていくのだが、ここでの魔物は必ずしもそうというわけではなかったのだ。
数匹倒せばその内の1匹がその体を保ったまま絶命する。
それがこの場所の魔物の変わったところだった。
といっても、実際この現象は何も不思議なことが怒っているわけではないことはすぐにわかった。
これもゲームシステムに則った現象だからだ。
先にネタバラシをさせていただくなら、この地帯の魔物は時として自身の死骸をドロップアイテムとしてその場に残していたのだ。
まあ確かに、気になっていたことでもあった。
ドロップアイテムとして食材がドロップするといっても少量じゃああの量を賄えるはずがない。
一度に大量にドロップするとか、そういうことが起こらなければならないのだ。
それが形になっているのがこれなのだろう。
「そういえば、聞きたいことがあるんだけどさ。」
俺は次に疑問に思ったことがあったのでこの面子で1番物知りであろうマルバスに話しかけた。
「ん?何かなダブルシールド君。」
今日の俺の失態を直に突く返事が返ってくる。こいつはあの戦闘には基本的に参加していなかったのだが、俺の行為はバッチリと見えていたらしい。
まぁ、あれだけ大声で報告すれば当然ではあるんだけどな。
「それはそろそろ忘れてくれると助かるな。じゃなくて、魔物って一体どうやって食事をとっているんだ?」
大体の魔物が倒せば灰になる。そんな世界で何を食べて生きていくのだろうか?
魔物は揃いも揃って草食とか、そういうわけではないだろう。
なにせはじめの街でオークがゴブリンを食べるという情報をすでに入手しているのだ。
「基本的に生きたまま食べるよ。それか人間や家畜を狙うとかだね。」
うえぇ、予想はできていたけどやっぱり生きたまま行くんだな。
「あれ?でもそれって食べてる最中で絶命した場合は?口とか腹のなかに大量の灰がはいらないか?」
シャレではないがそれも気になることだ。
肉の状態で食っていても腹の中では灰になるというのでは食事をする意味があるかどうかも怪しい。
「あれ?知らないのかい?捕食されている途中の魔物は死んでも当分はその場に残るんだよ。あと、その時切り離した部位とかは永久に残るね。」
はー、そういう法則があるんだな。
なんというか、めんどくさい仕様だな。多分魔物が飢えて死なないように必要なことなんだろうけど。
人間側からしたら全く嬉しくない仕様だった。
「じゃああれか?噛み付き攻撃でとどめを刺した後に速攻でで解体してしまえば肉を入手することも可能っていうわけか?」
「そういうことだね。挑戦してみる?」
マルバスは大きなライオンの手を遠くを示すように振ってみる。
遠くからでよくわからないがその先にはオーガのような何かが歩いているのが見える。
あれで試してみるか?ということだろうが、もちろん却下だ。
「なんだ。つまんないの。」
これは面白い面白くない以前に、人間としてやっちゃダメな行動だと思うんだけど?
そう思いはしたが俺は口に出さない。
目の前のライオンは見ての通り人間ではないからだ。
そんな奴に人間の倫理観を説いても仕方ない。
「では時にダブルシールド君、こちらからの質問にも答えてくれるだろうか?」
「ん?俺に答えられることなら構わないけど?」
言わせてばっかりというのもあんまりいいとは思えないしな。
まあ、その前にその呼び方をどうにかしてほしんだけど。
「この食材たちはどうやって運ぶつもり?」
あー、それ?やっぱり気になるよね。
いや、最初は良かったんだ。そこそこの量の魔物が出てきて、倒してたらたまに死骸をドロップして・・・・
問題はその後だった。
その死骸につられてきたのか、はたまたいつものやつなのかはしらないが別の魔物が集まってきたのだ。
その魔物たちも一応難なく撃退することはできたんだけど、魔物を倒せば当然アイテムがドロップするわけで・・・・・
今、俺の目の前には小山ができていた。
これ全部、魔物のドロップ品だ、それも死体の・・・
「とりあえずさ、どれが食べれてどれが食べれないんだこれ、それの仕分けからだな。」
「ここにある奴ならポイズンサーペント以外なら全部たべれそうだよ!!」
・・・・何をやっているのかと思ったら、もう既に仕分けは終わっているみたいだ。
よく見たら俺から死角になる部分に蛇の死体が2つだけ置いてある。
あれ以外は食べても問題ない奴なのだろう。
でもそれだと量がな、持ち帰ることはできるだろうか?
「こうなることはある程度予想できたから台車でも持ってくるべきだったな。」
それでも多すぎる量ではあるが少しはマシになっただろう。
「タクミ、ないものを言っても仕方ないわよ。とりあえず、持って帰れるだけもってかえりましょう。」
リリスはやる気満々だ。しかしいくらリリスといえどこれを全て持ち運ぶことはできなさそうだ。
だが、食料を捨てるということは個人的に絶対したくない。
できればこれらを無駄にすることなく終わりたいものだが・・・・
そうなると、、、、
「ここで一部食べていくか?」
この場で消費するのが現実的か?
「お!!いいね!そろそろボクもお腹が空いてきたと思っていたところだし!」
丁度昼時だしな。
「我も賛成、しかし調理はできないから誰か任せた。」
「私もいいわ。それで?どれを食べる?」
「あ、なら数がいっぱいあるこの鳥さんとかどう?」
みんな乗り気のようだ。
リアーぜの言葉に従うなら今日の昼食は鶏肉の料理を俺が作ることになるんだが、そもそもの話ここには魔物討伐のつもりできたのだから調理器具なんて揃っているはずもない。
あるとするならばリアーゼが常備しているサバ
イバルナイフとか、小さな鍋くらいだ。
これでできることとなれば限られてくる。
「じゃあ俺はいまからちょっとこれを捌いて火にかけてるからその間こいつらが腐らないように冷凍でもしていてくれ。」
ここでゆっくりしていて肉が腐りましたというオチだけは避けなければいけない。
幸いなことに、最近ノアが呼び出せるようになったウンディーネは少しだけだが氷魔法を使うこともできるらしいので、そこらへんは大丈夫だろう。
「わかった!それはボクがやっておくよ。」
ノアも引き受けてくれる。
して、今から作る料理だが料理というよりかはただ焼くだけだ。
仕方ないだろう。だってそれ以上のものを作れる設備がないんだから。
というか、鳥を捌くだけでも一苦労なのだ。
それに、この鳥は魔物というだけがあって俺が見慣れたものより一回り大きい。
流石に人間に迫るほどの大きさはないが、血抜きするだけでも結構な労力なのだ。
・・・・・今思ったんだけど、鶏肉を1つ消費しただけでは当面の問題の解決にならないのでは?
そんな疑問が調理中によぎったりしたが、これは考えないようにしよう。
人間、一度にいろいろなことを考えるのは良くないのだ。今は調理のことだけに専念・・・・
というか、日本にいた頃と同じようにやってるけど大丈夫だよな?
俺は中学生時代、何故か結構動物を捌く機会があったためこういうことは手慣れているはずなんだが、世界が違うということでなれた作業にも不安が残る。
・・・・・まずいとか言われるかもな。言わないでほしいな。
一抹の不安を覚えながらの調理だったが、一応、鶏肉を串刺しにして火に通すことくらいは終了した。
味付けはそれ以外もっていないということで塩だ。
まぁ、俺は焼き鳥は塩派の人間だからどっちにしてもこれになっただろうけど。
それにしても野菜なんてものはないから食卓の色が一色だ。
串に刺さっている鶏肉も鶏肉TO鶏肉という有様だし。
「おーい、多分そろそろ大丈夫だぞ〜。」
いい具合に焼きあがったあたりで、くつろいでいるメンバーに声をかける。
「お!!やっとできたんだね!!途中からいい匂いがしてたからもう我慢できないよ!!」
ノアが真っ先にやってきて一番最初にそれを手に取り口まで運ぶ。
・・・・・・・・
「ノア、味は?」
「ん?むぐむぐ・・・鶏肉だね!!美味しいよ!!」
よかった。
どうしてだか自分の作った料理が受け入れられるかどうかって結構気にするんだよな。
お世辞かどうかはわからないけど基本的にみんな美味いと言ってくれるから助かっているんだけど、まずいとか言われたら落ち込む自身くらいはある。
俺も1ついただくことにする。
・・・・・うん、ノアのいうとおり鶏肉だ。
塩加減も可もなく不可もなくと言った感じだ。
強いて言うならやっぱ鶏肉の間に挟むネギくらいは欲しかったかな?
やっぱり美味いと言ってもそれだけじゃ飽きるし。
「うん、美味しいわね。こう言うのも結構好きよ。」
「私も〜、お兄ちゃんは料理が上手だね。」
リリス、リアーゼの反応も概ね大丈夫そうだ。
あとはマルバスの反応を見るだけだが・・・・
「んぐんぐ、、うん?我の感想?まぁ、んぐ、いいと思うよ。」
このライオンはその体に似合わないように繊細な食べ方をしている。
串を両の手で挟んで、それを器用に口に運んでいる。
「なぁ、それ、食べにくくないのか?」
ライオン・・・というか四足歩行の動物は基本的に手でものをつかむのに適していない。
あれじゃあ相当食べにくそうなんだけど。
「確かに食べにくい。」
「なら人の姿になったら?できるんだろ?」
「確かにできるけど・・・これでも食べれるから良くない?」
彼女は頑なに人型を取ろうとはしない。何か理由でもあるのだろうか?
確か前言っていた話ではライオン型の方が楽という意味だったけど・・・・
まぁ、本人がこれでいいというなら無理強いはしないけど・・・・ん?
何かリリスが期待するような目でこちらをみている。
「リリス、どうかしたのか?」
「タクミ、もう一押しよ!もう少しで彼女の人型が見れるわ!」
いつになくテンションが上がっているリリス。
これはもしかしなくても・・・・
俺はマルバスの耳に口を近づけ小声できいてみる。
「まさかと思うけど、リリスが原因だったりする?」
マルバスは俺の質問に対し小さく首を縦に振る事で肯定を示す。
「リリーは我が人型を取ると自分の子供といいはるんだ。」
あ、俺にも心当たりあったわこれ。
そう言ったマルバスは尚食べにくそうな食べ方で鶏肉を頬張るのだった。