108 自由と食材
「じゃあ、我はここで寝るからよろしく。」
なんか、部屋に戻ったら当然といった感じで俺のベッドが占領されたんだけど、どういうことだろうか?
自然な形でこの部屋に泊まることになっているのもなんか気になるし・・・・
そう思って俺はこっそりとリリスに向けて視線を送ってみたが、彼女は黙って首を横に振るだけだ。
これはあきらめろということだろうな。
まぁ、力尽くで来られたら敗けるのは俺だろうから強くいけないんだよなぁ。
そもそも何か文句のひとつでも言おうとしてもマルバスはもうすでに眠りについた感じがしている。
まだ眠り切っていないだろうがこれはもうこれ以上話を聞く気はないという意思表示だろう。
「なら俺は今日は久々に床で寝ることにするかな。おやすみ。」
まだ早い気もするがやることとかほとんどないし、多分明日も朝は早いし早く寝ることに悪いことは無いし、という理由で俺は眠ることにする。
最後に床で寝たのっていつだったか?多分ノアを探しに行ったときかな?
「あ、タクミ、よかったら私の布団に入ってきてもいいのよ?ほら、おいで。」
両手を広げてここに飛び込んで来い、みたいな様子だ。
かなり魅力的な提案だが、それは拒否させてもらおう。
「えー、どうして?そんなに私と寝るのが嫌なの?」
「いや、そうじゃないけどベッドはそもそも一人用だからそっちに入ると逆に狭くて寝苦しそうだし。」
「くっついたら結構2人でも行けるわよ。ほら。」
「冗談はこのくらいにしておやすみ。」「あぁ・・・」
これ以上言ってたらもう冗談じゃなくなる気がしたので多少不自然ではあるが俺は会話を無理矢理そこで切った。
若干残念そうにしているリリスを見るとこちらも若干心が痛むような気がするが、そこは勘弁してもらいたい。
「では、皆さまおやすみなさい。」
「ん、シュラウドもおやすみな。」「おやすみー」
そこから先、だれも話し出す様子はなくその日はそのまま終わりになった。
◇
「おっきろー!!朝だぞー!!!」
お、朝の恒例行事が始まったな。
ノアのモーニングコールが聞こえてきたことで、俺は今が朝であると知覚する。
それなら起きないといけないな。
やはりというべきか、固い床の上で眠ると少しではあるが体が痛くなるな。
これから先、ずっとマルバスが俺のベッドを占領し続けるという可能性もあるわけだから何か対策を考えないといけないな。
「む、朝か?少し早くない?」
俺のベッド―――現ライオンのベッドの上から声が聞こえてくる。
というか、今更だがお前はベッドで寝る必要はあるのか?
「来ましたね。おはようございます。」
最近シュラウドは喋りだすタイミングをノアの声に合わせている節がある。
これが来たら別に声を出しても眠りを阻害することは無いとでも思っているのかな?
「朝ね。わたしはもーすこしだけ寝てるから食べに行くときに起こして―」
ふむ、今日もリリスは平常運航だな。
眠いながらもちゃんと動こうという意思はあるみたいだ。
「おぉ!!リリーが朝に起きようという努力をしてる!!?」
リリーっていうのはリリスの愛称か何かだろうか?確かにリリスは初めは全く起きてこなかったな。
それを考えるとかなりの成長度合いだろう。
「わたしだってぇ、いつまでも成長しないわけじゃないんだよー。」
そうはいっているがその目は寝起きのためか開いていない。
半分夢うつつの状態だ。
「リリスは20分くらいでいつもの感じに戻ると思うから、準備をするならその間にな。」
ここにいる人なら知っている情報ではあるが、今日は新顔がいるので一応補足説明はいておく。
そしてその言葉の通り、およそ20分後にはリリスもちゃんと目をさましみんな揃って下の食堂に向かっていったのだった。
「お、起きてきたか。早かったな。」
下にはいつものようにイアカムの姿。俺たちに早いとは言うが自分のほうが圧倒的に早いのだが?
もしかして俺が知らないだけで料理人ってみんなこのくらいの時間に起きてくるのか?
「さーて!あっさご飯ー!!あっさご飯ー!!」
今日もノアはノリノリである。
そこで運ばれてきたのは大きなパンと目玉焼きだ。俺たちの分よりノアとリリスの分は少しだけ多い。
これはいつの日か、朝食が少ないとこいつらがごねたからだ。
「そうだ。お前さんたち一応冒険者なんだろ?」
俺がパンを半分食べ終わったあたりで、イアカムがこちらに近づいてきて話しかけてくる。
「ん?一応そうだけど、それがどうかしたのか?」
俺たちが冒険者ということは別に隠してはいない。だからイアカムがこのことを知っていても不思議ではないのだが、このタイミングでどうしてその話を?
「そうか。ならちょっと依頼したいことがあるんだけどいいか?そんなに悪い仕事ではないから受けてくれると助かるんだけど。」
「構わない、といいたいけどその依頼の内容を聞かない限りは了承しづらいんだけど?」
ここで二つ返事で受けてしまってどんな仕事をつかまされるか分かったものじゃない為、こういうところはしっかりしておく必要がある。
たまにこういう場面で了承するとやばいものつかまされたりするからな。
「依頼っていうのは食材の調達だ。最近店の食材が足りなくなってきていてな。ちょっと補充を頼みたいんだ。俺はほら、宿の管理とかもあって料理以外でも結構忙しいしさ。」
ふむ、そのくらいなら大丈夫だろう。でも、ひとつ気になるところがある。
「なんで俺たちなんだ?わざわざ依頼するほどの内容でもなくないか?」
買い出しならそこら辺の誰でもいいし、あ、だから俺たちなのか?
「タクミ、知らないの?ここの店の食材はほとんどが魔物から取れたもなのよ?」
「あれ?そうだったのか?でも魔物って倒すと消えてなくなるじゃないか。どうやって食材にするんだ?」
「それは食材をドロップする敵を倒すとかね。それ専用のアイテムもあるらしいけど、私たちは持っていないからそれは関係ないわ。」
なるほど、今まで見たことは無かったのだがやっぱりそういうドロップをする魔物もいるんだな。
「それならいいんだけど、どこに行けば食材を落とす魔物に出くわすんだ?いつもあの量の料理を作れるんだからそういう場所があるんだろう?」
「お!!引き受けてくれるか。ありがとう。それで場所なんだが、え~っと、口で言うより地図を渡したほうがいいな。」
実際あるらしいな、そういう場所。
いや、まぁなかったらこの仕事受けるのは結構きついから投げ出すのもありと思っていたよ。
イアカムは一度食堂から出ていき、宿のエリアのほうへ行く。
彼はすぐに戻ってきた。
その手には一枚の地図が握られている。
イアカムはそれを俺たちの前に広げる。
その地図には赤い丸で囲われている部分があった。おそらくそのしるしのある場所が今回俺たちが向かわなければならない場所なのだろう。
「この印の場所にうちで使っている食材を調達できるんだ。いつもは別の冒険者が持ってきてくれるんだけど、そいつらは昨日この街を出ていってしまってな。頼んだぞ!!」
彼は俺の肩をバンバンと叩いて行けといった。
今日の予定は決まったな。
「ちなみに、俺はこの依頼を受けたから行くんだけど他に誰か行く奴いるのか?あ、ノアは強制参加な。」
ノアが参加必須な理由としては彼女がいると敵が大量に沸くことがよくあるからだ。
いつもはむかつく仕様だが、今回みたいなアイテムを集めたいときにはこれを狙っていくのもいいかもしれない。
まぁ、あれの原因がノアだっていう証拠はどこにもないんだけどね。
「そんなこと言われなくてもボクはいくよ!!」
「私も今日はいくわ。最近、運動してなかったような気がするし。」
そんなはずはないのだが、リリスも参加してくれるみたいだ。
「私も行くね。アイテム回収は任せて!」
リアーゼは今回は自分の存在が重要だと判断したらしい。確かに、こういうアイテム集めって戦闘する人が拾うのも同時にやると効率が爆発的に落ちるからな。
「自分は店のほうへ、スペラさんに皆さんがいない理由の説明などもしなければいけませんので。」
そもそも戦闘ができないシュラウドは付いてこない。
これも妥当な判断だな。
「我も行く。どうせ特段やることもないし。」
え、、、お前も来るの?
なんか昨日の夜からこのライオンには翻弄されてばっかりだな。
これで第四章を終わらせる準備はできました。
ちょっと寄り道するからまだ続くとは思いますが、いつでも行けるということだけを報告しておこうかと。