106 リリスの友達と尊大なライオン
「えっと、ここは・・・?」
「ボクが泊っている部屋だよ!!タクミが倒れちゃったから運んできたの!」
ああそうだった。
確かウンディーネの攻撃をもろに食らってしまって寝ちゃったんだったっけな。
ノアがここまで連れてきてくれたらしい。
受けていた傷もないということは治療も終わっているのだろう。
「そうか、ありがとな。それにしてもよく一人でここまで運べたな。大変だっただろう。」
ノアは魔法職のため力が低めだ。
そんな中魔物がいつ出るかわからない場所を俺を担いだまま運ぶのは困難を極めるのではないか?
「あー、それなら大丈夫だよ!!タクミならボクが先にここに戻ってきて召喚すればいいだけの話だからね!!」
成程、その手があったのか。
それなら倒れている俺に対して適当な防衛要員を何体か召喚しているだけでいいもんな。
「よく思いついたな。ノアのことだからロープか何かで引きずって帰ったのかと思ってたよ。」
「それ酷くない!!?ボクだってちゃんと考えて行動しているんだよ!!?」
ノアは憤慨したようだが、そもそもそうなら戦闘が終了したわけでもないのに油断をしないでほしいものだ。
まぁ、これは言っても治らないものなんだろうな。
「そうだな。とりあえず治療をしてくれたことも含めて礼を言わせてもらうよ。ありがとう。」
「うん!!どういうたしまして!!でも、治療をしたのはボクじゃないよ!!」
あれ?これもてっきりノアがやってくれたものだと思っていたんだけど、違ったか?
じゃあリリス――――は多分違うな。あれも神官職だけど回復効果のある事をやっているのを一度も見たことないし。
「ノアじゃなければリアーゼか?それともまさかのスペラとか?」
大方そのくらいじゃないのか?
まぁ、治療は完遂されているから別に誰がやったとしてもいいという気はするのだが、一応お礼を言っておかないといけないので知りたいという気持ちはある。
「う~ん、それが言いにくいんだけどね?えっと、、、実際にあってもらったほうが分かりやすいかなぁ・・・。今タクミの部屋にいると思うから呼んでくるよ。」
言いにくい?見てもらったほうが早い?ということは何か、俺の知らない人間ということなんだろうか?
俺の疑問をよそにノアは部屋から出ていってしまう。
そして少し後に隣の部屋の扉が開く音がする。
「タクミが起きてきたんだけど、お礼が言いたそうにしているからちょっと来てくれるかな?」
別に防音が効いているわけではないのでノアの声ならここからでも聞こえる。
「―――――ら、じ、んで―――――ろう?その――――をみ‐――・・・」
うん?さすがにこれではよくわからないぞ。
リアーゼの時と違って視覚的な材料がないためこのレベルの穴抜け会話は正確な内容がつかめてこない。
まぁ、多分ノアが教えてくれるだろうから別に深く考える必要はないのかな?
俺の予想通り、ノアがすぐに部屋に戻って先の会話の内容を教えてくれる。
「タクミ!!もし回復したんなら自分で歩いて来いってさ!」
ふむ、お礼を言うのに向こうから来いというのはやっぱり失礼だったみたいだな。
「わかった。すぐに行くよ。」
どうせすぐに部屋に戻るつもりではあったからな。
別に何か問題があるわけではないだろう。問題があるとすれば俺の部屋に誰が待っているかということだが、傷を治療してくれるような人だ。
別に悪い相手ではないはず。
俺は自分の部屋に誰がいるのか、少しワクワクしながら部屋を開けた。
そこには―――――――
「ライオン?」
ライオンがいた。そして一応、リリスとシュラウドもいた。
2人がここにいるということはもう店は閉めた後なのだろう。
外を見てみるともう空が赤から黒くなってきているしそのくらいの時間ではあるな。
「あら、タクミお帰りなさい。」
「お、おう、ただいま。」
リリスはライオンにもたれかかった体勢でお帰りを言ってくれる。
っていうかさも当然のようにいるけど誰かあのライオンの説明をしてくれないのか?
半ばソファーのような扱いを受けているんだけど、それはいいのか?
「なあリリス、早速聞きたいんだけどそのライオンは?」
「あなたを治療してくれた子よ。ちゃんとお礼を言いなさい。」
あぁ、部屋の中にはいつもの2人とライオンしかいなかったからそうかと思ったよ。
「そうだったのか。危ないところを助けてもらってありがとう。」
俺はゆっくりとそのライオンに向かって近づいていく。
俺の傷を治してくれたことやリリスがああやっていても怒らないことを考えると多分知的なライオンなんだろう。
急に飛びかかられたりはしないはずだ、と信じたい。
「はぁ、リリスのお気に入りというから見てみれば無警戒に我に近づく・・・・悪知恵が働く分そこら辺のドブネズミのほうが賢いのではないか?」
――――!!?喋ったな。
いや、ノアと会話していたということは確認できているから何かしら言葉は通じるとは思っていたのだが、、、、、いきなりこれかぁ・・・・
「こらっ、あんまりそんなひどいこと言ったらダメじゃない!!」
あ、リリスがフォローとばかりにライオンに拳を落としてくれてる。
うん、ありがとうリリス。その行動だけで嬉しいよ。
「うー、ちょっと威嚇しただけじゃん。何も殴らなくても・・・・」
あれ?さっきの声は威厳のあるかっこいい声だったんだけど、リリスに殴られてからなんかかわいい声になったぞ。
「ほら、早く謝って!!あなたさっきのやつまだ懲りてないみたいね!!」
さっきの?
「あ、さっきボクが初めて会った時も同じようなことがあったんだ。多分彼女なりの挨拶なんじゃないかな?」
そういうものなのか。
そのライオンはさっきの威風堂々とした様子はなく、ただただおかんにおびえる子供状態だ。
こいつはノアが連れてきたものではなく、リリスの知り合いか何かなのだろう。
「リリス、そのライオンについて説明をくれないか?どうもちょっとよくわからない部分があるんだ。」
「えぇ、この子は私の知り合いの悪魔よ。こう見えて結構強い悪魔だから気を付けてね。」
リリスはそう言って先ほど自分で殴った部位をさすってあげている。
怒ったとは言ってもそこは知り合い同士、優しさを出してあげる部分もあるのだろう。
それにしても、ライオンで強い悪魔・・・・もしかしてあれだろうか?
地獄の大総統とかいう・・・まぁいいや。
リリスも注意喚起をしていることだしこれ以上刺激するのはよくないのかもしれないな。
「でもどうしてそれがリリスと一緒にいるんだ?」
リリスって基本的にクリフォトの中にいるから会いに来たということは無さそうなんだけど?
「それは簡単よ。偶然街中で出会ったの。それでノアのほうからタクミが怪我したって聞いてね、連れてきちゃった。」
まぁ、街中で見知った顔を見つけたら反応してしまうのは普通のことだろうし、別に不思議なことでもなかったんだな。
「でも不思議ね。あなたがどうしてこの街にいるのかしら?」
あ、リリス的には不思議なことだったみたいだな。
「それは簡単なことですよ。単純に旅行で来ただけ。ここは食べ物がおいしいと聞いたので。」
まさかのリリスがこの街をチョイスしたのと同じ理由だった。
なんだ?悪魔っていうのはうまいものには目がないとか、そういう奴なのか?
「へぇ、あなたそういうの好きだったものね。」
「むしろリリスさんがこの街に滞在しているほうが驚きだよ。あの頃は普通の食事なんてするだけ無駄って感じだったような?」
そういえば、リリスって俺と出会ってから職に目覚めたんだっけ?どうだったかはもうあんまり覚えていない。
あの頃の記憶は若干あいまいだ。
「まあいいわ。タクミも起きてきたことだしとりあえず夕食にしましょ?あなたはどうする?一緒に食べる?」
「はい!!ご一緒するよ!!」
今日の食事はいつもより少しだけにぎやかになりそうだな。
目をキラキラさせてリリスの提案を受けるライオンを見ながら俺は食事に行く準備を始めた。
この作品に初めて感想がつきました。
ああいった作品の悪いところを指摘する感想であっても、ちゃんと読んでくれたんだということを感じて嬉しいです。
皆さんも気づいたこと等がありましたら言ってくださると助か・・・・・あ、あまりにひどい言われ様だと作者が泣くので少しは加減してくださると助かります。