105 対水霊と熱い勝負
「さーて、このメンバーで行くのは久しぶりだね!!」
「そうだなー、といっても俺ら二人だけでどっかに出かけるのって確か初めのほうだけじゃなかったか?」
俺とノアは今日は2人だけで冒険者ギルドの依頼を見ていた。
残りのメンバーは今日はシュラウドの手伝いだ。正直な話リアーゼがいたほうがアイテム回収とかの話があって楽なのかもしれないが今回は関係ないだろう。
なにせ今日受ける依頼はいつぞやに見かけたウンディーネの討伐だからだ。
といっても実際に討伐するつもりはない。
狙いは当然というべきかノアの召喚契約を試しに行くのだ。
「あー、でもリリスくらいは連れてきたほうが不慮の事態に対応できてよかったかもしれないよな。」
「まーいいんじゃない?話がサクサク進めば戦うこともないんだろうしー。」
ノアはそんなことを言ってるが俺としてはそうとは思わない。
多分こいつは物事を考えるときには最高の結果が出ることを前提として考えるタイプなんだろうな。
残念ながら俺はその逆なんだけど・・・・
「じゃあそろそろ行くか。ここでこうやってても話は進まないしな。」
「そうだね!!早く終わったら2人で街の探索にでも行こうよ!!」
それもいいかもしれないな。
本当なら終わり次第手伝いに行ったほうがいいのかもしれないけど、いい加減この街に何があるかを把握しておいたほうがいいだろうしな。
俺たちは2人、まだ朝が早いうちに街を後にした。
◇
「いやー、やはりというかこうなるんだなー。っと、」
俺は大きく横に跳びながら気の抜けた声を上げた。
「何でこうなっちゃうんだろうねー。素直に話を聞いてくれてもいいような気がするんだけど。」
ノアも身を前に投げ出している。
すると俺たちが先ほどいた位置に強力な水流が打ち付けられた。
誰がそれを引き起こしたのかは言うまでもなく目の前の水の精霊、ウンディーネだ。
こうなったのは言うまでもなくノアが契約を迫ったからなんだが、こうまで問答無用で攻撃してくるとは思えなかった。
少し位会話イベントをはさんで戦闘でもよかったんじゃないか?
ノアが「君がウンディーネだね!!?ボクと契約しよ!!」といった瞬間に即座に襲い掛かって来た。
とりあえず、ノアの言葉に怒ったということだけは確かだ。
「それでタクミ?どうやって倒すの?」
相手の攻撃を回避しながら作戦会議を始める。
こういうことが予測できてはいたからここに来る途中話そうとはしたのだが、ノアは聞かなかった。
これを機に少しは人の話を聞くようになってほしいものだな。
「とりあえず物理攻撃は聞かなさそうだから何か魔法でも打ち込んでみたらどうだ?っていうかあれは?マジックイーター。」
魔力を食べるといわれているマジックイータ―ならあの精霊も食べることができるんじゃないか?
「だめだよそれは!!食べちゃったら契約できないじゃない!!」
あ、それもそうだな。
「じゃあ程よく弱らせてくれ。攻撃は俺がひきつけるわ。」
本当、こんなことになるならリリスを連れてくるべきだったな。
今日こうして2人で来ているのはノアがお願いしたからなんだけど、それを振り切ってでも安全性をとるべきだったのかもしれない。
俺は≪挑発≫のスキルを発動させて敵の注意を引く。
その間にノアは魔法の準備だ。
相手は水の精霊、体面的には人の形をとっているみたいだが、その性質はおそらく水と同じ。
俺が攻撃してもそのダメージはたかが知れているだろう。
もしかしたら俺は≪魔力切り≫を持っているためダメージが入ったりするかもしれないが、ここは確実に行くべきだ。
ウンディーネは今も無言のまま俺に向かって攻撃を構えている。
先ほどと同じモーション、なら来る攻撃も先ほどと同じだ。
俺はそれを易々回避する。
「おー、やっぱこれ当たるとやばそうだな。」
飛びのいて回避した後、先ほどまで自分のいた位置を見てみるとそこの地面が大きくえぐられていた。
水に壊せないものはないとは言うが、こういうことなのだろうか?
そういえば元の世界でもダイヤモンドとか硬いものを切るときに水流が利用されるとかなんとか聞いたことがあるな。
そんなことを考えながら、俺は余裕をもって回避する。
ギリギリで回避することができれば俺も攻撃に参加することができるのだが万が一当たった時にどれだけダメージを受けるのかがわからないからよけに専念しているのだ。
「じゃあまずは軽めに行くよー!!」
その言葉とともにノアが放ったのはもはや懐かしさすら感じられる火の玉だ。
最後に見たのはいつだったか?最近は店のことばっかりであんまり外に出てなかったから余計に久しぶりに感じられる。
爆発音とともにウンディーネの体が周りに飛び散った。
「わわ!!やりすぎた!!?」
それを見たノアは自分の攻撃が少し強かったのではないか?そんな心配をしている。
彼女はあれと契約をしに来たのだ。吹き飛ばしてしまっては不都合が出る。そう思ったのかもしれない。
だが、俺はその光景を別と見る。
俺は慌てながらも再び≪挑発≫を発動した。
これでウンディーネからの攻撃は俺に飛んでくるはずだ。
「油断するなよノア、多分まだ元気だろうから。」
あれは水なのだ。形が崩れたからといって何かあるというわけではない。
俺の予想通り、ばらばらになった水は再び元のように集まり始めている。
すぐにでも再行動が可能になるだろう。
成程、手強いな。
俺はそれを見ながら何故ウンディーネ討伐の依頼が冒険者ギルドの依頼板にずっと残っているのかをなんとなくだが理解する。
そしてそれの脅威も。
「一見すると結構無敵そうに見えるよな。」
「一見すると、、、っていうことはもう何か弱点を見つけたんだね!!ボクはどうすればいいの!!?」
あのウンディーネ、強力な遠距離攻撃と圧倒的な攻撃に対する耐性を持っていてかなり倒しにくい敵であることには変わりない。
見るものが見れば無敵の敵もいいところだろう。
しかし基本的に無敵の生き物なんてものはあり得ない。
なんにでもどこかしら弱い部分を持っている。今回の場合それは―――――
「ノア、あれの足元を見てくれ。」
「足元―――?何もないけど?」
「いや、よく見たらちょっと濡れてるだろ?」
ウンディーネが立っている地面は少しではあるが湿っていた。
また、ノアが先ほどバラバラにして飛び散らせた場所も・・・
「もしかして、少しずつ減っていっているってこと?でもそれがどうしたっていうの?」
「いや、この場合は減っていっているんじゃない。地面に吸われているんだ。」
「ってことは?」
察しの悪いノアはここまで言ってもわからないみたいだ。
「あれは所詮は水ってことだ。っと、もう攻撃を再開してきたな。」
ウンディーネの体は完全に元の形に戻り再び俺に向かって攻撃を開始した。
その水流は決まって直線のため避けるのには苦労しないが、先ほどまでより威力が上がっているようだ。
それが地面にたたきつけられたときの轟音が大きくなっている。
「う~ん、水、水?」
ノアは自分に攻撃が向かないのが分かって悠長に頭にはてなを浮かべている。
俺の言ったことがピンと来ていないようだ。
というか、早く攻撃に移ってもらえませんか?一撃一撃をよけるのは簡単でも長い間避け続けるのは体力的な意味で辛くなってくるから・・・・
「ノア、お前炎魔法持ってただろうがよ!!いいから早く打てよ!!」
あれが水というなら熱すれば蒸発してその身を小さくしていくはずだ。
よくありがちな勘違いなのだが、炎は別に水に弱いというわけではない。
確かにゲームシステム上そういうものは多いのだが、実際は大きな炎は生半可な水はむしろその炎を育てることにしかならないのだ。
ノアはそれをちゃんと理解してかどうかわからないがとりあえず魔法の準備を始めたようだ。
フレイムピラーの詠唱時間って確か20秒くらいだったよな?
後はそれだけ待つだけだ。
そして何の問題もなくその時は訪れる。
ノアの魔法がウンディーネの体を優しく包み込んだ。
この位置からでもその体積がみるみる減っていっているのが見える。
っと、そんな中でも、いや、そんな中だからわからないが攻撃を仕掛けてくるみたいだ。
対象は‐――これはノアの方向を向いているな。
地味にやばいか?このタイミングなら≪挑発≫を使っても効果がなさそうだし・・・・
ノアはクラスの関係上HPが少ない。
ウンディーネの攻撃が直撃したときの被害は俺が当たった時より予想ができない。
最悪一撃でお陀仏まである。
「ノア!!油断するなって!!」
だから俺はノアを突き飛ばした。その直後、俺のいる場所に向かって水流が迫ってくる。
「タクミ!!!?ちょっと何やってるの!!?」
そんな声が聞こえてくるが俺にそっちを確認する余裕はない。
ウンディーネの攻撃は魔法によるものではなく、その体の一部を高圧で発射したものだったらしい。
つまりどういうことかと言えば俺がくらったこの攻撃は今までのどの一撃よりもきついものになっているということだ。
沸騰したお湯が俺の体に突き刺さる。
あー、これじゃあ傷が熱くなっているのかお湯で熱くなっているのかわかんないなー。
そんなくだらないことを考えながら俺は宙を舞った。
支えなんてものはない。その為俺は数秒間空中を散歩させられた後に再び地面と再会した。
硬い地面はダメージを受けた体には応えるものがある。
「タクミ!!ちょっと!大丈夫なの!!?」
ノアが駆け寄ってくる音が聞こえる。
お前は、油断するなって言ったばっかりなのに早速敵に背中を向けてんじゃねえか!!
そう怒鳴ってやりたい気分だ。
「あー、大丈夫そうだ。俺のことより今は先にあっちを終わらせてきな。」
俺は倒れたまま腕を上げて大丈夫だということを伝える。
というか、このままウンディーネ放置のほうが大丈夫じゃないからそっちに行ってほしいのだ。
「う、うん!!ごめんね、ボク・・・・」
申し訳ない。といった様子だがやることはやってくれるみたいだ。
ノアはそのままウンディーネを仕留めに‐―――いや、契約しに行ったのかな?
今回はノアの言う≪召喚契約の印≫とかいうスキルの条件を調べに来たという目的もあるのであれで成功するかどうかがそもそもわからないんだが、この場合は成功してもらうしかないな。
「タクミー!!終わったよー!!」
おぉ、終わったみたいだな。
じゃあ、当面の脅威は去ったということで‐――――、一度眠ってもいいよな?
俺はそこが街の外、いつ魔物が来てもおかしくない場所だということを忘れて眠りについた。