101 まさかのこととまさかのもの
「大体当面の問題が片付いたので、そろそろあれに行こうと思う。」
俺たちの店が再開した次の日、そろそろ行くべきところがあるだろう。
「あれ?何かあったかしら?」
リリスが武器の入った木箱を運びながら首だけをこっちに向けてくる。
「ボクも心当たりないなー。何かあったっけ?」
おいノア、お前はずいぶんと楽しみにしてただろう。というかお前のせいで行く羽目になったのだから忘れるんじゃねえよ。
「はて?何かあっただろうか?」
ヴィクレアも首をかしげて―――――お前は忘れちゃダメだろ!!
「ドラゴン討伐だよドラゴン討伐。みんな完全に頭から抜け落ちてるじゃねえか!!」
「あー、そうだね。行かないとだね!」
「おぉ!!ついに行ってくれる気になったのか!!?」
お前ら完全に今思い出しただろう。ノアは結構その場のノリで生きている感じがするから別に驚くことはないが、ヴィクレア、これはお前が持ってきた話だからな?
「ああ、そろそろ行かないといけないと思ってな。いや、別に行かなくていいなら行かないんだけど。」
「いや!!行こう!!今すぐに行くべきだ!!」
思い出したら危機感がわいたのだろう。ヴィクレアはすぐに店から飛び出そうとしている。
「今日はもう暗くなり始めているからそれは明日な。一応、何があってもいいように準備だけはしておいてくれ。」
黒い竜を倒しに行くというのに、夜に戦闘を開始する理由はどこにもないからな。
むしろ敵の動きが見えづらくてこっちが不利になるまであるからな。
「ところでタクミ、今回の作戦はどうするの?正面衝突?」
リリスはそれでどうにかなるとでも思っているのだろうか?どんな世界でも竜はステータスの高さだけは変わらないのだ。
そんな相手に正面から挑んで勝てるはずがない。
いや、弱体化前のリリスがいれば話は別だったかもしれないんだけど・・・彼女には今の自分をもっとよく見つめてほしい。
「今回のやつは飛ぶって話だったよね!!?なら飛んでいるところを落とせば死んじゃうんじゃないかな!!?」
「ん、それでもいいと思うぞ。重いものが高いところから落ちればそれだけダメージが入りそうだしな。」
まぁ、高さ換算の割合ダメージタイプかもしれないからそれだけじゃ死なないとかありそうだけど、大ダメージが入ることは間違いないしな。
「でしょ!!?じゃあ明日はこれで、ボクの考えた作戦で行こうよ!!」
「分かった。でも念のため明日の朝には作戦を教えてくれよ?何にも知らないままじゃ戦えないからな。」
ノアが張り切っているので今回は彼女に任せてもいいだろう。
そもそも定着していたが俺が作戦を考えるという役割をもらっているわけでもないしな。
「ちなみになんだが、あなたはどんな作戦を考えていたのだ?さっきの口ぶりから予定していたものとは違うのだろう?」
気になったのだろう。ヴィクレアがそんなことを聞いてくる。
「そりゃあ全員の火力を一点に集中させて飛び立たれる前に殺しきる作戦だな。具体的には前回アースドラゴンの時に足に当てた魔法を今度は首に当ててもらうんだ。で、目に突き刺した武器は回収せずにそのまま押し込む。眼球の裏側には脳があるだろうからうまくいけばいかに竜であっても動きが止まるだろ。」
飛ばれたら面倒なら飛び立つ前に殺せばいい。
ブラックドラゴンとやらの正確なステータスはわかっていないが、アースドラゴンよりは身体能力は低いとのことだったので、アースドラゴンよりHPが低いと仮定した戦い方だった。
ちなみにこの戦術を使ったからといってアースドラゴンの体力を削り切ることはできないだろう。
飛べない竜は飛べない分体力が多いのが常なのだ。
まぁ、だから前回は安全策をとって動きを全部封じてから少しずつダメージを蓄積させていったのだが・・・・
「それは・・・なんとも言えない作戦ですね。」
何故かヴィクレアが俺を卑怯者を見るような目で見ているのだが・・・そこまでひどい作戦か?
失敗したらその時点で優位を失うどころか不利になる作戦だから案外悪い作戦なのかもな。
まぁ、今回は使わないのでこの作戦の話はこのくらいにしておこう。
今後もこれをやる機会はないだろうしな。
「ということで今日は店を閉めたら各々明日の準備をしてくれ。作戦や参加者は明日ノアが伝えてくれるだろうからそのつもりで。」
その日はそれから二時間ほど働いてから俺たちは宿に戻ることにした。
そして次の日。
「さて!!今日の作戦に参加してもらう人を発表するよ!!まずはボクは絶対に必要だね!!それとリリス!、リアーゼちゃんも来てくれると嬉しいな。そしてヴィクレア!この話を持ってきた君は強制参加だよ!!」
「それは構わないのだが・・・・彼は?」
ヴィクレアが俺のほうを指さしてくる。ノアが今日、参加する人間に俺の名前を呼ばなかったからだ。
「タクミは今日はお留守番だね!!昨日よくよく考えてみたら来る意味ないかなって思ってね!!」
そうやって直接来る意味がないって言われると若干傷つくのだが・・・・まぁ、今回は空の敵が相手だし俺がいてもできることはない・・・のか?
「まぁ、近接火力が欲しいなら俺より優秀なリリスがいるしな。こっちは俺と違って耐久性もばっちりだし・・・なら俺はシュラウドの手伝いでもすることにするよ。」
「うん!そうしているといいよ!!タクミなしでもボクたちはやれるんだってところも見てもらいたいしね!!」
それは必要なのだろうか?人は持ちつ持たれつだから誰かがいなくなったら回らないとか、あってもいいと思うんだけど。
というか、これで俺なしでもいい仕事ができたら俺の存在意義が薄れてくるんだが?
ステータスの話だけすれば俺の代わりをできる人なんていくらでもいるからな。
「じゃあ、ボクたちはもう行ってくるからまたねー!!」
彼女たちは手を振りながら街の外に向かって歩いていった。
「まさかハブられるとは思っていなかったな。まぁ、危険な場所に飛び込まなくていいっていうのは歓迎なんだけどあいつら、俺のいないところで怪我とかしないといいんだけど・・・」
大丈夫だとは信じたいのだが、作戦立案がノアということで若干の不安が残る。
・・・・ここで悩んでいても仕方ないよな。店に戻ってシュラウドの手伝いに行かないと。
「ちょっとそこのお兄さん。」
ん?
「もしかして俺か?」
誰かから声をかけられた為、俺はそこで立ち止まり当たりを見渡す。
「お兄さん、こっちだよ。」
もう一度声がかけられる。俺は声の聞こえてきた方向に目を向けた。
そこには商人らしき男の人、荷物をたくさん抱えてこっちを見ている。
身なりはよく、儲かっていそうな様子だ。
「お兄さんお金をいっぱい持ってそうだね。何か見ていかないかい?」
「そうだな。時間もあるし見ていくだけ見ていくとしようか。どんなものがある?」
何かに役立ちそうなものがあったらここで買っていくのもありかもしれないな。
シュラウドが店の収入の一部を何故か俺にくれるから少しはお金も持っているし・・・
それにしても俺が金を持っていると一発で見抜くとは、この商人の目利きはすごいな。
「えっと、まずはここら辺の武器なんかどうだ?少し値は張るがいい品だよ。」
俺は見せられた武器を見ていく。
特に何か変わった様子はない。説明書きを見ている限りでは呪いの品などではないだろう。
武器の性能としてはシュラウドが作ったもののほうが安上がりで済むからここで購入するべきものではないな。
「何か別のものはないのか?もっとこう、珍しいものとか。」
「それだったらこっちのほうかな?ここら辺は特に何かに使えるわけではないが珍しいは珍しいぞ。」
へぇ、確かに用途不明のアイテムが多々―――――!!?
「あ、これはいくらです?」
「それなら20万Gだが・・・買うのか?」
「はい。それでお願いします。」
俺は財布の中から紙幣を二枚取り出し商人に渡す。
それと引き換えに商品を自分の手に納めることに成功した。
「まいどあり~、ほかには何か買っていくか?」
「いや、今手持ちがないから今回はこれだけにするよ。」
「そうか。ならまた何か買っていってくれよな。」
商人の男はにっこりといい笑みを浮かべて手を振った。
俺はそれを見た後すぐに購入したものを確認する。
俺の手の中には――――――――
こちらの世界に飛ばされる前に軽くページをめくっただけの、この世界の説明書が握られていた。
文章量は普通にしたはずなのに、前回までが長めだったから少し短く感じますね。
100話記念―――というわけではないのですが誤字脱字を直して回りたいと思うので気づいたところがあったらページ下部の感想欄とかそこら辺から教えてくれると助かります。