100 理想と再開
「全く、普段から無能だと思っていたが、まさか有事の時すら無能だとは、お前らには失望したぞ。これが終わったらわかっているんだろうな?」
「待ってくださいよ。今から俺が全員始末するんで考え直して・・・」
「黙れ!!そんなゴブリンと子供ごときに手こずっている貴様になど誰が期待するか!!」
この惨状を目の当たりにして、自分の雇った傭兵が全く役に立っていないことに苛立ちを覚えて怒号を飛ばす。
「ところで、あなたがディサールさん・・・この屋敷の当主さんでよろしいでしょうか?」
俺はその男に表面上は礼儀正しく確認を取る。
「そうだ。いかにも私がディサールだ。それで?君たちはここまでやってどういうつもりだね?」
「はい、それなんですが。今後一切うちの店への攻撃をやめていただけたらと思ってお願いに参りました。」
「ああ、君たちはあの店の関係者なのか。成る程、君たちには言いたいことが山ほどあったんだ。」
ため息をつき、ディサールがつらつらと不満を述べ始める。
彼は『メルクリウス』の店長であるそうだ。それで最近、店の業績が伸び悩んでいるのだと。
そしてその原因が俺たちの店にあるということだ。
まぁ、それは知っている。実際に店に足を運んだりもしたからな。
なんでも営業妨害まがいの方法をとって彼の経営する店に打撃を与えてきたということをいいたいらしい。
まぁ、そこについてもシュラウドのはじめの宣伝方法がそれに該当するので俺に言い返すことはできない。
そして先日、『メルクリウス』の商品開発部が何者かの襲撃を受けて壊滅したらしいのだ。
そして調べたらこれの原因も俺たちだったということ・・・・
いや、まえ2つはともかく最後のは自業自得だよね?
まぁ、そんな感じで恨みがあるということだった。
「で?君たちとしてはこの責任はどうとってくれるのかな?」
どう責任を取るかって言われても・・・
「こっちの店もそっちのからの襲撃で結構損害が出てるからおあいこってことにはならないですかね?」
「そんなこと認められるか!!そもそも貴様らがうちの客を根こそぎ持って行ったりしなければよかっただけの話だろうが!!」
先程までは少しは丁寧に応対してくれていたのだが、怒り狂ったように口調が荒くなる。
かなりの不満がたまっているのだろう。
「いや、商品を見てどっちを買うかは客の自由だし・・・そんなこと俺に言われたってなぁ・・・」
いいものは買ってもらえて、そうでないものは売れ残るというのは世の常ではないだろうか?
いや、いいものであっても買ってもらえないという例もなくはないが、少なくとも良くもない商品が買ってもらえるということはないだろう。
「では何か?うちに商品の質が低いとでも言いたいのか!!?」
どうしてこういうのって卑屈に捉えてしまうんだろうな?
「相対的にうちの商品の方が良かったというだけの話では?そもそもそちらの商品は高すぎるんですよ。あの程度の武器なら5000Gでいいと思いません?」
「馬鹿を言うな!!それ以上値下げなんかしたら大赤字もいいところだ!!貴様はそれを何にもわかっていない!!」
そうだな。俺たちにはシュラウドっていう生産面ではめっぽう強い味方がいるからこんなことを言えるのだ。
何もわかっていないと言われるのも最もだろう。
「だからって人をさらうのはやりすぎだと思うんだが?」
しかしそれを理由にシュラウドを強引に奪い去っていくのはどうだろうか?
いくら陰湿なことをされても許すことができると思うが、それはだめだろう。
「ええい!!黙れ黙れ!!誰か、こいつらを全員始末しろ!!」
ディサールはそう叫ぶが、そもそもこの屋敷の戦力はおおよそ全て出尽くしている為その呼びかけに答えるものはいない。
「タクミ様、このままでは話を聞いてくれそうにないので、自分に任せてくれないでしょうか?」
「お?シュラウド、何か名案があるんだな。よし、任せた!!」
彼はこんな状況も想定して用意をして着たんだろうな。何か秘策があるみたいだったし、彼に任せて見るのも面白いかもしれない。
もしくは、シュラウドはこれを自分問題だと重く捉えてしまって自分で解決するべきとでも思っているのかもしれないな。
若干頭が固いところがあるし、割とありえるかもしれない。
「ディサール様、どうしてもうちの店にちょっかいを出すことをやめていただくことはできないのですか?」
「ん?何?だからそう言っているだろう!!貴様らの店が営業できなくなるまで徹底的にやるつもりだと。」
「そうですか。ところでゴブリンさん、その機械鎧をちょっと脱いでいただけますか?」
「ン、ワカッタ。チョット待ッテナ。」
おや?急にどうしたというのだろうか?ゴブリンが鎧を脱いで、何をするつもりだろうか?
俺の疑問はよそに、ゴブリンはスルスルとその身に纏っていた装備を体から取り外し、そしてそれをシュラウドに手渡した。
シュラウドはそれを両手で受け取り、ディサールの方に向き直る。
「ありがとうございます。では、あと2回だけ質問させていただきます。どうしてもおやめになるつもりはないのですね?」
「だからそう言っているだろう!!」
何度も同じことを聞かれるディサールは青筋を浮かべながら怒鳴り声をあげる。
「そうですか。では、」
その答えを聞いたシュラウドは、受け取った鎧に対して何か操作を始めている。
この位置からではよく見えないが、内側に何かスイッチのようなものがいくつかついており、それを順番に押している?
なんだあれ?
『自爆モード、起動。10分後にこの機体は爆発します』
ーーーん?今、あの鎧が何か喋らなかったか?自爆?
「っておい!!シュラウド!!?どういう事だ!!?」
「はい。この前タクミ様が寝言で自爆スイッチはロマンということを口走っていたので実装いたしました。」
はー、なるほどね・・・・じゃねえよ!!
「そうじゃなくてどうして今それを起動したんだよ!!」
「頼みを聞いてくださらないということでしたので、せめてこの場所を爆破してから帰ろうかと。」
「して、その心は?」
「この方は相手方の重要人物である為、財産もろとも爆破してやれば襲撃は来にくくなるのではないかと愚考いたしました。」
「ちなみに、爆発の範囲は?」
「ご安心ください。この屋敷の敷地内は大体届くくらいの爆発です。それでいて周りの建物には強風が吹くくらいで大して影響はございません。」
はー・・・・ってそれ、明らかに下調べしたよね?
シュラウド、お前最初からここを爆破するつもりで来たんだよね?
俺たちがそんな会話をしている間にも、時間は刻一刻と迫っている。安全性を考えるならそろそろ逃げ始めた方がいいかな?
「な、爆発だと!!?何を言っているんだ!!おい、早くその爆弾を止めろ!!」
「これが最後の質問です。店への襲撃もやめていただけますか?」
慌てるディサールはとは対極に、落ち着き払った様子で応対するシュラウド。
彼としては爆発しようが何も問題はない。と言いたげな態度だ。
「わ、分かった!!君たちの店にはこの後一切手を出さない。それでいいだろう?早くこれを止めてくれ!!でないと私のこれまで溜め込んで来たものが!!」
俺たちの店への妨害によって得られる利益、それと今、この場所に存在する財産の2つを天秤にかけた結果、後者が勝利した。
「言質はいただきました。では、自分たちはこれにて撤退致しますね。」
「おい!!待て!!この爆弾をどうにかしていけ!!」
回れ右をしてすぐにその場から立ち去ろうと行動を開始したシュラウドを、慌てた様子で引き止めるディサール。
「すみません。停止ボタンなどは搭載していませんので。爆発までお待ちください。」
しかしそこに、シュラウドが非情な言葉を投げかける。
「な、話が違うぞ!!?」
「いいえ。違いません。誰も頼みを聞いてくれたらこれを止めてあげるなんて言っていないではないですか。」
「ぁ・・・・」
半ば詐欺まがいのやり口だが、それに対してディサールが何かを言うことはなかった。
おそらく、いつも自分がやっていることに何か心当たりがあるのだろう。
「タクミー!!時間が3分切ってるよ!!そろそろ逃げた方がいいかも!!」
その場に放置された爆弾と化した鎧を前に、ノアがそう呼びかけてくる。
「おお!!そうか!!これは早く逃げた方がよさそうだな!!って言ってもここに倒れたやつを放置しておくのは忍びないし最低限自分が動けなくした相手くらいは運んでやろうぜ!!」
「そうだね!!わかったよ!!」
ノアは倒れている女性を担ぎ上げ、そしてすぐに門の方へと走り始めた。
俺もガリアスを担いで・・・・って、あいつもう既に1人で逃げてしまってるな。
彼が先程までいた場所には血痕だけが残されており、そこにあったはずのガリアスの姿は見当たらなかった。
なら代わりにと俺は他の倒れていた兵士を両肩に1人ずつ担ぎ上げる。
「じゃあ私はこれを運べばいいのね。」
リリスは串焼き状態の太った男を突き刺さった槍を掴み運び始める。
瀕死の状態の人間をそんな運び方をして大丈夫なのだろうか?とも思ったりはしたが、多分大丈夫だ。
「じゃ、俺たちはこのくらいで。あ、そうだ。お前も倒れているやつを運んでやれよ。このままだと爆発に巻き込まれて死んでしまうだろうから。」
「あ、ああ。そうするよ。」
先程までシュラウドとゴブリンと戦っていた男も、俺と同様に2人だけ担ぎこの場から離脱する。
「では、自分も手伝いますね。」
「アトハコイツダケダナ!!」
ゴブリンが倒れていた最後の者を頭の上に持ち上げる。
ゴブリンは小さいが魔物なだけあって力はそこそこある。人1人くらいなら持ち上げるのもわけないのだろう。
「ちょっと待ってほしい。私は?私は誰が連れていってくれるのだ?」
俺たちがこの場から離脱しようと走り始めると、途端に後ろから呼び止めるような声が聞こえる。
「は?自分で勝手に逃げろよ。別に怪我をしたってわけじゃねえだろ?」
何を甘えたことを言っているのだろうか?残り時間は後約1分、ノアが呼びかけてからもゆっくりと準備していたため結構時間がギリギリだがそれでも余裕で間に合う時間だ。
距離的には100メートルくらいしかない。
「私はこんな体なのだ。あそこまで走ると言うのは難しいのだよ。」
「いやそれ、普段から運動しないお前が悪いから。まだ間に合うから頑張って走れよ。」
俺はそれだけをいいのこして全力で門まで走った。
そこには先に離脱した者たちが待っていた。
「そろそろ爆発だね!!ボク楽しみだよ!!」
「おいおい何をそんなに楽しみにしてるんだよ。別に見ても楽しいものってわけじゃないだろ?」
「しかしタクミ様、以前読んだ本に爆発は芸術と書いてありました。自爆装置はロマンなので掛け合わせればいいものになるのでは?」
シュラウドが的外れなことを言っているような気がする。
誰だよこいつにこんなことを吹き込んだやつは・・・・いや、勝手に学んだのか・・・
ーー3、2、1、・・・0
そしてその時が来た。
あの爆弾は凄まじい轟音を響かせながら、あたりのものを吹き飛ばした。
かなりの爆発だ。しかしそれだけではない。
これだけの爆発にもかかわらず、シュラウドの宣言通り周りの建物には一切傷が付いていないのだ。
さすがに多少どころではなく強い風が吹きはしたが、それでどこかが壊れたと言うことはない。
圧倒的な計算のもと作られたものだということがその事実だけでも実感できる。
「アア、俺ノ作品ガ・・・・」
ゴブリンはまたも自分の作ったものが壊れゆく様を目の前で見せられてショックを受けている。
後日聞いた話によると、彼自身、自爆装置が付いているなんてことその時は知らなかったみたいだ。
「しかし、何かが散っていく様はどこか心が打たれますね。端的に言って綺麗です。」
そんな風情をわかっていますよ。みたいなセリフを吐かれても俺はどんな反応をしたらいいかわからないんだけど・・・・
「あ!!見てタクミ!!あそこ!!」
ノアが遠くを指差している。
「あ、ディサールだ。爆発に巻き込まれた見たいだけど、結構大丈夫そうだな。」
彼は爆弾のすぐそばにいたはずなんだけど、どうしてだろう?
別に高レベルの冒険者というわけでもないみたいだったし・・・・
「やっぱりいいものを食べてるだろうね!!高級食材は食べるとステータスが上がるって聞くし!!」
へぇ、そんなものもあるんだな。
◇
「あ、皆さんお帰りなさい!」
店に戻るとリアーゼが笑顔で俺たちを迎えてくれる。
彼女は今回、出番はないという名目でこうやって留守番をしてもらっていたのだが、その役目をきっちりと果たしてくれたみたいだ。
「おお!!帰って来たのか!!?では早く店を開こう!!」
ついでにヴィクレアも
「ん?今日はもう色々あったから明日からにしようと思ってたんだけど、どうしてそんなに急いでいるんだ?」
「実は今日の宿代が心配になって来ているのだ。ここ最近はずっと店が閉まっていたからな。」
凛としてかっこいい女性のヴィクレアだが、いま判明している欠点の1つとして金遣いが荒いというのがある。
1週間、店をお休してその間給料が払えないから少し多めに渡していたと記憶しているのだが、それはもう使い切って閉まったらしい。
「早えよ!!一泊たかだが3000Gだろうが!!どうしてそこまで使い込めるんだよ!!」
女性の買い物事情を聞くのはあんまり良くないとは思うのだが、それでも納得のいかないところはある。
「えっとそれはーーーーー。それより、君たちは一体どこに行っていたのだ?」
あ、露骨に話をそらしやがった
というかこいつ、何も事情を知らなかったんだな。誰か説明しているものかと思って何も言っていなかった。
「ディサールのところにちょっとな。」
「何!!?ディサールだと!!?どうして私も連れていかない!!?彼はいくつもの黒い噂があったからいつか問い詰めに行こうと思っていたのに!!こうしちゃいられない。すぐにもう一度行くぞ!!」
「あー、今日はやめとけ、な?多分落ち込んでいるだろうし荒れてもいるだろう。それに、今から店をまた開くんだろう?」
家を見事に爆破された後に追い打ちをかけてやっては流石に可哀想だろう。ほぼ全ての財産があの場所にあるということも言っていたしショックはでかいはずだ。
「そうか?そうだな!では少し待っていてくれ。」
ヴィクレアは店のカウンターの下をゴソゴソと探り、そしてそこから『店員』と書かれた首かけ紐の付いたプレートを取り出してそれを身につけた。
「ほら、お前らも早く着替えろよー。1時間後には店を開くからなー」
それだけいって俺も着替えを始める。
奥の部屋は女性陣が着替えのために使うので、俺は服だけ先に回収してシュラウドとこの場で着替えた。
別に構わないのだがヴィクレアはその間奥の部屋の方に行っていた。
30分も経てば全員の着替えは終了していた。
俺たちは店頭スペースに集まっている。
「さて、シュラウド店長。店を再開するわけですが、指示をお願いします。」
一言、俺は笑みを浮かべながらそう言った。
祝、100話目ですよ!!
そしてそれと同時に祝、総合評価100pt突破です!!
この場所で小説を書き始めて、ここまで嬉しいと思ったのは・・・・初めてというわけではないのですが、嬉しいです。
ちなみに、初めてとブックマークをもらった時や、初めてとpt評価をしてもらった時も同じくらいうれしかたです。
100話を超えたからと言って何かがあるわけではありませんが、これからもよろしくしていただけたら幸いです。
あ、ちなみに第3章はここで終わりにしようと思います。
実はこの話、他の章より作品テーマから離れてしまっていて書いていてこれで良いのかって思いがあったんですが、書ききることができてよかったです。